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令和5年5月19日(金曜日)午後4時から午後6時
県庁24階 教育委員会会議室(Web会議)
開会
平田郁美教育長によるあいさつ
事務局から一人ずつ委員の名前を紹介した。
教育長からの指名を受けて中室牧子委員を座長に選出し、以後の進行は座長に引き継がれた。
・群馬県の取り組む非認知能力の評価・育成事業について
事務局から事業についての説明を行い、今井委員より補足説明をいただいた。
・委員コメント
委員が一人ずつ自己紹介を行い、併せて非認知教育について自身が実践していることや研究していること、考えていることなどをコメントした。
・海外の先進事例や研究機関との連携について
委員から事前に提出された情報に対して説明をいただいた。
事務局から事務連絡を行った。
【委員コメント】
(中室委員)
専門は教育経済学であり、その分野でも非認知能力に関する研究が進んでいる。幼少期に獲得した自制心が高いと、32歳時点での健康や経済状態等がよいといったことなど非認知能力がもたらす効果が非常に長期に渡るという研究がある。
また、認知能力は低くても非認知能力が高い場合に雇用率が高いという研究も出ている。
ある県と一緒に行っている研究では、認知能力と非認知能力の関係を見たり、どういう教員が非認知能力を伸ばすことに長けているかを見たりしている。認知能力と非認知能力は互いに非常に強く相関しており、特に自己効力感については学力との間に非常に強い相関があることが分かっている。こうした自己効力感を高めることができるかという介入研究を行っており、非認知能力の計測や、どうやってそれを学校の中で育成するのかということに関心をもっている。
(大島委員)
幼児の発達心理学を専門としており、向社会的な行動や被援助といった、助けられることに対する子どもの感情を研究してきた。
また、効力感や幼児の楽観的な思考にも興味があり、それはどこから来るものなのかとか、それがどこに行くものなのかということも研究してきた。
最近、幼稚園の先生から、「うちの園は遊びの中で、子どもを育てているが、それがどこにつながるのかを、保護者に説明して欲しい」と頼まれることがあり、「社会情動的なスキルが伸びる」という説明をするが、保護者にはよく伝わらない。今回測っている子どもたちの社会情動的なスキルは、子どもの頃からの積み重ねの結果だろうと思っているが、その後どうなっていくのかを考えていけるこのような機会は貴重である。
(今井委員)
OECDのSSESにおける日本のナショナルプロジェクトマネージャーであるとともに高等学校で教育戦略室長をしている。そこでは、SELをこの4月から本格的に教えており、世界の人々と協働できる若者を育てるために、3つのことに取り組んでいる。1つ目は、協働するための知識やスキルの教育の方法を開発するということ。2つ目は、身に付けたスキルを練習するための環境を構築するということ。3つ目は、スキルの計測、どのような力がどこまでについているのか、可視化することに取り組んでいる。
担当している「STEAM」という授業は、教科横断的な知識を使って問題解決する授業となっており、包括的に物事を見て考え協働しながら解決策を提案するという点からも、SELを導入する価値があると考えている。現在は、世界の人と実際に様々な課題について考えるという経験をするためのプロジェクトを立ち上げている。スキルの計測としては、BESSIのアセスメント、観察、提出物を用いて行う。これからも世界と繋がるリアルな学びというものを子どもたちに続けていきたい。
(田熊委員)
OECD Education 2030のプロジェクトマネージャーをしており、その前は保育・幼児教育政策のマネージャーをしていた。OECDの前にはUNESCOにもいた。
未来志向で考えたときに3点のポイントをご参考までに述べたい。1点目は、大きなフレームワークで見ること。「学校教育」を生涯に渡る発達の一環としてライフサイクルで捉え、その際、「学び」と「アセスメント」のフレームワークの一体化をしている国が多い。ニュージーランドの学びの経路フレームワークでは、幼児教育と学校教育と大学教育と成人教育が連続している。
2点目は、非認知と認知を二項対立にせずに、往還させることが重要である。PISAの結果を見ると、日本、マカオ、香港、シンガポールなど、アジアは軒並みリテラシーのパフォーマンスは高いが、失敗を恐れるという傾向がものすごく高い。一方、エストニア、フィンランドは、パフォーマンスも高く、失敗を恐れることも低い。よい未来を、子どもたちが自ら作り出すための土台である学校として、社会全体の価値観を失敗を恐れない文化にアップデートする必要性がある。
3点目は、OECD Education 2030では、非認知能力という話だけでなく、スキル教育を超える教育は何だろうという話をしている。プロジェクトを進めるにあたって、学びとアセスメントの議論を別にしない方が、最終的に現場に馴染むのではないかと考える。例えば、認知・非認知スキルを超える評価や学びのフレームワークとしてスコットランドの取組は、生徒・教師の声にも耳を傾け、参考になる。
(Newell委員)
1995年に東京インターナショナルスクールを創り、2000年ぐらいからSTEAM教育、PBL教育、Inquiry-based learning、SEL等をやってきた。また、TEDEdの日本語のチャンネルを始めたり、大企業とともに未来のテクノロジーについて考え、2年半前から自由ヶ丘学園高等学校で顧問をしている。SELの様々なプログラムやそうした取組をしている先生方を探し回った。CASELはSELの先進的な組織であり、カリキュラムへの実装もしている。KarangaやSSESも取り組んだが、日本ではよい評価の方法を見つけることはできなかった。そこで、OECDのアセスメントを作成した先生たちでBESSIという評価方法を作った。それは、ビッグ5と言われる五大人格特性に基づいて32のスキルを評価することができる新しい評価である。日本は縦割り社会と言われるが、皆で非認知教育のコミュニティを広げ、日本の子どもたちにとってよいプログラムを作りたい。
(金子委員)
国際バカロレア(IB)をベースとして、教育をしている。MYPは中学校全体で導入し、DPは高校生全員で行っているため、約150~160名のIB生がいる。IB教育は非認知教育を実践していると考えられる。授業を英語で行うが、日本の一条校であり、日本の高校資格が取得でき、国内の大学のどこでも進学可能になる。日本人としてのアイデンティティーを確立するために、国語は日本語で行う。ここはインターナショナルスクールとの違いとなる。
英語が使える日本人の育成という目的で20年前に設立されたが、その発展の中でアクティブラーニング、探究型の学習を根幹に据えている。考える力の育成を本校の教育で実践しているが、これがIB教育の根幹である。考える力(思考力)をIB教育では、クリティカルシンキングという言葉を用いるが、批判的思考という表現だけでなく多角的思考として捉えている。非認知能力は、人間力に近いと考えており、学習能力や適応能力を高めることで予測が難しい社会へ適応する力が高まり、それは自分が変わる力となり、生きる力につながる。学習の自立をすることで人生の自立をさせていくことを実践している。
(葉一委員)
大学を卒業し小中高の教員免許を取ったが教職には就かず、営業職、塾講師を行った。その後独立しYouTubeの活動を始めた。来月で12年目になる。塾講師の経験を通して、月謝が払えない子どもの様子を見て、子どもたちのために、子どもたちからお金を得ることなく、さらには親や大人の許可を得ることなく、教育にアクセスするところが必要なのではないかと考え、アカウントの作成が不要なYouTubeだと思った。動画の特徴は、子どもたちが実際に使ってる教科書レベルにしている。どのような子どもたちがどこでつまずいても、自分のチャンネルで支えて見せるということがコンセプトで、教科書全てを動画にするというスタイルである。授業動画だけでも3000本弱ぐらいある。学習の中で小さな成功体験を積み重ねることで、定期試験に起因する子どもたちの自己肯定感や自己効力感を高め、自信をつけられるサポートができればと思い動画を作成している。また、非認知教育の重要性を感じ、授業動画を用意するだけでなく、子どもたちからの相談を受けられる場を用意し、支援をしている。
【海外の先進事例や研究機関との連携】
(田熊委員)
CASELの研究は大変しっかりしており、ウェブ上でも情報入手が可能。視察という観点からは、スコットランドは、群馬県の教育振興基本計画と方向性が似ており、Well-beingやいじめといったソーシャルな部分を非常に重視している。また、非認知の育成とアセスメント、さらにはそのプロセス自体も変えていこうという観点からも、群馬県の政策的な方向性の相性がよいと感じる。スコットランドはOECD Education 2030で積極的な参画国なので、訪問の際には研究機関や現場などアレンジをしてもらえる可能性が高いため、効率性も考慮し提案した。2つ目は、OECDのSSESプロジェクトの中から、日本へのリターンが多い地域をOECD SSESのプロジェクトマネージャーNoémie(LE DONNÉ)に尋ねたところ、SSES参加都市のうちここに挙げたいくつかの地域の名前が挙がってきた。
(Newell委員)
海外のプログラム、アセスメントについて深く勉強している。プログラムだけでも100を超えるものがある。現在、日本では30ぐらいの大学院で研究している。こうした多くの情報が集まってきている。CASELが推奨するプログラムはあるが、プログラム自体をもっている分けではない。ハーバード大学もプログラムはないが、アメリカの中のプログラムを評価している。CASELはアメリカ中心であったが、最近は海外とも連携している。日本の道徳教育にも当てはまるプログラムもある。たくさんのプログラムがあり、それぞれ違いがあるため簡単ではないかもしれない。
(今井委員)
現場にいる関係で、実際にやってみた感想を伝えると、CASELはカリキュラムがあるというよりは大きな考え方のフレームワークがあり、学校全体にどうやって導入していくかが示されている。全体を読み込んで日本で導入してみたところ、少し文化が違うため調整が必要だという印象がある。フレームワークは非常に素晴らしいため試す価値があると考える。エモリー大学は具体的にカリキュラムがあり、現在、SEE Learningというプログラムを実践している。幸せって何なのといったことや、自分の行動がみんなにどういう影響を与えるのかといった質問に対して実際に絵を描き、自分の世界を観察しながら進める方法は子どもに馴染むと考えトライアルしている。また、実際に開発してるエモリー大学の研究者は、これまで20年改善を繰り返しSEE Learninのブログラム作り続けている。その研究に日本も加わって欲しいということで定期的にミーティングを行っている。
資料1(非認知能力の評価・育成(全体像)) (PDF:754KB)
資料1-1(非認知能力育成に向けた指定校による実践研究) (PDF:240KB)
資料2-1(SSESの設問について) (PDF:216KB)
資料2-2(SSES対象スキルの説明) (PDF:859KB)