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群馬県労働委員会は、令和6年5月30日、標記事件に関する申立ての棄却を内容とする命令書を当事者に交付しました。その概要は下記のとおりです。
(1)申立人:群馬合同労働組合(高崎市柴崎町)(以下「組合」という。)
(2)被申立人:株式会社吉ケ谷(安中市下秋間)(以下「会社」という。)
本件は、会社が組合に対して行った次の(1)の行為が労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第1号に、(2)の行為が同条第2号に、また、(3)の行為が同条第3号に該当するとして、令和4年11月15日付け及び令和5年2月11日付けにて救済申立てがあったものです。
なお、当委員会は、両申立てを併合しました。
(1)令和4年9月21日付けでA組合員を配置転換し、配置転換後は夜間勤務をさせないこととし、休日も変更したこと。
(2)団体交渉に関する会社の対応が不誠実であること。
(3)会社による次のアないしオの行為
ア 虐待防止委員会等を使ったパワーハラスメントにより組合の弱体化を図ったこと。
イ 従業員等が閲覧する虐待改善計画書において、A組合員を「元職員」と記載したこと。
ウ 作業中に持ち場を離れたり、施設内を走ったりしないよう注意する指導書をA組合員に対してだけ差別的に交付したこと。
エ 職員会議においてA組合員の診断書と休職届を回覧したこと及び運営推進会議において更なる責任追及をあおったこと。
オ B組合員への「指導」を目的とした配置転換、パワーハラスメント及びいじめを企図したこと。
(1)労組法第7条第1号(不利益取扱い)該当性の判断
A組合員について配置転換したこと、夜間勤務をさせないこと及び休日を変更したことは、不利益性が認められます。しかし、会社がA組合員に配置転換等を命じたのは、A組合員が会社高齢者介護施設の利用者に暴言を吐く等した事案(以下「本件事案」という。)に対処することを目的としたもので、業務上の必要性があったと認めることができ、合理性があったと判断しました。
また、組合へ相談したことを問題視する専務の発言等をもって直ちにA組合員が組合員であるが故に配置転換等を命じられたとまで判断することはできず、夜間勤務をさせないことは組合加入通知前にA組合員に告げられていること等から、配置転換等は、A組合員が組合員であることを理由としたものとはいえず、労組法第7条第1号の不利益取扱いには該当しないと判断しました。
(2)労組法第7条第2号(団体交渉拒否)該当性の判断
組合は、A組合員が令和4年9月19日に解雇を予告され、その処遇の問題があったにもかかわらず、会社が団体交渉の期日を同年10月30日としたことに合理的な理由はないと主張しますが、会社が期日を同日とした理由(本件事案等の調査やリモート方式による団体交渉の準備)が不合理とまではいえず、また、開催が著しく遅いと断定するのも困難であり、さらに、会社は同年9月21日の時点でA組合員の勤務継続を認めていたこと等から、会社が合理的な理由なく団体交渉の開催を引き延ばしたとまでは評価できないとしました。
また、会社が団体交渉の開催条件をリモート方式としたことについては、当時の新型コロナウイルス感染症に関する群馬県の警戒レベル等を考慮すると、高齢者介護施設を運営する会社がリモート方式を主張したことを明らかに不当と非難するのは相当ではなく、合理性がなかったとまではいえないとしました。
さらに、組合は、会社が団体交渉に素性の知れない人物を同席させていたと主張していますが、これを裏付ける疎明はありませんでした。
以上に加えて、双方合意のもとに同年10月30日にリモート方式による団体交渉が開催されたことも考慮すると、労組法第7条第2号の団体交渉拒否には該当しないと判断しました。
(3)労組法第7条第3号(支配介入)該当性の判断
上記2(3)アないしオの各行為について、組合は、会社が内部の会議等を用いて組合員を追い詰めたり、孤立させようとする等して組合の弱体化を図った等と主張しますが、労組法第7条第3号の支配介入に該当する事実は認定できないと判断しました。
本件申立てをいずれも棄却します。
不当労働行為救済制度は、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するために、労働組合法に定められている制度です。労働組合法第7条では、使用者の労働組合や労働者に対する次のような行為を「不当労働行為」として禁止しています。
〔不当労働行為として禁止される行為〕
(1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止(第1号)
ア 労働者が、
イ 労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること。
(2)正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止(第2号)
使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。
※ 使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(「不誠実団交」)も、これに含まれる。
(3)労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助の禁止(第3号)
ア 労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入すること。
イ 労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること。
(4)労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いの禁止(第4号)
命令書が交付された日の翌日から起算して15日以内に中央労働委員会に再審査の申立てができます。
(1)使用者の場合 …命令書が交付された日の翌日から起算して30日以内
(2)組合の場合…命令書が交付された日の翌日から起算して6か月以内