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群馬県労働委員会は、令和3年7月19日、標記事件に関する申立ての棄却を内容とする命令書を当事者に交付しました。その概要は下記のとおりです。
組合員Aは、会社で空港送迎タクシーの乗務員として働き、令和2年1月に定年を迎えました。定年後も会社で再雇用され、継続して働いていました。本件は、組合から、同年5月14日、組合員Aに関する以下の主張に基づき救済申立てがあったものです。
会社は、組合員Aに、「時給1,000円」、「『稼働手当』の支給なし」等の条件を提示し、再雇用契約を締結しました。組合は、他の従業員は正社員と同様の条件(月給制、『稼働手当』の支給あり等)で再雇用されているにもかかわらず、組合員Aのみ経済的に不利な条件で契約を締結させられたとして、不当労働行為に該当すると主張しました。
組合は、令和2年4月1日、2日の2回、会社に対し、組合員Aの処遇の説明等を要求事項として団体交渉を申し入れました。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い雇用の継続が難しくなったとして組合員Aに解雇の通告がなされたことから、同月16日にも、解雇の撤回等を要求事項として団体交渉を申し入れました。会社は、これらの要求に対し、書面で説明をしたものの、新型コロナウイルス感染症の拡大を理由に団体交渉の開催に応じませんでした。組合は、これが団体交渉を不当に拒否する不当労働行為に該当すると主張しました。
本件再雇用契約の内容はA組合員を経済的に不利益に扱うものであるし、会社が組合に一定の嫌悪感を抱いていたことも認められます。しかしながら、「稼働手当」が「固定残業代」に当たらないと主張する組合と、当たると主張する会社との間で対立が続いており、会社は、組合員Aに対し、他の従業員と同様の配車ができなくなっていた状況がありました。このような状況や、再雇用条件の決定について会社に相当程度の裁量権があったこと等からすれば、会社が本件再雇用契約の労働条件を提示したことには一定の合理性が認められます。これらのことからすると、会社の組合に対する嫌悪感が本件再雇用契約締結の決定的理由と断定するまでの根拠はなく、むしろ、会社は定年退職前の膠着した雇用関係を打開することを意図して本件再雇用契約を締結したものと考えるのが妥当です。
よって、本件再雇用契約の締結は、不当労働行為に該当しません。
確かに会社は本件団体交渉の申入れを拒否したといえますが、本件団体交渉申入れがなされた当時は、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大により、誰も経験したことのないような社会的な混乱、不安等が生じていたことが推認できます。この状況は、団体交渉拒否の正当な理由というべきです。また、この判断を覆すような事情も認められません。
よって、会社が本件団体交渉の申入れを拒否したとしても、不当労働行為に該当しません。
本件申立てを棄却します。
不当労働行為救済制度は、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するために、労働組合法に定められている制度です。労働組合法第7条では、使用者の労働組合や労働者に対する次のような行為を「不当労働行為」として禁止しています。
〔不当労働行為として禁止される行為〕
労働者が、
を理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。
労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること。
使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。
使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(「不誠実団交」)も、これに含まれる。
命令書が交付された日の翌日から起算して15日以内に中央労働委員会に再審査の申立てができます。