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群馬県労働委員会は、令和3年3月15日、標記事件に関する申立ての棄却を内容とする命令書を当事者に交付しました。その概要は次のとおりです。
Z会社(Y会社とは別の会社)は、Y会社からY会社の工場での構内業務を請け負っていました。その関係の下で、当時Z会社の従業員であった組合員Aは、同工場で勤務していました。本件は、令和2年2月27日、X組合から、当該組合員Aに関する以下の2つの主張に基づいて救済申立てがあったものです。
令和元年6月、Y会社の女性従業員から、Y会社に対し、Z会社の従業員(組合員A)から個人情報を探られているようである等の報告がありました。これを受けて、同月26日、Y会社は、Z会社に対し「当社社員に対するセクハラ(ストーカー行為)について」と題する文書(以下「本件文書」という。)を手交し、事実の調査や、事実が判明した場合には当該者のY会社への出入りを禁止にする等の処分をすることを依頼しました。X組合は、このことが組合員Aの就労を不当に阻害する不当労働行為に該当すると主張しました。
X組合は、令和元年6月28日以降、Y会社に対し、本件文書の撤回や道路交通法違反の是正等を要求事項として複数回団体交渉を申し入れました。Y会社は、この申入れのうち4回の申入れについて、自らが組合員Aの使用者でないことや改めて団体交渉を行ったなどを理由に、申入れに応じませんでした。X組合は、これが、団体交渉を不当に拒否する不当労働行為に該当すると主張しました。
労働組合法上の「使用者」とは、原則として労働契約上の雇用主を意味しています。一方で、雇用主以外の者でも、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者は、その限りにおいて「使用者」に当たると考えられます。
本件では、Y会社は組合員Aの雇用主ではなく、また、上記のように雇用主と同視できるという事情も認められないことから、不当労働行為は成立しません。
X組合の要求事項のうち、本件文書に関わる部分については、(1)の判断のとおり、Y会社が「使用者」に該当しないことから不当労働行為は成立しません。一方で、道路交通法違反の是正等に関する部分については、Y会社が組合員Aに対し日常的な業務指示をしていたこと等から、Y会社に団体交渉に応じる義務があったといえます。
しかしながら、道路交通法違反等に関することは、改めて団体交渉が開催されており、Y会社も是正措置を講じていたこと等から、労働委員会としてY会社に命令を出す必要性はないと判断しました。
本件申立てを棄却します。
不当労働行為救済制度は、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するために、労働組合法に定められている制度です。労働組合法第7条では、使用者の労働組合や労働者に対する次のような行為を「不当労働行為」として禁止しています。
労働者が、
を理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。
労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること。
使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。
使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと(「不誠実団交」)も、これに含まれる。
命令書が交付された日の翌日から起算して15日以内に中央労働委員会に再審査の申立てができます。