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第2部第4章 生活環境の保全と創造

更新日:2019年12月25日 印刷ページ表示

第1節 水環境、地盤環境の保全、土壌汚染対策の推進

公共用水域水質測定調査環境基準達成率
河川(BOD75%値)80.0%(32/40地点)
湖沼(COD75%値)75.0%(9/12地点)
10ミリメートル以上の地盤沈下面積 2.29平方キロメートル
汚水処理人口普及率(平成30年3月末)80.5%

第1項 水質汚濁・地下水汚染の防止

1 河川・湖沼・地下水の水質測定の実施と公表【環境保全課】

(1)河川・湖沼の水質測定の実施と結果

「水質汚濁防止法」に基づき都道府県は、公共用水域(*注1)の水質の汚濁状況を監視する必要があります。
本県では、国土交通省や各市など、関係機関と協同で、主要な河川と湖沼の水質を測定し、環境基準の達成状況を確認しています。
平成30年度は、81河川・12湖沼における220地点で水質の測定を行いました。
測定項目は、環境基準(*注2)が定められている「人の健康の保護に関する項目(*注3)」(カドミウム・シアンなど)と「生活環境の保全に関する項目(*注4)」(BOD・CODなど)、「水生生物の保全に関する項目(*注5)」(全亜鉛など)が中心です。

ア 人の健康の保護に関する項目

測定を行った全164地点で環境基準を達成しました。

イ 生活環境の保全に関する項目

環境基準の類型が指定(*注6)されている21河川・38水域における40地点と12湖沼の12地点、計52地点(環境基準点(*注7))について評価を行いました。

a 河川

40か所の環境基準点の達成状況をBODで評価を行うと32地点で環境基準を達成し、達成率は80.0%で、長期的には、ゆるやかな改善傾向がみられます。水域別にみると、全38水域のうち環境基準を達成している水域は30水域であり(*注8)、水域単位での達成率は78.9%(参考値)となります。環境基準を達成していない河川は、前年度と同様に県央・東毛地域の利根川中流の支川と渡良瀬川下流の支川に多く見られました。

b 湖沼

12か所の湖沼の環境基準点の達成状況をCODで評価を行うと、9湖沼で環境基準を達成し、達成率は75.0%でした。環境基準を達成していないのは天然湖沼ですが、自然由来の有機物が原因と考えられます。

ウ 水生生物の保全に関する項目

a 河川

環境基準の類型が指定されている21河川・26水域の41地点のうち、38地点で環境基準を達成しました(達成率92.7%)。
水域単位では、全26水域中、23水域で環境基準を達成しています(達成率88.5%:参考値)。

b 湖沼

環境基準の類型が指定されている全11湖沼で環境基準を達成しました(達成率100%)。

エ 渋川地区の水銀環境汚染調査

渋川市には、県内の代表的な化学工場などがあり、過去には、これらの工場でも水銀を使った生産活動が行われていたことから、昭和48年以来、環境調査を続けています。
平成30年度も、渋川市大崎周辺の利根川の水質と底質について「総水銀(*注9)」を調査しました。水質は、利根川の2地点と工場排水路の1地点について、それぞれ年2回調査しましたが、いずれの地点でも環境基準値(0.0005ミリグラムパ-リットル)及び排水基準値(0.005ミリグラムパ-リットル)を下回りました。
底質については、利根川の2地点で年1回調べたところ、いずれの地点でも底質の暫定除去基準(25パーツ・パー・ミリオン)を下回りました。

BOD(生物化学的酸素要求量)
水中の微生物が汚濁物(有機物)を分解するときに消費する酸素の量で、単位はミリグラムパ-リットルで表します。河川水、排水などの汚濁の程度を示すもので数値が大きいほど水が汚れていることを示します。

COD(化学的酸素要求量)
酸化剤(過マンガン酸カリウム)が水中の汚濁物を酸化する時に消費する酸素の量で、単位はミリグラムパ-リットルで表します。湖沼や海の汚れを測る代表的な目安として使われます。この値が大きいほど水が汚れていることを示します。

(*注1)公共用水域:河川、湖沼、港湾、沿岸海域その他公共の用に供される水域及びこれに接続する公共溝きょ、かんがい用水路その他公共の用に供される水路(公共下水道及び流域下水道であって終末処理場を有しているものを除く。)です。
(*注2)環境基準:人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準で、環境施策に係る行政上の目標のことです。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められています。
(*注3)人の健康の保護に関する項目:公共用水域の水質汚濁に係る環境基準で、人の健康を保護する上で維持することが望ましい基準として設定された項目です。これには、シアンをはじめ蓄積性のある重金属類のカドミウム、鉛、クロム(6価)、砒素、水銀、アルキル水銀と人工的に作り出されたPCB及びトリクロロエチレン等の27項目があります。基準値は項目ごとに定められています。
(*注4)生活環境の保全に関する項目:生活環境の保全に関する項目として定められたものです。水質汚濁に関しては、pH、BOD、COD、SS、DO、大腸菌群数、全窒素、全りん等の10項目について、河川、湖沼など公共用水域の水域類型ごとに環境基準が定められています。
(*注5)水生生物の保全に関する項目:生活環境を構成する有用な水生生物やその餌生物の生息や生育環境を保全するため、平成15年に定められました。
(*注6)類型指定:河川、湖沼及び海域別に、それぞれの利水目的に応じて水域の類型が定められています。
(*注7)環境基準点:環境基準の水域類型指定が行われた水域において、環境基準の達成状況を把握するための地点です。
(*注8)水域単位による環境基準達成の評価:同一水域に複数の環境基準点が存在する場合、その水域内の全ての環境基準点が環境基準を達成したときに、その水域が環境基準を達成したとみなします。水域単位による達成率の評価は、この白書では参考値として扱います。また、群馬県の湖沼では、1水域に1環境基準点が設定されており、湖沼の場合には、達成した水域数で評価した場合と、達成した環境基準点数で評価した場合の環境基準の達成率は等しくなります。

(2)地下水の水質測定の実施と結果

地下水は、水温の変化が少なく一般に水質も良好であるため、貴重な水資源として水道、農業及び工業などに広く利用されていますが、いったん有害物質に汚染されると、その回復は困難で影響が長期間持続するなどの特徴があります。
有害物質による地下水汚染の未然防止を図るため、「水質汚濁防止法」では有害物質を含む汚水等の地下への浸透を禁止する措置や地下水の水質の監視測定体制の整備などの規定が設けられています。
県内の地下水の水質監視は、「水質汚濁防止法」の規定により作成した水質測定計画に基づき、県及び同法で定める4市(前橋市、高崎市、伊勢崎市及び太田市)が行っています。

ア 地下水質概況調査

a 調査方法等県内の地下水の状況を把握するため全県を4キロメートル四方の151区画に区分し、1区画につき1本(県99、前橋市13、高崎市18、伊勢崎市9、太田市12)の井戸について調査しました。
県が実施する99井戸では、地下水環境基準が定められている項目(表2-4-1-7)を、ローリング方式と定点方式で調査をしました。
ローリング方式では、過去の調査結果等を勘案し、対象物質をA~Eの5段階に区分し、各区画の井戸における調査項目を選択しています。ひとつの井戸で複数の項目を調査することもあります。定点方式では、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を調査しました。
平成30年度の地下水質概況調査では、ローリング方式により項目Aを97井戸で、項目Bを46井戸で、項目Cを23井戸で、項目Dを19井戸で、項目Eを9井戸で調査し、定点方式により硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を2井戸で調査しました。
なお、4市実施分の計52井戸では、すべての項目を調査しました。

b 平成30年度の結果

20本の井戸で硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素(*注11)が、1本の井戸で鉛が環境基準を超過して検出されました。
平成30年度の地下水環境基準達成率は86.1%(130/151地点)でした。

イ 地下水質継続監視調査

概況調査等で地下水質が環境基準を超過した地区の汚染の推移を監視するため、継続的に調査をしています。
過去の概況調査でトリクロロエチレン等の有害物質が環境基準値を超過して検出された、前橋市4地区、高崎市2地区、伊勢崎市2地区、桐生市1地区、渋川市1地区、館林市1地区、富岡市1地区及び藤岡市1地区の計13地区で汚染状況の監視のための継続監視調査を実施しています。その結果、汚染物質の濃度はおおむね前年並みでした。
また、平成19年度からは硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素について、20井戸を選定して継続監視調査を実施していますが、基準値以下になる井戸があるなど、濃度は低下傾向となっています。そこで、平成26年度に、複数年基準値を下回った井戸のモニタリングを終了し、新たに著しい汚染が確認された井戸においてモニタリングを開始しました。

ウ 周辺(終了)調査

継続監視調査において環境基準を下回る状態が継続している地区の汚染状況を確認し、同地区の継続監視調査の終了を検討するため実施するものです。
平成30年度は、前橋市内の1地区について終了調査を実施し、調査結果から地下水の浄化が確認できたため、平成30年度をもって同地区における継続監視調査を終了しました。

エ 群馬県地下水質改善対策連絡協議会

平成15年度に学識経験者と関係機関の職員を構成員とする「地下水質改善対策連絡協議会」を設置しました。大間々扇状地をモデルに硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水の汚濁機構について検討を行い、農業、畜産、生活排水等による複合的な影響を受けているものと推定されました。
現在、それぞれの汚染原因の影響を確認できる地点を選定し、汚染の推移について継続的に調査しています。

(*注11)硝酸性窒素・亜硝酸性窒素:生活排水やし尿の汚染があったり田畑の窒素肥料の影響などがあると、地下水中に多量に含まれていることがあります。

2 水質汚濁事故の迅速な情報伝達と関係機関との連携【環境保全課】

公共用水域で発生した水質汚濁事故については、関係機関が連携して原因調査と被害拡大防止策を講じるとともに、速やかに下流域の利水関係機関に通報します。

(1)水質汚濁事故の発生状況

平成30年度の水質汚濁事故は57件です。水質汚濁事故は目視により発見されるケースがほとんどで、その中でも油の流出事故が多くなっています。事故の発生原因としては、人的ミスや交通事故が多くなっていますが、原因不明の事故も多い状況です。
原因者が判明すれば、事故の再発を防ぐなどの指導を行っています。
水質汚濁物質が河川等の公共用水域に流出すると、下流の浄水場が取水を停止するなど利水障害を起こしたり、水生生物が斃死したりする場合があります。
そのため、水質汚濁事故を極力未然に防止できるよう、県民や事業者へ啓発することが重要となります。

(2)特定指定物質の適正管理制度

平成24年5月に利根川水系の複数の浄水場で水道水質基準を超える有害なホルムアルデヒドが検出され、流域の都県で取水制限等が実施されるという大規模な水質事故が発生しました。
これを受けて、「群馬県の生活環境を保全する条例」の一部改正を行い、水道水への影響が大きい化学物質(特定指定物質)についての適正管理制度を創設し、平成25年4月から施行しました。
平成31年3月31日時点で適正管理計画の届出をしているのは210者です。届出済事業者の業種は製造業や上水道業が多く、取扱物質種類ではアルミニウムや鉄が多くなっています。
(*注1)1,3,5,7-テトラアザトリシクロ[3.3.1.1(3,7)]デカン(別名ヘキサメチレンテトラミン)
(*注2)複数の特定指定物質を使用している特定指定物質取扱事業所あり。

3 工場・事業場への立入指導の実施【環境保全課】

「水質汚濁防止法」及び「群馬県の生活環境を保全する条例」では、特定事業場等(*注12)に対し排水濃度の基準を設けて排出水を規制しています。
さらに、県では、「水質汚濁防止法」よりも厳しい排水基準(上乗せ基準(*注13))を設定する条例(排水基準上乗せ条例)を設け、規制対象を排水量10立方メートル/日以上の特定事業場に拡大し、基準値もより厳しいものとしています。また、平成18年度に「群馬県の生活環境を保全する条例」を改正施行し、それまで排水濃度の基準の対象となっていなかった特定事業場以外の工場・事業場に対しても一部の項目で排水濃度の基準を設け、水質汚濁物質の排出抑制を図っています。

(1)特定施設の届出状況(平成30年度末現在)

「水質汚濁防止法」に基づく特定施設の届出状況及び「群馬県の生活環境を保全する条例」に基づく水質特定施設の届出状況は表2-4-1-10のとおりです(表は省略)。

(2)特定事業場に対する立入検査

平成30年度は、排水量が10立方メートル/日以上又は有害物質を使用している特定事業場のうち、延べ731(410)事業場に対し「水質汚濁防止法」に基づく立入検査を実施し、このうち延べ396(345)事業場について、排水基準の適合状況を調査しました。
その結果、排水基準に適合していたのは延べ323(287)事業場で全体の81.6%(83.2%)でした。なお、排水基準に不適合の73(58)事業場に対しては、文書又は口頭により改善を指導しました。

(*注12)特定事業場等:「水質汚濁防止法」で定める特定施設を設置する工場・事業場(特定事業場)及び「群馬県の生活環境を保全する条例」で定める水質特定施設を設置する工場・事業場(水質特定事業場)
(*注13)上乗せ基準:排出水の排出の規制に関して総理府令で定める全国一律の排水基準にかえて適用するものとして、都道府県が条例で定めたより厳しい排水基準です。

4 生活排水対策に向けた広報【環境保全課】

水質環境基準(BOD75%値)を達成できない河川の多くは、市街地内を流下し、河川流量が少ない割には、生活排水の流入する割合が多いという特徴があります。
平成30年度は、ぐんまこどもの国児童会館で開催されたぐんまウォーターフェアで、生活排水による川の汚れの防止について啓発を行いました。

5 家畜排せつ物の取扱いの適正化指導【畜産課】

「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(以下、「家畜排せつ物法」)が完全施行され、畜産農家は家畜排せつ物の管理について、法律の基準を遵守することが義務づけられました。これに基づき、家畜排せつ物処理施設を整備する事業を実施し、適正な管理を指導してきました。
また、同法に基づく国の基本方針変更に伴い、平成28年3月に「群馬県家畜排せつ物利用促進プラン」として見直し、平成37年を目標年度として堆肥の利活用を積極的に進めることにしました。
畜産農家には、家畜排せつ物の適正管理に加え、耕種農家と連携し、家畜ふん堆肥の農地への還元を基本とした有機質資源としての有効活用を図ることを指導しました。

(1)地域と調和した畜産環境確立
ア 耕畜連携堆肥流通支援事業(平成24年度~28年度)

「家畜排せつ物法」に対応するため、家畜排せつ物処理施設を整備し、畜産農家の周辺環境の保全を支援してきましたが、平成24年度からは地域における資源循環型農業の推進及び畜産経営の健全な発展を図ることを目的とし、堆肥の流通利用を促進するために必要な機械等の整備を支援する事業を開始し、平成25年度は西部地域3か所、東部地域1か所、平成26年度は中部地域1か所、西部地域1か所で機械整備を実施しました。また、平成27年度からは推進事業に移行し、耕種農家の堆肥利用に関する調査、耕畜連携先進地視察、堆肥利用の研修会を行うとともに、米麦を主体とする耕種農家向け啓発資料を作成、配布し、さらには、平成28年度は、米麦以外の耕種農家向け啓発資料の作成、配布を行い、堆肥利用の促進を図りました。

イ 畜産環境リース整備促進事業(平成14年度~28年度)

(一財)畜産環境整備機構が実施した畜産環境整備リース事業の特別緊急対策(1/2補助付きリース事業)を利用し、畜産農家が設置したふん尿処理施設や機械等のリース代金について附加貸付料の一部を助成しました。

6 鶴生田川(城沼)水質浄化対策【河川課】

河川の水質を悪化させる主な原因として、生活雑排水の河川や湖沼への流入が問題視されています。
特に、都市部では生活雑排水の流入が多く、水質は悪化する傾向にあります。この生活雑排水を河川へ流入させないため、公共下水道や浄化槽の整備が行われていますが、計画が長期にわたることや、進捗が自治体によって異なることから、悪臭等生活環境にも影響するほど水質悪化が著しい河川においては、その対策が急務となっています。
県では、館林市の市街地を流下し、水質悪化の著しい一級河川鶴生田川において、河川の水を直接浄化する水質浄化対策に取り組んでいます。
浄化対策としては、多々良沼からの浄化用水の導入(平成6年度完成)、鶴生田川及び城沼の底泥浚渫(平成4~16年度)、鶴生田川の礫間浄化施設(平成13年度完成)、城沼北岸の植生浄化施設(平成16年度完成)等を実施し、その結果、鶴生田川本川では水質が改善傾向にあります。
一方、城沼では近年アオコの発生が見られていませんが、未だ水質目標を達成できない状況であることから、平成30年度は引き続き水質調査や水質浄化施設を利用し、水質浄化対策に取り組みました。

7 下水道、合併処理浄化槽、農業集落排水処理施設等の汚水処理施設の整備【下水環境課】

川や湖を汚す大きな原因として、家庭からの汚水が直接川や湖に流れ込んでいることがあげられます。
川や湖などの汚れをなくすには家庭からの汚水をきれいにして川や湖に戻すことが大切です。
汚水を処理する施設には下水道、農業集落排水、合併処理浄化槽やコミュニティ・プラントなどがあります。しかし、無秩序にこれらの施設をつくっても効率的に地域の汚水を浄化することはできません。
そこで、県では市町村の協力のもと、効率的な汚水処理施設の整備を行うために平成10年3月に「群馬県汚水処理計画」を策定しました。その後、財政状況等の社会環境の変化、さらに将来人口の予測や使用水量などの要因の変化に合わせ、平成16年度、平成20年度、平成24年度、平成29年度に、それぞれ見直しを行ってきました。
これにより各施設の整備を進めると、汚水処理人口普及率(*注14)が現在80.5%(平成29年度末)であるものが中期計画終了後(おおむね令和9年頃)には約92%になります。
また、川や湖に流れ込む汚濁負荷量も、中期計画終了後には、高度経済成長期前の昭和30年頃の汚濁負荷量を下回ることになり、水質改善がなされます。
よりよい水環境を一日も早く実現するためにも、市町村と協力しながら汚水処理施設の効率的な整備を本計画に従って推進していきます。

8 流域下水道建設【下水環境課】

流域下水道は、二つ以上の市町村の公共下水道から汚水を集めて処理するもので、主に公共用水域の水質保全を効率的に行うことを目的として都道府県が設置、管理しています。本県では、以下の整備を進めています。

ア 利根川上流流域下水道

沼田市、みなかみ町を処理区域とする奥利根処理区及び前橋市、高崎市を含む10市町村を処理区域とする県央処理区で事業を実施中です。奥利根処理区については昭和56年4月から、県央処理区については昭和62年10月からそれぞれ供用を開始しています。

イ 東毛流域下水道

太田市、千代田町、大泉町、邑楽町を処理区域とする西邑楽処理区、桐生市、みどり市を処理区域とする桐生処理区、太田市を処理区域とする新田処理区、伊勢崎市、太田市を処理区域とする佐波処理区で事業を実施しています。
西邑楽処理区は、平成12年4月から、新田処理区は平成18年7月から、佐波処理区は平成20年9月から供用を開始しています。
また、桐生処理区については、桐生市公共下水道(広沢処理区)として整備された施設を平成3年度に桐生市のほか、周辺2町1村を新たに取り込んだ事業に着手し、平成7年4月から流域下水道(桐生処理区)として供用しています。

(*注14)汚水処理人口普及率:下水道処理のほか、農業集落排水処理施設、合併処理浄化槽、コミュニティ・プラント処理施設が整備されている人口が、県の行政人口に対して占める割合のことです。

9 市町村下水道事業費補助(公共下水道の整備)【下水環境課】

公共下水道は、家庭及び事業場からの下水を排除し又は処理するために各市町村が設置、管理する下水道です。現在、29市町村で公共下水道事業を実施しています。
県では、県立公園内に位置する赤城大沼及び榛名湖の汚水処理施設の更新に重点的に支援を行うとともに、下水道処理人口普及率の向上を進め、公共用水域の水質を保全するため、市町村に対して管渠整備費の一部を補助しています。また、接続率の向上を図るため、個人が行う下水道へ接続するための排水設備工事に対して、市町村補助額の一部を補助しています。
平成29年度末での本県の下水道処理人口普及率(処理区域内人口÷行政人口)は53.8%で、今後も一層の整備を推進する必要があります。

10 農業集落排水事業費補助【下水環境課】

「農業集落排水事業」は農村下水道とも呼ばれ、1集落から複数集落を単位として実施する、農村の集落形態に応じた比較的小規模な下水道事業です。
この事業は、農村地域を対象に農業用水の水質保全と生活環境の改善を図るとともに、河川等の公共用水域の水質保全に役立たせるため、し尿や生活雑排水の処理を行うもので、処理された水を農業用水として再利用したり、処理の過程で発生した汚泥を肥料として農業に利用したり、資源循環型社会の構築にも役立っています。
平成29年度末までに117地区で事業に着手し、全ての地区が完了しました。

11 浄化槽設置整備事業費補助【下水環境課】

私たちの身近な水路や小川には、生活雑排水(台所、風呂、洗濯などの汚水)が流れ込んでおり、これが河川や湖沼の汚濁の主要な原因になっています。
公共用水域の水質を保全していくためには、し尿のみを処理する単独処理浄化槽ではなく、し尿と併せて生活雑排水を処理できる合併処理浄化槽を計画的に整備していくことが欠かせません。
本県では、昭和62年度から市町村が実施する「浄化槽設置整備事業」に対して、県費補助制度を設け、単独処理浄化槽やくみ取り槽から合併処理浄化槽への転換(切り換え)推進を図っています。

12 浄化槽市町村整備推進事業費補助【下水環境課】

市町村が自ら実施主体となって合併処理浄化槽を整備し、維持管理する「浄化槽市町村整備推進事業」についても、平成8年度から県費補助制度を設け、その推進を図っています。
県内の合併処理浄化槽の設置状況は表2-4-1-16、「浄化槽設置整備事業」及び「浄化槽市町村整備推進事業・浄化槽エコ補助金事業」の実施状況は表2-4-1-17に示すとおりです(表は省略)。
ただし、平成27年度からは、新設に対する補助は廃止し、単独処理浄化槽等から合併処理浄化槽へ転換を行ったもののみ補助を実施しています。

13 浄化槽エコ補助金事業費補助【下水環境課】

単独処理浄化槽等を使用している個人等が、合併処理浄化槽へ転換した場合が対象となります。原則として単独処理浄化槽やくみ取り槽を撤去処分等するものが対象となり、「浄化槽設置整備事業費補助」に上乗せして、10万円/基を平成23年度から補助しています。
なお、平成12年6月に「浄化槽法」が改正され平成13年度から下水道予定処理区域を除いて、浄化槽を設置する場合は合併処理浄化槽の設置が義務化されたほか、既設の単独処理浄化槽の設置者に対しても合併処理浄化槽への転換努力が規定されています。

14 浄化槽の維持管理の促進【廃棄物・リサイクル課】

浄化槽は、主に微生物の力を使って、し尿や生活雑排水を浄化し、きれいになった水を放流するものです。
浄化槽の機能を生かすための維持管理として、

  1. 浄化槽の保守点検
  2. 浄化槽の清掃
  3. 浄化槽の定期的な検査の受検

が必要です。
浄化槽の定期的な検査(「浄化槽法」第11条に基づく検査(11条検査))は、浄化槽管理者が毎年受検することが義務付けられていることから、県では、11条検査を受検していない方を対象に受検指導等を行いました。
また、県では、11条検査の受検を促進するため、50人槽までの小規模な浄化槽の11条検査について、保守点検と併せて法定検査を行う「効率化11条検査」の制度を設けています。
これらの効果により、11条検査の受検率は、平成30年度で74.6%となり、全国平均の41.8%(平成29年度)を大きく上回りました。

第2項 地盤沈下の防止

1 一級水準測量による地盤変動調査の実施と結果の公表【環境保全課】

地盤沈下とは、過剰な地下水の採取によって、主に粘土層が収縮するために生じる現象です。
地下水は、雨水や河川水等の地下浸透により補給されますが、この補給に見合う以上の汲み上げが行われることで、帯水層の水圧が低下(地下水位が低下)し、粘土層に含まれる水(間隙水)が帯水層に排出され粘土層が収縮します。そのため、地表部では地盤沈下として認められます。
地盤沈下は、比較的緩慢な現象で徐々に進行し、他の公害と異なり、いったん地盤沈下が起こると元に戻ることはありません。
県では、「一級水準測量」と「地下水位計・地盤沈下計による観測」を行い、これら地盤の変動を把握しています。

(1)一級水準測量(*注15)

県では、地盤変動の状況を経年的に調査するため、昭和50年度から一級水準測量を実施しています。広域的な測量を行うことにより、どの場所でどれくらい地盤が変動しているかを把握することができます。
平成30年度は、県の平坦地域10市町の水準点134点、測量延長286kmの規模で実施しました。
平成30年の地盤変動量は、平成31年1月1日現在の標高(T.P.)(*注16)から平成30年1月1日現在の標高(T.P.)を差し引いて求めたものです。
平成30年度における観測の結果、沈下の注意が必要となる20ミリメートル以上沈下した地域はなく、10ミリメートル以上20ミリメートル未満の沈下域は2.29平方キロメートルでした。
また、測量を実施した各市町村における年間沈下量のうち最大のものは、板倉町朝日野一丁目(水準点番号10-01)の11.0ミリメートルです。
なお、観測開始からの累積沈下量としては、明和町新里(水準点番号50-08)で最大の483.6ミリメートルとなっており、観測開始からの年平均変動量図は図2-4-1-16のとおりです(図は省略)。
累積地盤沈下量の経年変化を見ると、観測開始当初から比べて沈下量はゆるやかな下降となっており、群馬県の地盤沈下は沈静化の傾向にあるといえます。

(*注15)水準測量:地盤沈下現象を把握する方法として、一般的に行われているのが水準測量です。水準測量は、2地点に標尺を立て、その中間に水準儀の望遠鏡を水平に置いて、2つの標尺の目盛りを読み、その差から高低差を求める作業をいいます。遠く離れた地点の高さはこの作業の繰り返しによって求めることができます。公共測量における水準測量は、その精度により、一級、二級、三級、四級及び簡易水準測量に区分されます。本県の地盤沈下観測では、最も精度の高い一級水準測量が行われています。
(*注16)標高(T.P.):東京湾の平均中等潮位からの高さです。実用的には、地上のどこかに高さの基準となる点を表示することが必要です。このため、明治24年に東京都千代田区永田町(国会議事堂前、憲政記念館南)に水準原点が作られました。内部に置かれた水晶板のゼロ目盛りの高さが東京湾平均海面(T.P.)上24.3900メートルと定められています(平成23年10月21日改正)。

(2)地下水位計・地盤沈下計による観測

地盤沈下は、地下水の過剰な汲み上げが原因とされており、地盤沈下の現状を把握するためには地下水位の変化と地盤沈下量を観測、分析することが有効です。このため、県では一級水準測量に加え、県で管理する地下水位観測井に地盤沈下計を併設し、地下水位と地盤沈下量(地層収縮量)を調査しています。
平成30年度は、地下水位観測井(地下水位のみ観測)15井、地盤沈下観測井(地下水位と地盤沈下量を観測)5井の合計20井で観測を行いました。
主な観測井での観測開始からの変化を、図2-4-1-17に示します(図は省略)。一般的に地下水位は毎年同じような変化を繰り返しています。平成10年頃までは、地下水位は下降傾向でしたが、現在はほぼ横ばい傾向にあります。
深度の異なる3本の地盤沈下観測井を設置している明和西観測井の結果から、次のことが読みとれます。

  • 地下水位の変化は、1年周期で変動がある。
  • 一度地盤が沈下すると、地下水位が回復しても元に戻らない。
  • 浅層より深層で沈下が起きているが、地下水位の低下は今のところ現れていない。

2 地下水採取状況の把握と結果の公表【環境保全課】

「群馬県の生活環境を保全する条例」により、一定規模以上の井戸を揚水特定施設として設置の届出と地下水採取量の報告を義務付けています。
揚水特定施設設置者からの報告による平成30年の各市町村別の地下水採取量は表2-4-1-20、採取量の推移は、図2-4-1-19に示すとおりです(図は省略)。

3 取水における地下水から表流水への転換の推進【(企)水道課】

県では、高度経済成長の過程で工場等による地下水採取量が増大したため、特に東部地域の地盤沈下が著しく進行したと考えられています。
こうした状況を回避するため、県企業局では地下水保全(地盤沈下防止)対策として東毛工業用水道事業(給水区域:伊勢崎市、太田市、館林市、板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町)及び東部地域水道用水供給事業(給水区域:太田市、館林市、板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町)を計画・事業化しました。
平成30年度は地下水から表流水への新たな転換はありませんでしたが、引き続き転換を進め、地盤沈下の防止に努めます。

第3項 土壌汚染対策の推進

1 有害物質使用事業場に対する立入指導【環境保全課】

土壌・地下水は一度汚染されてしまうと、元の状態に戻すために多くの時間と費用が必要となり、原因事業者を主として多大な負担が発生します。そのため、土壌や地下水の汚染は未然に防止することが重要です。平成24年6月に改正「水質汚濁防止法」が施行され、新たに有害物質の地下浸透防止のための構造基準等について遵守義務が創設されました。県では、構造基準等の適合状況を立入調査により確認し、指導・助言を行っています。
また、「群馬県の生活環境を保全する条例」では、「有害物質を使用する事業者は、定期点検や事故時に有害物質が地下に浸透するおそれがあれば調査をして知事に報告する。」ことを義務付けています。

2 市街地における土壌汚染対策の推進【環境保全課】

(1)土壌汚染対策法

土壌の汚染状況の把握や汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定めた「土壌汚染対策法」により、土地所有者等に対し、一定の契機をとらえた土壌汚染状況調査が義務付けられています。
この調査により、土壌中に一定の基準(指定基準)を超える有害物質が検出された土地は県知事・政令市長(前橋市、高崎市、伊勢崎市、太田市)により区域指定され、土地所有者等は汚染状況に応じ汚染の除去等の措置を実施しなければなりません。

(2)土地改変時の届出

「土壌汚染対策法」により一定規模以上の土地の改変時には届出が義務付けられており、届出における土地に土壌汚染のおそれがみられる場合には調査命令が発出されます。

(3)坂東工業団地周辺土壌・地下水汚染問題

坂東工業団地(渋川市北橘町)周辺においては、昭和30年代後半に埋設されたカーバイド滓を原因とする土壌汚染によって、テトラクロロエチレン等による地下水汚染が確認されています。
この事案に関して、健康被害が生じるおそれがないよう、県は周辺地下水のモニタリングを継続しています。

第2節 大気環境の保全、騒音、振動、悪臭の防止

環境基準達成率

  • 一般環境大気測定局
    二酸化硫黄 100%(13/13局)
    二酸化窒素 100%(14/14局)
    浮遊粒子状物質 100%(18/18局)
    一酸化炭素 100%(1/1局)
    光化学オキシダント 0%(0/18局)
    微小粒子状物質 100%(10/10局)
  • 自動車排出ガス測定局二酸化窒素 100%(8/8局)
    浮遊粒子状物質 100%(7/7局)
    一酸化炭素 100%(8/8局)
    微小粒子状物質 100%(1/1局)
  • 騒音
    環境騒音 89.2%(107/120地点)
    自動車騒音 79.3%(23/29地点)
    道路交通騒音面的評価 88.8%
    高速道路 100%(14/14地点)
    新幹線 38.4%(5/13地点)

第1項 大気汚染の防止

1 大気汚染状況の常時監視【環境保全課】

(1)大気汚染監視測定体制

 大気汚染の状況を正確に把握し、実態に即応した適切な大気汚染防止対策を進めるため、県内各地で、自動測定機による監視測定を行っています。(*注1)

ア 一般環境大気測定局(一般局)

 県内10市3町1村に21測定局(前橋市設置2局、高崎市設置4局分を含む)を設置し、二酸化硫黄、窒素酸化物、浮遊粒子状物質、オキシダントなどの測定を実施しています。

イ 自動車排出ガス測定局(自排局)

 自排局は、一般局と比較して自動車排出ガスの影響を調べるため、交通量の多い道路沿道に設置しています。現在、県内8市に8測定局(環境省設置1局、高崎市設置1局分を含む)を設置し、一酸化炭素、窒素酸化物、非メタン炭化水素、浮遊粒子状物質などの測定を実施しています。

ウ 移動観測車

 平成14年からは、移動観測車による随時の大気観測も行っています。火山活動など、固定局では調査できない緊急時の大気の汚染状況を調査することも出来ます。

(*注1)大気汚染監視結果の状況は、群馬県大気汚染情報ホームページにてお知らせしています。

(2)環境基準等

「環境基本法」により、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で、維持されることが望ましい基準として、大気の汚染に係る環境基準が定められており、そのうち、自動測定機による監視測定を行っている物質については表2-4-2-3のとおりです(表は省略)。

(3)一般環境大気測定局測定結果
ア 硫黄酸化物(*注2)

硫黄酸化物は、石炭、石油などの硫黄分を含む燃料を燃やすことに伴って発生します。二酸化硫黄と三酸化硫黄とがありますが、大部分は二酸化硫黄として排出されます。このため濃度の測定は二酸化硫黄で行い、環境基準も二酸化硫黄で設定されています。平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。図2-4-2-1の年平均値の経年変化を見ると、ゆるやかな低下傾向にあります(図は省略)。

イ 窒素酸化物(*注3)

窒素酸化物は、一酸化窒素と二酸化窒素の総称で、発生源は工場、事業場及び自動車などがあり、燃料の燃焼過程において空気中の窒素と酸素の反応により生ずるものと、燃料中の窒素が酸化されて生ずるものがあります。大部分は一酸化窒素の形で排出され、大気中で二酸化窒素に変化します。
窒素酸化物は、それ自体が有害であるばかりでなく、光化学オキシダントや酸性雨の原因物質でもあります。

a 二酸化窒素(*注4)

平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。また、二酸化窒素の年平均値の経年変化は図2-4-2-2のとおりで、ゆるやかな低下傾向にあります(図は省略)。

b 一酸化窒素(*注5)

一酸化窒素については、環境基準は定められていません。平成30年度の測定結果は、年平均値0.000~0.002パーツ・パー・ミリオン(平成29年度年平均値0.000~0.003パーツ・パー・ミリオン)の範囲となっています。

(*注2)硫黄酸化物:硫黄と酸素とが結合してできます。代表的なものとして二酸化硫黄(亜硫酸ガス)、三酸化硫黄(無水硫酸)などがあります。二酸化硫黄は刺激性の強いガスで、1~10パーツ・パー・ミリオン程度で呼吸機能に影響を及ぼします。主な発生源としては、自然界では火山ガス、一般環境ではボイラー等の重油の燃焼があります。一部は環境中で硫酸に変化し、酸性雨の原因にもなっています。
(*注3)窒素酸化物:窒素と酸素の反応によって生成する窒素酸化物は、一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素及び五酸化二窒素などが知られています。このうち大気汚染の原因になるのは一酸化窒素、二酸化窒素です。
(*注4)二酸化窒素:赤褐色の気体で毒性が強く、気管支炎やぜんそく、肺水腫の原因となるなど、呼吸器に影響を及ぼします。
(*注5)一酸化窒素:無色の気体で液化しにくく空気よりやや重く、空気または酸素に触れると赤褐色の二酸化窒素に変わります。血液中のヘモグロビンと結合し酸素供給能力を妨げ、中枢神経をマヒさせ貧血症をおこすことがあります。

ウ 浮遊粒子状物質(SPM)(*注6)

SPMは、大気中に浮遊する粒子状物質のうち粒径10マイクロメートル以下のものです。大気中に比較的長時間滞留し、私たちの健康に影響を与えるといわれています。
平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。SPMの年平均値の経年変化は図2-4-2-3のとおりで、低下傾向にあります(図は省略)。

エ 一酸化炭素(*注7)

一酸化炭素は、有機物の不完全燃焼により発生し、大気汚染の原因として問題となるのは、主に自動車の排出ガスですが、一般局でも前橋局で測定しています。
平成30年度の測定結果は、年平均値が0.1パーツ・パー・ミリオン(平成29年度年平均値0.2パーツ・パー・ミリオン)で、環境基準を達成しています。

オ 光化学オキシダント(*注8)

光化学オキシダントは、工場や自動車から直接排出されるものではなく、大気中に存在する様々な物質が化学反応して生成されます。こうした大気中で新たに生成される汚染物質を二次汚染物質といいます。
平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成していません。これは全国的にも同様であり、二次汚染物質による大気汚染対策が困難であることを顕著に示しています。夏季を中心にその濃度が著しく上昇し、光化学オキシダント注意報*9が発令される場合もあります。光化学オキシダントの年平均値の経年変化は図2-4-2-4のとおりで、横ばい傾向にあります。
近年では大陸からの移流の影響も指摘されており、広域的な問題になっています。
(*注6)浮遊粒子状物質(SPM):浮遊粉じんのうち粒径が10マイクロメートル以下の粒子をいいます。10マイクロメートル以下の粒子では気道、肺胞への付着率が高くなります。
(*注7)一酸化炭素:無味、無臭、無色、無刺激の空気より少し軽いガスで、有機物の不完全燃焼により発生します。大気汚染として問題となる大部分は、自動車の排出ガスによるものです。このガスを体内に吸入すると、血液(赤血球)中のヘモグロビンと結合し酸素供給能力を妨げ中枢神経をマヒさせ、貧血症をおこすことがあります。
(*注8)光化学オキシダント:自動車や工場・事業場から大気中に排出された窒素酸化物や炭化水素等が、太陽光線に含まれる紫外線を受けて化学反応をおこして生成されるオゾン、アルデヒド、パーオキシアセチルナイトレート等、酸化力の強い物質の総称です。その大部分がオゾンで、現在ではオゾン濃度を測定して光化学オキシダント濃度と見なしています。高濃度になると粘膜を刺激するため、目がチカチカしたり喉がいがらっぽく感じる等の健康被害が発生する恐れがあります。また、植物に対しても葉が枯れるなどの影響を及ぼすことがあります。大気中のオキシダント濃度は例年4月から9月の間に高濃度となることが多く、また、気象条件としては、日差しが強く、気温が高く、弱い風(群馬県の場合、南東風)が吹いているときに高濃度になりやすい傾向があります。
(*注9)光化学オキシダント注意報:大気中のオキシダント濃度が高濃度(0.120パーツ・パー・ミリオン以上)となり、気象条件等を考慮してその状態が継続すると判断される際に発令します。注意報発令時には健康被害を防止するため、屋外での激しい運動を控えるよう教育施設や関係機関に伝達して注意を促します。また、汚染状況をなるべく早期に改善させるため、オキシダント発生の原因となる汚染物質を大量に排出している工場・事業場に対して排出量を抑制するよう要請します。

カ 微小粒子状物質(PM2.5)(*注10)

平成21年度から新しく環境基準が設けられた項目です。県内では、平成23年度から前橋局で測定を開始し、順次測定機を増設し、県内10か所で測定を行っています。
PM2.5の年平均値の経年変化は図2-4-2-5のとおりです(図は省略)。
平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しました。
また、効果的にPM2.5対策を行うには、PM2.5の発生源を把握する必要があります。自動車排ガス、石油燃焼等の各種発生源からどのくらいの量のPM2.5が発生しているのかを明らかにするために、県では平成25年度からPM2.5成分分析を行っており、平成30年度は前橋局と吾妻局で測定を実施しました。
これまでに実施してきた、PM2.5の成分分析結果などからわかってきたことは、以下のとおりです。

  1. 一次生成粒子に比べ、二次生成粒子(*注11)の割合が大きい。
  2. 秋から冬にかけ、バイオマス燃焼による割合が大きくなる傾向がある。
  3. 有機炭素は四季を通して割合が高く、硫酸塩は春から夏にかけて、硝酸塩は秋から冬にかけてそれぞれ割合が増加する傾向がある。しかしながら、PM2.5の成分については、まだ不明な部分も多いため、さらに研究を重ね、PM2.5の削減対策に役立てていきたいと考えています。
キ 炭化水素(*注12)

環境基準は定められていませんが、光化学オキシダントの原因物質(メタンを除く)の一つであるため、その低減が必要となっています。

a 非メタン炭化水素

非メタン炭化水素の年平均値の経年変化は図2-4-2-6のとおりです(図は省略)。
非メタン炭化水素に係る光化学オキシダント生成防止のための指針には「午前6時から午前9時までの3時間平均値が0.20~0.31パーツ・パー・ミリオンC(*注13)の範囲」と定められています。
平成30年度の測定結果で、各測定局における3時間平均値が0.31パーツ・パー・ミリオンCを超えた日数は、0~18日でした。

b メタン

平成30年度の測定結果は、各測定局における年平均値が1.92~2.03パーツ・パー・ミリオンC(平成29年度年平均値1.94~2.02パーツ・パー・ミリオンC)の範囲でした。

(4)自動車排出ガス測定局測定結果

測定結果は、一般局と比べて大差はなく、県内で大気環境に及ぼす自動車の影響はそれほど大きくない状況です。

ア 窒素酸化物

a 二酸化窒素

平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。また、各測定局における年平均値は0.010~0.017パーツ・パー・ミリオン(平成29年度年平均値0.009~0.019パーツ・パー・ミリオン)の範囲となっています。

b 一酸化窒素

平成30年度の測定結果は、各測定局における年平均値が0.003~0.022パーツ・パー・ミリオン(平成29年度年平均値0.004~0.023パーツ・パー・ミリオン)の範囲でした。

イ 浮遊粒子状物質(SPM)

平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。また、各測定局における年平均値は0.011~0.020ミリグラム/立方メートル
(平成29年度年平均値0.011~0.018ミリグラム/立方メートル)の範囲となっています。

ウ 一酸化炭素

平成30年度の測定結果によると、全測定局で環境基準を達成しています。また、各測定局における年平均値は0.2~0.4パーツ・パー・ミリオン(平成29年度年平均値0.1~0.4パーツ・パー・ミリオン)の範囲となっています。

エ 炭化水素

a 非メタン炭化水素

平成30年度の測定結果は、各測定局における年平均値が0.10~0.18パーツ・パー・ミリオンC(平成29年度年平均値0.09~0.20パーツ・パー・ミリオンC)の範囲でした。
また、各測定局における3時間平均値が0.31パーツ・パー・ミリオンCを超えた日数は、0~31日でした。

b メタン

平成30年度の測定結果は、各測定局における年平均値が1.93~2.00パーツ・パー・ミリオンC(平成29年度年平均値1.92~2.05パーツ・パー・ミリオンC)の範囲でした。

オ 微小粒子状物質(PM2.5)

国設前橋局における年平均値は11.1マイクロメートル/立方メートル、日平均値の98%値は30.2マイクロメートル/立方メートルで環境基準を達成できました。
(*注10)微小粒子状物質(PM2.5):浮遊粒子状物質よりさらに細かく、粒径が2.5マイクロメートル以下の粒子です。粒子が細かいため、肺の奥深くまで入りやすく、肺ガンや呼吸器系への影響だけでなく、循環器系への影響も懸念されています。このため、類似項目の浮遊粒子状物質と比較して非常に厳しい環境基準値が設定されています。
(*注11)二次生成粒子:ボイラーや自動車などから直接大気中に排出された粒子状物質を「一次生成粒子」、大気中で原因物質から光化学反応などにより粒子化したものを「二次生成粒子」といいます。
(*注12)炭化水素:炭素と水素だけからなる有機化合物の総称です。石油、石油ガスの主成分であり、溶剤、塗料、医薬品及びプラスチック製品などの原料として使用されています。さらに自動車排出ガスにも含まれています。環境大気中のメタンを除いた炭化水素(非メタン炭化水素)は、窒素酸化物とともに光化学オキシダントの主原因物質のため、光化学オキシダント生成の防止のために濃度の指針が定められており、単位はパーツ・パー・ミリオンCで示します。

2 大気汚染による健康被害の防止対策【環境保全課】

(1)大気汚染緊急時対策

 「大気汚染防止法」では、大気の汚染が著しくなり人の健康又は生活環境に係る被害が生ずるおそれがある場合に、被害を防止するため、住民への周知、ばい煙排出者への排出量削減の協力要請等の措置を行うよう定められています。
 このため、光化学オキシダント等の濃度が高くなった際に「群馬県大気汚染緊急時対策実施要綱」に基づき、注意報の発令などの措置を行っています。
 平成30年度は、光化学オキシダントについて、注意報を3日発令しました。
 光化学オキシダント注意報の発令時には、その旨を関係機関に周知するとともに、

  1. 屋外での運動は避け、屋内運動に切り替える。
  2. 目やのどに刺激を感じた時は、洗眼、うがいなどをする。
  3. 症状が深刻な場合は医療機関に受診する。

等の対策をとるよう注意喚起しています。
 また、PM2.5については、平成25年2月に環境省から「注意喚起のための暫定的な指針」が示されました。
 県では、環境省の指針に基づき、「日平均値が70マイクロメートル/立方メートルを超えると見込まれるとき」に県民に向けて注意喚起を行うこととしています。
 なお、県内では、注意喚起を行った実績はありません。光化学オキシダントやPM2.5の注意報の発令・解除については、群馬県防災情報ツイッターでお知らせしています。(群馬県防災Twitter<外部リンク>

(2)微小粒子状物質注意喚起基準

 図2-4-2-7に示すように(図は省略)、県内を6区域に区分し、各区域内の測定局のうち1局でも判断基準に該当し、かつ日平均値が70マイクロメートル/立方メートルを超えると見込まれる場合に、その測定局が含まれる区域に対して注意喚起を行います。

【判断基準】次のいずれかの場合
  • 各測定局の午前5時、6時、7時の1時間値の平均値が85マイクロメートル/立方メートルを超過
  • 各測定局の午前5時から12時の1時間値の平均値が80マイクロメートル/立方メートルを超過

3 大気環境測定調査(有害大気汚染物質、酸性雨等)の実施と結果【環境保全課】

(1)有害大気汚染物質対策

低濃度でも継続的に摂取される場合には、人の健康を損なうおそれがある有害大気汚染物質については、その中でも健康リスクがある程度高いと考えられる優先取組物質のうち測定方法が確立されている21物質(ダイオキシン類については別途モニタリング調査を実施。)について、県内8地点(前橋市1地点、高崎市2地点、伊勢崎市、沼田市、渋川市、安中市、太田市)で調査を行いました。
測定結果は、環境基準が定められているベンゼン等4物質は全ての測定局で環境基準以下でした。また、指針値が定められているアクリロニトリル等9物質についても、全ての測定局で指針以下でした。

(2)酸性雨(*注14)・酸性霧

降水のpHなどを把握するため、平成元年度から前橋市郊外で酸性雨調査を実施しています。
平成30年度の降水について通年観測したところ、pHは4.9~6.2の範囲で、平均値は5.3でした。過去のpH年平均値の経年変化は図2-4-2-8のとおりで(図は省略)、近年はほぼ横ばい状態です。
また、山岳部に発生する酸性霧について、その性状を長期的に把握するため、衛生環境研究所が赤城山で酸性霧調査を実施しています。平成29年度は測定機器の故障により欠測となりましたが、経年変化は酸性雨と同様に、近年はほぼ横ばいの状態です。

(*注14)酸性雨:狭い意味ではpHが5.6以下の雨のことです。酸性雨は化石燃料等の燃焼によって生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中で硫酸や硝酸などに変化し、これらが雨(雲)に取り込まれることによって起こります。広く酸性雨という場合には、雨のほか酸性の霧やガスなどの地上への降下も含み、これらを酸性降下物と呼ぶ場合もあります。酸性雨が湖沼や森林に降り注いだ場合には生態系を破壊する可能性があり、都市部では建造物等が腐食してしまうなどの被害が考えられます。

4 工場・事業場への立入検査【環境保全課】

(1)法律・条例による規制
ア「大気汚染防止法」による規制

「大気汚染防止法」では、表2-4-2-7に示す施設(ばい煙発生施設、揮発性有機化合物排出施設、一般粉じん発生施設等)を対象として規制しています(表は省略)。このほかに、特定粉じん(アスベスト)についても規制していますが、これについては次節に記述します。
それぞれの施設ごとに、ばい煙発生施設及び揮発性有機化合物排出施設については排出基準が、一般粉じん発生施設については管理基準が定められています。

イ「群馬県の生活環境を保全する条例」による規制

「群馬県の生活環境を保全する条例」では、表2-4-2-8に示す施設(ばい煙特定施設、粉じん特定施設)を対象として規制しています(表は省略)。
それぞれの施設ごとに、ばい煙特定施設については排出基準が、粉じん特定施設については管理基準が定められています。

(2)ばい煙発生施設等の届出状況

ばい煙発生施設等の届出状況は、表2-4-2-9に示すとおりです(前橋市、高崎市、伊勢崎市、太田市が所管する届出件数を含む)(表は省略)。

(3)法令遵守状況の監視

「大気汚染防止法」又は「群馬県の生活環境を保全する条例」で規制対象となる施設を設置している工場・事業場に対して立入検査を実施しています。
平成30年度は、ばい煙発生施設等を設置する358(92)事業場(括弧内は前橋市、高崎市、伊勢崎市及び太田市実施分。以下同様。)に対して立入検査を実施し、施設の維持管理及び自主測定結果などについての確認・指導を行いました。
また、ばい煙等濃度の測定を30(17)事業場(各事業場につき1排出口)で行ったところ、1(0)事業場において排出基準超過がありました。この事業場については、対策を取るよう指導を行いました。

第2項 騒音・振動の防止

1 工事・事業場等の騒音振動対策【環境保全課】

「騒音規制法」及び「振動規制法」は、工場・事業場、建設作業から発生する騒音・振動を規制し、自動車騒音・振動に対する要請等を定めています。さらに、「群馬県の生活環境を保全する条例」においては、飲食店営業等から深夜発生する騒音や航空機による商業宣伝放送について規制しているほか、「騒音規制法」の規制対象外である3施設(コンクリートブロックマシン、製瓶機、ダイカストマシン)、「振動規制法」の規制対象外である5施設(圧延機械、送風機、シェイクアウトマシン、オシレイティングコンベア、ダイカストマシン)及び1作業(空気圧縮機を使用する作業)を規制対象としています。

(1)騒音・振動について規制する地域の指定

騒音・振動公害は、発生源の周辺地域に限られ、大気汚染や水質汚濁のように広域的に影響を及ぼすおそれがありません。そのため、生活実態のない地域について規制する必要がないことから、「騒音規制法」及び「振動規制法」では、保全する地域を指定し、この指定地域内にある工場・事業場等から発生する騒音・振動を規制しています。県では全町村について地域指定しています(ただし、全域ではありません。また、市域は各市において指定しています。)。

(2)工場・事業場等への指導

騒音・振動に係る事務は、市町村長の権限となっており(航空機による商業宣伝放送に係る事務を除く。)、「騒音規制法」、「振動規制法」及び「群馬県の生活環境を保全する条例」に基づく規制基準の遵守及び各種手続きの適正な実施は、市町村によって工場設置者及び事業者に対して指導されます。

(3)航空機による商業宣伝放送

平成30年度は50回実施がありました。宣伝内容は、自動車販売関係が100%を占め、1回あたりの実施時間は120分でした。

2 環境騒音の測定調査【環境保全課】

(1)環境騒音測定結果

現在、騒音に係る環境基準は等価騒音レベル(*注15)をもって評価しています。各市町村が平成30年度に行った環境騒音測定結果に基づく環境基準の達成状況は、表2-4-2-11に示すとおりです(表は省略)。
時間帯別では、夜間の環境基準達成率が低くなっています。

(*注15)等価騒音レベル:ある時間範囲について、変動する騒音レベルをエネルギー的に平均値として表したもの(単位はデシベル(dB)。)。

(2)自動車騒音測定結果
ア 一般道路

平成30年度は、県内主要道路沿線の29地点で、市町村により自動車騒音の測定が行われました。
環境基準の達成状況及び要請限度の超過状況は表2-4-2-12のとおりです。
測定地点のうち23地点(79%)が昼間及び夜間の時間帯で環境基準を達成しました。
また、自動車騒音の要請限度(公安委員会に対する要請及び道路管理者に意見を述べる際に自動車騒音の大きさを判定する基準)を超える地点はありませんでした。

イ 高速道路

高速道路沿線地域の騒音の状況を把握するため、沿線市町村により自動車騒音測定が行われました。なお、北関東自動車道沿線での測定はありませんでした。

(3)新幹線鉄道騒音・振動

上越新幹線、北陸新幹線における沿線地域の騒音・振動の状況を把握するため、新幹線騒音・振動測定を行いましたが、結果は次のとおりです。

ア 上越新幹線

平成30年度に実施した新幹線鉄道騒音・振動の調査結果及び新幹線鉄道騒音の環境基準達成状況については、表2-4-2-14に示すとおりでした(表は省略)。なお、測定結果にある25メートル、50メートルとの表示は、それぞれ、上下線中心線から測定地点までの距離を表しています。
それによると、線路に近い25メートル地点における半数以上の測定地点で新幹線鉄道騒音に係る環境基準を超過していました。
また、振動については、環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策に示されている勧告指針値(70dB)を各測定地点とも下回っていました。

イ 北陸新幹線

平成30年度に実施した新幹線鉄道騒音の調査結果及び新幹線鉄道騒音の環境基準達成状況については、表2-4-2-15に示すとおりでした(表は省略)。
それによると、線路に近い25メートル地点で新幹線鉄道騒音に係る環境基準を超過している地点がありました。また、振動については、環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策に示されている勧告指針値(70dB)を各測定地点とも下回っていました。

(4)道路交通騒音の測定評価

道路交通騒音面的評価は、県内全域の主要な道路に面する地域における自動車騒音について、原則5年間(最長10年間)で測定評価を行い、自動車騒音の環境基準達成状況を調査しています。
平成30年度に群馬県及び県内12市が道路交通騒音面的評価を行いましたが、結果は表2-4-2-16のとおりです(表は省略)。
県では、これまでの路線に加え邑楽町における2路線で行いましたが、結果は表2-4-2-17のとおりです。この評価は、環境省から示されている「自動車騒音常時監視マニュアル」に基づき実施したものです。
なお、達成率は、道路端から両側50メートルの範囲内にある住居等について推計した騒音レベルを基に、その範囲内の住居総戸数のうち環境基準を達成している数の割合を算出した結果です。

(5)防音対策の要望

測定調査等の結果を踏まえ、平成30年度には次の要望を行いました。

ア 高速自動車道沿線騒音対策要望

各高速自動車道における環境基準の達成及びその維持については、県内の沿線市町村から遮音壁設置要望をまとめ、東日本高速道路(株)の高崎管理事務所に対して要望を行いました(平成30年8月)。
また、平成30年11月には関係県で構成する「東北・上越・北陸新幹線、高速自動車道公害対策10県協議会」を通じて同社に要望を行いました。

イ 新幹線騒音対策要望

上越・北陸新幹線における環境基準の達成及びその維持については、平成30年11月、前述した「東北・上越・北陸新幹線、高速自動車道公害対策10県協議会」を通じて東日本旅客鉄道(株)本社及び(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構に要望を行いました。
また、測定の結果、環境基準未達成地域があることから、平成31年3月に東日本旅客鉄道(株)高崎支社に発生源から出る騒音の防止対策をより一層強化するよう強く要望しました。

3 騒音・振動の業務を行う市町村に対する支援【環境保全課】

「騒音規制法」及び「振動規制法」を運用する上で必須となる騒音・振動の測定に係る知識の習得のため、市町村職員を対象に、平成24年度から「騒音・振動市町村担当者研修」を開催しています。
さらに、平成27年度に、「騒音規制法」、「振動規制法」及び「群馬県の生活環境を保全する条例」における地域指定の権限を市に移譲し、市町村が運用しやすい法制度の整備を図りました。今後も市町村の実情を十分に考慮しながら、市町村が行う騒音・振動の業務を支援していきます。

4 騒音・振動防止のための路面改善の促進【道路管理課】

沿道に住居が連担している地域で、通行車両による騒音レベルが3年連続して環境基準を超えている箇所に、低騒音舗装を施工し、騒音の低減を図ります。
通常のアスファルト舗装が空隙率4%程度であるのに対し、低騒音舗装では空隙率が20%前後の排水性舗装(*注16)を使用することで、自動車騒音が吸収され、騒音レベルが3dB程度低下します。
本事業は平成10年度から実施しており、施工実績は表2-4-2-18のとおりです(表は省略)。
(*注16)排水性舗装:骨材の粒度の粗い特殊な舗装で、排水性に優れ、車両の騒音低減効果もあります。

第3項 悪臭の防止

1 悪臭防止法の管理運営【環境保全課】

「悪臭防止法」は、事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行うことによって、生活環境を保全し、県民の健康を保護することが目的です。規制の方法は次の2種類があり、いずれかにより悪臭の排出等が規制されています。それぞれの規制値は、地域の実情を考慮して地域ごとに定められています。

規制の方法

ア 物質濃度規制(アンモニア(*注17)等の特定の22物質を対象とした排出濃度規制)
イ 臭気指数規制(人間の嗅覚に関知される悪臭の程度に関する値である臭気指数による規制)
悪臭に関する苦情は、物質濃度規制では解決できない事例も多い状況でした。
そのため、県では県内全市町村で複合臭(*注18)や未規制物質にも対応できる臭気指数による規制を行うことを基本方針に、市町村と調整を行ってきました。
平成31年3月31日現在、長野原町を除く12市14町8村全域が臭気指数規制地域として指定されています。
今後とも、県内全市町村、全区域への臭気指数規制導入を目指し、調整を行っていきます。

2 悪臭の業務を行う市町村に対する支援【環境保全課】

臭気指数規制を導入した際に必要となる実務知識の習得のため、市町村職員を対象に、平成16年度から「嗅覚測定法研修会」を開催するなど、実際に規制の運用にあたる市町村の支援に努めています。
さらに、規制地域内の事業者に対しては、説明会の実施等によって制度の普及啓発に努めるとともに、今後も地域の実情を十分に考慮しながら、悪臭防止対策を推進していきます。

3 畜産公害防止対策の推進【畜産課】

畜産経営に関する公害苦情の発生状況(平成29年7月1日~平成30年6月30日)は、表2-4-2-19に示すとおりでした。県内の畜産経営に関する苦情の約6割が悪臭関連であり、畜産業の健全な発展のためには悪臭防止対策が重要です。

(1)臭気対策

ア 家畜排せつ物臭気対策モデル事業(平成21年度~25年度)
本県で開発した脱臭装置を平成21年度に11か所設置し、平成25年度まで実証データを収集し、その効果を確認するとともに、地域と調和した畜産経営を確立するため、普及を図ってきました。
イ 家畜排せつ物臭気対策事業(平成22年度~24年度)
本県で開発した脱臭装置等の導入費を補助し、畜産臭気の問題を抱えている地域の生活環境を改善する事業を平成22年度から開始し、平成22年度には利根沼田地域に脱臭装置を2か所設置しました。また、平成24年度には中部地域に脱臭装置を2か所と常緑樹の生垣を1か所設置しました。
ウ 畜産経営環境周辺整備支援事業(平成25年度~30年度)
平成25年度には「水質汚濁防止法」の硝酸性窒素等及び窒素・りんの暫定排水基準の改正に対応するため、事業を拡充し、高度処理装置等の追加設置に対する排水処理対策メニューを追加しました。また、平成26年度は中部地域で臭気対策耐久資材1か所、排水処理施設1か所の整備を実施しました。さらに平成27年度は中部地域で脱臭装置1か所、排水処理施設1か所、西部地域で臭気対策耐久資材1か所、吾妻地域で排水対策1か所の事業を実施しました。平成28年度については、中部地域で臭気対策耐久資材等1か所、高度処理装置1か所、吾妻地域で排水対策1か所の事業を実施しました。平成29年度は、中部地域及び吾妻地域で高度処理装置等2か所の事業を実施しました。平成30年度は、中部地域において、高度処理装置3か所の事業を実施しました。

(2)畜産環境保全
ア バイオマス利活用推進(平成18年度~)

地域の環境保全を図るため、畜産に関する苦情の実態調査及び巡回指導等を実施しました。
また、堆肥流通を促進するため、堆肥施用による実証展示ほを3地域・4か所に設置し、地域の特徴を活かした資源循環型農業の推進を図りました。
「悪臭防止法」や「水質汚濁防止法」に対応するため、臭気指数測定や尿汚水浄化処理施設維持管理の研修会を開催するとともに、環境保全に対する意識向上を図るための冊子を作成・配布しました。
(*注17)アンモニア:刺激臭のある無色の気体で、圧縮することによって常温でも簡単に液化します。畜産、鶏糞乾燥、し尿処理場などが主な発生源で、粘膜刺激、呼吸器刺激などの作用があります。し尿のような臭いがします。
(*注18)複合臭:複数の原因物質が混ざり合うことによって、様々な相互作用が起こります。例えば、別々に嗅ぐとそれほど強く感じない臭いでも、混ぜて嗅ぐと強く感じることがあります。このような相互作用が複雑に絡み合って、1つの臭いが作り出されます(例:香水)。人間の嗅覚は、このような相互作用を全て加味して、総合的に臭いを感じ取っています。

4 畜舎臭気低減技術の開発【畜産試験場】

(1)畜舎臭気の特徴

畜舎臭気の主な原因は、家畜が排せつするふん尿です。家畜によって餌や消化生理が異なるため、発生する臭気も異なります。牛ふんの主な臭気はアンモニアですが、豚ぷんではプロピオン酸、酪酸、吉草酸などの低級脂肪酸も発生します。鶏ふんではアンモニア以外にアミン類も発生します。
臭気成分のうち、アンモニアは百万分の1の濃度(パーツ・パー・ミリオン)で悪臭として感じます。一方、低級脂肪酸では十億分の1(ppb)でも悪臭として感じるため、臭気を低減させるのは大変難しくなります。また、畜舎のほとんどは開放型となっているため、畜舎全面から臭気が拡散します。加えて、臭気の発生や広がり方は気象条件によっても異なるため、対策は更に難しくなります。
畜産試験場では、こうした畜産臭気への対策として、低コストな臭気低減技術及び装置について検討していますので、その概要について紹介します。

(2)軽石脱臭装置

家畜ふんを堆肥化処理する時には、アンモニア主体の臭気が発生します。こうした臭気を脱臭するため、軽石を用いた脱臭装置を開発しました。
本装置は、堆肥化処理施設で発生した高濃度臭気を軽石を充填した脱臭槽に送り込み、アンモニアを捕集するとともに、軽石に定着させた硝化細菌により亜硝酸や硝酸に変化させることで、継続的な脱臭を行います。この装置を用いて、アンモニア濃度400パーツ・パー・ミリオン以下の臭気を90%以上除去できます。

(3)モミガラを利用した低コスト脱臭装置の開発

前述の軽石脱臭装置は、比較的大規模の畜産農家を対象としており、施設の設置・運転には費用がかかります。そこで、中小規模の畜産農家でも導入しやすい低コストな脱臭装置が必要になります。
当場では、脱臭槽に充填する資材として安価で手に入りやすいモミガラを利用し、モミガラに定着させた微生物により脱臭を行う装置の開発に取り組みました。
小規模試験では、堆肥化処理施設から発生する平均20パーツ・パー・ミリオン程度のアンモニアを70%以上除去することができました。しかし、冬季には微生物活性の低下により、脱臭能力が低下するので、保温対策が必要でした。
また、畜舎において悪臭が発生しやすい場所であるバーンクリーナー(畜舎内の家畜ふんを集めトラックまで搬出する装置)の搬出部に本装置を設置し、脱臭効果があることを確認しました。

(4)ネットによる畜舎臭気低減技術の開発

密閉できる堆肥化処理施設や畜舎の臭気は、前述のような微生物脱臭装置を利用することで対応できますが、開放型の畜舎や堆肥舎では、微生物脱臭装置による脱臭は困難です。
そこで、当場では、開放型の畜舎や堆肥舎に親水加工した化学繊維のネットを設置し、クエン酸水溶液を浸潤させることにより、ネット通過後のアンモニア臭気を低減させる化学脱臭装置の開発に取り組んでいます。
これまで、小規模試験と場内の堆肥舎での試験を行うとともに牛農家について脱臭効果の確認を行いました。
今後は豚や鶏農家での現地実証試験を実施して、季節・気候による効果の違いや運転管理方法及びネットの耐久性等の確認を行い、安定した脱臭が可能な装置の開発を目指します。

(5)三県連携による「畜産臭気対策マニュアル」の発行

三県(群馬・新潟・埼玉)で連携して畜産における解決すべき重要な研究課題を整理し、畜産臭気への対策技術について検討しました。その成果として、畜産臭気の発生メカニズムや特徴並びに三県におけるこれまでの研究成果などを取りまとめた「畜産臭気対策マニュアル」を発行しました。
マニュアルを関係機関に配布して活用を図るとともに、三県が技術連携し、地域の実情に即した臭気対策技術の普及推進を図ります。

第3節 有害化学物質による環境リスクの低減

環境基準達成率

ダイオキシン類 大気 100.0%(17/17地点)
公共用水域(水質)100.0%(18/18地点)
公共用水域(底質)100.0%(15/15地点)
地下水質 100.0%(10/10地点)
土壌 100.0%(5/5地点)

第1項 有害化学物質対策

1 ダイオキシン類対策【環境保全課】

(1)ダイオキシン類の現状

「ダイオキシン類対策特別措置法(*注1)」では、ダイオキシン類をポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(*注2)(コプラナーPCB)の総称と定義しています。
ダイオキシン類は、意図的に製造する物質ではなく、焼却の過程等で発生する副生成物です。環境中に広く存在していますが、その量は非常にわずかです。
私たちは、1日平均で体重1キログラム当たり約0.66ピコグラム−TEQ(*注3)のダイオキシン類を摂取していると推定されており、その大部分は食品経由といわれています(*注4)。この水準はダイオキシン類の耐容一日摂取量(TDI(*注5))(体重1キログラム当たり4ピコグラム)を下回っているため、健康への影響はないと考えられます。
1ピコグラムは、1兆分の1グラムに相当します。例えば、東京ドームを水でいっぱいにして角砂糖1個(1グラム)を溶かしたとき、その水1ミリリットルに含まれている砂糖の量がおよそ1ピコグラムです。
「ダイオキシン類対策特別措置法」に基づく規制の結果、ダイオキシン類の排出量は着実に減少しています。国内の事業場からの総排出量(平成29年)は、平成9年比で約99%削減され(*注6)、環境基準の達成状況も非常に高い状態が継続しています。
県では、ダイオキシン類による汚染を防止し、環境リスクの低減を図り、安全な生活環境を確保するため、国が推進する対策等を勘案しながら1発生源対策、2ごみ減量化・リサイクル、3環境実態調査を総合的に推進しています。

(2)環境中のダイオキシン類調査結果

 「ダイオキシン類対策特別措置法」により、大気、水質(地下水にも適用)、水底の底質及び土壌の環境基準が定められています。
平成30年度の県内の調査結果は表2-4-3-1のとおりです(表は省略)。全ての地点で環境基準未満でした。

(3)「ダイオキシン類対策特別措置法」の届出状況・立入検査

 平成31年3月末日現在、本県における本法に基づく届出状況は表2-4-3-2のとおりです(表は省略)。大気基準適用施設では、全体の約9割を廃棄物焼却炉が占めています。
 県では、対象施設が適法に運用されていることを確認するため、随時、立入検査を実施しています。平成30年度は大気基準適用70施設・水質基準対象15施設に立入検査を行い、その結果、2施設に対して口頭で改善指示を行いました。(前橋市、高崎市実施分を含む。)

(4)施設設置者による測定結果

 施設設置者は、排出ガス、排出水及び燃え殻等のダイオキシン類による汚染状況について、年1回以上測定を行い、結果を県に報告することが義務付けられています。平成30年度分の報告状況は表2-4-3-2のとおりです。未報告の施設については、速やかに報告するよう指導しています。なお、県では県に報告された測定結果をホームページで公表しています。

(*注1)ダイオキシン類対策特別措置法:平成11年7月12日制定、同年7月16日公布、平成12年1月15日より施行されました。
(*注2)コプラナーPCB(コプラナーポリ塩化ビフェニル):ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)と類似した生理作用を示す一群のPCB類です。「ダイオキシン類対策特別措置法」でいうダイオキシン類に含まれます。
(*注3)TEQ(毒性等量Toxicity Equivalency Quantityの略):ダイオキシン類の中で最も毒性が強い2,3,7,8−TCDDの毒性を1とし換算した毒性等価係数(TEQ)を用いて毒性を評価するためのものです。
(*注4)出典:令和元年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境省)
(*注5)TDI(耐容一日摂取量 Tolerable Daily Intakeの略):人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日あたりの摂取量であり、世界保健機構(WHO)や各国において科学的知見に基づいて設定されています。
(*注6)出典:ダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)平成31年3月(環境省)

2 アスベスト対策【環境保全課、保健予防課】

アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維であり、熱や摩耗に強く、酸やアルカリにも侵されにくいという特性と経済的に安価であったことから、高度経済成長期をピークとして建築材料や工業製品などに幅広く大量に使用されてきました。
しかし、アスベストの極めて微細な繊維を吸い込むことにより、人体に深刻な影響を与えることが確認されました。石綿に係る法規制は昭和35年に制定された「じん肺法」から始まり、昭和46年に「労働基準法特定化学物質等障害予防規則」が制定され、これ以降関係法令が段階的に強化されました。平成18年には「労働安全衛生法施行令」の改正により、アスベスト含有率0.1重量%超の製品の製造・使用・譲渡等が原則禁止されました。
なお、平成26年6月には、「大気汚染防止法」及び「石綿障害予防規則」が改正され、解体工事等を施工する際、事前調査を行うことが義務化されました。
また、平成18年3月には、国においてアスベストを原因とする健康被害者に対する救済制度が創設されました。アスベストを原因とする健康被害については、アスベストを吸い込んでから自覚症状等をきっかけとして発見されるまでの期間が非常に長いため(例:中皮腫では20から50年)、今後も長期的な視野に立って被害者の早期発見及び救済を図っていくことが必要です。

(1)県の対応

県は、関係課や地域機関において、県民等からのアスベストに関する相談や質問に対応するとともに、国が創設した健康被害者に対する救済制度の申請受付を行っています。
また、解体事業者におけるアスベストの飛散防止対策を徹底するために、平成29年度から特定粉じん排出等作業現場以外の解体現場の立入検査を強化しています。さらに、解体事業者の会社事務所も訪問し、法令事項の遵守について指導・啓発を行っています。平成29年度の解体現場立入検査件数及び会社事務所訪問件数は表2-4-3-3のとおりです(表は省略)。

(2)県内の特定粉じん排出等作業

吹付けアスベスト等飛散性アスベストが使用された建築物等を解体・改造・補修する場合は、事前に「大気汚染防止法」上の特定粉じん排出等作業届出の必要があります。県では、この届出のあった全ての現場に立ち入り、飛散防止対策が適正に行われているかを認しています。
なお、平成30年度は85件の届出がありました(前橋市及び高崎市への届出27件分を含む)。

(3)大気中のアスベスト濃度

県内の大気環境中のアスベスト調査に係る総繊維数濃度について一般環境2地点で測定を行った結果は、表2-4-3-4のとおりでした(表は省略)。どちらの地点も1本/Lを下回っていました(*注7)

3 食品の安全確保【食品・生活衛生課】

食品の中には、食物連鎖を通じて蓄積されたもの、環境に由来して食品に残留したもの、本来その食品を組成するもの等、様々な化学物質などが含まれる可能性があります。
こうした化学物質などの中には、一定量を超えて摂取し続けると人の健康に危害をもたらすものがあり、これを防ぐために、「食品衛生法」により様々な基準が設けられています。

(1)流通食品の安全検査の実施

県内で販売・消費されている食品の検査を実施することにより安全の確認を行い、検査結果は速やかに情報提供しています。平成30年度は放射性物質検査78検体、重金属検査50検体、計128検体の検査を実施し、すべての検体で「食品衛生法」の基準に違反するものではありませんでした。

(*注7)本調査は、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.1版)」に基づいて行われており、総繊維数濃度が1本/リットルを超過した場合は、電子顕微鏡で物質を同定し、アスベスト繊維数濃度を求めることとされています。
(*注8)特定粉じん発生施設を設置する工場・事業場の敷地境界基準として石綿濃度10本リットルが定められています。

4 シックハウス対策【住宅政策課】

新築やリフォームした住宅に居住する人の化学物質過敏症がシックハウス症候群として社会問題化したことから、平成14年7月に「建築基準法」が改正されました。これに伴い、下記資材の使用制限等が義務付けられ、新築や増築する建物はこれに対応しています。

  1. クロルピリホス(シロアリ駆除剤)使用禁止
  2. ホルムアルデヒド(建材等接着剤)使用制限
  3. 24時間換気設備の設置

また、厚生労働省により屋内汚染物質として、ホルムアルデヒドを含む13種の揮発性有機化合物の室内濃度指針値が個別に設定されています。
改正法施行後10年以上が経過し、ホルムアルデヒドの使用制限等は着実に進んでいますが、24時間換気設備の有効性は継続して情報提供していく必要があります。
県では、群馬県住宅供給公社内の「ぐんま住まいの相談センター」において、シックハウス対策を周知するとともに、屋内の化学物質を測定・分析する機関を案内しています。

第2項 有害化学物質の適正管理の推進

1 化管法に基づく情報の収集・公開【環境保全課】

(1)PRTR制度の背景

 現在の私たちの生活は、多種多様な化学物質を利用することで成り立っています。
 それら化学物質は、人や生態系に悪影響を及ぼすおそれがありますが、一つ一つの物質に個別の基準を設け、規制するには限界があります。そのため、平成11年に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(*注9)」が公布され、PRTR制度が導入されました。

(2)PRTR制度の目的と特徴

 PRTR制度の主な目的は、次の2点とされています。

  • 事業者による化学物質の「自主的な管理」の改善を促進する。
  • 環境保全上の支障を未然に防止する。

 この制度は、従来からの手法である「規制」は最低限とし、あくまで事業者の「自主的」な取組によって化学物質による環境リスクの低減を図る点が特徴となっています。

(3)PRTR制度の仕組み

 対象となる化学物質を製造又は使用等している事業者は、大気、公共用水域、土壌及び事業所内埋立など環境中に排出した化学物質の量と廃棄物として処理するために事業所外へ移動させた化学物質の量を自ら把握し、県(高崎市内の事業者にあっては高崎市)を経由して国に毎年届け出ます。
 国は事業所からの届出データを整理・集計するほか、届出要件に該当しない事業者や届出対象となっていない家庭や農地、自動車などから排出されている対象化学物質の量を推計し、両データを併せて公表します。これらのデータを利用して、県民、事業者、行政が化学物質の排出の現状や対策の内容、進み具合について話し合いながら、協力して化学物質対策を進めていくことが期待されます。
 なお、公表されたデータは、次のホームページから入手することができます。
[環境省] PRTRインフォメーション広場<外部リンク>
[経済産業省] 化学物質排出把握管理促進法<外部リンク>

(4)排出量・移動量の集計結果

平成31年3月に平成29年度分の排出量等のデータが、国から公表されました。

ア 届出データ

a 届出事業所数

県内の届出事業所数は、前年度より4件少ない778件となり、全国34,253件の約2.3%を占めています。そのうち約45%をガソリンスタンド等の燃料小売業が占めていました。(全国と同傾向)

b 届出排出量・移動量

県内の届出排出量は約4.2千トンで、全国の約2.7%を占め、排出量順で16番目でした。
県内の大気への排出量及び公共用水域への排出量の推移は図2-4-3-1に、平成29年度の全国及び県内の排出量・移動量は、表2-4-3-5に示すとおりです(図、表は省略)。大気への排出量の割合が高く、群馬県の場合は排出量全体の約99%を占めています。排出量の多い物質は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン*10の順となっています。

イ 届出外(推計)排出量データ

県内の届出外排出量は、届出排出量の約1.5倍となっています。

また、届出外排出物質の上位3物質は、クロロピクリン(*注11)、トルエン、キシレンの順となっています。

PRTR制度により得られたデータは県が行う化学物質調査の基礎資料として活用されています。また、リスクコミュニケーションへの活用も図っていきます。
(*注9)特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律:平成11年7月13日公布、平成12年3月30日より施行されました。「化学物質排出把握管理促進法」または「化管法」などと略されます。
(*注10)トルエン、キシレン、エチルベンゼン:いずれも人や生態系に悪影響を及ぼすおそれがある物質で、溶剤・洗浄剤などに用いられています。
(*注11)クロロピクリン:農薬(土壌消毒剤)の成分です。目や皮膚を刺激するほか、のどや呼吸器を侵し、吐き気や咳を生じます。

(5)化学物質大気環境調査

PRTR制度による届出データの集計結果に基づき、環境への影響を調査するため、化学物質排出量の多かった地域で夏季及び冬季の年2回、大気環境調査を行いました。調査対象は、排出量の上位5物質(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン)で、平成30年度の調査結果(年2回の調査結果における平均値)は表2-4-3-7のとおりです(表は省略)。
調査したすべての地点において、環境基準又は室内濃度指針値を超過する濃度は検出されませんでした。

2 リスクコミュニケーションの推進【環境保全課】

(1)リスクコミュニケーションとは

 現代社会においては、事業活動等に伴って様々なリスクが発生します。例えば、化学物質を使用する場合、その化学物質が環境中へ排出されることで生態系や私たちの健康に悪影響を与える可能性(リスク)が発生します。このようなリスクのことを特に「環境リスク」といいます。このリスクを地域全体で減らすためには、住民・事業者・行政が情報を共有し、取組を進めることが重要です。このように、様々な立場から意見交換を行い、意思疎通と相互理解を図りながら環境リスクを減らすための取組を「リスクコミュニケーション」といいます。

(2)県の取組

 リスクコミュニケーション推進の一環として、県では、平成30年度は、県民向け講座である「ぐんま環境学校(エコカレッジ)」において、PRTR制度及びリスクコミュニケーションに関する説明を行いました。リスクコミュニケーションの普及を目指し、今後も啓発を継続していきます。

リスクコミュニケーションに関する情報は、次のホームページから入手することができます。
[群馬県]「リスクコミュニケーションについて
[環境省]化学物質などの環境リスクについて学び、調べ、参加する<外部リンク>
[経済産業省]リスクコミュニケーション<外部リンク>
[独立行政法人 製品評価技術基盤機構]化学物質のリスクコミュニケーション<外部リンク>

第4節 放射性物質への対応

モニタリングポストにおける空間放射線量率
0.23マイクロシーベルト/時間(*注1)/時間未満(25/25地点)
栽培きのこ類のモニタリング検査数 1774検体

第1項 中長期的な視点での環境監視の実施

1 空間放射線量率の測定実施【環境保全課】

(1)モニタリングポストによる監視

県では、文部科学省(平成25年度からは原子力規制委員会)の委託事業である、「環境放射能水準調査」の一環として、放射性物質の飛来状況を監視するため、平成2年度から衛生環境研究所の屋上(地上21.8メートル)に空間放射線量測定器(モニタリングポスト)を設置し、継続して測定を行っています。
平成23年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により、衛生環境研究所(前橋市上沖町)では一時的に空間線量の上昇が認められましたが(平成23年3月15日13時~14時:0.562マイクロシーベルト/時間)、その後減少し、現在の同地点の空間放射線量率は0.02マイクロシーベルト/時間程度と事故前の平常値の範囲内で安定して推移しています。
平成24年度からは、さらに24基のモニタリングポスト(地上1メートル)を追加した、25基で県内全域を常時監視しています。
平成30年度の県内の状況(地上1メートル)は、0.013~0.09マイクロシーベルト/時間の範囲で推移しています。
なお、この水準調査ではこのほかに、浮遊じん、上水(蛇口水)(*注2)、降下物、土壌、精米、野菜類、牛乳の放射性物質濃度についても調査を行っています。

(2)サーベイメータ等による測定

モニタリングポストによる監視とは別に、「県・市町村放射線対策会議」(後述)では、「県及び市町村による全県的な放射線監視」として、携行型の空間放射線量測定器(サーベイメータ)等により、定期的に生活圏を中心に空間放射線量を測定し、結果を公表しています。
平成30年度は5月と11月に県内443地点で測定を実施し、全地点で空間放射線量率は問題のないレベルで安定していることが確認されました。
(*注1)Sv:シーベルト。人体が受けた放射線による影響の度合いを表す単位。
(*注2)上水(蛇口水):水道水のこと

2 汚染状況重点調査地域【環境保全課】

東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故により大気中に放出された放射性物質が降下・沈着し、平均的な空間放射線量率が0.23μSv/h以上である地域については、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(放射性物質汚染対処特別措置法)に基づき、国が市町村ごとに汚染状況重点調査地域として指定することとされています。県内では平成23年12月28日付けで、桐生市、沼田市、渋川市、安中市、みどり市、下仁田町、中之条町、高山村、東吾妻町、片品村、川場村、みなかみ町の12市町村が指定を受けました。
その後の詳細調査の結果、片品村とみなかみ町については、空間放射線量率が低いことが確認され、平成24年12月27日付けで指定が解除されました。
汚染状況重点調査地域に指定された10市町村のうち9市町村(*注3)で除染実施計画が策定され、除染作業が実施されました。除染は、学校や公園等の子ども空間から優先的に実施され、順次、住宅、公園・スポーツ施設、道路、農地等について実施されました。
平成27年11月19日、除染実施計画を策定した全市町村が除染を完了し、群馬県内での法律に基づく除染作業は終了しました。

3 水道水中の放射性物質検査【食品・生活衛生課、環境保全課、(企)水道課】

(1)上水(蛇口水)の監視

「環境放射能水準調査」の一環として年1回測定を行っています。平成30年度の測定結果は、ヨウ素131は0.0045ベクレル/キログラム(*注4)/L未満、セシウム134は0.00037ベクレル/キログラム/リットル未満、セシウム137は0.00099ベクレル/キログラム/リットルでした。
原子力発電所事故発生直後は、モニタリング強化として毎日1回測定を行う体制となりました。しかし、概ね平成23年4月下旬を最後に放射性ヨウ素及び放射性セシウムの不検出が続いたため、文部科学省(当時)の方針変更を受けて、平成24年1月からは3か月分の水道水を濃縮し、精度を100倍に高めた測定を行う体制へと移行しました。
その後、検出量が減少傾向になったため、平成28年度からは通常のモニタリング体制に戻っています。

(2)県内の水道水中の放射性物質検査の実施

県内の水道水は、厚生労働省が示している「今後の水道水中の放射性物質のモニタリング方針について」に基づき、各水道事業者(市町村等)が定期に実施しているほか、県食品安全検査センターにおいて、同所の水道水について毎週1回の頻度で検査を実施しています。平成23年3月の原子力発電所事故発生以降、継続して検査を実施していますが、平成23年6月3日に検出されたのを最後に、放射性物質は検出されていません。

(3)県営水道の監視体制

企業局は水道用水供給事業者として4つの県営水道を運営しており、市町村等の経営する水道事業を通じて、県内の約160万人に水道水を供給しています。
安全な水を供給するという事業者としての責務から、水質検査センター(太田市新田反町町)において、県営水道の浄水場ごとに、放射性ヨウ素、放射性セシウムについて検査し、結果を公表しています。
平成30年度は月1回検査し、放射性物質は検出されませんでした。
(*注3)安中市は、指定後の詳細調査の結果、面的除染が必要な区域は確認されていません。
(*注4)Bq:ベクレル。放射性物質が放射線を出す能力を表す単位。1秒間に崩壊する原子核の数を表します。

4 流通食品の放射性物質検査【食品・生活衛生課】

県内に流通する食品の安全性を確認するために、放射性物質の検査を実施し、結果を速やかに情報提供しています。
平成30年度は計78検体の検査を実施し、すべての検体で基準値を下回っていました。

5 野生鳥獣肉の放射性物質検査【自然環境課】

県内各地で捕獲された野生鳥獣肉については、環境調査及び食肉利用の面から検査を実施しています。なお、クマ、イノシシ、シカ及びヤマドリについては、原子力対策本部長から県内全域を対象として出荷制限の指示を受けています。平成30年度は、88検体の検査をおこない、うち22検体で基準値超過がありました。
検査結果については、県のホームページで公開しています。

6 きのこの放射性物質検査【林業振興課】

県では、栽培されているきのこ類については、毎週定期的にモニタリング検査を行い安全性を確認することとし、平成31年3月末までに1,774件実施しました。
なお、平成24年度以降は基準値を超える栽培きのこ類はありません。

7 農産物の放射性物質検査【技術支援課】

県内で生産されている農産物は、定期的に放射性物質検査を行い、安全性を確認しています。
県内では、平成23年3月にホウレンソウ及びカキナが暫定規制値を超えたため、出荷制限の対象となりましたが、その後の検査によって安全性が確認され、平成23年4月に出荷制限が解除されました。
また、平成23年6月の検査で暫定規制値を超えたため、出荷制限の対象となった茶は、平成24年5月に一部の地域、平成25年6月全ての地域で出荷制限が解除されました。

8 農地土壌等の放射性物質の調査【農政課】

県産農畜産物の安全性を確保し、生産者が安心して営農に取り組めるよう、平成23年4月から県内の農地土壌を対象とした放射性物質にかかる土壌調査に取り組んでいます。

モニタリング定点調査

モニタリング定点調査では、県内の農地土壌における放射性セシウム濃度の平成23年度以降の推移を把握するため、平成24年度から継続的な土壌調査を実施しています。平成27年度は、県内88地点で調査を実施したところ、各地点の濃度は乾土1kg当たり10~660ベクレルの範囲で、平均すると乾土1kg当たり139ベクレルでした。
平成27年度調査時の各地点の放射性セシウム濃度は、約4年半前と比較して平均46%に減少していました。このことは放射性セシウムの崩壊による物理的減衰(約59%)以上に減少したことを示しています。その理由については、同一ほ場内のばらつきのほかに、風雨によるほ場からの流亡・流入などの自然要因や、ほ場管理の違いなど人為的要因の差による可能性が考えられます。本調査は、平成27年度までは毎年実施してきましたが、それ以降は、5年ごとに実施する予定であり、次回は令和2年度に調査予定です。
なお、モニタリング定点調査の結果は、県のホームページで公開しています。

9 流域下水道脱水汚泥の放射性物質検査【下水環境課】

福島第一原子力発電所の事故に起因し、県内の流域下水道終末処理場(奧利根、県央、西邑楽、桐生、利根備前島、平塚)から発生する下水汚泥は、現在、微量な放射性物質が検出されていますが、セメント・肥料の原材料基準を満たしていることから、再資源化を行っています。
下水汚泥に含まれる放射性物質濃度については、県民への情報提供のため、平成23年5月から約2週間に1回、平成25年10月からは検出濃度の低下により、月1回のペースで検査結果をホームページで公表しています。

平成30年度 検査結果
  • セシウム134 不検出
  • セシウム137 0~9(ベクレル/キログラム)

第2項 情報の共有化、広報の推進

1「群馬県放射線対策現況」による県民への広報【環境保全課】

県内各分野の放射線対策の現況を網羅的に取りまとめ、分かりやすく示すために、平成26年3月に「群馬県放射線対策現況第1版」を作成しました。
その後、放射線対策の進捗が見えるように更新を重ね、平成30年12月に「第7版」を作成しました。

2 県・市町村放射線対策会議等による連携強化、情報の共有化【環境保全課】

放射線対策について、県と市町村が連携し、総合的な対策を推進することを目的に平成24年5月7日に「県・市町村放射線対策会議」を設置しました。
また、この会議に、汚染状況重点調査地域の指定を受けた12市町村(現在解除となっている市町村を含む。)を構成員とする除染部会を設置し、除染対策の円滑な推進に向けた情報共有を図っています。
また、県では、分野横断的に放射線対策業務の円滑な推進を図るため、平成24年4月25日に企画会議の部会として、「放射線対策庁内連絡会議」を設置し、情報の共有などを行っています。

第3項 放射性物質を含む廃棄物の処理

1 指定廃棄物の処理【廃棄物・リサイクル課】

(1)指定廃棄物の現状

指定廃棄物とは、放射性物質汚染対処特別措置法において、事故由来放射性物質の放射能濃度(放射性セシウム134と放射性セシウム137の合計値)が8,000ベクレル/キログラムを超える廃棄物であって環境大臣が指定したものと定められています。
県内には指定廃棄物として、浄水発生土が672.8トン、下水汚泥焼却灰等が513.9トン、計1,186.7トンが保管されています。これら指定廃棄物は、国が責任をもって処理することとされています。

(2)指定廃棄物の処理方針

「放射性物質汚染対処特別措置法に基づく基本方針」では、指定廃棄物の処理は、当該指定廃棄物が排出された都道府県内において行うこととされています。
宮城、茨城、栃木、千葉、群馬の5県については、国が長期管理施設(最終処分場)を確保し処理することとされていますが、群馬県については、平成28年12月の第3回群馬県指定廃棄物処理促進市町村長会議において、現地保管継続・段階的処理の方針が決定されました。

2 放射性物質汚染廃棄物処理状況監視【廃棄物・リサイクル課】

県では、放射性物質汚染対処特別措置法に基づく特定一般廃棄物処理施設である焼却施設7施設及び最終処分場17施設に対して、排出ガスや放流水の自主測定結果の報告を求めたり、立入検査を行っています。その結果、全ての施設において基準に適合していることが確認されました。

第5節 快適な生活環境の創造

主な指標と最新実績

県植樹祭参加者数 1,100人
エコファーマー認定者数(累計)5,519人

第1項 快適な環境の確保

1 環境美化活動【環境政策課】

空き缶やペットボトル、たばこの吸殻などのポイ捨てによるごみの散乱は、私たちに最も身近な環境問題です。ごみの散乱は私たち自身のモラルやライフスタイルにも関わることから、容易には解決できない困難な問題となっています。
そのため、県では、環境美化の意識を啓発し、快適で住みよい「美しい郷土群馬県」をより一層推進するために「春・秋の環境美化運動」をはじめとして、様々な施策を展開しています。

(1)春の環境美化運動(5~6月)実施状況

県では、5月1日から6月30日を春の環境美化月間と定め、市町村やボランティア団体等と連携して、県内各地において清掃活動や啓発活動を実施しています。

  • 清掃活動 31市町村、10事業者 153,429人
  • ごみ収集総量 487,168キログラム
  • 啓発活動 10市町村、3事業者 14,376人
(2)秋の環境美化運動(9~10月)実施状況

県では、9月1日から10月31日を秋の環境美化月間を定め、市町村やボランティア団体等と連携して、県内各地において清掃活動や啓発活動を実施しています。

  • 清掃活動 28市町村、13事業者 89,329人
  • ごみ収集総量 147,726キログラム
  • 啓発活動 9市町村、4事業者 4,433人
(3)各種啓発事業の実施
ア ごみの散乱防止と3Rを進めるための標語コンテストの実施

県と「群馬県環境美化運動推進連絡協議会」では、次代を担う子どもたちへの環境美化とごみの適切な処理に対する意識啓発を目的に、標語コンテストを実施しています。

  • 対象 県内の小学生・中学生・高校生
  • 応募数 11,154点

イ ポイ捨て防止啓発品の作成配布
ポイ捨て防止を呼びかけるティッシュを作成し、春・秋の環境美化運動等で配布しました。

2 公害紛争処理・公害苦情相談【環境保全課】

公害に係る紛争では、司法制度(裁判)による解決以前に、簡易迅速・少ない費用で行政的解決を図るため、昭和45年に「公害紛争処理法」が制定され、公害紛争処理制度が確立されました。
この法律に基づき、国の公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等において、公害紛争についてのあっせん、調停、仲裁及び裁定の制度を設けています。
また、公害苦情相談員制度を設けることによって、苦情の適切な処理を図っています。

(1)公害審査会

昭和45年11月に設置された公害審査会における最近の調停事件の状況は表2-4-5-1のとおりです。

(2)公害苦情相談員

公害に関する苦情は、地域に密着した問題であるとともに、公害紛争に発展する可能性もあるため、迅速な処理が必要となります。
このため、昭和45年11月に「群馬県公害苦情相談員設置要綱」を制定し、関係する地域機関に設置された公害苦情相談員が、住民からの苦情相談に応じ、苦情の解決のために必要な調査、指導及び助言等を行っています。公害苦情相談員は、以下の地域機関に合計32名が設置されています。

  • 環境事務所及び森林環境事務所
  • 農業事務所(農業振興課・家畜保健衛生課)
  • 土木事務所
(3)公害苦情の状況

平成30年度において公害苦情相談員及び市町村の公害担当課で対応した公害苦情の件数は1,271件でした。
典型7公害に関する苦情を種類別にみると、大気汚染(269件)、騒音(209件)、悪臭(164件)の順となっています。
苦情を受付機関別にみると、市町村での受付が90.2%、県での受付が9.8%となっています。
なお、処理にあたっては、関係機関との連携により対応しています。

3 制度融資【環境政策課、商政課、県民生活課】

環境生活保全創造資金は、公害防止や廃棄物対策、さらには循環型社会づくりや地球環境問題に取り組む中小企業者を支援する融資制度です。
昭和43年度に「公害防止対策資金」として発足し、制度内容の充実とともに、平成11年4月に「環境保全創造資金」、平成15年4月に「環境生活保全創造資金」へと改称しました。
平成30年度における融資実績は、1件、25,000千円でした。

4 緑化の推進【緑化推進課】

森林や緑は、水源の涵養・国土保全・地球温暖化の防止等様々な機能を持ち、私たちの豊かな生活を支え、多くの恵みを与えてくれます。
緑化は従来から家庭や地域、市町村で取り組まれていますが社会情勢の変化とともに、県民や行政、NPO法人等が一緒に、あるいは役割を分担して緑化・森林整備の展開を図る取組もなされてきています。
県では、森林や緑の持つ公益的機能を十分に発揮させ、緑豊かで暮らしやすい生活環境づくりを推進するため、植樹祭等各種イベントの開催や緑の募金活動などを通じて、広く県民に緑化思想の高揚を図るとともに、身近な環境の緑づくりを推進しています。
なお、平成30年度の県植樹祭は、安中市で開催され、約1,100人が参加しました。
また、県緑化センターを運営し、見本園管理や各種緑化講座の開催など緑化技術の指導・普及を実施しました。

5 環境保全型農業の推進【技術支援課】

(1)エコファーマーの推進

「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」に基づき、たい肥等による土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う生産方式の導入を支援し、導入計画を策定した農業者を、県知事が認定しています。
エコファーマーに認定されると、エコファーマーマークが使用できるほか、融資の優遇策などが利用できます。
平成31年3月末現在、エコファーマーの認定者数は1,209人です。

(2)群馬県特別栽培農産物認証制度

「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の基準に従い、化学肥料と化学合成農薬の使用量を地域での一般的な使用量から50%以上減らして栽培された農産物を認証しています。
認証された農産物は、「特別栽培農産物」として表示し、流通することができます。
平成30年度に本制度に取り組んだ栽培面積は179ヘクタールでした。

(3)有機農業の取組推進

有機農業とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業のことです。
県では、群馬県有機農業推進計画を策定し、有機農業者のネットワーク化や消費者の理解促進等、有機農業の取組を支援しています。

6 総合的病害虫・雑草管理(IPM)推進【技術支援課】

(1)総合的病害虫・雑草管理(IPM)とは

化学農薬による防除だけでなく、様々な防除手段の中から適切なものを組み合せ、経済的な被害が生じないように、病害虫や雑草を管理することです。
IPMにより、難防除病害虫の効率的な防除や、環境への負荷軽減による持続的な農業生産の実現を目指すことができます。
IPM=Integrated(総合的な)
Pest(病害虫)
Management(管理)

(2)IPMの基本的な実践方法

IPMを実践するにあたっては、予防、判断、防除の3分野の基本的要素について、それぞれ検討する必要があります。

ア 予防

輪作、抵抗性品種の導入や土着天敵等の生態系が有する機能を可能な限り活用すること等により、病害虫・雑草の発生しにくい環境を整える。

イ 判断

病害虫・雑草の発生状況を把握して、防除の要否及びそのタイミングを的確に判断する。

ウ 防除

防除が必要と判断された場合には、多様な防除手段の中から適切な手段を組み合わせ、環境負荷を低減しつつ病害虫・雑草の発生を経済的な被害が生じるレベル以下に抑制する。

(3)県におけるIPMの取組

近年、環境に優しく、環境と調和した農業の推進が求められています。
国では、農作物の病害虫防除対策としてIPMを普及推進することで、環境保全を重視した農業生産に転換していくこととしています。
本県でも、環境保全及び難防除病害虫等の効率的な防除対策を推進するため、IPMに取り組むことが重要なことと考えています。
県では、国が示した主要作物別IPM実践指標をベースに、本県の栽培技術体系に適合した群馬県版の作物別IPM実践指標を主要な17作物について策定しました。
また、今後、新たなIPM技術が開発された段階で農作物を付け加えることとします。
さらに、IPM技術を体系化した指導者用作物別技術集(半促成ナス、施設キュウリ、露地ナス)を作成・配布し、指導力強化を図っています。これにより一層の普及推進を行うとともに、IPMの導入を目指す農家の技術向上及び定着を図ります。

7 農薬適正使用推進【技術支援課】

(1)有機リン系農薬とは

有機リン系農薬とは、炭素と水素から成る有機基にリンが結合した構造をもつ農薬で、主に殺虫剤として広く使われています。
有機リン系殺虫剤は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害することで、昆虫や哺乳動物に対し毒性を示し、残留性は一般的に低いとされています。

(2)有機リン系農薬の空中散布による人の健康への影響

有機リン系農薬は、最近の研究などで慢性毒性の危険性や子どもに及ぼす影響等が指摘されています。
特に、無人航空機による空中散布においては、地上散布と比較して、高濃度の農薬(通常1,000倍程度に希釈して散布するところ、8倍程度で散布)を細かい粒子で散布します。そのため、農薬成分がガス化しやすく、呼吸により直接体内に取り込まれるため、農薬を経口摂取する場合に比べ、影響が強く出る可能性があると言われています。
慢性中毒では免疫機能の低下や自律神経症状などが現れることがあります。

(3)県の対応

現在は、有機リン系農薬の空中散布を規制する法的根拠はありませんが、有機リン系農薬に代わる薬剤の使用が可能であることや、速やかに対応すべきであるとの判断などから、平成18年から、防除実施者や関係団体に無人航空機による有機リン系農薬の空中散布の自粛を要請しています。
その結果、関係者の理解を得ることができ、平成18年度以降、無人航空機による有機リン系農薬の空中散布は実施されていません。

(4)無人航空機による空中散布の実施状況

無人航空機による最近の空中散布の実施状況は表2-4-5-6のとおりです(表は省略)。

8 景観の保全と形成【道路管理課、都市計画課】

景観は、地域の自然、歴史、文化や日常の様々な活動の結果として形成されるものです。
そのため、良好な景観を形成するためには、自然や歴史的な景観の保全や利活用だけでなく、私たちが暮らす地域の景観を創造し、
そのための活動を育成するとともに、阻害要因を除去する取組も重要になります。

(1)景観条例に基づく施策

県では、平成5年に制定した「景観条例」に基づき、大規模行為(一定規模以上の建築や土地の形質変更など)の届出などにより、良好な景観づくりを進めています。平成30年度には226件の届出がありました。

(2)市町村を中心とする景観行政の取組

景観形成の取組は地域に根ざした活動が重要であるため、市町村が、「景観法」に基づく景観行政団体になって、景観計画を策定して積極的に景観施策を展開することが望まれます。平成30年度には、新たに片品村で「景観条例」が施行され、20市町村が「景観法」に基づく景観行政団体となっています。

(3)補助金の交付

市町村が景観計画の策定や世界遺産の緩衝地帯を設定するための経費の一部を補助しています。

(4)広域景観形成(景観誘導地域の指定)

平成28年度に、観光ルート等における良好な景観形成を図るための「景観誘導地域」新設を盛り込んだ県屋外広告物条例の一部改正を行い(平成29年4月施行)、現在整備中の上信自動車道(未供用区間)を景観誘導地域に指定しました。また、供用区間である八ッ場・長野原バイパスについて平成31年1月に追加指定しました。

(5)無電柱化の推進

道路における無電柱化は、「安全で快適な通行の確保」や「防災機能の向上」とともに、「景観の改善」にも大きく寄与しています。県では、緊急輸送道路や市街地の幹線道路、富岡製糸場周辺や桐生市の重要伝統的建造物群保存地区などの景観に配慮すべき地域において、無電柱化事業を進めています。

9 屋外広告物の規制・誘導、美化推進【都市計画課】

良好な景観の形成や風致の維持、公衆に対する危害防止のために、看板や広告塔などの屋外広告物について、設置場所や形状・面積等を規制しています。また、規制を効果的に講じるため、屋外広告業者の登録制度を設けています。

(1)屋外広告物の管理事務

県では、「屋外広告物法」及び「屋外広告物条例」に基づき、屋外広告物の設置場所、表示面積、高さ及び表示方法等の基準を設け、設置の許可事務を行い、良好な景観づくりを進めています。平成30年度には936件を許可しました。

(2)屋外広告業の登録事務

平成16年の「屋外広告物法」の改正を受け、県では平成18年度から屋外広告業者の登録制度を施行し、不良業者を排除するとともに、良質な業者の育成を進めています。平成30年度末現在、717件の業者の登録があります。

(3)屋外広告物の美化推進

各土木事務所において、違反広告物の是正指導及び除却を行うとともに、平成30年度においても「屋外広告物美化キャンペーン」(9月1日~9月30日)を実施しました。

10 都市公園の管理・整備【都市計画課】

(1)管理

県民の自然とのふれあいや文化的余暇利用を向上させるため、民間等が持つ創造的で柔軟な発想や豊富な知識を活用することにより、管理運営経費の縮減を図りながら、施設の効用を最大限発揮し、県民サービス向上を図るため、5公園で指定管理者制度を導入しています。

(2)整備

都市公園は多目的な機能を持つ、都市の重要な生活基盤です。
平時は緑あふれる県民の交流拠点として、自然とのふれあいやレクリエーション施設を通じて児童や青少年をはじめとする県民の心身の健康の維持増進に寄与し、住み良い生活環境を整えています。
また、災害時には避難所としての機能はもちろん、復旧・救援の拠点としても都市住民の安全を確保する重要な役割を果たしています。
平成30年度の都市公園事業は、県立公園「敷島公園」の補助陸上競技場の全レーン8レーン化や老朽化した管理事務所の更新を実施するなど、5か所の県立都市公園で施設整備を実施しました。
また、市町村の都市公園事業として、前橋市の「前橋市総合運動公園」や高崎市の「浜川運動公園」をはじめ、5市の6か所で公園整備を実施しました。

本県の都市公園の整備状況は、平成30年3月末現在で1,467か所、2,588ヘクタールが供用開始しており、都市計画区域内の一人当たりの都市公園面積は11.71平方メートル/人(「榛名・妙義公園」を除く)となっています

11 河川内の伐木・除草【河川課】

河川内に繁茂する草木は、洪水時に流水の正常な流下を妨げたり、堤防に根を張ることで堤防の機能を弱めてしまうなど、河川の安全性に悪影響を与えます。また、防犯上あるいは良好な景観を形成する上でも、河川内の草木を適切に管理することが求められています。
このため、県内の河川のうち、伐木除草が必要となる区間を調査し、順次伐木及び除草を実施しました。
伐木は鳥獣害対策及び流下能力確保と合わせ45ヘクタール行いました。
除草は、専門業者へ委託して実施したほか、自治会等へ委託して実施しました。平成30年度の除草面積は739ヘクタールで、そのうち189ヘクタールを自治会等により除草していただきました。

12 環境に配慮した都市・地域づくり【都市計画課】

「ぐんま“まちづくり”ビジョン」に掲げる「人口減少局面でもぐんまらしい持続可能なまち」の実現に向け、本県の緑豊かな自然環境や豊富な水資源、伝統的な街並みをはじめとする歴史・文化資源など地域の誇る魅力的な地域資源を有効活用しつつ、建て替えや新設にあわせて、教育・文化施設、商業施設、病院等の都市機能を、中長期的に中心市街地や役所・駅周辺地区などへ集約を図ることで、「まちのまとまり」を維持します。
また、「まちのまとまり」をつなぐ、利便性の高い、多様な移動手段を確保することで、徒歩や公共交通での移動が容易な、誰もが暮らしやすく、環境にもやさしいまちづくりを推進します。

第2項 文化財の保護

1 世界遺産の包括的保存管理【世界遺産課】

(1)「富岡製糸場と絹産業遺産群」包括的保存管理計画について

「富岡製糸場と絹産業遺産群」は平成26年6月25日に世界遺産に登録されました。
世界遺産は、人類が過去から現在へと引き継いできたかけがえのない宝物です。現在を生きる私たちは、この世界遺産を人類共有の財産として未来へ伝えていく責務を負っています。遺産の保護は「世界遺産条約」で定められており、世界遺産としての価値が破壊されたときは、登録抹消の可能性もあります。
「富岡製糸場と絹産業遺産群」を、人類共通の遺産として将来に伝えていくという責務を果たすためには、具体的に何を行えばよいのかについて、行政、資産の権利者、来訪者、そして地域の人々が意識を共有しておく必要があります。県では文化庁、富岡市、伊勢崎市、藤岡市及び下仁田町と共同し、「包括的保存管理計画」を策定しました。個別資産の保存管理計画を基に、世界遺産としての観点から、資産周辺を含めた保存管理を網羅したものが「包括的保存管理計画」です。この計画は「富岡製糸場と絹産業遺産群」の推薦書とともにユネスコに提出されています。
この計画を円滑に推進するため、県と関係市町で「群馬県世界遺産協議会」を組織し、平成30年度までに会議を11回開催しています。
以下に、構成資産の保存管理のために行われた事業と、各資産の周辺環境を含めた一体的な保全の仕組みについて紹介します。

(2)構成資産の保存管理

各資産は「文化財保護法」に基づく史跡(4資産全て)、国宝・重要文化財(富岡製糸場のみ)に指定され、保護されています。
同法に基づき、平成30年度は主に次のような文化財保存事業を行い、それに対して県では事業費の補助を行いました。

  1. 富岡製糸場
    • 西置繭所保存修理
    • 西置繭所整備活用
    • 総合防災事業(建造物)
    • 乾燥場等保存修理
    • 社宅76整備、社宅85保存修理
    • 発掘調査
  2. 田島弥平旧宅
    • ・別荘・冷蔵庫跡保存修理等
  3. 高山社跡
    • 石垣修復工事等
  4. 荒船風穴
    • 風穴保存工事実施検討
    • 番舎ゾーン実施設計等
(3)周辺環境を含めた一体的な保全(緩衝地帯)

世界遺産の構成資産の価値を守るため、緩衝地帯を設定し、各資産とその周辺環境について一体的な保全を図っています。緩衝地帯においては、世界遺産にふさわしい周辺環境に、悪影響を及ぼす開発行為等を未然に防ぐため、次のとおり様々な法令が適用されています。

  1. 富岡製糸場
    • 景観法(富岡市景観計画、富岡市景観条例)
    • 都市計画法
    • 屋外広告物法(富岡市屋外広告物条例)
    • 富岡市自然環境、景観等と太陽光発電設備設置事業との調和に関する条例
  2. 田島弥平旧宅
    • 景観法(伊勢崎市景観計画、伊勢崎市景観まちづくり条例、埼玉県景観計画、埼玉県景観条例)
    • 都市計画法
    • 屋外広告物法(伊勢崎市屋外広告物条例)
    • 農業振興地域の整備に関する法律
  3. 高山社跡
    • 景観法(藤岡市景観計画、藤岡市景観条例)
    • 屋外広告物法(藤岡市屋外広告物条例)
  4. 荒船風穴
    • 景観法(下仁田町景観計画、下仁田町景観条例)
    • 屋外広告物法(下仁田町屋外広告物条例)
    • 森林法

2 文化財の指定、登録、選定【(教)文化財保護課】

我が国の文化財は、豊かな自然環境のもとで、長きにわたる先人の営みによって形作られてきました。文化財保護行政の目指すところは、有形無形の様々な文化財とそれらが守り伝えられてきた事実を、その環境とともに後世に伝えていくことにあります。国・県・市町村は、それらのうち特に重要なものを法的に保護し、またその質と価値を高めるための保存整備を行っています。これによって、文化財の価値を正確に分かりやすく社会に還元することができ、人々の地域に対する理解と関心の深化へと繋がっていきます。
文化財は、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群、保存技術、埋蔵文化財の8つに分類されますが、それぞれの中で重要なものや保護が必要なものが指定、選定、登録、選択され、法的な保護や整備が行われます。
また、昨今の過疎化・少子高齢化などを背景に、文化財の滅失や散逸等の防止が緊急の課題となり、これまで価値付けが明確でなかった未指定を含めた郷土の文化財を、まちづくりに活かしつつ、地域社会総がかりで、その継承に取組んでいく必要性が指摘されています。このため、地域における文化財の計画的な保存・活用の促進や、地方文化財保護行政の推進力の強化を図ることを目的に、文化財保護法が改正され、平成31年4月から施行されました。
改正文化財保護法では、県は文化財の保存・活用に関する総合的な施策の大綱を策定できるとされ、市町村は県の大綱を勘案しながら、文化財の保存・活用に関する総合的な計画(文化財保存活用地域計画)を作成し、国の認定を申請できることになりました。今後、地方公共団体では、文化財担当部局やまちづくり・観光等関係部局が地域社会と連携しながら、郷土に残る文化財を確実に継承し、計画的な保存・活用を推進していくことが求められています。

3 文化財パトロール【(教)文化財保護課】

国・県指定等文化財及び重要な埋蔵文化財包蔵地の維持管理に万全を期すため、県で委嘱した文化財保護指導委員(平成30年度:31名)が定期的に巡視し、保存状態を確認し県に報告しています。報告は、県において指定文化財等の現状把握とともに、保存修理事業計画立案の際の資料とします。

4 文化財の修理、整備、管理、埋蔵文化財発掘調査等【(教)文化財保護課】

文化財のうち、名勝・天然記念物は自然環境及び自然景観の保護に直結しています。県で指定する名勝・天然記念物は、動物繁殖地や植物など計100件です。また、国の名勝・天然記念物には26件が指定され、名勝妙義山や楽山園、特別天然記念物尾瀬、六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地等、内容は多岐にわたります。
天然記念物のうち、動物の種として地域を定めず指定されているものは、全国の国指定110件のうち県内に生息もしくは飼育されているものが10件、県指定が7件あります。国指定の動物種のうち、特に本県で生息が確認できる野生動物は、カモシカやヤマネ、イヌワシなどです。県指定天然記念物はヒメギフチョウやミヤマシロチョウなどです。
これらの動物のうち、特別天然記念物に指定されているカモシカは、保護地域が設定されており、保護地域及び周辺地域の生息状況、生息環境調査を毎年実施しています。また、保護地域周辺での食害を防止するため、防獣柵の設置といった施策も用意されています。
史跡は国指定50件、県指定87件、重要文化財(建造物)は国指定25件(うち国宝1件)、県指定54件、国登録有形文化財(建造物)が336件所在し、それぞれ歴史景観が保たれています。また、一部で史跡公園等に整備され、学習及び憩いの場ともなっています。
自然環境と歴史景観が共存している例として、岩宿遺跡や金山城跡などがあります。また、山間地に重要文化財の仏堂や社殿がたたずみ、周囲の自然環境と調和した歴史的風致が守られている例として、妙義神社や榛名神社などがあります。近代の文化遺産も、国重要文化財の碓氷峠鉄道施設や国登録文化財のわたらせ渓谷鐵道関連施設は山間地の自然の景観の中に溶け込んでおり、国宝・国指定史跡・国指定重要文化財の旧富岡製糸場や国登録文化財の桐生市内の織物工場の建物などは、それぞれ今後のまちづくりの核となる歴史景観を形成しています。
重要文化的景観は、人々の生活又は生業、地域の風土の中で形成された景観で、我が国の国民の生活・生業の理解のために不可欠のものです。日常の風景として見過ごされがちでしたが、棚田や水郷など自然と人との調和の中で長い年月をかけて形成されてきた価値ある景観です。県内では板倉町が利根川・渡良瀬川合流域の水場景観の保護に取り組んでおり、平成23年9月には国の重要文化的景観に選定されました。県もこの取組を支援しています。
重要伝統的建造物群保存地区は、町並みや農村集落など歴史的建造物が群として良好に保存された場所です。県内には中之条町と桐生市の2か所に所在します。
中之条町六合赤岩伝建地区は、平成18年に北関東で初めて選定されました。養蚕農家集落とともに、墓地、お宮やお堂、耕作地、そして山林などで構成される広大なエリアを占めます。平成30年度も、平成19年度から毎年実施されている重要な構成要素に対する修理・修景事業等に補助を行いました。
桐生市桐生新町伝建地区は、平成24年7月に選定されました。近世・近代桐生の繁栄を物語る数多くの町屋や蔵、織都桐生を象徴するノコギリ屋根の織物工場など、多彩な歴史的建造物の町並みが展開します。建造物の修理・修景や環境整備に対して県も支援しています。
平成30年度は、指定文化財を管理するため、県指定文化財15件、国指定文化財17件の保存修理等に対して、また防災設備保守点検等事業として個人・法人が所有する7件の重要文化財(建造物)の防災保守点検等に対して補助金を交付しました。
埋蔵文化財については、国・県及び国県関係の法人が実施する開発に対し調整を行います。埋蔵文化財の所在や範囲を確認するために、工事前に試掘調査を実施します。平成30年度は、県内各地で65件実施しました。開発事業により埋蔵文化財の破壊が免れない場合は、記録保存のための発掘調査を行うよう、開発事業者と調整します。発掘調査は、公益財団法人群馬県埋蔵文化財調査事業団が行います。

5 上野国分寺跡整備、保護管理【(教)文化財保護課】

上野国分寺跡は、奈良時代に聖武天皇の命により国家鎮護の寺として建立された本県を代表する遺跡で、大正15年10月に国史跡に指定されました。
上野国分寺跡の整備は、「史跡上野国分寺跡整備基本設計(昭和63年3月策定)」に基づき逐次実施し、南辺築垣復元等の整備を関係方面の協力を得て実施してきました。また、平成24年度から整備事業を再開し、将来的に復元整備を行うための基礎的情報を収集する目的で発掘調査を行い、報告書を刊行し、30年度には今後の整備の基本方針となる「保存活用計画」を策定しました。
上野国分寺跡は、本県の古代を語る上で欠くことができない県民共有の文化財として保護、活用されています。また、住宅密集地における緑地帯として、生活環境の向上や環境保全にも役立っています。見学者対応並びに日常の管理は、臨時職員3名が交代でガイダンス施設「上野国分寺館」に年中無休で常駐し、来訪者へのサービス向上と地元住民との交流を図っています。除草については、直営の除草に加えて、地元に国分寺遺跡愛好会があり、除草作業をボランティアで年3回ほど実施していただいています。

6 観音山古墳保護管理【(教)文化財保護課】

史跡観音山古墳は、群馬県を代表する大型前方後円墳の一つとして高く評価され、教科書にも採り上げられたこともあります。遺跡と出土品の学術価値は極めて高く、群馬県地域の歴史の特色を明らかにする上で欠くことのできないものとなっています。史跡は県立歴史博物館の展示内容と結びつきをもった活用がなされ、大きな効果を上げてきました。石室内出土品は、県立歴史博物館の中心的な展示品となります。遺跡と博物館が近接していることから、両者を一体化した積極的な活用が図られています。
古墳の見学者対応並びに日常の古墳管理は、地元区長を代表とする史跡観音山古墳保存会に委託して、史跡レンジャーが年中無休で対応しています。古墳の石室見学は自由ですが、団体見学のみ事前に電話・見学申込書郵送等で文化財保護課宛に申し込みのうえ、進めています。

第3項 地産地消の推進

1 地産地消を県民運動として推進【ぐんまブランド推進課】

農業団体、消費者団体等の関係機関・団体と連携した施策を展開するとともに、県民行事として定着している「収穫感謝祭」をはじめとする関連イベントを通じて、食と農への理解促進を図っています。
また、地場産農産物の販売や、料理を提供する「ぐんま地産地消推進店」の取組の情報発信など、地場産農畜産物の利用促進や理解促進を図るとともに、「地産地消の日」*1をさらに普及、浸透させ、地産地消を県民運動として推進していきます。

2 地場産農産物の利用促進【ぐんまブランド推進課】

「ぐんま地産地消推進店」、「ぐんま地産地消協力企業・団体」認定登録数の増加に努めるとともに、農産物直売所相互の連携により消費者が一年を通して新鮮で、安全・安心な農畜産物を手に入れられる体制づくりを支援しながら、それらの情報発信に努めています。
さらに、県産農畜産物情報サイト「ぐんまアグリネット」や冊子「ぐんま食材セレクション100」を活用して、実需者に向け、旬の食材や特色ある農産物、入手方法等の情報を発信しマッチングを図るとともに、学校給食での県産農畜産物の利用を促進しています。

3 食と農への理解を促進し、伝統食文化の継承と新たな食文化の創造【ぐんまブランド推進課】

おっきりこみに代表される郷土料理など食文化を継承するため、ホームページ等を活用して情報提供することにより、食と農への理解を促進していきます。

4 観光資源としての「食」の活用促進【ぐんまブランド推進課】

 本県農畜産物のブランド化、消費拡大を目的に、観光資源としての「食」の活用促進を図っています。全ての食材を県産でまかなえることから、本県を代表するおもてなし料理として推進している「すき焼き」をはじめとして、旅館・飲食店における県産農畜産物を活用した料理の提供を促進するとともに、地場産食材を使った料理などの「食」と「農」を関連付けた情報発信や、観光果樹園、グリーン・ツーリズムに関する情報発信を、「ぐんまアグリネット」を通じて行っています。
ぐんまアグリネット<外部リンク>

第6節 里山・平地林・里の水辺の再生

主な指標と最新実績

ため池の保全・整備数 3地区

第1項 里山・平地林・里の水辺の整備

1 ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業(荒廃した里山・平地林の整備)【緑化推進課】

かつて、きのこや山菜、薪や炭、肥料にする落ち葉や生活用具の材料となる木材や竹など、日々の生活に必要な様々なものを、私たちは身近な里山から得ていました。
また、里山は、二次的自然として、特有の動植物の生息地となることで、生物多様性を保全する機能を担っていました。
しかし近代化が進み、電気やガスが普及し、食材や道具類はいつでも簡単に手に入る時代となった今、たとえ人家裏の雑木林や里山であっても非常に遠い存在となっています。
人の手が入らなくなった里山は、ヤブや竹、シノが繁茂し、更に人を寄せ付けなくなります。
このような荒廃した里山は、イノシシなどの野生動物の隠れ場となり、近隣の畑や果樹園における農作物被害を拡大させています。
また、ヤブだらけの里山は、ごみが投棄されやすく、さらに見通しが悪いと防犯上の問題も起きやすくなります。里山の保全は、生物多様性だけでなく、地域の安全安心な生活環境を維持するためにも重要な課題です。
野生鳥獣の被害が発生する地域や、ごみの不法投棄や、見通しが悪く防犯上の問題がある地域では、平成26年度から始まった「ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業」の「荒廃した里山・平地林の整備」事業を活用し、地域住民と市町村が連携し、身近な里山や竹林の整備に取り組んでいます。

2 ため池等の周辺整備【農村整備課】

 ため池は、豪雨や地震等の自然災害により崩壊した場合、農地に被害を与えるだけでなく、下流の住宅や道路などの公共施設等にも大きな被害を与えることが想定されます。
 このため、県では平成29年度から県単独事業として、「防災重点ため池」に位置付けられたため池の耐震・豪雨対策工事及び老朽化したため池の整備を行い、下流地域の安全、安心の確保を図り、景観や生態系に応じた整備を実施しています。
 平成30年度は、3地区でため池の堤体改修や保護、洪水吐・取水施設の改修に着手し、更なる整備に向けて1地区の調査と計画作成を行いました。

3 多々良沼公園における自然再生活動の推進【都市計画課】

 多々良沼及び城沼周辺において、沼に流入する河川の水質等の改善や絶滅種の復活及び減少しつつある希少種の復活を目指し、失われてしまった自然の再生・保全に向けて、平成22年4月に地域住民、NPO、学識経験者、地方公共団体、関係行政機関など多様な主体により「多々良沼・城沼自然再生協議会」を設立しました。
 平成23年5月には、協議会の目標となる全体構想を策定し、「水質」「生態系」「親水性」の目標を掲げました。平成26年1月には、目標達成に向け、それぞれの主体が取り組みやすいよう、協議会としての実施計画を策定し、その後は実施計画に基づき、それぞれの目標に沿った様々な事業を展開しています。
 平成30年度は、多々良沼においてヨシ焼きを行いました。枯れたヨシを焼くことは、春に多くの植物に対して芽生えの機会を与え、豊かな湿地環境の保全に繋がります。ヨシ焼きに先立ち、「多々良沼自然公園を愛する会」の主催で、「多々良沼・城沼自然再生協議会」の各構成団体や地元の皆さん約100名の御協力により、延焼防止のためのヨシ刈りを実施しました。ヨシ焼きについては、昼頃には無事終了し、対岸を見渡せる広大な光景が眼前に広がりました。
 他には、植物・魚類・水質等のモニタリング調査を例年どおり実施し、外来種駆除にも取り組みました。
 これからも、一人でも多くの参加者とともに、自然再生に向けた取組を積極的に進めて参ります。

多々良沼・城沼自然再生協議会トップページ

第7節 特定地域の公害防止対策

第1項 碓氷川・柳瀬川流域

1 概要【環境保全課】

(1)経過

富山県で発生したイタイイタイ病(*注1)についての厚生省(当時)の考え方が、昭和43年5月に発表され、カドミウム(*注2)による環境汚染問題が全国的に注目されました。本県でも、碓氷川・柳瀬川流域が、調査研究の対象地域とされました。
同年、県と国との共同で碓氷川・柳瀬川流域にある東邦亜鉛(株)安中製錬所の排出水、同流域の河川水や川底の泥・砂、井戸水、水稲及び土壌等のカドミウム汚染に関する調査を行いました。この結果から、厚生省は昭和44年3月「カドミウムによる環境汚染に関する厚生省の見解と今後の対応」を発表し、碓氷川・柳瀬川流域を「要観察地域」に指定しました。それ以来、東邦亜鉛(株)安中製錬所の発生源調査及び発生源対策、同製錬所周辺の環境保全対策、住民保健対策、農作物対策等を行っています。

(2)発生源対策

カドミウム、硫黄酸化物等の鉱害防止施設設置による改善対策の結果、現在では、排出濃度が排出基準(*注3)を大幅に下回っています。

(3)損害賠償請求と公害防止協定(*注4)の締結

住民が会社に対して行った損害賠償請求については、昭和61年9月に裁判での和解が成立し、両者の間で公害防止協定が締結されました。
その後、協定に基づき、原告団及び弁護団等による製錬所への立入調査が行われ、平成3年4月には、会社と旧原告団等との間で、協定書に定めた事項の完了について確認書が取り交わされました。併せて、新たな公害防止協定が締結され、現在も3年ごとに継続して協定が締結されています。

2 環境調査【環境保全課】

東邦亜鉛(株)安中製錬所周辺の大気汚染及び水質汚濁の状況を知るため、環境調査を行いました。

(1)大気調査
ア 浮遊粒子状物質中のカドミウム

表2-4-7-1に示す4地点で毎月試料を採取し、カドミウムの濃度を測定しています。各地点における空気1立方メートル中のカドミウムの量は、表2-4-7-2のとおりです。過去5年間の年平均値と比較しても大きな変化は見られませんでした(表は省略)。

(*注1)イタイイタイ病:富山県神通川流域に発生した腎病変と骨軟化症などを合併する病気です。身体中の骨がゆがんだりひびが入ったりして、患者が「痛い、痛い」と訴えることから、イタイイタイ病と命名されています。この病気は、神通川上流の三井金属鉱業(株)神岡鉱業所が排出したカドミウムが原因となって腎障害、骨軟化症をきたし、これにカルシウムの不足などが加わり発症すると考えられています。
(*注2)カドミウム:やや青みを帯びた銀白色の金属で、亜鉛鉱物に伴って少量産出します。主な発生源は、亜鉛冶金工場、カドミウム製錬工場などです。体内に蓄積され、主に腎機能障害が生じる可能性があります。
(*注3)排出基準:「大気汚染防止法」において、ばい煙発生施設の排出口から大気中に排出されるばい煙の許容限度をいいます。「水質汚濁防止法」では排水基準、「騒音規制法」・「振動規制法」では規制基準といいます。
(*注4)公害防止協定(環境保全協定):地方公共団体と企業、住民団体と企業などの間で、公害防止(環境保全)のために必要な措置を取り決める協定のことを言います。公害規制法を補い、地域の特殊性に応じた有効な公害対策を、弾力的に実施できるため、法律や条例の規制と並ぶ有力な公害防止(環境保全)上の手段として利用されています。

イ 降下ばいじん

東邦亜鉛(株)安中製錬所のばい煙発生施設等から排出されるばいじんによる汚染状態を把握するため、発生源近くの4地点にダストジャーを設置し、自然にあるいは雨によって降下してくるばいじんの総量及びばいじん中のカドミウム量を調査しています。比較のために太田市でも同様に測定しています。
測定結果は、表2-4-7-3のとおりでした(表は省略)。安中市の測定結果は、過去5年間は、概ね横ばいですが、対照地点(太田市)に比べてカドミウムの降下量が多いことから、引き続き監視していきます。

(2)水質底質調査

水質調査は、烏川・碓氷川・柳瀬川の利水地点等の8地点及び東邦亜鉛(株)安中製錬所排水口2地点の計10地点において実施し、碓氷川の昭和橋並びに柳瀬川の柳瀬橋及び下の淀橋では毎月、その他の地点では年2回実施しました。
平成30年度の水質調査結果では、全ての地点で排水基準及び河川の環境基準に適合していました。
過去5年間に実施した調査のカドミウム及び亜鉛濃度の最大値、最小値及び平均値は、図2-4-7-1及び図2-4-7-2のとおりです(実施年度、調査地点により年間の調査回数が異なります)(図は省略)。過去5年間では、年平均値の環境基準超過は無く、柳瀬川のカドミウムは低下傾向です。
また、底質調査は、水質調査地点のうち排水口2地点を除く8地点において、年2回実施しました。過去5年間に実施した調査のカドミウム及び亜鉛濃度の最大値、最小値及び平均値は、図2-4-7-3及び図2-4-7-4のとおりです(図は省略)。

3 住民健康調査【保健予防課】

要観察地域等の住民を対象とした健康調査を、平成12年度まで延べ11,027人について実施しましたが、健康被害が疑われる人はいませんでした。

4 土壌汚染防止対策【技術支援課】

(1)農用地土壌汚染対策地域の指定

碓氷川・柳瀬川流域については、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に基づき、昭和47年4月にカドミウムに係る農用地土壌汚染対策地域として、118ヘクタールの農用地を指定しました。
以降、昭和48年2月に11.66ヘクタール、昭和49年3月に4.42ヘクタールを追加し、合計で134.08ヘクタールが対策地域となりました。

(2)農用地土壌汚染対策計画の策定

指定地域の汚染の防止及び有害物質の除去については、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に基づき、昭和47年8月対策計画を定め、昭和51年3月及び昭和53年6月に追加指定した農用地を含めた計画に変更しました。

(3)碓氷川流域公害防除特別土地改良事業の実施

昭和47年から50年まで農用地土壌汚染対策計画に基づき、公害防除特別土地改良事業を実施しました。
有害物質は10~20センチメートルの排土及び客土により除去し、事業面積は85.1ヘクタールとなりました。
なお、事業費は769百万円となり、このうち75%を「公害防止事業事業者負担法」に基づき事業者(汚染原因者)が負担しました。

(4)事業効果の確認

県では、公害防除工事の効果を確認するために、指定地域内の農用地の土壌中の有害物質について継続して調査を行っています。
また、関係市や生産者団体では、コメ中の有害物質について、継続して調査を行っており、安全性を確認しています。

(5)農用地土壌汚染対策地域の指定の解除

有害物質の除去や工場や住宅等、農用地以外に土地利用が変更される等、指定の要件を満たさなくなった場合は、指定地域の解除を行うことができます。
こうした農用地について、昭和58年3月に105.20ヘクタールの農用地土壌汚染対策地域の指定を解除しました。
指定の解除により平成28年度末の指定面積は28.88ヘクタールとなっています。

(6)未解除地域への対応

農用地土壌汚染対策計画の策定から40年あまりが経過しており、農用地の利用状況は計画策定時と大きく変わっています。
このため県では、未解除となっている農用地の土壌等調査や、土地所有者等の意向の確認を継続して行い、この結果に基づき、対策計画の見直しを行っています。

第2項 渡良瀬川流域

1 概要【環境保全課】

(1)経過

渡良瀬川流域では、明治時代以来、足尾鉱山や足尾製錬所などからの排出水や鉱泥等によって、田畑は汚染されてきました。戦後になると、農家の石灰散布による酸性中和の努力や、鉱山施設の改善、土地改良事業などによって、被害が軽減する傾向にありました。
しかし、昭和33年5月に源五郎沢堆積場が崩れ、金属の精錬かす等が流出し、再び水稲や麦などの作物に大変な被害が発生しました。この被害に対し鉱毒根絶の運動が再燃し、同年8月には「渡良瀬川鉱毒根絶期成同盟会」が結成されました。
県は、昭和27年から銅(*注5)対策として各種の調査などを行ってきましたが、昭和45年に収穫された米がカドミウムに汚染されていたため、昭和46年度にカドミウムの発生源を探す調査をしました。その結果、昭和47年4月に「流域水田土壌のカドミウムによる汚染源については、その原因が古河鉱業(株)の鉱山施設に由来するものであると結論せざるを得ない。」ことを発表しました。

(2)公害防止協定の締結

県は、栃木県、桐生市及び太田市とともに、昭和51年7月30日、古河鉱業(株)(現在:古河機械金属(株))との間に公害防止協定を結び、さらに、昭和53年6月15日、協定に基づく協定細目を結びました。

(3)損害賠償請求

汚染された田畑への被害等については、被害の大きかった太田市毛利田地区の住民が、「公害紛争処理法」に基づき公害等調整委員会に古河鉱業(株)への損害賠償等を求める調停を申請し、昭和49年5月に被害補償金15億5千万円で調停が成立しました。この調停に続いて、古河鉱業(株)と直接交渉をしていた「桐生地区鉱毒対策委員会」は昭和50年11月に解決書を締結し、被害補償金2億3千5百万円で合意し、同様に「太田市韮川地区鉱害根絶期成同盟会」も、昭和51年12月に解決書を締結し、被害補償金等1億1千万円で合意しました。さらに、毛里田地区被害住民のうち、申請もれになっていた住民が、公害等調整委員会に損害賠償を求める調停を申請し、昭和52年12月に390万円で和解しました。

2 環境調査【環境保全課】

(1)河川通年調査

渡良瀬川では、本県に関係する環境基準点(4地点)で通年調査が行われています。県では、このうち最も上流に位置する高津戸地点において、毎月の水質の調査をしています。

(2)降雨時調査

平成30年7月29日台風12号、8月24日台風20号、10月1日台風24号に伴い足尾地域に大量の降雨があり渡良瀬川が増水しました。県では桐生市及び太田市とともに鉱山施設や周辺河川の水質調査を実施しました。また、渡良瀬川上流部(沢入発電所取水堰)に設置した自動採水器(オートサンプラー)により1時間に1回の採水及び水質調査を行い、降雨時調査を補完しました。結果概要は表2-4-7-4のとおりです(表は省略)。
その結果、鉱山施設からは、公害防止協定に基づき定められた公害防止協定値を超える排出水はありませんでした。また、いずれの堆積場からも排水はなく水質調査は実施しませんでした。
古河機械金属(株)に対しては、渡良瀬川の水質保全のため、引き続き公害防止協定の遵守を要請しました。
過去5年の降雨時調査の実施総数は、14回(平成26年度:4回、平成27年度:2回、平成28年度:2回、平成29年度:3回、平成30年度:3回)です。
(*注5)銅(Cu):赤味を帯びた金属で、湿った空気中で腐食して塩基性炭酸銅を生じ、硝酸その他の酸化性酸に溶解します。体内に蓄積する毒物ではなく、生体内で各種の酵素の作用に関与し、生理代謝機能に不可欠な金属で、成人は1日に2~3mg必要とされています。極めて高濃度な銅粉によって気道刺激がおこり、発汗、歯ぐきの着色が起こることが報告されています。

3 土壌汚染防止対策【技術支援課】

(1)農用地土壌汚染対策地域の指定

渡良瀬川流域については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和47年5月にカドミウムに係る農用地土壌汚染対策地域として37.62ヘクタールの農用地を指定しました。
以降、昭和49年3月にカドミウム対策地域として指定した37.62ヘクタールを含めて、銅に係る対策地域として359.80ヘクタール、平成11年2月に1.52ヘクタール、平成15年8月に1.17ヘクタール、平成16年12月に0.29ヘクタールを銅に係る対策地域として追加指定し、合計で362.78ヘクタールが対策地域となりました。

(2)農用地土壌汚染対策計画の決定

指定地域の汚染の防止及び有害物質の除去については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和55年10月に対策計画を定め、その後、平成11年3月及び平成17年3月に追加指定した農用地を含めた計画に変更しました。

(3)渡良瀬川流域地区公害防除事業の実施

昭和57年から平成11年まで及び平成17年に農用地土壌汚染対策計画に基づき、公害防除特別土地改良事業を実施しました。
有害物質は、銅対策地域で5~16cm、カドミウム対策地域では20cmの排土、客土等により除去し、事業面積は298.86ヘクタールとなりました。
なお、事業費は5,438百万円となり、このうち51%を「公害防止事業費事業者負担法」に基づき、事業者(汚染原因者)が負担しました。

(4)事業効果の確認

県では、公害防除工事の効果を確認するために、指定地域内の農用地の土壌及びコメ中の有害物質について継続して調査を行っています。
また、関係市町や農業者団体で構成される渡良瀬川鉱毒根絶期成同盟会では、渡良瀬川の水質調査や足尾銅山周辺事業地における鉱害防止事業の実施状況等の調査を行い再び汚染されることのないよう監視活動を行っています。

(5)農用地土壌汚染対策地域の指定の解除

有害物質の除去や工場や住宅等、農用地以外に土地利用が変更される等、指定の要件を満たさなくなった場合は、指定地域の解除を行うことができます。
こうした農用地について、昭和61年3月に57.55ヘクタール、平成2年1月に83.71ヘクタール、平成6年1月に167.78ヘクタール、平成29年12月に42.02ヘクタールの農用地土壌汚染対策地域の指定を解除しました。
指定の解除により平成29年度末の指定面積は11.72ヘクタールとなっています。

4 公害防止協定【環境保全課】

(1)公害防止協議会

公害防止協定(昭和51年7月30日締結)及び公害防止協定細目(昭和53年6月15日締結)に基づき、各当事者(三者:栃木県・群馬県・古河機械金属(株)、四者:群馬県・桐生市・太田市・古河機械金属(株))で構成しています。
平成30年度は8月に定例の公害防止協議会(三者及び四者)を開催しました。

(2)立入調査の実施

古河機械金属(株)が行っている鉱害防止事業の実施状況や鉱廃水許容限度の遵守状況を監視するため、群馬県・桐生市・太田市による立入調査を実施しました。

ア 平水時水質調査

7回調査を行い、河川や坑廃水の水質に異常がないことを確認しました。
結果概要は表2-4-7-5のとおりです。

イ 鉱害防止事業進捗状況調査

立入調査を2回行い、使用済堆積場の緑化の進捗や坑廃水処理施設の管理状況を確認しました。

(3)山元対策

足尾鉱山には、14の堆積場があり、現在使用中の堆積場は、簀子橋堆積場だけです。使用済の堆積場については、古河機械金属(株)が、鉱害防止事業等を行ってきた結果、渡良瀬川の水質は平水時では問題がみられなくなりました。
一方で降雨時には、渡良瀬川の流量が大きく増加するのに伴い、一時的ですが、渡良瀬川の重金属濃度が環境基準値を超過することがあります。このため、同社に対して堆積場の管理の徹底や更なる鉱害防止事業の実施を要請しています。
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響で、再び源五郎沢堆積場が崩落する事故が起きました。これを踏まえて、同社に対して再発を防止する恒久対策事業を完工するよう要請を行いました。同社は平成27年7月30日までに恒久対策工事を完了させ、関東東北産業保安監督部へ特定施設の使用開始届を提出しました。
同社の実施した鉱害防止事業の内容については、表2-4-7-6のとおりです(表は省略)。

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