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平成29年度ぐんま緑の県民基金市町村提案型事業の評価
今年度は事業開始から3年目の箇所(平成29年度開始箇所)を第三者機関である「ぐんま緑の県民税評価検証委員会」に評価していただきました。
評価因子として、2つの視点(実績アンケートと効果アンケート)から補助事業者と市町村にアンケートを行いました。
アンケートについて
アンケートの種類について
1.実績アンケート
事業を実施した年度ごとに、補助事業者に対して行うアンケートで、事業が採択された計画どおりに実施されたかを尋ねています。
今回は、平成29年度と平成30年度に実施した箇所についてアンケートを実施しました。
2.効果アンケート(公共性と効果の可視化)
同一箇所の3年目に行うアンケートで、補助事業者と市町村に対して行いました。
公共性の判断のために事業の効果が地域に対して利益があったかを尋ね、効果の可視化により事業の波及効果があったかを尋ねています。
アンケートの集約方法について
アンケートは点数評価の(5段階評価と3段階評価)合計により、A判定、B判定、C判定に分類すると共に、自由に記載できるコメント部分を設け、判定因子としています。
- A判定:取組が特に優れており、模範となり得る
- B判定:現状の取組が充分である
- C判定:現状の取組には課題があり、改善が必要
アンケート結果による判定結果
事業名 | 箇所数 | アンケート結果による判定 | 備考 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
内訳 | A | B | C | 判定不能 | |||
荒廃した里山・平地林 | 65箇所 | 箇所数 | 39箇所 | 25箇所 | 1箇所 | 0 | |
構成比% | 60% | 38% | 2% | 0% | |||
荒廃した里山・平地林 【刈払機・粉砕機の購入】 |
4箇所 | 箇所数 | 3箇所 | 0 | 0 | 1箇所 | アンケート回答無しによる判定不能 |
構成比% | 75% | 0% | 0% | 25% | |||
貴重な自然環境の保護・保全 | 0 | 箇所数 | |||||
構成比% | |||||||
森林環境教育・普及啓発 | 4箇所 | 箇所数 | 4箇所 | 0 | 0 | 0 | |
構成比% | 100% | 0% | 0% | 0% | |||
森林の公有林化 | 3箇所 | 箇所数 | 3箇所 | 0 | 0 | 0 | |
構成比% | 100% | 0% | 0% | 0% | |||
独自提案事業 | 2箇所 | 箇所数 | 0 | 2箇所 | 0 | 0 | |
構成比% | 0% | 100% | 0% | 0% | |||
合計 | 78箇所 | 箇所数 | 49箇所 | 27箇所 | 1箇所 | 1箇所 | |
構成比% | 63% | 35% | 1% | 1% |
評価結果
市町村提案型事業【総括評価】
平成29年度開始の市町村提案事業は78事業となっており、全市町村から提案が出された。内容としては、「荒廃した里山・平地林」事業が65事業、全体の83.3%を占めた。
アンケート結果による判定結果では、A評価が63%、B評価が35%となっていることから、概ね初期の目的は達成できたものと評価できる。
全市町村から提案が出たことは、ぐんま緑の県民税が全県的に浸透していることを端的に示しているが、一方で住民の高齢化・若者の減少する中で、いかに活動を継続していくか、今後の重要課題として真剣に考えていく必要があると考える。
市町村提案型事業は、各市町村で地域の暮らしに密着した課題解決に、基金が有効利用され、地域の暮らしの安全・安心を支え、また景観維持、森林環境の改善の意識向上にもつながっている。地域の暮らしの中で必要とされる事業であることで、地域住民同士や他団体との交流が生まれ地域の活性化にもなっている。しかしその反面、ほとんどの地域で活動を支える人材の高齢化により、事業の継続や管理体制の維持が難しい傾向が見られ、その高齢化を補うための機械導入や指導者養成、若い世代との連携を生む方策が必要だと思われる。また、補助金の活用方法、申請手続きの簡略化など検討し必要な活動に関しては継続した事業が計画できるようにする必要がある。森林環境教育については、まだ取り組む地域が少ない。各地域で、その地域の森林環境を活かした森林環境教育が行われるよう各自治体の教育機関との連携を促す取り組みや事業の広報活動に力を入れる必要がある。
多くの市町村提案事業は、里山整備にあてられてきており、これまで整備の必要性を認識しながらも、その整備費用が得られなかったことから、ぐんま緑の県民基金への依存が高まったと言える。獣害が頻発している中で、居住空間に近い里山の整備は、住民の安全を守るためにも重要であり、ぐんま緑の県民基金によって整備が進められてきたことは評価できる。
その一方で、山村地域においては、集落レベルの高齢化が進み、集落の維持に限界が来ている集落も見受けられる。このことは、これまで山村の人々によって維持管理されてきた人工林の放置が進むこととなり、山林は災害に対する抵抗力を弱めることとなる。山村自治体においては、令和元年度から始まった国の「新しい森林管理システム」の地域的応用について、ぐんま緑の県民基金事業との関係において研究することが求められ、積極的な提案に期待したい。
荒廃した里山・平地林の整備についての評価
「地域で取り組むことにより、地域住民の連帯、協力が図られた。整備したことにより地域全体に、適正に管理することの意識が向上した。」といったA評価が60%、「里山が本来持っている快適環境形成や自然災害防止及び野生獣被害の低減など、地域住民の安全安心な生活環境の改善が図られつつある。」といったB評価が38%で、「刈払機・粉砕機の購入」についてもA評価が75%であり、初期の目的が達成されたものと評価できる。
一方、「困難地整備をしたわけであり、困難地を団体で管理するのは危険を伴うため、思うような管理ができない。補助金の大部分を業者委託しているが、業者委託で実施するには補助金が足りない」とのC評価が1件だがあり、今後、「金の切れ目が縁の切れ目」とならないよう、事業実施後に地域で管理できるような仕組みづくりや意識の高揚が求められる。また、多くの団体が挙げていた「地域住民の高齢化に伴い継続性が困難。管理団体の高齢化が進み、管理不足。」との課題は、これからの最重要課題として真摯に受け止めなければならないと考える。
しかし地域住民の高齢化により事業の継続や管理体制の維持が難しい傾向がほとんどの地域で見られ、その高齢化を補うための機械導入や指導者養成、若い世代との連携を生む方策が必要だと思われる。また、補助金の活用方法、申請手続きの簡略化などを検討し必要な活動に関しては継続した事業が計画できるようにする必要があると思われる。
利用者アンケートの回答結果を見ると、本事業69件の内42件(61%)の事業体で自らAランクを付け、Bまで含めると実に67件(97%)という結果だった。このことから、如何にこのメニューが各市町村で活用されているかが窺える。その際、本事業終了後における里山・平地林の維持管理・保全のあり方等も含めて考える必要がある。
今後の課題としては、竹林の除去等でせっかく整備された里山の維持対策が重要に思う。
竹林の繁茂にせよ、手入れの遅れた山林にせよ、そうなった経緯を考えると今後とも整備を継続することが大切である。粉砕機の購入等は、除去した竹や木の処理に不可欠なものであり、是非とも続けていただきたい。市町村により機械の維持管理に関する対応に多少の差異があるような話も聞いているので、誰もが活用しやすいような柔軟性のある対応を期待したい。
森林環境教育・普及啓発についての評価
各プログラムは、森林環境の季節的な違いや、それを構成する生き物を題材とした参加型プログラムで構成しており、幅広く森林に対する理解を深めることができ、「森林への関心が高まっている。」といったA評価が100%であり、初期の目的が達成されたものと評価できる。今後、参加した子供たちが森の中で自主的な活動が展開できるような事業を期待したい。
森林整備体験・自然観察会などの継続的な活動により、子ども達の森林に対する理解・意識向上、森の生物の多様性や希少な動植物の生息環境の重要性を学ぶ機会になっている。しかし、事業に取り組む地域が少ないので、県内各地でその地域の森林環境を活かした森林環境教育が行われるように、各自治体の教育機関との連携を促す取り組みや事業の広報活動に力を入れる必要がある。
事業数は少ないが成果は大きいと考える。今後進められる森林環境税において森林のない平地の自治体にも配分される譲与税を活用する意味からも環境教育・普及啓発への取り組みの下地を整える意義は大きいと言える。
森林の公有林化についての評価
事業数が3件と少なく評価しにくい点もあるが、「公有化により水源涵養機能推進に向けた第一歩を図れたと考えている。」といったA評価100%であり、初期の目的である「水源地域の森林の公有化する市町村の支援」は達成できたものと評価できる。
水源林の保全を目的に必要な公有林化が行われており、水源涵養機能維持に繋がっている。その後の管理をどう行うかが課題である。また、事業を行う場合、市町村の負担額も大きいことで事業数が限られてしまっているようだが、対象地域の市町村の意見を聞きながら、改善策を見いだすことが必要と思う。
・森林の公有化を設定したのは、外国資本による水源森林の買収に対応するためであった。こうした動きが見えない中で、とりわけ山村自治体においては、今後の山村振興の視点からも、森林の公有化について研究する必要性があるように思われ、積極的な提案に期待したい。
独自提案事業についての評価
東毛地域において、クビアカツヤカミキリによる主に桜への被害が出る中、ぐんま緑の県民税検証委員会では、被害拡大を防止するための薬剤注入費用に本県民基金を使用することを検討して、その使用を承認した。それに応じて、東毛地方の自治体より独自提案事業として提案され、本県民基金により被害拡大防止のための薬剤注入が実施された。こうした本県民基金の趣旨に沿った柔軟な対応は重要であり、評価できる。
ぐんま緑の県民基金事業は、林業不況により放置され、荒廃の進む人工林について、県民の命と財産を守り、災害に強い山林を形成し、水資源の確保を図るとの観点から条件不利地の人工林間伐を重点事業として進めながら、県民に身近な里山・平地林の整備にも市町村提案事業として取り組んで来た。今後は、引き続き、森林保全、里山整備を進めながらも、本県民基金の趣旨に沿いながらも、「緑」の意味を吟味して、事業の幅を広げていくことも検討されてもよい。そのためには市町村、群馬県では、森林、林業、自然環境保全などの面において、県民の理解と協力を得ながら改善、解決を必要としている地域的課題があるのかについてよく検討し、積極的な提案と取り組みに期待したい。