本文
土屋文明記念文学館の取組の検証結果についての答申
答申書
平成25年7月17日
群馬県知事 大澤 正明 殿
群馬県行政改革評価・推進委員会 委員長 佐藤 徹
群馬県公共施設のあり方検討委員会の答申を受けた土屋文明記念文学館の取組の検証結果について(答申)
本委員会に諮問された標記の件について、別紙のとおり答申します。
県におかれては、本答申を参考に、費用対効果をより高め、県民サービスの向上に努めてください。
また、今後、改善の取組を行う際は、期限を区切って検証し、自律的かつ持続的に更なる改善が図られていくよう求めます。
答申書別紙
群馬県公共施設のあり方検討委員会の答申を受けた取組状況の評価及び提言(土屋文明記念文学館)
1 施設の必要性について
公共施設のあり方検討委員会から求められた専門的な視点と県民の視点からの検討に対応するため、「文学館アドバイザー」や「県民の意見を聞く会」を設け、外部の意見を取り入れながら取組を進めており、入館者の回復、増加も見られる。
しかしながら、「県民の意見を聞く会」から求められている本県文学の中心施設としての役割を果たすことについては、具体的な方針が明示されていないなど、意見等が十分に反映しきれていない点もあることから、今後も更にこれらが反映できるよう努めながら、継続して取り組んでいく必要がある。
また、これらと併せ、施設運営に対して多くの県費負担が生じている状況を踏まえ、費用対効果の面から管理運営費の更なる削減や施設の機能等について検討する必要がある。
館名変更については、設立時の経緯等もあり、慎重な検討が必要であるが、「総合的な文学館」であり、本県文学の中心施設であることが、県民をはじめ利用者に理解されるように工夫・努力する必要がある。館名変更の検討スケジュールを具体的に明示した上で、積極的に検討していくべきである。
2 管理運営方法について
企画展示については、夏休み期間中は子どもとともに来館できるテーマを選定したり、群馬県ゆかりの文学を中心とした様々なジャンルに目を向けるなどの工夫に努めるとともに、移動展を開催することにより館内にとどまらない活動にも取り組んでいる。今後は、単に展示し、見せるだけの企画に留まらず、体験・参加型の企画を取り入れ、文学の楽しさを体感できる工夫を行うなど、県民ニーズを的確に捉えた更なる取組が必要である。
また、ボランティアの積極的な活用や数値目標を設定した効率的な管理運営に取り組んでいるが、今後は、民間委託の拡大を図るとともに、企画運営等における文学に精通した人材の活用や充実度、満足度などを指標化して取組むことを検討するなど、更に効率的・効果的な運営に向けた努力が必要である。
3 管理運営主体について
高崎市や近隣施設等との連携の効果は、十分に発揮されているとはまだ言えないが、地元自治会や他施設との連携は、運営の活性化にもつながり、地域に根ざした施設としての存在感も高まるため、今後も積極的に推進すべきである。特に、他の美術館・博物館等の教育施設や観光施設等との連携を深めるとともに、他県の施設等と連携した共通の企画展(巡回展)の開催など相乗効果を高める施策を展開することが期待される。
また、運営の効率化という側面からも、情報共有や管理業務の共通化などについて検討すべきである。
指定管理者制度については、学芸業務などの専門性の確保等についての課題も踏まえつつ、既に制度を導入している文学館において効果的に管理運営されている事例を十分調査し、今後も検討されたい。
(参考1) 委員会での主な意見
1 施設の必要性に係る取組について
外部の視点を取り入れた取組について
- 「公共施設のあり方検討委員会」からの提言に沿って、企画展や各種イベントにおける努力を通して入館者数が増加している点については評価できる。今後も魅力ある企画展等の開催や学校等の団体利用の促進を図るとともに、PRにも努め、更に取組を拡大し伸ばしていく必要がある。
- 「文学館アドバイザー」や「県民の意見を聞く会」からの提言の反映は、まだまだ道半ばであり、更なる努力が必要である。
- 「県民の意見を聞く会」からの意見に「本県文学の中心施設としての役割を果たせるよう」とあるが、その具体的な役割が明示がされていないことから、文学館としての価値を明文化し、県民に示す(問う)べきである。
今後の施設のあり方について
- 文学館は、文学(人生)を深く読み取る、深く楽しむためのヒントをくれるような、双方向コミュニケーションの体験型施設であってもらいたい。
- 地域活性化にも繋げていくため、地域の多様な人々が集まり、学習活動を始め様々な活動が自由に、また多様に展開されるという公民館的な機能の付加も検討してはどうか。
- 文学資料の収集・保存は県が担う公の機能として必要だが、年間1億円以上の県民負担が生じており、費用対効果の面から文学館の必要性や管理運営費の大幅な削減について再度突き詰めて考える必要がある。例えば、この施設は高崎市に譲渡し、県の担う機能としての資料の収集・保存は文書館で、展示普及は美術館や昭和庁舎で行うことも可能である。
館名変更について
- 館名については、土屋文明だけの展示館・文学館ではないという意味で、たとえば「土屋文明記念群馬県文学館」等と本県文学の拠点としての普遍性を併せ持った名称に変更する方がよいと思う。
- 群馬県民の文学的教養を高めるための先駆者的な位置付けを文学館に求めるのであれば、「土屋文明」というネーミングにこだわる必要性はないと考える。
- 強い意志を以て設立された施設であり、設立の大義名分を引き継ごうとする気合も感じられ、簡単に名称を変える必要性を感じない。
2 管理運営方法に係る取組について
企画展示や移動展の取組について
- 答申に対する取組状況はアイデアにあふれており十分に評価できる。坂口安吾、北杜夫など一般人にも名の通った企画展示に対しては多くの来客が期待できるが、それほど知られていない作家の場合は多くの観覧者は期待できないため、更なるアイデアを出して増加を図ることが必要である。
- 将来的にも右肩上がりに観覧者の増加を望むべきものではなく、どの程度の観客があれば十分なのかは研究が必要である。
- 著名な人物を企画展示すれば来館者が多少増えるのは当然である。そもそも「展示(見せるのみ、聞くのみ)」ということが、現在の県民のニーズと時代に合っていないと思う。映像世代の子供からアクティブシニアまで多くの県民は、体験・参加を好んでおり、文学の楽しさを様々の形で感じてもらう企画が、お金をかけずともできる。昔からの既成概念から抜ける必要がある。
- 地理的・実感的に来館できない人々にも文学を広めるのが重要な使命の一つであり、館外活動を評価し、より良い活動に繋げてほしい。
- 移動展について、文学館を抜け出した点では評価できるが、「見せるのみ」の移動展には、企画展示同様、工夫が必要。「小学生の短歌教室」などの参加型を、より一層増やすのが良い。中高年の脳トレのためにも「大人のための参加型教室」などを行うのが良い。
目標管理による取組について
- 数値目標を定めて参加者数の増加を図っている点は評価する。群馬県民の文学に対する関心や興味がたかまれば、「文学館」の存在価値が認められると思われる。
- 一般企業では、目標と予算の設定を行い、成果として費用対効果で評価している。当文学館の事業計画において、活動指標と成果指標を作成しての取組みは今後さらに改善してほしい。
管理運営コストの削減について
- 県が運営している以上、人件費等のコスト削減は難しいと思われるが、全国各地の美術館・博物館、教育施設等と連携し、企画展の共通化や持ち回り化などを行うことによるコスト削減などを検討する必要がある。
ボランティアの活用や職員体制について
- ボランティアの活用については充分に評価できる。代替戦力化しても職務の質やサービスの低下が生じないものについては、民間機関への委託など更なる合理化を検討すべきである。
- 例えば、県内の文学研究の有識者にボランティアで名誉館長に就任していただくのも一案かと思う。
その他管理運営について
- 敷地にかなり余裕があると思うので、思い切って規模拡大をして、内容の充実を図れないものだろうか。
- 文学館と美術館をコラボして、美術館に行ったついでに文学館もとか、県民に関心を持たれる設備を充実してほしい
- 個々の項目について、改善していることについては、当然、評価するが、本文学館の問題の本質は、館全体としてのあり方の抜本的な見直しであり、「公共施設のあり方検討委員会」の答申に基づく取組状況の評価に加え、更に抜本的な観点からの検討が必要であると考える。
3 管理運営主体に係る取組について
高崎市や近隣施設との連携について
- 近隣施設等との連携の効果は、大きな成果が出たとは言えないが、今後も情報交換を習慣付け、共通の項目に着目することで相互の交流を進めていく必要がある。また、複数の施設による専門スタッフの共通化を図ることも、情報の共有化や交流の活性化の観点から有効と考える。
- 本県の公共施設は遠隔・分散しているが、システム的にネットワーク化して業務の効率化を進めることで、情報システムを活用した入館者サービスや総務、庶務など共通の事務における共同管理などを検討すべきである。
- 地域に密着した自治会、公民館との連携・活用は、運営に対する理解・運営促進につながると考える。連携をもっと広げ、存在のアピールに繋がるよう取り組んでほしい。
指定管理者制度について
- 指定管理者制度について、情報を収集し、他県の状況を把握していることについては、一定の進捗であると考える。
- 当館の任務は専門性が高く、館の使命を維持継続できる指定管理者の選任は、大変難しいと考える。
- 現在、県の文学に関する中心施設としての機能の改善・充実に努めているところであり、PDCAを回す(常に第三者の視点でチェックを行う)ことで館の使命が果たせているか否かの判断をした上で、指定管理者制度の活用を検討してはどうか。
- 全国の都道府県立文学館においても、既に半数が指定管理者制度を導入しており、慎重に検討を続けるだけでは状況が進展しないと考える。既成概念を取り払い、情報収集のみならず、更に踏み込んだ検討をすべきである。
(参考2) 公共施設のあり方検討委員会答申後の土屋文明記念文学館の取組状況
専門的視点からの検討:「文学館アドバイザー」の設置
平成23年度は、文学の専門家(3名)を「文学館アドバイザー」に委嘱し、文学館の展示のあり方や運営等について専門的な視点から提言を受けた。
提言内容:常設展示の定期的な展示替え、「群馬ゆかり」と「全国・現代」を結びつけた展示、文学のジャンルを超えた展示企画など。
県民の視点からの検討:「県民の意見を聞く会」の設置
文学館機能をより発揮させる観点から、現状を分析し、今後の施設の役割や運営について県民から幅広い意見を聞くため、平成22年度に「県民の意見を聞く会」を開催し提言を受けた。
提言内容:本県文学の中心施設としての役割を果たすべき、館名変更については慎重に検討すべき。(土屋文明の名前を使用しないという意見はなし。)
入館者数の増加
21年度実績 22,624人 から 24年度実績 32,637人(25年3月17日時点) に増加
企画展示
企画展示の5カ年計画を策定、予算額にメリハリをつけた企画展を計画。
移動展
県文学の中心施設としての役割(地域文化施設の支援)を果たすため、県内の文学館・資料館等で移動展を開催。図書館、学校、病院などの施設でも簡易展示を実施。
教育普及事業
学校連携事業、夏休み子ども向けイベント、自主学習会など、県民の文学への理解を深めるための事業を実施。
職員体制の見直し
嘱託職員を1名削減することにより、人件費の圧縮を図った。
ボランティアの積極的な活用
22年度登録者数 102人 から 24年度登録者数 226人(25年1月末時点)に増加
高崎市との連携強化
土屋文明記念文学館は、高崎市の歴史公園内にあることから、市と協議し、公園内の清掃・除草等の管理運営を充実(不定期から日常的な管理運営へ)させた。
近隣文化施設との連携
近隣の「かみつけの里博物館」と「日本絹の里」と連携し、三館共通イベントカレンダーの作成・配布、三館スタンプラリー、相互見学会などを実施。
三館スタンプラリー参加者 23年度参加者 477人 から 24年度参加者 779人に増加 ※参加者は三館すべてを観覧した人数
歴史公園内のイベント参加
ぐんま「はにわの里」夏まつり、かみつけの里古墳祭りに参加。
指定管理者制度について
他県での導入・活用状況について、全国文学館協議会や個別調査等により情報収集に努めた。
施設区分 | 施設数 | 備考 | |
---|---|---|---|
直営施設 | 6施設 | ||
指定管理者制度導入施設 | 全業務導入施設 | 5施設 | 以前から財団等に管理委託。地方自治法改正による指定管理者制度創設に伴い移行。 |
一部導入施設 | 2施設 | 学芸業務を除く管理運営業務のみ。 | |
計 | 13施設 |
(参考3) 公共施設のあり方に関する最終報告書における答申内容(平成21年10月23日)
1 施設の必要性について
設置目的は失われておらず、施設を継続することが適当であるが、入館者数がピーク時から半減し、観覧者数は年間1万人に達していない状況にある。
館名から個人文学館のイメージが強いが実態は総合的な文学館であり、その機能を高め、また、利用者増加を図るため、館名変更を含めて、文学館のあり方について専門的視点及び県民の視点から検討する必要がある。
2 管理運営方法について
- 本施設に対して県民が求めるサービスを再検討し、施設の位置付けを明確にした上で、提供するサービスについて重点化していく必要がある。
- 職員体制(嘱託を含む)について、入館者数や業務内容も踏まえた分析・見直しを行う必要がある。その際には、ボランティアの積極的な活用も検討されたい。
3 管理運営主体について
- 歴史公園内に位置しており、公園全体としての機能を発揮させる観点から、施設相互の連携方法等について、高崎市とよく話し合いをする必要がある。
- 県直営による管理運営が適当と考えるが、民間のノウハウを活用する観点から、指定管理者制度について、他県での導入、活用状況など、情報収集に努められたい。