本文
我が国は、本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎える中、地方から都市への人口流出が続き、地方の活力が低下して里地里山など身近にある良好な自然環境が、年々失われています。
地方では、地域社会が弱体化して環境保全の取組にも影響が出ています。例えば、農林業の担い手の減少により、耕作放棄地や手入れが不十分な森林が増加したことと併せて、捕獲の担い手である狩猟者の減少等により野生鳥獣被害が深刻化しています。さらに、国土保全機能の低下等による自然災害発生リスクの高まりや、生物多様性の危機にもつながっています。
また、近年、国内外で異常気象が発生しており、国内では気温の上昇や、豪雨の頻発、熱中症リスクが高まるなど、気候変動とその影響が全国で見られ、さらに拡大するおそれがあります。
このように、今日、環境問題は大きく変容しています。気候変動やプラスチックごみによる海洋汚染など、地球規模の危機であると同時に、私たちの生活とも密接に関わり、環境・経済・社会の課題が相互に連関し、複雑化してきているのです。私たちは、これらの問題から影響を受けるとともに、その原因者でもあるため、自らが各地域において問題に取り組まなければなりません。
人間の様々な活動に伴う地球環境への負荷は増大の一途をたどり、私たちの生存基盤は、存続の危機に瀕しています。こうした危機感を背景にして、2015(平成27)年に「持続可能な開発目標(SDGs)」と「パリ協定」が採択されました。持続可能な社会を実現するために世界が大きな転換点を迎えたといえます。
次に、持続可能な社会を実現する上で重要な役割を担う「パリ協定」と「持続可能な開発目標(SDGs)」について概観します。
2013(平成25)年9月から2014(平成26)年11月にかけて出された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)*1の第5次評価報告書では、「1880年から2012年の132年間に世界の平均地上気温は0.85度上昇した」、「最近30年の各10年間の世界平均地上気温は1850年以降のどの10年間よりも高温である」、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」、「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い」ことが示されました。
我が国でも、平均気温が1898(明治31)年以降、100年当たりおよそ1.21度の割合で上昇しており、これは世界の平均より進行が速いといわれています。
このまま温暖化が進行すると、世界各地でさらに様々な影響や被害が発生することが危惧されます。
国際社会は、地球温暖化防止に向けて、2015(平成27)年にパリで開かれた「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」締約国会議(COP21)において、史上初めて全ての国が参加する国際的な枠組み「パリ協定」を採択し、2016(平成28)年に発効しました。
「パリ協定」では、途上国を含む全ての国を対象として、2020(令和2)年以降の世界共通の長期目標として、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べ、2度未満に抑えることを保ち、1.5度未満に抑える努力をする」ことを掲げています。その中で、各国に2020(令和2)年までに、長期の温室効果ガス低排出発展戦略の提出を求めており、公平性と実効性を担保するための5年ごとの世界全体の実施状況の確認・評価なども規定しています。
*1 1988(昭和63)年に、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包
括的な評価を行うことを目的として、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織のこと。
我が国では、「パリ協定」を達成するため、2015(平成27)年の「日本の約束草案」で、2030(令和12)年度の温室効果ガス排出量を2013(平成25)年度比で26%削減する中期目標を決定し、これを踏まえ2016(平成28)年に「地球温暖化対策計画」を策定して、2050(令和32)年までに80%削減する長期目標を掲げました。
気候変動対策では、温室効果ガス排出量を削減する「緩和策」と、気候変動の影響による被害を回避・軽減する「適応策」を車の両輪として進めていく必要があります。そこで、2015(平成27)年に「気候変動の影響への適応計画(2015年適応計画)が閣議決定され、その後、法制化や適応策の法的位置付けの明確化を求める声を受け、2018(平成30)年6月に「気候変動適応法」が施行されました。
現在、同法に基づき、2018(平成30)年11月に閣議決定された「気候変動適応計画」の下で、「農業、森林・林業、水産業」、「水環境・水資源」、「自然生態系」、「自然災害・沿岸域」、「健康」、「産業・経済活動」及び「国民生活・都市生活」の7つの分野について、森林の整備等による山地災害の防止や雨水・再生水利用の推進、気温上昇と感染症の発生リスクに関する科学的知見の集積などの取組が進められています。
本県では、温室効果ガス削減の取組を進めるため、「群馬県地球温暖化対策実行計画」を定め、2020(令和2)年度における県内の温室効果ガスを、基準年度(2007年度)比で14%削減することを目標に掲げて対策に取り組んでいるところです。
気候変動への対応としては、緩和策と適応策とを並行して進めることが重要であることから、2016(平成28)年11月に、気候変動により影響を受けると考えられる分野を所管する県庁内の関係所属で構成する「気候変動影響評価・適応策検討会」を設置して、情報共有や意見交換等を行っています。
次期「群馬県地球温暖化対策実行計画」では、県内における気候変動とその影響や将来予測等を踏まえ、気候変動適応法に基づいた、本県における気候変動への適応策も盛り込む方向で検討しています。
SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」は、2015(平成27)年9月に国連持続可能な開発サミットにおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核をなす国際目標で、2030(令和12)年までに先進国を含む全ての国が取り組むこととされています。
SDGsは、17の目標で構成されており、水と衛生、クリーンエネルギー、持続可能なまちづくり、気候変動、海洋資源や陸上資源など環境そのものの課題や、環境と密接に関わる課題が数多く含まれています。
SDGsの目指す「持続可能な開発」という概念は、「環境保全と経済発展は対立するものではなく、両立し、相互に支え合うもの」という考え方であり、SDGsは、持続可能な開発を経済・社会・環境の3つの側面において、バランスがとれ統合された形で達成することを目指すものです。
政府は、2016(平成28)年5月に、内閣総理大臣を本部長、全大臣を本部員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を内閣に設置し、同年9月に「SDGs推進円卓会議」を開催、同年12月に「SDGs実施指針」を決定しました。
「SDGs実施指針」では、8つの優先課題として、1あらゆる人々の活躍の推進、2健康・長寿の達成、3成長市場の創出、地域活性化、科学イノベーション、4持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備、5省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会、6生物多様性、森林、海洋等の環境の保全、7平和と安全・安心社会の実現、8SDGs実施推進の体制と手段、を定め、2019(平成31)年を目途に最初のフォローアップを行うこととしています。
また、政府は、SDGs達成に資する優れた取組を行っている企業や団体を表彰する、ジャパンSDGsアワードを実施しています。
本県の環境のあるべき姿や目標を示し、その達成に向けて計画期間内に取り組む施策を明らかにしている現行の「群馬県環境基本計画2016-2019」において、SDGsという言葉は用いていないものの、メインテーマ「豊かで持続的に発展する環境県群馬を目指して」は、SDGsの考え方に合致しています。
現在、県では、目標達成に向けて「地球温暖化の防止」、「生物多様性の保全・自然との共生」、「森林環境の保全」、「生活環境の保全と創造」、「持続可能な循環型社会づくり」、「全ての主体が参加する環境保全の取組」という6つの施策分野ごとに各種の事業を展開しています。これら施策分野は、いずれもSDGsの目標に当てはまるものであり、この観点から、本県における環境政策はSDGsの考え方に沿っているということができます。
また、次期群馬県環境基本計画においても、SDGsをはじめとする新たな視点や知見を踏まえて策定作業に取り組んでいきます。
環境省(2019)「令和元年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」<外部リンク>
(http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/pdf.html)
環境省(2018)「平成30年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」<外部リンク>
(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/index.html)
環境省(2017)「平成29年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」<外部リンク>
(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/index.html)
環境省(2016)「地球温暖化対策計画」(PDF:1.70MB)<外部リンク>
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/onntaikeikaku-zentaiban.pdf<外部リンク>)
平成29年度における本県のごみ(一般廃棄物)の総排出量は717千トンで、県民一人一日当たりに換算すると986gです。これまで県民や事業者の皆さん、そして市町村とも連携してごみの減量化に取り組んできた結果、総排出量は平成18年度から11年連続で減少しており、県民一人一日当たりの排出量もほぼ毎年減少しています。
県総合計画では、令和元年度(2019年度)の県民一人一日当たりの排出量を913g以下に減らす目標を掲げています。また、全国平均の920gに比べ、66g多いことから、より一層の取組の強化が必要です。
県民一人一日当たりのごみ排出量は減少傾向にありますが、平成29年度は全国で8番目に多いという結果でした。
ごみを家庭から排出される「生活系ごみ」と事業所から排出される「事業系ごみ」に分けてみると、「事業系ごみ」の排出量は全国でも5番目に少なく減量化が進んでいますが、「生活系ごみ」の排出量は全国で最も多くなっています。
(1)生ごみ等の排出抑制
平成29年度に県内の焼却施設で受け入れた可燃ごみは、生ごみが35.4%と最も多く、次いで紙・布類が32.7%を占めていることから、ごみの減量化には、生ごみと紙・布類の一層の排出抑制が必要です。
(2)さらなる広報啓発
平成30年度に実施した「循環型社会づくりに関する県民等意識調査」の結果によると、本県のごみの排出量や全国における順位を「知らない」又は「あまり知らない」と回答した人の割合は約75%でした。(平成26年度調査(約84%)に比べ9ポイント改善)
ごみの減量化には、循環型社会づくりの担い手である県民の皆さんに現状を認識していただき、ライフスタイルを変革していただくことが不可欠なため、より一層の広報啓発が必要です。
可燃ごみの3割ずつを占める生ごみの排出抑制と紙ごみの再資源化の推進など、県民や事業者の皆さん、市町村と連携協力し、より一層のごみ減量化に取り組みます。
県民の皆さんには、従来からお願いしている「食べきり・使いきり・水きり」(3きり運動)に加え、宴会などでの食べ残しを減らす「30・10(さんまる・いちまる)運動」の実践を市町村と連携し、各種広報媒体を活用して呼びかけていきます。
生ごみのさらなる減量のため、生活に密着した活動団体(コープぐんま)と協働し、普及啓発事業や調査研究事業を実施します。
生ごみの減量や食品ロスの削減を図るため、飲食店、宿泊施設や食料品小売店を対象に、食べ残しや売れ残りを削減する取組を実施する店舗を「ぐんまちゃんの食べきり協力店」として登録し、消費者の皆さんに利用を呼びかけていきます。(平成30年度末348店舗)
また、市町村と連携して協力店の開拓や制度のPRをしていきます。
さらに、食べきりのライフスタイルが浸透していくよう、タウン誌と連携し、特典を提供する食べきり協力店を新規開拓します。(令和元年度目標500店舗)
県植樹祭やぐんまマラソンなど県主催の事業等においてリユース食器を活用することを通じて、引き続きリユース食器の理解促進と利用拡大に取り組んでいきます。また、市町村のイベントにおいてもリユース食器の積極的な活用を図ります。
資源再生事業者と連携し、紙ごみの新たな回収体制を構築するための社会実験を実施します。
近年、「外来種」「外来生物」による生態系などへの影響が話題を集めています。
外来種と外来生物は同じように使われていますが、実は違いがあります。
外来種は、もともと生息していない地域に、人間の活動によって持ち込まれた生物のことです。外来種というと海外から日本に持ち込まれた生物と思われがちですが、国内の他の地域から本来生息していない地域に持ち込まれたものも該当します。例えば、カブトムシは、現在日本各地の野外で見られますが、本来の生息地は本州以南であり、北海道に生息するものはペットとして持ち込まれたことに由来する外来種です。
一方、外来生物は、法律上「海外起源の外来種」を意味しています。日本で見られる外来生物は、確認されているだけで約2,000種にのぼります。明治以降、人や物の移動が盛んになり、多くの動植物がペットや食用、研究などの目的で輸入されたほか、荷物などに紛れ込んで持ち込まれたものも多くあります。これらの動植物は、意図的・非意図的の違いはありますが、人間の活動に伴って日本に入ってきています。
すべての外来生物(外来種)が生態系などに影響を及ぼすわけではありません。しかし、長い時間をかけて独自のバランスで成立している生態系が、外来生物(外来種)の侵入によってそのバランスが崩れ、深刻な影響が発生している事例もあります。
こうした状況を背景に、平成17年6月に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)が施行されました。
外来生物法では、外来生物の中でも特に生態系、人の生命・身体や農林水産業に被害を及ぼすおそれのある生物を「特定外来生物」に指定し、許可なく飼育・栽培・保管・運搬・輸入・野外へ放つことなどを禁止しています。
県内でも、アライグマやオオクチバス、オオキンケイギクなどの特定外来生物が侵入しており、生態系等に被害を及ぼしています。
中でも、近年、本県や周辺都県で大きな問題となっているのが「クビアカツヤカミキリ」です。
クビアカツヤカミキリは中国などを原産とする外来昆虫で、平成30年1月に特定外来生物に指定されました。この虫の幼虫は、サクラやウメ、モモなどの木の中を食い荒らすことから、観光資源や農作物に被害を及ぼします。被害が進行すると被害木は枯死してしまい、倒木などにより人身や建物の被害が発生するおそれもあります。
県内では、平成27年に館林市で初めて確認されて以降、サクラを中心に被害が拡大しており、平成30年度には太田市、館林市、邑楽郡の計7市町で発生が確認されています。
このように被害が拡大している要因は、高い繁殖力に加えて、幼虫が木の内部にいるため発見や駆除が難しいことが挙げられます。
幼虫が寄生した木からは、「フラス」と呼ばれる木くずとフンの混ざったものが大量に排出されます。成虫やフラスを侵入の初期段階で発見し、駆除することがクビアカツヤカミキリによる被害拡大を防止するカギであり、課題です。
県では、早期発見・早期駆除を呼びかけるため、チラシや県のホームページなど様々な広報媒体を通じて啓発を行っています。また、被害状況を把握するため、平成29年度から県内全市町村で被害状況調査を実施しています。
平成30年度からは、効果の高い農薬登録試験や、被害が多い邑楽館林地域の市町と協力し、被害木の伐採や農薬等による防除対策に
も取り組んでいます。
今後も引き続き、国や関係都県、市町村等と連携して対策に取り組むとともに、クビアカツヤカミキリによる被害の実態や防除方法
について広く周知し、被害の拡大防止を図ります。
森林には、地球温暖化防止をはじめ国土保全や水源涵養、快適な生活環境の創出など多くの公益的機能があり、国民一人一人がその恩恵を受けています。森林がその機能を充分に発揮するためには適切な森林整備が必要です。しかし、森林整備を進める上で、所有者の経営意欲の低下や所有者不明森林の増加等が大きな課題となっています。
このような中で、パリ協定の枠組みにおける我が国の温室効果ガス排出削減目標を達成し、頻発する集中豪雨による大規模な土砂崩れや洪水・浸水などの災害を防止するためには、森林整備等に充てる地方財源を安定的に確保する必要があることから、国民の皆さんで森林を支える仕組みとして「森林環境税」が創設されました。
「森林環境税」は、国民から税をいただく「森林環境税」と、これを森林の整備等を実施する市町村等に配分する「森林環境譲与税」の2つの制度で構成されます。
「森林環境税」は、国税として1人年額千円を個人住民税均等割に上乗せして、2024(令和6)年度から課税することとされています。「森林環境譲与税」は、森林現場の課題に早期に対応する観点から、「森林経営管理制度」のスタートに合わせ、課税に先行して2019(令和元)年度から譲与が開始されます。
「森林環境譲与税」は、市町村においては、間伐や人材育成・担い手の確保、森林の有する公益的機能に関する普及啓発、木材の利用促進等に充てられます。
また、都道府県においては、森林整備を実施する市町村の支援等に充てられます。
適正な使途に用いられることが担保されるよう、市町村等は「森林環境譲与税」の使途について、インターネットの利用等の方法により公表することとされています。
本県では、「森林環境譲与税」について、「群馬県森林環境譲与税基金」に積み立てることにより、使途の透明性の確保及び柔軟な予算執行を図るため、専任職員を配置して市町村が実施する森林整備を支援します。
林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るため、2019(平成31)年4月に「森林経営管理法」が施行され、「森林経営管理制度」がスタートしました。
この制度のポイントは次の4つです。
このような市町村が行う森林整備等の財源として、「森林環境譲与税」を充てることが可能です。
森林の整備はこれまで県が主体となって推進してきましたが、「森林経営管理制度」では、市町村が主体となり、所有者意向調査、森林現況の把握、経営管理権集積計画の作成等を実施します。しかし、多くの市町村では、森林整備に関する知識や経験の蓄積が少ない、林業の専任職員が少ないなどの課題があるため、森林経営管理制度を円滑に運用する体制を整える必要があります。
県では、「森林経営管理制度」が円滑に進むよう、「森林環境譲与税」を活用し、次の取組により市町村を支援します。
最新技術により既存の森林情報を解析・高度化し、市町村へ提供します。
市町村林務担当者等を対象に森林・林業の知識・実務能力の向上及び地域林政アドバイザー※1の対象となる有資格者の養成を目的とした研修を実施します。
森林整備を進める上で、人材育成・担い手の確保は喫緊の課題です。このため、県立農林大学校内に人材育成・担い手の確保の拠点として「ぐんま林業実践学校(仮称)」を設置する準備を進めています。
*1 地域林政アドバイザー制度は、市町村が、森林・林業に関して知識や経験を有する者を雇用することを通じて、市町村の森林・
林業行政の体制支援を図るものです。