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富山県で発生したイタイイタイ病(*注1)についての厚生省(当時)の考え方が、昭和43年5月に発表され、カドミウム(*注2)による環境汚染問題が全国的に注目されました。本県でも、碓氷川・柳瀬川流域が、調査研究の対象地域とされました。
同年、県と国との共同で碓氷川・柳瀬川流域にある東邦亜鉛(株)安中製錬所の排出水、同流域の河川水や川底の泥・砂、井戸水、水稲及び土壌等のカドミウム汚染に関する調査を行いました。この結果から、厚生省は昭和44年3月「カドミウムによる環境汚染に関する厚生省の見解と今後の対応」を発表し、碓氷川・柳瀬川流域を「要観察地域」に指定しました。それ以来、東邦亜鉛(株)安中製錬所の発生源調査及び発生源対策、同製錬所周辺の環境保全対策、住民保健対策、農作物対策等を行っています。
カドミウム、硫黄酸化物等の鉱害防止施設設置による改善対策の結果、現在では、排出濃度が排出基準(*注3)を大幅に下回っています。
住民が会社に対して行った損害賠償請求については、昭和61年9月に裁判での和解が成立し、両者の間で公害防止協定が締結されました。
その後、協定に基づき、原告団及び弁護団等による製錬所への立入調査が行われ、平成3年4月には、会社と旧原告団等との間で、協定書に定めた事項の完了について確認書が取り交わされました。併せて、新たな公害防止協定が締結され、現在も3年ごとに継続して協定が締結されています。
東邦亜鉛(株)安中製錬所周辺の大気汚染及び水質汚濁の状況を知るため、環境調査を行いました。
ア 浮遊粒子状物質(SPM)中のカドミウム
4地点で毎月試料を採取し、カドミウムの濃度を測定しています。各地点における空気1平方メートル中のカドミウム量の測定結果は、表2-4-7-2のとおり(表は省略)です。過去5年間の年平均値と比較して大きな変化は見られませんでした。
(*注1)イタイイタイ病:富山県神通川流域に発生した腎病変と骨軟化症などを合併する病気です。身体中の骨がゆがんだりひびが入ったりして、患者が「痛い、痛い」と訴えることから、イタイイタイ病と命名されています。この病気は、神通川上流の三井金属鉱業(株)神岡鉱業所が排出したカドミウムが原因となって腎障害、骨軟化症をきたし、これにカルシウムの不足などが加わり発症すると考えられています。
(*注2)(カドミウム:やや青みを帯びた銀白色の金属で、亜鉛鉱物に伴って少量産出します。主な発生源は、亜鉛冶金工場、カドミウム製錬工場などです。体内に蓄積され、主に腎機能障害が生じる可能性があります。
(*注3)排出基準:「大気汚染防止法」において、ばい煙発生施設の排出口から大気中に排出されるばい煙の許容限度をいいます。「水質汚濁防止法」では排水基準、「騒音規制法」・「振動規制法」では規制基準といいます。
(*注4)公害防止協定(環境保全協定):地方公共団体と企業、住民団体と企業などの間で、公害防止(環境保全)のために必要な措置を取り決める協定のことをいいます。公害規制法を補い、地域の特殊性に応じた有効な公害対策を弾力的に実施できるため、法律や条例の規制と並ぶ有力な公害防止(環境保全)上の手段として利用されています。
イ 降下ばいじん
東邦亜鉛(株)安中製錬所のばい煙発生施設等から排出されるばいじんによる汚染状態を把握するため、発生源近くの4地点にダストジャーを設置し、自然にあるいは雨によって降下してくるばいじんの総量及びばいじん中のカドミウム量を調査しています。比較のために太田市でも同様に測定しています。
安中市の測定結果は、過去5年間は、概ね横ばいですが、対照地点(太田市)に比べてカドミウムの降下量が多いことから、引き続き監視していきます。
水質調査は、烏川・碓氷川・柳瀬川の利水地点等の8地点及び東邦亜鉛(株)安中製錬所排水口2地点の計10地点において実施し、碓氷川の七曲橋並びに柳瀬川の柳瀬橋及び下の淀橋では毎月、その他の地点では年2回実施しました。
平成29年度の水質調査結果では、全ての地点で排水基準及び河川の環境基準に適合していました。
過去5年間に実施した調査のカドミウム及び亜鉛濃度の最大値、最小値及び平均値は、図2-4-7-1及び図2-4-7-2のとおり(図は省略)です(実施年度、調査地点により年間の調査回数が異なります)。平成24年度の柳瀬川(下の淀橋)のみ、カドミウムが環境基準(基準0.003mg/リットルに対し、最大値0.0090mg/リットル、平均値0.0073mg/リットル)を超過しました。平成24年度以降は、柳瀬川のカドミウムは低下傾向です。
また、底質調査は、水質調査地点のうち排水口2地点を除く8地点において、年2回実施しました。過去5年間に実施した調査のカドミウム及び亜鉛濃度の最大値、最小値及び平均値は、図2-4-7-3及び図2-4-7-4のとおり(図は省略)です。
要観察地域等の住民を対象とした健康調査を、平成12年度まで延べ11,027人について実施しましたが、健康被害が疑われる人はいませんでした。
碓氷川・柳瀬川流域については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和47年4月にカドミウムに係る農用地土壌汚染対策地域として、118ヘクタールの農用地を指定しました。
以降、昭和48年2月に11.66ヘクタール、昭和49年3月に4.42ヘクタールを追加し、合計で134.08ヘクタールが対策地域となりました。
指定地域の汚染の防止及び有害物質の除去については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和47年8月に対策計画を定め、昭和51年3月及び昭和53年6月に追加指定した農用地を含めた計画に変更しました。
昭和47年から50年まで農用地土壌汚染対策計画に基づき、公害防除特別土地改良事業を実施しました。
有害物質は10.20cmの排土及び客土により除去し、事業面積は85.1ヘクタールとなりました。
なお、事業費は769百万円となり、このうち75%を「公害防止事業費事業者負担法」に基づき事業者(汚染原因者)が負担しました。
県では、公害防除工事の効果を確認するために、指定地域内の農用地の土壌中の有害物質について継続して調査を行っています。
また、関係市や生産者団体では、コメ中の有害物質について、継続して調査を行っており、安全性を確認しています。
有害物質の除去や工場や住宅等、農用地以外に土地利用が変更される等、指定の要件を満たさなくなった場合は、指定地域の解除を行うことができます。
こうした農用地について、昭和58年3月に105.20ヘクタールの農用地土壌汚染対策地域の指定を解除しました。
指定の解除により平成29年度末の指定面積は28.88ヘクタールとなっています。
農用地土壌汚染対策計画の策定から40年あまりが経過しており、農用地の利用状況は計画策定時と大きく変わっています。
このため県では、未解除となっている農用地の土壌等調査や、土地所有者等の意向の確認を継続して行い、この結果に基づき、対策計画の見直しを行うこととしています。
渡良瀬川流域では、明治時代以来、足尾鉱山や足尾製錬所などからの排出水や鉱泥等によって、田畑は汚染されてきました。戦後になると、農家の石灰散布による酸性中和の努力や、鉱山施設の改善、土地改良事業などによって、被害が軽減する傾向にありました。
しかし、昭和33年5月に源五郎沢堆積場が崩れ、金属の精錬かす等が流出し、再び水稲や麦などの作物に大変な被害が発生しました。この被害に対し鉱毒根絶の運動が再燃し、同年8月には「渡良瀬川鉱毒根絶期成同盟会」が結成されました。
県は、昭和27年から銅(*注5)対策として各種の調査などを行ってきましたが、昭和45年に収穫された米がカドミウムに汚染されていたため、昭和46年度にカドミウムの発生源を探す調査をしました。その結果、昭和47年4月に「流域水田土壌のカドミウムによる汚染源については、その原因が古河鉱業(株)の鉱山施設に由来するものであると結論せざるを得ない。」ことを発表しました。
県は、栃木県、桐生市及び太田市とともに、昭和51年7月30日、古河鉱業(株)(現在:古河機械金属(株))との間に公害防止協定を結び、さらに、昭和53年6月15日、協定に基づく協定細目を結びました。
汚染された田畑への被害等については、被害の大きかった太田市毛利田地区の住民が、「公害紛争処理法」に基づき公害等調整委員会に古河鉱業(株)への損害賠償等を求める調停を申請し、昭和49年5月に被害補償金15億5千万円で調停が成立しました。この調停に続いて、古河鉱業(株)と直接交渉をしていた「桐生地区鉱毒対策委員会」は昭和50年11月に解決書を締結し、被害補償金2億3千5百万円で合意し、同様に「太田市韮川地区鉱害根絶期成同盟会」も、昭和51年12月に解決書を締結し、被害補償金等1億1千万円で合意しました。さらに、毛里田地区被害住民のうち、申請もれになっていた住民が、公害等調整委員会に損害賠償を求める調停を申請し、昭和52年12月に390万円で和解しました。
(*注5)銅(Cu):赤味を帯びた金属で、湿った空気中で腐食して塩基性炭酸銅を生じ、硝酸その他の酸化性酸に溶解します。体内に蓄積する毒物ではなく、生体内で各種の酵素の作用に関与し、生理代謝機能に不可欠な金属で、成人は1日に2~3mg必要とされています。極めて高濃度な銅粉によって気道刺激がおこり、発汗、歯ぐきの着色が起こることが報告されています。
渡良瀬川では、本県に関係する環境基準点(4地点)で通年調査が行われています。県では、このうち最も上流に位置する高津戸地点において、毎月の水質の調査をしています。
平成29年8月8日台風5号、10月23日台風21号、平成30年3月9日低気圧に伴い足尾地域に大量の降雨があり渡良瀬川が増水しました。県では桐生市及び太田市とともに鉱山施設や周辺河川の水質調査を実施しました。また、渡良瀬川上流部(沢入発電所取水堰)に設置した自動採水器(オートサンプラー)により1時間に1回の採水及び水質調査を行い、降雨時調査を補完しました。
その結果、鉱山施設からは、公害防止協定に基づき定められた公害防止協定値を超える排出水はありませんでした。また、いずれの堆積場からも排水はなく水質調査は実施しませんでした。
古河機械金属(株)に対しては、渡良瀬川の水質保全のため、引き続き公害防止協定の遵守を要請しました。
過去5年の降雨時調査の実施総数は、13回(平成25年度:2回、平成26年度:4回、平成27年度:2回、平成28年度:2回、平成29年度:3回)です。
渡良瀬川流域については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和47年5月にカドミウムに係る農用地土壌汚染対策地域として37.62ヘクタールの農用地を指定しました。
以降、昭和49年3月にカドミウム対策地域として指定した37.62ヘクタールを含めて、銅に係る対策地域として359.80ヘクタール、平成11年2月に1.52ヘクタール、平成15年8月に1.17ヘクタール、平成16年12月に0.29ヘクタールを銅に係る対策地域として追加指定し、合計で362.78ヘクタールが対策地域となりました。
指定地域の汚染の防止及び有害物質の除去については、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」に基づき、昭和55年10月に対策計画を定め、その後、平成11年3月及び平成17年3月に追加指定した農用地を含めた計画に変更しました。
昭和57年から平成11年まで及び平成17年に農用地土壌汚染対策計画に基づき、公害防除特別土地改良事業を実施しました。
有害物質は、銅対策地域で5.16cm、カドミウム対策地域では20cmの排土、客土等により除去し、事業面積は298.86ヘクタールとなりました。
なお、事業費は5,438百万円となり、このうち51%を「公害防止事業費事業者負担法」に基づき、事業者(汚染原因者)が負担しました。
県では、公害防除工事の効果を確認するために、指定地域内の農用地の土壌及びコメ中の有害物質について継続して調査を行っています。
また、関係市町や農業者団体で構成される渡良瀬川鉱毒根絶期成同盟会では、渡良瀬川の水質調査や足尾銅山周辺事業地における鉱害防止事業の実施状況等の調査を行い再び汚染されることのないよう監視活動を行っています。
有害物質の除去や工場や住宅等、農用地以外に土地利用が変更される等、指定の要件を満たさなくなった場合は、指定地域の解除を行うことができます。
こうした農用地について、昭和61年3月に57.55ヘクタール、平成2年1月に83.71ヘクタール、平成6年1月に167.78ヘクタール、平成29年12月に42.02ヘクタールの農用地土壌汚染対策地域の指定を解除しました。
指定の解除により平成29年度末の指定面積は11.72ヘクタールとなっています。
公害防止協定(昭和51年7月30日締結)及び公害防止協定細目(昭和53年6月15日締結)に基づき、各当事者(三者:栃木県・群馬県・古河機械金属(株)、四者:群馬県・桐生市・太田市・古河機械金属(株))で構成しています。
平成29年度は8月に定例の公害防止協議会(三者及び四者)を開催しました。
古河機械金属(株)が行っている鉱害防止事業の実施状況や鉱廃水許容限度の遵守状況を監視するため、群馬県・桐生市・太田市による立入調査を実施しました。
ア 平水時水質調査
7回調査を行い、河川や坑廃水の水質に異常がないことを確認しました。
イ 鉱害防止事業進捗状況調査
立入調査を2回行い、使用済堆積場の緑化の進捗や坑廃水処理施設の管理状況を確認しました。
足尾鉱山には、14の堆積場があり、現在使用中の堆積場は、簀子橋堆積場だけです。使用済の堆積場については、古河機械金属(株)が、鉱害防止事業等を行ってきた結果、渡良瀬川の水質は平水時では問題がみられなくなりました。
一方で降雨時には、渡良瀬川の流量が大きく増加するのに併せ、一時的ですが、渡良瀬川の重金属濃度が環境基準値を超過することがあります。このため、同社に対して堆積場の管理の徹底や更なる鉱害防止事業の実施を要請しています。
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響で、再び源五郎沢堆積場が崩落する事故が起きました。これを踏まえて、同社に対して再発を防止する恒久対策事業を完工するよう要請を行いました。同社は平成27年7月30日までに恒久対策工事を完了させ、関東東北産業保安監督部へ特定施設の使用開始届を提出しました。