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生物多様性とは、「生物多様性基本法」(平成20年法律第58号)において、「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」と定義されています。
46億年という地球の歴史の中で、生きものは長い年月をかけて地球環境の変化に適応して進化し、多くの種が繁栄してきました。現在では3千万種の生きものがいるといわれており、そのすべてに多様な個性があり、お互いにつながりを持って生きています。
生物多様性は、私たちが生きるために必要な水や食料、医薬品の原材料などを与えてくれるほか、空気や水の浄化と循環、気温や湿度の調整など、多様な恵みを与えてくれます。
生物多様性は、開発や乱獲などの人間活動の負荷による影響や、里地里山の荒廃など自然に対する人間活動の縮小による影響など、4つの危機にさらされているといわれています。
本県においても、湖沼や湿地の開発、水質汚濁などの影響により、絶滅のおそれのある野生動物種が増加しています。平成24年度に改訂した「群馬県の絶滅のおそれのある野生生物」(RDB)によると、植物種633種(うち絶滅種53種)、動物種529種(うち絶滅種9種)と、多くの種が絶滅のおそれのある野生動植物種として挙げられています。
また、地域間の交流の進展などの影響により、これまで地域に存在していなかった動植物(外来種)の生息・生育により、在来の生態系に大きな影響を与えています。最近では、「クビアカツヤカミキリ」による樹木への被害が確認されたことから、県では、その防除対策に取り組んでいます。
一方で、里地里山の荒廃など、自然に対する人間の働きかけの縮小は、野生動物の生息域の拡大をもたらし、農林業や自然生態系、生活環境に大きな影響を与えています。
平成28年度の農林業被害額(速報値)は、609,933千円(農業324,669千円、林業285,264千円)と高止まりしています。
本県が平成27年度に実施した「環境問題に関する県民意識アンケート」によると、「生物多様性」という言葉を「よく知っている」と回答した人は13.7%にとどまります。また、「意味は知らないが言葉は聞いたことがある」との回答は48.6%でした。
一方、内閣府が平成26年度に調査した「環境問題に関する世論調査」では、「言葉の意味を知っている」と回答した人は16.7%、「意味は知らないが言葉は聞いたことがある」と回答した人は29.7%であり、生物多様性の認知度は高いとはいえない状況にあります。
生物多様性は、私たちにとって欠かすことのできない食料や水などを与えてくれるものでありながら、その認知度は全国的にも高いとはいえません。生物多様性の保全と持続可能な利用を進めるためには、概念の普及啓発と県民意識の向上を図ることが必要です。
また、生物多様性には、かつては人が利用することにより維持されてきたものもあります。しかし、生活様式の変化や人口の減少・高齢化に伴う人手不足などの影響により、生物多様性の劣化が進展してきており、その軽減を図ることが必要となっています。
県民の生物多様性に対する認知度が高くない要因として、本県が首都圏から比較的近くに位置しているにも関わらず、起伏に富んだ地形や豊かな水系などの基盤環境に支えられた、多様な生態系が身近にあることが当たり前となっていることで、日常生活においては、なかなかその豊かさを実感できないのではないか、ということが考えられます。
また、事業者においては、生物多様性と事業活動のつながりが明確になっていないことや、貢献活動が具体的にイメージできないことなども要因として考えられます。
県では、県民の生物多様性に対する理解を深めるために、尾瀬学校や芳ヶ平湿地群ワイズユース促進等により県民の自然に接する機会の増加に取り組んでいます。また、子どもから大人まで十分に理解できるよう環境教育や環境学習を推進しています。
さらに、事業者に対しては、積極的に生物多様性に関する取組を進められるよう行政が協力していくことが必要です。
かつて人が利用することで良好な自然が維持されてきた里地里山では、生活スタイルの変化や人口減少・高齢化に伴う人手不足などにより、放置された森林や耕作放棄地が増加しています。
この結果、それまで奥山に生息していた野生鳥獣の生息域が、人の生活圏近くまで拡大し、生息数が増加していることに加え、手入れがされなくなったことで生態系が劣化し、希少な野生動植物種の減少等も進行しています。
野生鳥獣による被害は農林業にとどまらず、生態系や私達の生活環境にも大きな影響を及ぼすようになってきています。また、経済のグローバル化や生活スタイルの変化は、外来種の侵入も招き、国内での定着も確認されています。
野生鳥獣の被害に対し、個体数調整等の短期的な対策を取るとともに、長期的には里地里山の維持管理の方策の合意形成、野生鳥獣とのすみ分け、外来種の侵入に対しては、県民の協力など対策の検討が求められています。
今後、野生鳥獣や外来種の対策を担っていくための人的資源、財源を確保する仕組みや生物多様性に関する情報の収集、蓄積、提供する仕組みを整備していかなくてはなりません。
そのためには、行政や専門家だけでなく、県民、事業者・団体等を含めた多様な主体が連携して取り組むことが必要です。
人口減少社会にあって、今後も県民が豊かな生活を享受するためには、自然の恵みである「地域の宝」を再認識し、保全しながら利用を進めていくことが、本県における生物多様性の保全と利用の好循環を促し、豊かな自然を未来につなぐこととなります。
このため、県では、生物多様性を保全しつつ、県民の理解を深めて持続可能な形での利用を進めることにより、地域の活力増進に結び付けていくことを目指し、平成28年度に「生物多様性ぐんま戦略」を策定しました。
この戦略では、「恵み豊かな自然を未来へつなぐ群馬県~生物多様性を守り賢く活かす~」を基本理念とし、5つの戦略目標に沿って各種施策を推進することとしています。
恵み豊かな自然を未来へつなぐ群馬県~生物多様性を守り賢く活かす~
本県の生物多様性を保全しつつ、県民の理解を深めて持続可能な形での利用を進めることにより、地域の活力増進に結び付けていくことを目指します。
平成29年度から平成38年度までの10年間を計画期間とし、「第15次群馬県総合計画」や「群馬県環境基本計画2016-2019」の見直しを踏まえ、必要な見直しを行うこととしています。
県民一人ひとりが生物多様性と暮らしの関わりやその価値を認識して、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けて自発的に行動・参加する状態を目指します。
生物多様性の恵みやその重要性を再認識するとともに、行動につなげるためのきっかけづくりを推進し、新たな生活・産業文化として定着させるよう取り組みます。
生物多様性の劣化要因を一定水準に抑え、劣化の深刻度及び保全の緊急性の高い生態系・生物種は優先的に対策が講じられ、危機的状況が回避されていることを目指します。
希少野生動植物種の保護や劣化が進む生態系の保全など、緊急性の高い保全施策を着実に実施します。
生物多様性を持続可能な形で利用し、県民理解を深めて保全が一層進むという、保全と利用の好循環を生み出す仕組みを創出していくことを目指します。
「保全と利用の好循環ぐんまモデル」の形成に向けて、地域の活力増進のための持続可能な利用を推進し、生物多様性の保全に貢献します。
モニタリングの実施によって得た生物多様性に関する情報の整備を行い、保全と利用の取組が随時見直されている状態を目指します。
生物多様性の保全や持続可能な利用に関する施策に役立てられるよう、保全や利用に関する情報を継続的に蓄積する方策を構築し、情報の適正な利用環境の整備に努めます。
県内各地の関係者間で情報交換が活発化し、人的ネットワークが拡大・強化されている状態を目指します。
生物多様性は多様な分野に関連することから、県民、事業者、民間団体、教育機関、市町村、県などの連携及び情報交換や交流を増やし、戦略の着実な実行を推進します。
生物多様性は、私たちの日常生活に密接に関わっています。
本県の生物多様性の保全と持続可能な形での利用を実現するためには、県民、事業者、教育機関等の各主体が目指すべき将来像を共有して、お互いに連携していくことが望まれます。