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生物多様性を守り活かすには

更新日:2017年12月20日 印刷ページ表示

1 本県の生物多様性の現状

(1) 生物多様性とは

 生物多様性とは、「生物多様性基本法」(平成20年法律第58号)において、「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」と定義されています。
 46億年という地球の歴史の中で、生きものは長い年月をかけて地球環境の変化に適応して進化し、多くの種が繁栄してきました。現在では3千万種の生きものがいるといわれており、そのすべてに多様な個性があり、お互いにつながりを持って生きています。
 生物多様性は、私たちが生きるために必要な水や食料、医薬品の原材料などを与えてくれるほか、空気や水の浄化と循環、気温や湿度の調整など、多様な恵みを与えてくれます。

3つの多様性レベル

  • 生態系の多様性 森や山、川や海、草原や湿原など、いろいろな生態系があります。
  • 種の多様性 動物や植物、微生物など、いろいろな生きものが生息・生育しています。
  • 遺伝子の多様性 同じ種でも遺伝子が異なり、さまざまな個性を持っています。

4つの生態系サービス

  • 供給サービス 食料、燃料、木材、繊維、水、薬品など生活に重要な資源を供給するサービスです。
  • 調整サービス 森林による自然災害の抑制、空気や水の浄化など、環境を安定させるサービスのことです。
  • 文化的サービス 癒しなどの精神的な充足、美的・文化的な楽しみなどを与えるサービスです。
  • 基盤サービス 供給・調整・文化的サービスの基盤となるサービスです。光合成による酸素の生成、土壌形成、水や栄養の循環などです。

(2) 生物多様性の状況

 生物多様性は、開発や乱獲などの人間活動の負荷による影響や、里地里山の荒廃など自然に対する人間活動の縮小による影響など、4つの危機にさらされているといわれています。

4つの危機

  • 第1の危機 開発や乱獲など、人間活動の負荷による影響
  • 第2の危機 里地・里山の荒廃など、自然に対する人間の働きかけの縮小による影響
  • 第3の危機 外来種や化学物質など、人間により持ち込まれたものによる影響
  • 第4の危機 地球温暖化など、地球環境の変化による影響

 本県においても、湖沼や湿地の開発、水質汚濁などの影響により、絶滅のおそれのある野生動物種が増加しています。平成24年度に改訂した「群馬県の絶滅のおそれのある野生生物」(RDB)によると、植物種633種(うち絶滅種53種)、動物種529種(うち絶滅種9種)と、多くの種が絶滅のおそれのある野生動植物種として挙げられています。
 また、地域間の交流の進展などの影響により、これまで地域に存在していなかった動植物(外来種)の生息・生育により、在来の生態系に大きな影響を与えています。最近では、「クビアカツヤカミキリ」による樹木への被害が確認されたことから、県では、その防除対策に取り組んでいます。
 一方で、里地里山の荒廃など、自然に対する人間の働きかけの縮小は、野生動物の生息域の拡大をもたらし、農林業や自然生態系、生活環境に大きな影響を与えています。
 平成28年度の農林業被害額(速報値)は、609,933千円(農業324,669千円、林業285,264千円)と高止まりしています。

2 生物多様性に関する県民の理解

 本県が平成27年度に実施した「環境問題に関する県民意識アンケート」によると、「生物多様性」という言葉を「よく知っている」と回答した人は13.7%にとどまります。また、「意味は知らないが言葉は聞いたことがある」との回答は48.6%でした。
一方、内閣府が平成26年度に調査した「環境問題に関する世論調査」では、「言葉の意味を知っている」と回答した人は16.7%、「意味は知らないが言葉は聞いたことがある」と回答した人は29.7%であり、生物多様性の認知度は高いとはいえない状況にあります。

平成27年度群馬県調査概要「環境問題に関する県民意識アンケート」

  • 調査実施主体:群馬県
  • 調査対象:群馬県在住の満20歳以上の男女2,000人

平成26年度全国調査概要「環境問題に関する世論調査」

  • 調査実施主体:内閣府
  • 調査対象:全国20歳以上の日本国籍を有する男女3,000人

3 生物多様性に関する課題

 生物多様性は、私たちにとって欠かすことのできない食料や水などを与えてくれるものでありながら、その認知度は全国的にも高いとはいえません。生物多様性の保全と持続可能な利用を進めるためには、概念の普及啓発と県民意識の向上を図ることが必要です。
 また、生物多様性には、かつては人が利用することにより維持されてきたものもあります。しかし、生活様式の変化や人口の減少・高齢化に伴う人手不足などの影響により、生物多様性の劣化が進展してきており、その軽減を図ることが必要となっています。

4 生物多様性の保全と持続可能な利用を目指して

(1) 生物多様性に関する理解の促進

 県民の生物多様性に対する認知度が高くない要因として、本県が首都圏から比較的近くに位置しているにも関わらず、起伏に富んだ地形や豊かな水系などの基盤環境に支えられた、多様な生態系が身近にあることが当たり前となっていることで、日常生活においては、なかなかその豊かさを実感できないのではないか、ということが考えられます。
 また、事業者においては、生物多様性と事業活動のつながりが明確になっていないことや、貢献活動が具体的にイメージできないことなども要因として考えられます。
 県では、県民の生物多様性に対する理解を深めるために、尾瀬学校や芳ヶ平湿地群ワイズユース促進等により県民の自然に接する機会の増加に取り組んでいます。また、子どもから大人まで十分に理解できるよう環境教育や環境学習を推進しています。
 さらに、事業者に対しては、積極的に生物多様性に関する取組を進められるよう行政が協力していくことが必要です。

(2) 生物多様性の保全と持続利用可能な利用のための仕組みづくり

 かつて人が利用することで良好な自然が維持されてきた里地里山では、生活スタイルの変化や人口減少・高齢化に伴う人手不足などにより、放置された森林や耕作放棄地が増加しています。
この結果、それまで奥山に生息していた野生鳥獣の生息域が、人の生活圏近くまで拡大し、生息数が増加していることに加え、手入れがされなくなったことで生態系が劣化し、希少な野生動植物種の減少等も進行しています。
 野生鳥獣による被害は農林業にとどまらず、生態系や私達の生活環境にも大きな影響を及ぼすようになってきています。また、経済のグローバル化や生活スタイルの変化は、外来種の侵入も招き、国内での定着も確認されています。
 野生鳥獣の被害に対し、個体数調整等の短期的な対策を取るとともに、長期的には里地里山の維持管理の方策の合意形成、野生鳥獣とのすみ分け、外来種の侵入に対しては、県民の協力など対策の検討が求められています。
 今後、野生鳥獣や外来種の対策を担っていくための人的資源、財源を確保する仕組みや生物多様性に関する情報の収集、蓄積、提供する仕組みを整備していかなくてはなりません。
 そのためには、行政や専門家だけでなく、県民、事業者・団体等を含めた多様な主体が連携して取り組むことが必要です。

(3)「生物多様性ぐんま戦略」の推進

 人口減少社会にあって、今後も県民が豊かな生活を享受するためには、自然の恵みである「地域の宝」を再認識し、保全しながら利用を進めていくことが、本県における生物多様性の保全と利用の好循環を促し、豊かな自然を未来につなぐこととなります。
 このため、県では、生物多様性を保全しつつ、県民の理解を深めて持続可能な形での利用を進めることにより、地域の活力増進に結び付けていくことを目指し、平成28年度に「生物多様性ぐんま戦略」を策定しました。
 この戦略では、「恵み豊かな自然を未来へつなぐ群馬県~生物多様性を守り賢く活かす~」を基本理念とし、5つの戦略目標に沿って各種施策を推進することとしています。

5 生物多様性ぐんま戦略の概要

(1) 基本理念

 恵み豊かな自然を未来へつなぐ群馬県~生物多様性を守り賢く活かす~
 本県の生物多様性を保全しつつ、県民の理解を深めて持続可能な形での利用を進めることにより、地域の活力増進に結び付けていくことを目指します。

(2) 計画期間

 平成29年度から平成38年度までの10年間を計画期間とし、「第15次群馬県総合計画」や「群馬県環境基本計画2016-2019」の見直しを踏まえ、必要な見直しを行うこととしています。

戦略目標1 県民の理解が深まり参加が進んでいる

 県民一人ひとりが生物多様性と暮らしの関わりやその価値を認識して、生物多様性の保全と持続可能な利用に向けて自発的に行動・参加する状態を目指します。

課題 生物多様性に関する認知度の向上
  • 生物多様性の認知度が低い
  • 生物多様性の恵みを受けて生活している認識が少ない
【基本戦略1】生物多様性の価値の浸透

 生物多様性の恵みやその重要性を再認識するとともに、行動につなげるためのきっかけづくりを推進し、新たな生活・産業文化として定着させるよう取り組みます。

戦略目標2 生態系の劣化が食い止められている

 生物多様性の劣化要因を一定水準に抑え、劣化の深刻度及び保全の緊急性の高い生態系・生物種は優先的に対策が講じられ、危機的状況が回避されていることを目指します。

課題 生物多様性の劣化の軽減
  • 里地里山の手入れ不足
  • 野生鳥獣による被害の増加
  • 外来種の増加
【基本戦略2】緊急性の高い保全施策の実施

 希少野生動植物種の保護や劣化が進む生態系の保全など、緊急性の高い保全施策を着実に実施します。

戦略目標3 保全と利用の好循環への取組が進んでいる

 生物多様性を持続可能な形で利用し、県民理解を深めて保全が一層進むという、保全と利用の好循環を生み出す仕組みを創出していくことを目指します。

課題 保全活動を継続実施する人的資源・財源の確保
  • 高齢化や後継者不在による人的資源の不足
  • 活動に対する財源の不足
【基本戦略3】生物多様性の持続可能な利用の推進

 「保全と利用の好循環ぐんまモデル」の形成に向けて、地域の活力増進のための持続可能な利用を推進し、生物多様性の保全に貢献します。

戦略目標4 科学的知見に基づく中長期的課題が検討されている

 モニタリングの実施によって得た生物多様性に関する情報の整備を行い、保全と利用の取組が随時見直されている状態を目指します。

課題 生物多様性に関する情報の蓄積
  • 生物多様性に関する情報が利用しにくい
  • 科学的に調査、収集する具体的方策がない
【基本戦略4】生物多様性に関する情報の蓄積と利用環境整備

 生物多様性の保全や持続可能な利用に関する施策に役立てられるよう、保全や利用に関する情報を継続的に蓄積する方策を構築し、情報の適正な利用環境の整備に努めます。

戦略目標5 継続的な取組の体制が整えられている

 県内各地の関係者間で情報交換が活発化し、人的ネットワークが拡大・強化されている状態を目指します。

課題 生物多様性の保全と利用を着実に進めるための仕組みづくり
  • 地域固有の問題解決の機会と仕組みが不十分
  • 多様な主体の連携の不足
【基本戦略5】戦略を着実に推進させる仕組みづくり

 生物多様性は多様な分野に関連することから、県民、事業者、民間団体、教育機関、市町村、県などの連携及び情報交換や交流を増やし、戦略の着実な実行を推進します。

(3)各主体の役割

 生物多様性は、私たちの日常生活に密接に関わっています。
 本県の生物多様性の保全と持続可能な形での利用を実現するためには、県民、事業者、教育機関等の各主体が目指すべき将来像を共有して、お互いに連携していくことが望まれます。

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