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野生鳥獣の生息数が増え、また生息域が拡大したことにより、野生鳥獣による農林業被害金額は7億円近くに上り、減少傾向にあるとはいえ、高い水準となっています。また、生活環境被害や生態系被害も各地で顕在化しています。
県では市町村、被害地域、関係機関と連携・協力しながら、野生鳥獣を「捕る」、野生鳥獣から「守る」、野生鳥獣を「知る」対策を総合的に進めています。
シカやイノシシなど、生息数の増加が著しい特定鳥獣について、捕獲目標に基づく計画的な捕獲を市町村と連携して推進するとともに、シカの高密度生息地域での指定管理鳥獣捕獲等事業の実施や捕獲の担い手確保など、捕獲を強化する対策を講じています。
野生鳥獣が耕作地に入らないようにするための電気柵や侵入防止柵を設置したり、食害から樹木を守るため、樹木への防護資材の設置や忌避剤の散布などの対策を行っています。
また、野生鳥獣の出没を抑制するため、被害地の周辺で見通しの悪い薮の刈り払いや樹木を伐採するなど、野生鳥獣からの被害を守るための生息環境の管理を行っています。
野生鳥獣被害対策に携わる人材の育成や、日本獣医生命科学大学との連携による新たな対策技術の開発を行っています。
県内における野生鳥獣による被害は、農林業だけでなく生態系や生活被害に拡がるなど深刻な状況です。これまでも、捕獲や侵入防止柵の設置等の対策に取り組んで参りましたが、野生鳥獣の生息数の増加や生息域が拡大している現状を踏まえるとさらなる捕獲の強化が必要です。しかし、捕獲の担い手である狩猟免許取得者は、昭和56年度をピークに大幅に減少しており、平成26年度には4,170人(56年度比43%)に減少、また狩猟者の67%が60歳以上であり高齢化が進行しています。このため、鳥獣害対策を継続して実施していくためには、捕獲の担い手の確保が重要となっています。
平成27年度も、出前型免許試験や休日試験の開催など、受験機会を増やすことで、免許取得者の増加を図っており、平成27年度は52人増加しました。
県内におけるシカの状況は、急激な生息数の増加と生息分布域の拡大が確認され、農林業被害にとどまらず、自然生態系にも深刻な影響を及ぼしています。
そのため、自然環境を保全すべき地域で、鳥獣保護区等に指定されているエリア等について、改正された「鳥獣保護管理法」により創設された「指定管理鳥獣捕獲等事業」を活用し、シカの捕獲を実施しています。
標高の高い地域にある牧場や自然公園等は、良好な餌環境を背景として、シカが高密度化しているため、集中的に捕獲を行っています。
高密度化した地域の周辺部において、季節的に移動する個体の移動ルートや越冬場所といったシカの生態が、研究機関等の調査により明らかになりつつあります。そこで、これらの知見を基に、適切な捕獲の手法、時期、場所を選定し、分布拡大防止のための捕獲を実施しています。
県では、鳥獣全般に関する県の基本計画である「第11次鳥獣保護管理事業計画」や、特定の鳥獣に関する計画である「適正管理計画(第二種特定鳥獣管理計画)」を策定しており、これらの計画に基づき鳥獣を適正に管理します。
鳥獣は、人間の生存基盤となっている自然環境を構成する重要な要素であり、人の豊かな生活を営むうえで欠かすことのできない存在であることから、人と鳥獣の適切な関係の構築を図るため計画を推進しています。
ア 生息環境の保全
野生鳥獣の保護や繁殖を図るための区域として、県内に49箇所64,550ヘクタールの鳥獣保護区を指定(うち2箇所は国指定浅間鳥獣保護区10,646ヘクタール及び国指定渡良瀬遊水地鳥獣保護区89ヘクタール)しています。
イ 鳥獣保護管理員による鳥獣保護管理事業の推進
県下に65名の鳥獣保護管理員を委嘱し、鳥獣保護区の管理や鳥獣類の生息状況の把握、違法捕獲等の防止に努めています。
県内では、野生鳥獣による林業被害が多く発生しています。伐採跡地に植栽した苗木の芽を、シカやカモシカが食べてしまって森林に戻せない状況や、数十年間育てた樹木の樹皮をツキノワグマやシカが食べてしまって、木材の製品価値が下がってしまう被害が問題となっています。また、樹木への直接的な被害だけでなく、木が育てられないことによって林業関係者の生産意欲が減退してしまうことも深刻な問題です。
県では、野生鳥獣による食害から守るため、苗木に動物が嫌がる忌避剤を散布したり、樹木に防護資材を巻き付ける事業を推進しています。また、苗木を植栽した周囲の全体を囲って、シカの侵入防止柵を設置する等の事業も行っています。
野生鳥獣による農作物被害は、県内32市町村から報告があり、中山間地域から平坦地域へ被害は拡大傾向にあります。本県の主な被害種はカモシカ、イノシシ、シカ等であり、農作物被害は前年に比べ減少した市町村が増加し、平成27年度の被害額は約3億7千5百万円で、前年比89%と減少しました。要因としては地域ぐるみの被害対策や侵入防止柵の設置等に取り組んだ地域での対策効果が現れてきたことがあげられます。
平成27年度の被害額は減少しましたが、鳥獣被害は農業者の経済的損失のみならず、営農意欲の減退、耕作放棄地の増加など、数字以上の影響を地域に及ぼしており、依然として深刻な状況が続いていることから、引き続き、県では各種補助事業により、地域が主体となって実施する被害対策を支援するとともに、鳥獣被害対策支援センターを中心に、関係機関と連携し被害地域に対して、地域ぐるみでの対策支援を進めています。
市町村等関係機関と連携し、地域が効果的・効率的に被害対策が図れるように支援しています。
鳥獣害対策は、地域ぐるみでの対策が大切です。
地域における合意形成を図りつつ、集落環境調査に基づいた効果的な被害対策を行い、総合的な対策支援(被害防止、生息域管理、個体数管理)を図っています。
近年、野生鳥獣の生息数の増加や生息域が拡大することにより、農林業被害の拡大や生活被害が懸念されており、その対策が強く求められています。
このため、野生鳥獣を出没させない、定着させないことを目的に、「守る」対策の一環として、クマやイノシシの市街地への出没経路や生息地となる可能性の高い河川について、その区域内河川で伐木を実施しています。
平成25年度から、鳥獣の捕獲数が多い区域内や狩猟制限がある区域内の河川を計画的に伐木し、平成27年度には面積にして16万4千平方メートルの区域を伐木しました。
外来生物とは、本来の生息地とは異なる地域に人為的に持ち込まれた生物のことをいいます。
人間の移動や物流が活発になったことで、多くの動植物がペットや展示・食用・研究等の目的で世界中で取引されています。また、荷物や乗り物等に紛れ込んだり付着して、知らないうちに持ち込まれてしまう場合もあります。
野生生物は、本来その地域特有の自然環境の中で相互に関係し合い、複雑なバランスを保って生存しています。このため、人為的に外来生物が持ち込まれてしまうと、もともとその地域にいた生物が駆逐され地域特有の自然環境のバランスが崩れてしまうほか、人間に直接危害を加えたり、農作物が被害を受けるなど、様々な問題を引き起こすおそれがあります。このため、国は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(通称:外来生物法)を平成17年に施行し、問題を引き起こす外来生物を「特定外来生物」として指定(113種類 平成27年3月1日現在)、その飼養・栽培・保管・運搬・輸入といった取り扱いを規制して国内への侵入や拡散を防ぐとともに、既に定着してしまったものについては駆除や隔離等の防除を行うこととしています。
平成17年度から平成19年度にかけて県内で行った調査でも特定外来生物が確認されており、動物ではアライグマやオオクチバスなど19種が、植物ではオオハンゴンソウやオオキンケイギクなど8種が確認されました。
近年、アライグマやカミツキガメといった特定外来生物が身近な所で見つかったり、捕獲されることが増えていますが、これらはもともとペットや観賞用として輸入され、人間に飼われていたものが逃げ出したり、飼うことができなくなって捨てられてしまったものが自然界で繁殖し、問題を起こしているケースです。生き物を飼育する場合は、その生き物の寿命や成長したときの大きさ、性格や生態等について十分調べた上で、責任を持って終生飼育するよう指導しています。
平成11年に奥利根湖で発見されたコクチバスは翌年には繁殖が確認され、県では地元漁業協同組合に委託して駆除作業を開始しました。
コクチバスは北米原産の魚食性外来魚で、冷水域・流水域でも定着が可能です。旺盛な食欲と繁殖力で水産資源や生態系に悪影響を及ぼすとして、特定外来生物に指定され、放流はもとより、飼育や運搬が規制されています。また、群馬県内水面漁場管理委員会の指示として採捕したコクチバスの再放流を禁止し、コクチバスの駆除推進に努めています。
奥利根湖での駆除事業では、平成17年度以降の駆除尾数から生息尾数の減少も示唆され、駆除効果が出ていると考えられます。
しかし、平成22年に烏川で、平成23年に鏑川と渡良瀬川でコクチバスの生息が確認され、利根川下流域での生息域の拡大が懸念されています。
このため、県では、平成23年より群馬県漁業協同組合連合会に委託して河川におけるコクチバスの駆除を開始しました。