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自然史博物館では、県内の野生生物や古環境、地質や岩石鉱物の学術調査を行い、これらを明らかにする研究を行っています。学術調査時には、許可を得て資料を採取し、研究に用いるとともに標本として後世に残す活動を行っています。特に、現生の動物や植物、菌類など現在の生物多様性に関わる調査研究、資料の収集では博物館職員だけでなく多くの連携機関や協力者の支援を得て進めています。
平成27年度に新規登録を行った資料は、10,417点であり、現在までの登録総数は168,600点です。
生物系収蔵庫の温湿度管理は、夏期20度50%、冬期18度55%、春秋期18~20度55~50%とし、文化財害虫等への忌避対策として、展示室およびバックヤードでの非誘引粘着式トラップの設置による害虫の捕獲、生物収蔵庫出入口に積層タイプの除塵粘着シートマットの設置を行いました。
平成27年度は、平成23年度から25年度までの「上野村地域総合学術調査」を継続し、上野村での事象を考察する上で必要不可欠な近隣地域を含めた「奥多野及び周辺地域学術調査」として行いました。哺乳類、昆虫類、無脊椎動物、維管束植物、蘚苔類、菌類、地質・岩石・鉱物、古生物の各分野で調査研究を行いました。以下の調査は、「奥多野及び周辺地域学術調査」を含む、群馬県内を対象とした主な調査研究の内容です。
ア 植物分野
イ 菌類分野
ウ 動物分野
(昆虫類)
(無脊椎動物)
(哺乳類)
(鳥類)
エ 古生物分野
オ 地質・岩石・鉱物分野
自然環境保全地域は、自然的、社会的諸条件から鑑みて、自然環境を保全することが特に必要と認められる地域について、「自然環境保全法」や「群馬県自然環境保全条例」に基づき指定されている地域です。
県内には、国指定の「自然環境保全地域」が1地域と県指定の「自然環境保全地域」が26地域、「緑地環境保全地域」が5地域、それぞれ指定されています。これらの地域においては、標識・解説板の立替え、清掃管理、保育管理、植生復元対策等の保全対策を行っています。
また、主に自然環境保全地域内において、自然保護思想の普及啓発を行うため、県民を対象に、自然観察会と保護活動を年5回程度実施しています。平成27年度は赤城山麓のほか、ラムサール条約湿地である渡良瀬遊水地などを会場に実施し、いずれも参加者から好評を博しました。
本調査は、「群馬県自然環境保全条例」に基づき、内の自然環境の保全のために講ずべき施策の策定に必要な基礎情報の収集を目的に、昭和49年から大学教授や自然史博物館学芸員などの専門家で構成される群馬県自然環境調査研究会に委託をして実施しています。
「群馬県自然環境保全条例」に基づき、県内35市町村に2年間の任期で54名を委嘱しています。
主な業務は、管内の定期的な巡視を行い、自然環境における異常の発見や県自然環境保全地域、緑地環境保全地域における自然破壊等の発見・通報に努めるとともに、自然環境保全のための指導、自然保護知識の普及啓発を図ること等です。
自然保護指導員からの最近の報告内容では、特定外来生物をはじめとした外来生物の拡散、樹木の皮剥ぎ等の鳥獣害被害や農作物被害の増加、この他ハイカーや登山者に対する自然環境の解説等の報告を受けています。
県では、自然保護指導員から報告された情報を蓄積し、自然保護行政、鳥獣保護行政の基礎資料として活用しています。また、取りまとめた情報は、必要に応じて、自然保護指導員にフィードバックするとともに、市町村にも情報提供しています。
人間の社会経済活動の発展に伴い、自然環境には様々な影響が及ぶようになりました。世界中のあちこちで、野生生物種の絶滅が進み、住みかである森や川や海の良好な環境が失われつつあります。
昭和41年、国際自然保護連合が世界における絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況をレッドデータブックとして取りまとめました。日本でも、平成3年に環境省が国内の絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況をレッドリストとして取りまとめています。
県では、平成13年から平成14年にかけて、県内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生動植物種の現状を「群馬県の絶滅のおそれのある野生生物動物編・植物編(群馬県レッドデータブック)」として取りまとめ、公表しました。また、その後の学術調査等に基づく情報の蓄積や、より
現況に即した内容に見直すため、平成20年に改訂作業に着手し、この改訂結果を平成24年に公表しました。植物編では382種から633種へと掲載種が大幅に増え、動物編では526種から529種へと微増しました。
また、本県では自然生態系保全の観点から緊急性・環境影響等を踏まえ、保護へ向けた取組の必要性がある種(動物53種、植物56種の計109種)を選定して詳細な調査を行い、保護・保全対策を検討する際の基礎資料となる調査報告書を平成15年に取りまとめました。そして、具体的な保護対策の一つとして、県が行う工事の影響から希少な野生動植物を保護するため、生息・生育情報を関係部局と共有して対策を講じる制度を設け、保護対策に取り組んでいます。平成27年度の調整実績は145件でした。
なお、平成27年度には、群馬県レッドデータブックの改訂結果を踏まえた見直しにより、保護へ向けた取組の必要性がある種109種を199種(動物58種、植物141種)としました。
県では、絶滅に瀕する野生動植物を保護するため、「希少野生動植物の捕獲・採取等の規制」、「生息地等を保全するための行為の規制」、「効果的・計画的な保護管理事業の取り組み」などを定めた「群馬県希少野生動植物の種の保護に関する条例」を平成26年12月に制定し、平成27年4月に全面施行しました。
さらに、同条例に基づいて、平成27年8月には、特に保護を図るべきものとして11種(動物3種、植物8種)の野生動植物を「特定県内希少野生動植物種」に指定しました。指定された種は捕獲、採取、殺傷又は損傷させることが原則として禁止され、違反した場合には罰則が科されます。
同条例等の周知を図るため、8月29日に、生物学者による特別講演会を実施しました。また、県内希少野生動植物種保護監視員54名を配置して、監視体制を整備しました。
上信越高原国立公園に位置する芳ヶ平湿地群は、草津白根山の火山活動に大きな影響を受け形成されたものです。この特有な自然環境が評価された結果、平成27年5月に「ラムサール条約湿地」として登録されました。これで県内のラムサール条約湿地は、尾瀬、渡良瀬遊水地とあわせ、3箇所になりました。
長野・新潟の県境付近に位置する野反湖の流入河川の一つであるニシブタ沢は、水産試験場の調査でイワナが自然繁殖のみで資源を維持していることが明らかになり、平成9年11月10日に本県で初めて保護水面(「水産資源保護法」により水産動植物が発生するのに適した水面であるとして水産動植物の採捕が規制される水面)に指定されました。
その後、ニシブタ沢におけるイワナの資源量の増減を把握するため、産卵床造成跡の計数調査を水産試験場が毎年実施しております。
これまで行われてきた社会基盤整備や開発などによる河川湖沼の環境変化として、堰など河川横断工作物による縦断的な不連続性、河床の平坦化、川や水路の直線化、コンクリート護岸などによる横断的不連続性、開発や人口増による水質悪化などがあります。
河川横断工作物に設置される魚道にも、河床低下などにより機能していないものがあり、また魚道自体がない箇所もあります。
平成18年度に10河川(利根川、渡良瀬川、広瀬川、烏川、神流川、鏑川、碓氷川 吾妻川、片品川、赤谷川)92箇所の魚道を調査した結果、ある程度良好な魚道は28箇所(30%)で、河床低下など支障がある魚道は64箇所(70%)でありました。
これらの魚道は魚類の生息にとって好ましくないと考えられることから、県では、魚道の機能回復を行い、漁場環境の改善を行っています。
2 環境に配慮した河川改修(多自然川づくり)(*注1)
私たちの身近にある川は、治水や利水の目的だけでなく、潤いをもたらす水辺空間や多様な生物を育む環境の場でもあります。
このため、河川改修にあたっては「多自然川づくり」を進め、河川が本来有している生物の生息・生育環境の保全・再生に配慮するとともに、地域の暮らしや文化とも調和した川づくりを行います。
また、希少野生動植物については、事前に生息・生育情報の有無を確認し、保護に必要な対策を講じています。
設計においては、河床幅を十分確保することによって、河川が有している自然の復元力を活用できるよう配慮し、平成27年度は、3.2キロメートルの多自然川づくりを実施しました。
(*注1)多自然川づくり:河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観を保全・創出するために、河川管理を行うことです。
山ノ鼻地区にビジターセンターを設置し、入山者に尾瀬の自然や保護活動に関する情報を提供しています。管理運営を平成8年度から(公財)尾瀬保護財団に委託し、自然解説業務、登山者の利用安全指導、木道の点検補修や公衆トイレの清掃管理等を実施しています。
また、県有公衆トイレ(山ノ鼻、竜宮)の維持管理を行っています。水の処理等に多額の費用がかかるため、利用者からのトイレチップの協力をお願いしています。
尾瀬への入山者は、平成8年度の647,500人(旧日光国立公園尾瀬地域)をピークとして、その後は減少し、近年は30万人台で推移しています。
尾瀬国立公園全体での入山者数としても、東日本大震災直後の平成23年度は281,300人と30万人を下回りましたが、その後は震災以前の入山者数に回復しています。
一方、入山者が特定の時期や特定の入山口に集中する傾向は依然として続いており、ミズバショウ(6月上旬頃)、ニッコウキスゲ(7月中旬頃)の各開花時期及び紅葉時期(9月下旬~10月上旬頃)への集中や、鳩待峠入山口への一極集中が見られます。このため、利用の分散化及び適正利用に向けた取組を、関係者と連携し、協力しながら行っています。
残雪期の遭難防止対策、歩道の点検補修、危険木の伐採を行っています。
環境省と連携し、尾瀬関係者の協力のもと、尾瀬の多様な魅力をゆっくり楽しむ利用の促進を目指し、アクセスの利便性の変化が尾瀬を訪れる方に与える影響を把握することにより、入山口の魅力づくりや自動車利用のあり方の見直しを行っています。
平成23~25年度の3年間は「尾瀬らしい自動車利用社会実験」として、鳩待峠においてバス・タクシーの乗降場所を入山口に近い鳩待峠第1車場から第2駐車場にできる限り変更して車の無い静かで落ち着いた雰囲気の入山口の実現を目指す取組を実施しました。また、通常は車の通行が禁止されている大清水~一ノ瀬間において、電動マイクロバス等の実験運行を実施し、平成26年度は、約70日間にわたる試験運行などを実施しました。それらの成果を踏まえ、鳩待峠では、第1駐車場を閉鎖し第2駐車場を拡張する工事が行われ、平成28年度から供用を開始するとともに、大清水では、平成27年度から大清水~一ノ瀬間で民間事業者による低公害車の営業運行が開始されています。
群馬の子どもたちが一度は尾瀬を訪れることができるよう、「尾瀬学校」を実施する小中学校に対して必要経費の補助を行いました。ガイドを伴った少人数のグループによる自然学習により、尾瀬の素晴らしい自然を体験するとともに、尾瀬の自然を守る取組を学びます。事業開始から8年目となる平成27年度は139校、10,213人が参加しました。
尾瀬を通して、子どもたちの環境問題に対する認識を深めるとともに、群馬県、福島県、新潟県の子どもたちの交流や触れ合いを図るため、平成6年度から3県合同で「尾瀬子どもサミット」を実施しています。21回目となる平成27年度は、3県あわせて54名の児童生徒が、尾瀬沼を中心に尾瀬の動植物や自然保護への取組について学びました。
尾瀬ヶ原では、シカによるミズバショウなどの希少な植物の食害や湿原の踏みつけが深刻化するなど、貴重な自然環境が損なわれ、生物多様性の劣化が問題となっているとともに、裸地化による土壌の流出などが懸念されています。そこで、県では、シカによる尾瀬ヶ原の湿原及び尾瀬沼を含めた尾瀬全体の植生の荒廃を防ぐため、平成25年度から、関係機関で構成する「群馬県尾瀬地域生物多様性協議会」を設置し、環境省の「生物多様性保全推進支援事業」を活用して「尾瀬からのシカの排除」をめざし、個体数調整を実施しました。
平成27年度は、春と秋合わせて81頭を捕獲しました。
県教育委員会では、「尾瀬学校」が充実したものとなるよう、実施に当たっての心構えや学習案などを掲載した「尾瀬学習プログラム」を作成し、平成20年5月に各学校に配付しました。
翌年、さらに説明が必要である項目について補足版を作成し、県総合教育センターのWebページに掲載しました。
平成22年3月には、「尾瀬学校」の環境学習を進めるための学習計画例などを掲載した「尾瀬学習プログラム-学習活動編-」を各学校に配付しました。
平成25年9月には、山小屋へ宿泊する場合のメリットや留意点をまとめた「尾瀬学習プログラム-山小屋宿泊編-」を各学校に配付しました。
平成26年3月には、「尾瀬学習プログラム」及び「尾瀬学習プログラム-学習活動編-」の一部改訂を行いました。
平成27年度も、参加校はこれらのプログラムを用いて、事前・事後の学習や当日の活動の充実を図りました。