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森林整備に関する調査・研究は、時代とともに変化してきました。スギ、ヒノキなどの人工林は、収穫までに長い年月を要することから、成長が早く、素性の良い種苗の生産を目指し研究を行ってきました。また、保育や病害虫の防除も大きなテーマです。
加えて、近年新たに解決しなければならない問題として、花粉が少ないスギ・ヒノキ品種の開発や、育林経費の低コスト化、及び収穫期を迎えている林を長伐期林に誘導する方法を示すことなどがあります。これらを解決するための調査・研究を進めています。
林木育種場では、平成15年度から花粉の少ないスギ品種を用いた採種園の造成を行い、平成18年度以降の配布種子は100%花粉症対策種子としています。
しかし、近年、木材価格に対する再造林経費の割高感から、伐採~再造林が控えられ、造林面積が少ない傾向が続いています。
再造林を促す解決策として、初期成長がよい苗木を植えて早く雑草の丈を超えさせ、下刈り期間を短くすることが考えられます。そして再造林が進めば、本県の森林を若返らせることができます。
このようなことから、少花粉スギでありながら初期成長のよいスギの開発に取り組んでいます。
幹が太く、林床の植生が豊かな森林は、木材としての利用だけでなく土壌や水、森林環境の保全に役立ちます。
このような森林を造成するためには、枝や葉を茂らせ、十分な光合成活動を維持する樹木を育てなければなりません。将来の森林を見据え、今ある森林を、公益的機能の豊かな長伐期林に誘導するためになすべき施業を研究しています。
近年は、地球温暖化の影響ともいわれる台風の大型化や局地的な集中豪雨等が増加しており、山地災害発生の危険性が高まっています。
平成26年度は、梅雨前線に伴う豪雨等の影響により11か所の山地災害が発生しました。
人家等重要な保全対象のある箇所については、早急に復旧し、被災地域の安全と安心な暮らしの確保を図りました。
また、豪雨等による山地災害を軽減し、地域の安全・安心の向上のため、災害に強い活力ある森林づくりに努めました。
森林が健全な状態にあると、根が杭のように地面をしっかりつかみ、降雨や地震動による表層の崩壊を抑えます。
また、光が十分に入る森林には下草が生え、落ち葉や枯れ枝にも覆われているため、雨が降っても直接土に当たらず土砂の流出を抑えています。
さらに、健全な森林の土壌には多くの微生物や小動物が住み、土壌孔隙と呼ばれるすき間を作ります。
すき間の多い土は、スポンジのように降った雨を吸収し、時間をかけ少しずつ流下させることで、洪水を防ぐことができます。
災害に強い活力ある森林とは、本来森林の持つ多様な機能を健全に発揮できる森林です。
近年、林業生産活動が木材価格の低迷のため停滞し、森林が手入れをされずに放置され、森林の荒廃、公益的機能の低下が危惧されています。
このため、治山事業による森林整備を通じて健全な森林づくりを行い、森林の持つ公益的機能の維持に努めました。
併せて、山地災害の発生のおそれが高い地域を山地災害危険地区に指定し、土砂の流出を抑える治山ダムや、落石を止める落石防止施設などの治山施設を整備し、安全で安心な生活環境の構築に努めています。
平成26年度は、治山事業による森林整備を519ヘクタール、治山施設整備を55ヘクタール実施しました。
水源の涵(かん)養、山地災害の防止など、私たちの暮らしを守る上で特に重要な役割を果たしている森林を、国や県で保安林に指定しています。保安林では、その働きが損なわれないように、立木の伐採や土地の形質変更を制限したり、適切に手を加えるなど、保安林としての機能を維持・増進するために必要な管理を行っています。
平成26年度末現在、本県の保安林面積は23万ヘクタールで、林野面積の約55%、県土面積の約37%を占めています。
森林には、水源の涵(かん)養機能があり、降った雨を土の中に吸収して蓄えながら、ゆっくりと時間をかけて川へ送り出すことで洪水を防いだり渇水を緩和する働きがあります。また、雨水が森林の土の中を通過することにより浄化され、きれいな水が育まれます。
県企業局は、水の恩恵を受けた事業として、水力発電事業、上水道事業及び工業用水道事業を展開していることから、水源維持のための重要施策の一つとして、平成11年3月に利根郡片品村花咲地区の武尊山東山麓の国有林、約151.3ヘクタールを林野庁から「水源の森」として取得しました。
「水源の森」は、保水力の高い貴重なブナの自然林であることから、生態系に影響を及ぼさないよう、涵(かん)養機能の保全を第一とした管理を行っています。
森林は、石油、石炭などの地下資源と異なり、伐採しても苗木を植えて育成することで再生します。地域資源である県産木材を利用することは、地域の森林が再び育成される森林循環へとつながります。そして健全に育成された森林は、水源の涵(かん)養や県土の保全などの公益的な機能を発揮して人々に多大な恩恵をもたらします。また、県産木材を利用することは、林業の振興を通じた山村の活性化など多様な意義を有しています。「ぐんまの木」を使うことが「ぐんまの森林」を守ることになります。
県産木材の生産と利用を進めるには、木材運搬のコストを下げるための林道や作業道が必要不可欠であり、平成26年度では、林道・作業道の整備や助成を行い、214キロメートルが新たに開設されました。
林道は、林業関係者や森林のレクリエーション利用等、森林とのふれあいを求める人々が通行する恒久的な道路で、木材生産や森林整備を進める上で幹線となるものです。
作業道は、森林所有者や林業関係者が、木材生産や森林整備のために利用する、主として林業用の機械が走行する道路で、簡易な構造で整備が行われています。
森林から生産された木材の多くは、住宅の建築用材として使われています。地元ぐんまの木材を使った住宅は、炭素の貯蔵効果だけでなく、遠方からエネルギーを使って運ばれてくる資材よりも炭素排出が少なく、地球温暖化防止に貢献します。「ぐんま優良木材」を構造材に50%以上使用した新築住宅の建設・購入、及び内装や建具に10立方メートル以上使った新築住宅の建築・購入または改修を積極的に推進しています。
木材が人に与える影響について様々な調査が行われていますが、木材がつくりだす心地よい空間は、人の心身や活動に良好に作用することが確認されています。このため、公共施設の木造化・木質化を推進しています。特に、市町村と連携し、市町村及び学校法人、社会福祉法人等の教育・福祉関連施設が県産材を使って行う、内外装等の木質化や外構施設の木造化による快適な空間づくりを支援しています。
なお、平成26年度の補助事業の実績は、内装の木質化を行った施設が5件、外構施設の木造化が5件でした。
木工工作の製作を通じて、木材の美しさ、温かさ、強さ、加工しやすさなどを感じ、木材に親しみを持ってもらえるよう、木材関係団体が開催する「親と子の木工広場」や「児童生徒木工工作コンクール」の支援を行っています。
また、平成26年次の県内の素材生産量は27万8千立方メートルですが、県内で使われる木材のうち、県産木材は3割程度で、6割以上が海外から輸入されており、県産木材を積極的に利用することは、環境負荷の点でも大きく貢献します。
県では、生活の中の身近な素材として、県産木材の良さを県民のみなさんに広く知ってもらうために、ホームページなどを通じて各種情報を発信し、普及啓発活動に努めています。
県や市町村などの公共施設をはじめ、河川・道路・公園等の公共事業にも県産木材の利用を推進しています。また、公共施設や公共事業で県産木材を利用してもらうため、木材の製品PRをはじめ、県庁関係部局の連絡調整、情報交換を行うとともに、地域機関においては市町村を含めた県産木材の利用促進に取り組んでおり、平成26年度に県の機関による木材使用量は約3,300立方メートルでした。なお、公共建築物等の木材利用の促進に関する方針ついて法律が制定され、本県においても公共建築物等における木材の利用の促進に関する方針を定め、市町村と協力し、建築・土木等の公共工事で木材利用を推進しています。
木材は生物起源の材料であるため、建築材料としてみた場合、強度等の性能にバラツキがあるほか適切な方法で乾燥処理を施さないと割れや寸法の狂いを生じるなどの欠点があります。一方、木材には、二酸化炭素を吸収して炭素を固定する機能や、人の情緒面に好ましい影響を与えるといったほかの工業的な材料にはない利点を持っています。
こうした木材の持つ欠点を克服した上で利点を生かし、県産木材の新しい需要を開拓するため、その利用技術や材料の開発に取り組んでいます。
本県民有林の主要な造林樹種であるスギについては、50年生前後の林が最も多くなっています。
このことは木が大径化し、木材資源として成熟してきていることを意味します。
このように太くなった丸太からは、細い丸太より強度の大きい製材品を得ることが期待できます。
そこで、今後供給が増加すると予想される大径材からは、柱材より断面積の大きい梁桁材や、複数の柱材等を生産することが想定されます。これら新しい用途に使われる場合について、建築材料としての強度性能等を明らかにすることや、適切な乾燥方法を開発することによって、安全で安心な住空間づくりに繋げるための研究に取り組んでいます。
また、木材の新しい利用分野として、木製ガードレールや高速道路の木製遮音壁などの土木資材の開発に取り組むとともに、その性能を長く保つための維持管理技術についても研究しています。
住宅着工戸数の2割弱のシェアがある枠組壁工法住宅の部材は、ほぼ100%輸入材で占められています。これを県産材で代替できれば、成熟した人工林を伐採し再造林することで持続可能な森林経営の一助となり、二酸化炭素吸収源の増加になることから、県産材の枠組壁工法部材としての適合性について研究しています。
本県の森林に大きな被害をもたらす森林病害虫として、アカマツやクロマツが枯れる「マツ枯れ」と、コナラやミズナラなどが枯れる「ナラ枯れ」があります。「マツ枯れ」は、マツノマダラカミキリが運んでくるマツノザイセンチュウが、「ナラ枯れ」はカシノナガキクイムシが運んでくるナラ菌が、元気なマツやナラに入り込んで枯らしてしまう病気です。
県内のマツ枯れ被害は、昭和53年頃から発生し、平成4年頃の被害が最も多く、現在でも赤城山や太田の金山、館林の多々良沼周辺などで多く発生しています。
被害にあったマツは、そのままにしておくと、マツノマダラカミキリが増えたり、枯れたマツが風で倒れる危険もあるため、できる限り伐採しています。
また、マツ枯れ跡地には、シノなどが生えてしまうため、自然に元の姿に戻ることはありません。
このように荒廃した森林は、野生動物が隠れやすくなるため、森林被害の増加も考えられます。
できるだけ早く、次の世代の木を植えて森林を再生する必要があります。
最近では、ボランティアによる植栽も行われるようになりました。今後も市町村や森林ボランティアと協力して、マツ枯れ被害が広がらないよう、またマツ枯れ跡地の森林の再生が進むよう努めます。
ナラ枯れ被害は、平成22年度にみなかみ町で初めて確認されました。平成25年度以降は民有林での被害がありませんが、一度広がり始めると、急速に多くのナラが枯れてしまうため、注意が必要です。
シイタケ栽培の盛んな本県にはコナラ林がたくさんあります。ドングリの木でもある大切なナラが無くなってしまわないよう、被害の発生状況などの調査を行い、被害拡大の防止に努めます。
異常気象と呼ばれる大規模な気象災害が、いつの間にか「当たり前」になりつつあります。
本県でも、夏の台風や集中豪雨による水害や風害、冬の寒風害などが毎年のように発生しています。
被害が発生した森林は、そのままにしておくと大変危険です。少しでも早く元の姿に戻るよう、被害木を整理して植え直し、森林の再生に努めます。
過去5年間の林野火災の発生件数は年間30件ほどで、被害面積は平均約48ヘクタールあり、増加傾向にあります。
季節的には、湿度の低い1月から5月にかけて多く発生しており、原因が特定できないものを除くと、たき火やたばこの火の不始末など、人為的なものが出火原因のほとんどを占めています。
このため、県では、予防対策として、山火事予防運動実施期間(3月1日から5月31日まで)に、巡視活動、広報車によるパトロールと注意喚起、山火事用心のポスターの掲示などを関係機関と連携を図りながら実施しています。
保安林以外の民有林については、1ヘクタールを超える開発行為に対する許可制度を通じて森林の土地の適正な利用の確保を図っています。
また、保安林を含めた民有林について森林保全巡視指導員及び森林保全推進員(ボランティア)による森林パトロールを実施し、各種森林被害の予防及び森林被害等に対する適切な応急措置を行うとともに、森林所有者や入山者に対し森林の適切な保護や管理について指導を行っています。
県の3分の2を占める森林で植栽や間伐などの林業作業に従事している人は現在721人(平成26年度末現在)。昭和57年度に1,800人いた従事者は林業の衰退とともに減少し、平成18年度には604人まで落ち込みました。
平成20年度以降は700人台で推移していますが、今なお、60歳以上が35%を占めています。県の森林を未来に渡って末永く守り育る新たな人材を確保・育成するため、県では、林野庁や厚生労働省、群馬労働局、各市町村、群馬県林業労働力確保支援センターや群馬県森林組合連合会、林業・木材製造業労働災害防止協会群馬県支部など、多くの関係機関と連携して、大きく4つの分野で林業労働力対策を講じています。
林業に興味を持っている方や就業を考えている方を対象に、群馬県林業労働力確保支援センターでは、県内林業事業体の雇用動向や林業の作業環境、林業労働の実態や山村での生活などの情報提供や就業相談を行っています。また、県では、チェーンソーや刈払機などの基本操作研修や、森林内での作業実習を通じて、就職前に林業を体験できる「ぐんま林業学校」を開校して、就業への機会を支援しています。平成26年度は24人が修了しました。
林業作業の基本的な技術を身につけるには、3から5年かかると言われています。さらに、現場で一人前として活躍するには、もっと多くの技能・技術を習得する必要があります。
そこで、未経験者の方でも林業現場で必要な技術を学んでもらうため、県が認定した林業事業体に採用された人を対象に、林野庁が実施する「緑の雇用」事業で実施する各種講習や研修に参加していただいています。
「緑の雇用」事業では、将来の森林の担い手になるために必要なさまざまな技能を身につけられるよう体系的に研修プログラムが作られており、群馬県内の新規就業者のうち約半数の方がこの研修に参加しています。
また、基礎的な技術習得に加えて、県では、未経験者を対象に高性能林業機械を使った伐採の研修(平成26年度参加者6名)や搬出間伐基本研修(平成26年度参加者6名)、さらには森林施業プランナー研修(平成26年度参加者14名)などを通じ、就業後のキャリアアップも支援しています。
林業経営の安定化を図るためには、事業の確保やコスト縮減も必要ですが、その一方で、林業の仕事に意欲を持って就業した方々の就労条件の向上や、さらなる意欲や能力の向上のための人材育成に積極的に取り組むなど、技術を持った方に長く働いていただける環境づくりが大変重要です。
そこで群馬県労働力確保支援センターでは、林業従事者の就労環境改善に向けた雇用管理者セミナーの開催や事業主への雇用管理改善指導を、また県と市町村では社会保険等への加入促進などの支援をしています。
林業の労働災害は、他産業に比べると発生率が非常に高くなっています。これは、足場の悪い山林内で行う危険度の高い伐採の作業であることのほか、従事者の高齢化と未経験者の増加が原因であると考えられます。
そこで、県と林業・木材製造業労働災害防止協会群馬県支部では、林業作業現場の巡回指導、リスクアセスメントの普及啓発、チェーンソー等振動障害に対する特殊健康診断の助成などにより林業労働災害の防止を図っています。
森林環境問題への関心が高まるなか、多くの方に森林にふれることの楽しみと森林整備の重要性を知ってもらうため、県民総参加による森づくりを進めています。
県では森林ボランティア活動を推進し一体的な支援を行う拠点として、平成26年10月に「森林ボランティア支援センター」を開設し、作業時の安全対策・器具の取扱い講習会等の開催、作業器具の貸出しなどを行っています。
また、企業の社会貢献活動を森林づくりに活かす「企業参加の森林づくり」では、平成26年度末時点で、29団体(30協定)が159.96ヘクタールの森林整備に取り組んでいます。
かつて人は森林を利用し、人と自然が影響しながら森林の環境を維持してきました。近年、森林の利用が低下し、広葉樹林や竹林は放置されています。
ナラ類は「カシノナガキクイムシ」が媒介する菌により枯死する現象が、県内でも発生しています。これは、ナラ類が放置され大径化したことも一因です。
また、放置された竹林は過密で植生が乏しく、野生動物の隠れ家になるなど環境の面で問題があります。
身近な森林環境を保全するため、次の調査・研究を進めています。
竹林は生活資材としての竹材が利用されなくなったことや、周辺の耕作放棄地に侵入してきていることなどから、面積を拡大し、多くが放置されています。
しかし、竹林は伐採しても地下茎が残り、管理することが困難です。そこで、竹林を省力的に管理する研究に取り組んでいます。
また、同様に放置されている里山の広葉樹林についても利用目的に合った管理方法を提案していきます。
ナラ枯れは、「カシノナガキクイムシ」がナラ類などに集団的に穿孔し、病原体である「ナラ菌」を媒介することによりおこる病気で、全国的に被害が拡大しています。平成22年には本県でも被害が確認され、現在も継続中です。
今後被害が拡大しないよう、防除技術の研究を進めています。
森林は、県民生活になくてはならないものです。心を癒してくれる美しい景観をつくり出しているほか、雨水を一度地中に蓄えて少しずつ川に流す水源涵(かん)養の働きや、土砂崩れのような自然災害を防いだり、二酸化炭素を吸収し地球温暖化を防止する役割も果たしています。こうした森林の持つ幅広い働きを公益的機能といいます。
県では、「ぐんま山と森の月間」の推進活動や「森と木のまつり」の実施などを通じて、多くの人々に山や森林に親しんでもらい、山や森林が果たしているいくつもの重要な役割について考えてもらう機会を提供しています。
また、森林の公益的機能拡充推進協議会活動、森林整備法人全国協議会活動等に参加し、国に対する要望活動を行うなど、他県と連携した取組も進めています。
森林は、空気を浄化したり、騒音を防ぐなど、私たちの生活環境を守るとともに、森林浴など森林レクリエーションや環境学習の場を提供してくれます。
「水源の森」では、平成11年度から、県立尾瀬高等学校による「自然とヒトとの関わり方」の探求をテーマとした森の生態系の観察が行われているほか、日本菌学会による学術研究の標本採取の場、体験学習や観察など多くの人たちの実践教育の場としても利用されています。
今後の「水源の森」の活用については、野鳥観察や森林浴によるリフレッシュの場として、同時に水源涵(かん)養機能としての森を理解する場として、森林をテーマとしたイベントや森林教室の場として利用者が増えていくことを期待しています。