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第2部第2章第1節 生態系に応じた自然環境の保全と再生

更新日:2015年10月8日 印刷ページ表示

第1項 里地里山の保全

1 平地林・里山林の保全

(1)里山林の現状

 かつて、きのこや山菜、薪や炭、肥料にする落ち葉や生活用具の材料となる木材や竹などの日々の生活に必要な様々なものを、私たちは身近な里山から得ていました。
 しかし近代化が進み、電気やガスが普及してスイッチ1つでお湯が沸き、食材や道具類はいつでも簡単に手に入る時代となった今、たとえ人家裏の雑木林や里山であっても非常に遠い存在となっています。
 人の手が入らなくなった里山は、藪や竹、シノが繁茂し、更に人を寄せ付けなくなります。
 このような荒廃した里山は、イノシシなどの野生動物の隠れ家となり、近隣の畑や果樹園において農作物被害が拡大しています。
 私たちの生活が便利になる一方で、里山は荒廃し、野生鳥獣の生息環境や勢力図は大きく変化してきています。

(2)里山林の課題

 竹やシノなどは、伐ってもすぐに生えてくるため、継続した整備が必要です。
 特に、近年では竹林の拡大(侵入竹林)が大きな問題となっています。かつては災害から人家を守る目的もあった竹林も、手入れがされなくなるとすぐに荒廃してしまいます。一度伐ってもまたすぐに生えてくるため、駆除するのは大変難しく、竹林として管理するには竹の利用方法なども考えた長期にわたる活動が必要です。
 また、藪だらけの里山は、ゴミが投棄されやすく、さらに見通しが悪いと防犯上の問題も起きやすくなります。里山の保全は、生物多様性だけでなく、地域の安全安心な生活環境を保全するためにも重要な課題です。

(3)里山林の整備

 野生動物の被害が発生する地域では、藪を刈払って人家周辺のイノシシなどが隠れ住む場所を減らすため、平成26年度から新たに始まったぐんま緑の県民基金市町村提案型事業の「荒廃した里山・平地林の整備」事業を活用し、地域と市町村が連携し、身近な里山や竹林において獣害対策に取り組んでいます。
 また、減少傾向にある県東部の平坦地域の森林を保全活用し、良好な生活環境維持に資するため、連絡会議を開催し保全施策の検討や情報提供を行いました。
 さらに、地域の課題となっている治安・景観維持に対する取組や「森林の公有林化」事業により貴重な平地林の保全を図る取り組みを支援してきました。
 また、森林整備ボランティアや企業・団体による森林整備活動でも、藪の刈払いや竹林整備など、身近な里山の整備を進めています。

2 里地・棚田の保全整備

 里地や棚田には、良好な農村景観や豊かな自然環境のもと、生物の多様性が保全されてきました。
 しかし、現在の農村では、過疎化や農業者の高齢化が進み、農業機械の使用が困難な農地を中心として農地の荒廃が問題となっています。
 平成21年度より実施された、みなかみ町・真沢(さなざわ)地域の町営区画整理事業では、水路に自然石を使用するなど、生態系に配慮しながら棚田を保全再生しました。
 また、隣接した宿泊体験施設や地元ボランティアと連携し、環境学習や農業体験等の交流活動を推進しています。

3 環境保全型農業の推進

(1)エコファーマーの推進

 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」に基づき、たい肥等による土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う生産方式を導入する計画を策定した農業者を、県知事が認定しています。
 エコファーマーに認定されると、エコファーマーマークが使用できるほか、融資の優遇策などが利用できます。
 平成27年3月末現在、エコファーマーの認定者数は1,022人です。

(2)群馬県特別栽培農産物認証制度

 「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の基準に従い、化学肥料と化学合成農薬の使用量を地域での一般的な使用量から50%以上減らし栽培された農産物を認証しています。
 認証された農産物は、「特別栽培農産物」として表示し、流通することができます。
 平成27年3月末現在、本制度に取り組んだ栽培面積は129ヘクタール です。

(3)有機農業の取組推進

 有機農業とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業のことです。
 県では、群馬県有機農業推進計画を策定し、有機農業の取組を支援しています。
 平成26年3月末現在、有機JAS規格に基づく県内の有機農業認定事業者数(農家戸数)は84戸です。

4 総合的病害虫・雑草管理(IPM)推進

(1)総合的病害虫、雑草管理(IPM)とは

 化学農薬による防除だけでなく、様々な防除手段の中から適切なものを組み合せ、経済的な被害が生じないように、病害虫や雑草を管理することです。
 IPMにより、難防除病害虫の効率的な防除や、環境への負荷軽減による持続的な農業生産の実現を目指すことができます。

 IPM=Integrated(総合的な)
 Pest(病害虫)
 Management(防除)

(2)IPMの基本的な実践方法

 IPMを実践するにあたっては、予防、判断、防除の3分野の基本的要素について、それぞれ検討する必要があります。

ア 予防
 輪作、抵抗性品種の導入や土着天敵等の生態系が有する機能を可能な限り活用すること等により、病害虫、雑草の発生しにくい環境を整える。

イ 判断
 病害虫、雑草の発生状況の把握を通じて、防除の要否及びそのタイミングを可能な限り適切に判断する。

ウ 防除
 防除が必要と判断された場合には、病害虫・雑草の発生を経済的な被害が生じるレベル以下に抑制するため、多様な防除手段の中から、適切な手段を選択して講じる。

(3)本県におけるIPMの取組

 近年、環境にも優しく、環境と調和した農業の推進が求められています。
 国では、農業生産における病害虫防除を化学農薬だけに頼らない防除技術であるIPMを推進していくこととしています。
 県でも、環境保全及び難防除病害虫等の効率的な防除対策を推進するため、IPMに取り組むことは重要なことと考えています。
 県では、国が示した主要作物別IPM実践指標をベースに、本県の栽培技術体系に適合した群馬県版の作物別IPM実践指標を主要な17作物について策定しました。
 また、今後、新たなIPM技術が開発された段階で農作物を付け加えることとします。
 さらに、IPM技術を体系化した指導者用作物別技術集(半促成ナス、施設キュウリ)を作成・配布し、より一層の普及推進を行うとともに、IPMの導入を目指す農家の技術向上及び定着を図ります。

5 農薬適正使用推進

(1)有機リン系農薬とは

 有機リン系農薬とは、炭素と水素から成る有機基にリンが結合した構造をもつ農薬で、主に殺虫剤として広く使われています。
 有機リン系殺虫剤は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害することで、昆虫や哺乳動物に対し毒性を示し、残留性は一般的に低いとされています。

(2)有機リン系農薬の空中散布による人の健康への影響

 有機リン系農薬は、最近の研究などで慢性毒性の危険性や子どもに及ぼす影響等が指摘されています。
 特に、無人ヘリコプターによる空中散布においては、地上散布と比較して、高濃度の農薬(通常1,000倍程度に希釈して散布するところ、8倍程度で散布)を細かい粒子で散布します。そのため、農薬成分がガス化しやすく、呼吸により直接体内に取り込まれるため、農薬を経口摂取する場合に比べ、影響が強く出る可能性があると言われています。
 慢性中毒では免疫機能の低下や自律神経症状などが現れることがあります。

(3)県の対応

 現在は、有機リン系農薬の空中散布を規制する法的根拠はありませんが、有機リン系農薬に代わる薬剤の使用が可能であることや、速やかに対応すべきであるとの判断などから、平成18年6月に、関係団体に対し、無人ヘリコプターによる有機リン系農薬の空中散布の自粛を要請しました。
 その結果、関係者の理解を得ることができ、平成18年度以降、無人ヘリコプターによる有機リン系農薬の空中散布は実施されていません。

6 中山間地域等直接支払

 一般的に中山間地域(*注1)等は平坦地と比べ、農業の生産条件が不利です。このため、中山間地域等における農業生産活動等の維持を通じて、耕作放棄の発生防止、環境保全機能の確保等を図るため、平成12年度から「中山間地域等直接支払制度」が開始されました。
 本県の平成26年度の取組状況は、対象25市町村のうち、20市町村で229の協定(226集落協定、3個別協定)が締結され、1,587ヘクタールの農用地で制度に取り組んでいます。

(*注1)中山間地域:平野周辺部から山間地域に至る地域の総称で、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域として一般的に使われることが多いです。総農地面積の約4割を占め、農産物のみならず、資源管理・環境保全に極めて重要な役割を果たしていますが、地勢等の地理的条件が悪く、農業等の生産条件の不利に加え、人口の流出・高齢化、耕作放棄地の増大等により地域社会の活力が低下しつつあります。

第2項 水辺空間の保全・再生

1 環境に配慮した河川改修(多自然川づくり)(*注2)

 私たちの身近にある川は、治水や利水の目的だけでなく、潤いをもたらす水辺空間や多様な生物を育む環境の場でもあります。
 このため、川づくりにあたっては「多自然川づくり」を進め、河川が本来有している生物の生息・生育環境の保全、再生に配慮するとともに、地域の暮らしや文化とも調和した川づくりを行います。
 設計時から地域住民の意見を取り入れるなどして自然の場や憩いの場を整備し、地元に親しまれる川づくりや、水生生物の生息場としてみお筋や瀬淵、水際を意識した、変化に富む河道整備等に取り組んでおり、平成26年度は約1.0キロメートルの多自然川づくりを実施しました。

(*注2)多自然川づくり:河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史、文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境及び多様な河川景観を保全、創出するために、河川管理を行うことです。

2 河川内の雑草立木や堆積土の除去

 河川の除草は防犯上あるいは景観上の必要性だけでなく、堤防への悪影響も懸念されることから、県内全ての河川の中から除草が必要な区間を定め、計画的に実施しています。
 実施に当たっては、除草コストの削減のほか、住民の地域活動への意識高揚、不法投棄の抑制、河川への関心の高まり等を目的として自治会等へ草刈り作業を一部委託しています。平成26年度は、773ヘクタールの除草を行い、そのうち186ヘクタールを自治会等により除草していただきました。
 また、河川内に堆積している土砂は、出水時に流水を安全に流下させるために必要な河積を阻害しているだけでなく、環境・景観を悪化させる要因ともなっており、早急な対策が必要です。そのため、改修済み区間における河積阻害解消のため、平成18年度より計画的に堆積土の除去を進めており、平成26年度には12万6千立方メートルの土砂を除去しました。

3 環境に配慮した農業用排水路等の整備

 水田などの農地や水路・ため池の改修に当たり、生態系や自然環境の保全・再生に配慮し、自然環境と農業生産施設の維持管理との調和を図りながら、地域の営農活動の充実と地域環境保全活動の活性化を図っています。これまでに、延べ19地区の農業用排水路等において生態系を配慮した整備を実施しました。

4 ため池等の周辺整備

 ため池は、豪雨や地震等の自然災害により崩壊した場合、農地に被害を与えるだけでなく、下流の住宅や道路などの公共施設等にも大きな被害を与えることが想定されます。
 このため、県では平成24年度から県単独事業として老朽化等の理由により自然災害等で崩壊の危険性があるため池について緊急的に整備に着手し、下流地域の安全、安心の確保を図り、景観や生態系に応じた整備を実施しています。平成26年度は、5地区でため池の調査・計画、堤体改修や保護、洪水吐・取水施設の改修を実施しました。

第3項 野生動植物の保護

1 生物多様性に関する資料の保存と研究

 自然史博物館では、群馬県内の野生生物や古環境、地質や岩石鉱物の学術調査を行い、これらを明らかにする研究を行っています。学術調査時には、許可を得て資料を採取し、研究に用いるとともに標本として後世に残す活動を行っています。特に、現生の動物や植物、菌類など現在の生物多様性に関わる調査研究、資料の収集では博物館職員だけでなく多くの連携機関や協力者の支援を得て進めています。

(1)資料の収集

 平成26年度に新規登録を行った資料は、9,989点であり、現在までの登録総数は158,188点です。

(2)資料の保存

 生物系収蔵庫の温湿度管理は、夏期20℃50%、冬期18℃55%、春秋期18~20℃55~50%とし、文化財害虫等への忌避対策として、展示室およびバックヤードでの非誘引粘着式トラップの設置による害虫の捕獲、生物収蔵庫出入口に積層タイプの除塵粘着シートマットの設置を行いました。

(3)群馬県内を対象とした主な調査研究

 平成26年度は、平成23年度から25年度までの「上野村地域総合学術調査」を継続し、上野村での事象を考察する上で必要不可欠な近隣地域の調査を「奥多野及び周辺地域学術調査」として行いました。哺乳類、昆虫類、無脊椎動物、維管束植物、蘚苔類、菌類、地質・岩石・鉱物、古生物に関して、各分野で主に、次の調査研究を行いました。

ア 植物分野

  • 良好な自然環境を有する地域学術調査
  • 群馬県および上信越・東北地域における維管束植物の分布調査
  • 群馬県及び周辺部の絶滅危惧植物の生態と保全に関する調査
  • 尾瀬のフロラに関する調査
  • 尾瀬における植物分布調査およびシカ食害調査
  • 群馬県シードバンク構築事業

イ 菌類分野

  • 群馬県における菌類生息状況調査
  • 自然史博物館周辺の菌類調査

ウ 動物分野

  • 良好な自然環境を有する地域学術調査
  • 群馬県における野生動物カメラトラップ調査
  • 群馬県特定動物保護管理計画にともなう検体分析事業
  • 野生鳥獣肉をモデルとした放射性物質(セシウム)の体内分布に関する調査
  • 群馬県ニホンジカにおけるプリオン調査
  • 群馬県特定外来生物生息状況調査
  • 群馬県における鳥類解剖調査
  • 群馬県における放射性物質汚染状況調査
  • 群馬県における哺乳類生息状況の長期モニタリング調査
  • ニホンジカ個体数調整事業に伴う調査
  • カモシカ個体数調整事業に伴う調査
  • 群馬県における外来生物調査

エ 古生物分野

  • 群馬県産動物化石と、それらと関連性の深い地層や化石に関する調査研究
  • 群馬県産植物化石と、それらと関連性の深い地層や化石に関する調査研究

オ 地質・岩石・鉱物分野

  • 群馬県産の岩石・鉱物と、それらと関連性の深い他地域の岩石や鉱物に関する調査研究
  • 群馬県藤岡市に分布する三波川帯に産する鉱物調査研究
  • 群馬県高崎市山名地域の地形調査

2 自然環境に関する学術調査

良好な自然環境を有する地域学術調査

 本調査は、群馬県自然環境保全条例第5条の規定に基づき、県内の自然環境の保全のために講ずべき施策の策定に必要な基礎情報の収集を目的に、昭和49年度から大学教授などの専門家で構成される群馬県自然環境調査研究会に委託をして実施しています。
 平成26年度は、前橋台地の利根川、古野尻湖、武尊山周辺、栂峠、草津白根山周辺、茂林寺沼湿原など、合計9地域において調査を実施し、ニホンジカの摂食と踏みつけによる植生衰退の実態の把握など、大きな成果を収めました。

3 絶滅危惧動植物の保全対策

 人間の経済活動の発展に伴い、自然環境には様々な影響が及ぶようになりました。世界中のあちこちで、野生生物種の絶滅が進み、住みかである森や川や海の良好な環境が失われつつあります。
 昭和41年、国際自然保護連合が世界における絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況を取りまとめました。「レッドデータブック」と呼ばれているものです。日本でも、平成3年に環境省が国内の絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況を取りまとめています。
 県では、平成13年から平成14年にかけて、県内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生動植物種の現状を「群馬県の絶滅のおそれのある野生生物動物編・植物編(群馬県レッドデータブック)」として取りまとめ、公表しました。また、その後の学術調査等に基づく情報の蓄積や、より現況に即した内容に見直すため、平成20年に改訂作業に着手し、この改訂結果を平成24年に公表しました。植物編では382種から633種へと掲載種が大幅に増え、動物編では526種から529種へと微増しました。
 また、本県では自然生態系保全の観点から緊急性・環境影響等を踏まえ、保護へ向けた取組の必要性がある種(動物53種、植物56種の計109種)を選定して詳細な調査を行い、保護・保全対策を検討する際の基礎資料となる調査報告書を平成15年に取りまとめました。そして、具体的な保護対策の一つとして、県が行う工事の影響から希少な野生動植物を保護するため、生息・生育情報を関係部局と共有して対策を講じる制度を設け、保護対策に取り組んでいます。平成26年度の調整実績は72件でした。
 なお、平成25年度から、群馬県レッドデータブックの改訂結果を踏まえ、上記109種の見直しを実施しています。

4 自然保護指導員設置

 「群馬県自然環境保全条例」に基づき、県内35市町村に2年間の任期で54名を委嘱しています。
 主な業務は、管内の定期的な巡視を行い、自然環境における異常の発見や県自然環境保全地域、緑地環境保全地域における自然破壊等の発見・通報に努めるとともに、自然環境保全のための指導、自然保護知識の普及啓発を図ること等です。
 自然保護指導員からの最近の報告内容では、特定外来生物をはじめとした外来生物の拡散、樹木の皮剥ぎ等の林業被害や農作物被害の増加、この他ハイカーや登山者に対する、自然環境の解説等の報告を受けています。
 県では、自然保護指導員から報告された情報を蓄積し、自然保護行政、鳥獣保護行政の基礎資料として活用しています。また、取りまとめた情報は、必要に応じて、自然保護指導員にフィードバックするとともに、市町村にも情報提供しています。

5 自然環境保全地域等整備

 自然環境保全地域は、自然的、社会的諸条件から鑑みて、自然環境を保全することが特に必要と認められる地域について、自然環境保全法や自然環境保全条例に基づき指定されている地域です。
 県内には、国指定の「自然環境保全地域」が1地域と、県指定の「自然環境保全地域」が26地域及び「緑地環境保全地域」が5地域、それぞれ指定されています。これらの地域においては、標識・解説板の立替え、清掃管理、保育管理、植生復元対策等の保全対策を行っています。
 また、主に自然環境保全地域内において、自然保護思想の普及啓発を行うため、県民を対象に、自然観察会と保護活動を年5回程度実施しています。平成26年度は荒山、鍋割、鍋割山南面といった自然環境保全地域を会場に実施し、いずれも参加者から好評を博しました。

6 鳥獣保護管理員設置

 「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護管理法)第78条に基づき、県内各市町村から、鳥獣の保護や狩猟制度についての知識や経験を有し、鳥獣保護管理の活動に熱意を持つ人材のご推薦をいただき、現在65名の方を任期2年で委嘱しています。
 主な業務は、狩猟の取締りや指導、鳥獣保護区の管理、鳥獣保護思想の啓発普及、鳥獣に関する各種の調査などを行っています。
 県では、鳥獣保護管理員から報告された情報を蓄積し、鳥獣保護管理行政の資料として活用しています。

7 「第11次鳥獣保護管理事業計画」と適正管理計画(第二種特定鳥獣保護管理計画)の推進

 国では、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護法)を、その数が著しく増加、又は生息地の範囲が拡大している鳥獣による生活環境、農林水産業被害又は生態系被害に対処するため、法目的に鳥獣の管理を加え、鳥獣の「保護」と「管理」の定義を規定した「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護管理法)に改正しました。
 県では、法改正に伴い、鳥獣全般に関する県の基本計画である「第11次鳥獣保護管理事業計画」や、特定の鳥獣に関する計画である適正管理計画(第二種特定鳥獣保護管理計画)を変更策定し、これらの計画に基づき鳥獣を適切に管理します。

(1)「第11次鳥獣保護管理事業計画」の推進

 鳥獣は、人間の生存基盤となっている自然環境を構成する重要な一因であり、人の豊かな生活を営むうえで欠かすことのできない存在であることから、人と鳥獣の適切な関係の構築を図るため計画を推進します。

ア 生息環境の保全

 野生鳥獣の保護や繁殖を図るための区域として、県内に51箇所65,662ヘクタールの鳥獣保護区を指定(うち2箇所は国指定浅間鳥獣保護区10,646ヘクタール及び国指定渡良瀬遊水地鳥獣保護区89ヘクタール)しています。

イ 鳥獣保護管理員による鳥獣保護管理事業の推進

 県下に65名の鳥獣保護管理員を委嘱し、鳥獣保護区の管理や鳥獣類の生息状況の把握、違法捕獲等の防止に努めています。

(2)適正管理計画の推進

 著しく増加または減少している鳥獣については、適正管理計画を策定し、対象となる動物種の生息の安定的な維持と、人との軋轢の減少のための対策を講じています。
 現在、6鳥獣種(ニホンザル、シカ、カモシカ、イノシシ、ツキノワグマ、カワウ)について適正管理計画が策定されています。

8 漁場環境対策

 これまで行われてきた社会基盤整備や開発などによる河川湖沼の環境変化として、堰など河川横断工作物による縦断的な不連続性、河床の平坦化、川や水路の直線化、コンクリート護岸などによる横断的不連続性、開発や人口増による水質悪化などがあります。
 河川横断工作物に設置される魚道にも、河床低下などにより機能していないものがあり、また魚道自体がない箇所もあります。
 平成18年度に10河川(利根川、渡良瀬川、広瀬川、烏川、神流川、鏑川、碓氷川 吾妻川、片品川、赤谷川)92箇所の魚道を調査した結果、ある程度良好な魚道は28箇所(30%)で、河床低下など支障がある魚道は64箇所(70%)でありました。
 これらの魚道は魚類の生息にとって好ましくないと考えられることから、県では、魚道の機能回復を行い、漁場環境の改善を行っています。

9 魚類の繁殖と資源管理手法の研究

 長野県、新潟県の県境付近に位置する野反湖の流入河川の一つであるニシブタ沢は、水産試験場の調査でイワナが自然繁殖のみで資源を維持していることが明らかになり、1997年11月10日に本県で初めて保護水面(水産資源保護法により水産動植物が発生するのに適した水面であるとして水産動植物の採捕が規制される水面)に指定されました。
 その後、ニシブタ沢におけるイワナの資源量の増減を把握するため、産卵床造成跡の計数調査を水産試験場が毎年実施しております。

10 ぐんまの魚いきいきプラン

 県内には、たくさんの河川・湖沼などの水辺があって森林や田園と一緒に豊かな自然環境を創りあげています。ここには、たくさんの生き物がすんでいます。そして、私たち人間にとっても生きていく上で大切な環境であり、子供の頃から親しんできた風景や地域文化の源ともなっています。
 その水辺が生き物にとってすみづらく、私たち人間にとっては親しみがなくなり、近づきがたいものとなってしまいました。
 このため「魚がすみやすい豊かな水辺環境」が「人々が暮らしやすい環境」であるとの考えのもと「魚のすみやすさ」を指標に「豊かな自然環境」を取り戻し、魚がすみやすく、県民の皆さんが暮らしやすい環境づくりに取り組むため平成17年度に「ぐんまの魚いきいきプラン」を策定しました。

(1)県としての取り組み

 ア 総合施策の実施
 魚の生息について、水辺環境、水量・水質、生態系保全、啓発活動を総合施策として、全庁一体となって取り組みます。

 イ 県としての推進体制
 関係課で構成する推進・調整組織等、県としてプランの推進体制の構築を検討しています。

 ウ 「魚のすみやすさ」を指標とする施策推進
 「魚のすみやすさ」という基準で評価する手法は、生き物が人為的にも自然的にも影響を受ける要因が多く、数値的に把握することが非常に難しい現状にあって確立されていません。このため、水資源機構が利根大堰で行
っているアユやサケの遡上量調査や水産試験場で行っている生息量調査、衛生環境研究所の水質調査、各漁協の漁獲量のデータなどを基に水辺環境として「魚のすみやすさ」と達成度合いなどを評価する手法を確立してプランの進行管理を行います。

 エ 啓発の促進
 本プランで提唱する「ぐんまの魚がいきいきとすむことができ、県民にとっても暮らしやすい良好な環境」を実現するためには、県民が水辺に対する関心を高め、理解を深めることが不可欠と言えます。そのため、本プラ
ンの意義や目的について広報するとともに各種情報発信を行って、積極的に普及・啓発を図っています。

(2)幅広い関係者と協力した取り組み

 ア 関係者の推進体制の整備
 「ぐんまの魚いきいきプラン」を積極的に推進していくためには、県民や釣り人、漁業協同組合はもとより水資源の開発や発電を行っている事業者、建設業者など関連企業、行政機関、研究機関等の関係者が本プランの理
念と方向性を十分に認識し、立場の違いから生じるそれぞれの主義・主張を相互に理解し合い、協力・連携を行うとともに、役割分担を明確にして推進していくことが重要です。優先的に実施すべき施策、区域や関係者が広
範にわたり取り組みが必要な施策については「横断的な推進組織」を設置して効率的に実施していくことを検討しています。

 イ 広域的な推進体制の整備
 群馬県に源を発した利根川の流域は栃木県、埼玉県、東京都、千葉県、茨城県に広がり関係する都県が多く、下流域には利根河口堰や江戸川水閘門、江戸川可動堰、利根大堰が、上流域には坂東大堰、綾戸ダム、長野堰など数多くの横断工作物が設置されています。
 さらに施設ごとの権利や権限、業務も水道、産業、発電、農業などさまざまな組織が関係していて、群馬県という一行政機関だけで一体的・総合的に解決できる課題ではないため、国や関係都県の協力を得るとともに、行政機関、研究機関、関係事業者、漁協、釣り団体等の関係者を交えた推進体制を整え、総合調整と施策展開を図っています。

第4項 尾瀬保全対策

1 尾瀬保護対策の充実

 尾瀬は、わが国を代表する美しい自然の風景地であり、学術的にも貴重な生態系を有しています。昭和28年には国立公園の特別保護地区に、昭和35年には国の特別天然記念物に指定されており、平成17年11月にラムサール条約湿地にも登録されました。また、平成19年8月には日光国立公園から分離・独立し、全国で29番目の国立公園として新たに尾瀬国立公園が誕生しました。
 尾瀬の保護をめぐっては、戦前・戦後の水力発電計画や昭和40年代の観光道路計画の廃止を経て、その後は利用者の過剰利用による湿原の荒廃等様々な問題が発生してきました。
 これまで、関係者により交通規制や排水対策、ごみ持ち帰り、植生回復等環境保全のための各種対策が行われるとともに、入山者へのマナー啓発やごみ拾いといった地道な活動が、ボランティアを含め地元関係者などにより取り組まれてきました。

(1)尾瀬保全対策事業

 尾瀬の貴重な自然環境の保全対策に役立てるため、各分野の専門家で構成される「群馬県尾瀬保護専門委員会」に委嘱し、昭和41年から調査研究を行っています。毎年、研究成果は「尾瀬の自然保護」と題して公表されています。

(2)ごみ持ち帰り運動

 ごみ持ち帰り運動は、昭和47年に財団法人国立公園協会のクリーン作戦のモデル事業として初めて尾瀬で実施され、尾瀬から全国に広がり、平成26年度で43回目になりました。
 「ごみ持ち帰り運動キャンペーン」では、入山者にごみ持ち帰りへの協力を呼びかけています。

(3)尾瀬地区公衆トイレ管理

 県では、県有公衆トイレ(山ノ鼻、竜宮)の維持管理を行っています。水の処理等に多額の費用がかかるため、利用者にトイレチップの協力をお願いしています。

2 尾瀬の適正利用の推進

 尾瀬の利用者の安全対策を実施するとともに、尾瀬山の鼻ビジターセンターを設置して自然情報の提供やトイレ等の施設の維持管理を行い、尾瀬の適正利用を推進しています。
 尾瀬への入山者は、平成8年度の647,500人(旧日光国立公園尾瀬地域)をピークとして、その後は減少し、近年は30万人台で推移しています。尾瀬国立公園全体での入山者数としても、東日本大震災直後の平成23年度は281,300人と30万人を下回りましたが、平成24年度は324,900人、平成25年度は344,200人、平成26年度は315,400人となり、震災以前の入山者数に近づいています。
 一方、入山者が特定の時期や特定の入山口に集中する傾向は依然として続いており、ミズバショウ(6月上旬頃)、ニッコウキスゲ(7月中旬頃)の各開花時期及び紅葉時期(9月下旬~10月上旬頃)への集中や、鳩待峠入山口への一極集中が見られます。このため、利用の分散化及び適正利用に向けた取り組みを関係者と連携・協力しながら行っています。

(1)尾瀬地区利用安全対策

 残雪期の遭難防止対策、歩道の点検補修、危険木の伐採を行っています。

(2)尾瀬の入山口のあり方の見直し

 環境省と連携し、尾瀬関係者の協力のもと、尾瀬の多様な魅力をゆっくり楽しむ利用の促進を目指し、アクセスの利便性の変化が尾瀬を訪れる方に与える影響を把握することにより、入山口の魅力づくりや自動車利用のあり方の見直しを行っています。
 平成23~25年度の3年間は「尾瀬らしい自動車利用社会実験」として、鳩待峠においてバス・タクシーの乗降場所を入山口に近い鳩待峠第1駐車場から第2駐車場にできる限り変更して車の無い静かで落ち着いた雰囲気の入山口の実現を目指す取り組みを実施しました。
 また、通常は車の通行が禁止されている大清水~一ノ瀬間において、電動マイクロバス等の実験運行を実施し、平成26年度は、近い将来の低公害車両の本格導入をめざし、約70日間にわたる試験運行などを実施しました。

3 至仏山の保全対策の推進

 尾瀬国立公園の西端に位置する至仏山は、高山植物の宝庫であり、日本百名山にも数えられ、多くの登山者に親しまれています。しかし、長年にわたる登山の影響により登山道周辺の植生荒廃や裸地化などの問題が生じています。現在、県は、至仏山保全対策会議(事務局:尾瀬保護財団)の一員として、関係者の合意に基づいた至仏山の保全対策を進めています。

(1)至仏山保全対策事業の実施

 県が設置した至仏山東面登山道は、保全対策等業務を尾瀬保護財団に委託し、木道・階段の補修、浮き石の除去、植生保護のための立入り防止柵の設置や点検等を実施しています。また、「群馬県尾瀬保護専門委員会」の指導のもと、標高1,800メートル付近の大規模な荒廃地での植生回復作業や、至仏山東面登山道の土留工や植生ネットを設置した植生基盤の整備を行っています。

(2)至仏山の使用ルールの徹底

 至仏山保全対策会議では、雪山利用客からの植生保護のため、残雪期(5月7日から6月30日まで)の登山道閉鎖を行っています。また、登山道周辺の植生荒廃の抑制のため、山ノ鼻から至仏山頂までの東面登山道を「上り」専用(森林限界往復を除く)としています。

4 尾瀬山の鼻ビジターセンターの運営

 山ノ鼻地区にビジターセンターを設置し、入山者に尾瀬の自然や保護活動に関する情報を提供しています。管理運営を尾瀬保護財団に委託し、自然解説業務、登山者の利用安全指導、木道の点検補修や公衆トイレの清掃管理等を実施しています。

  • ビジターセンター開所期間
    平成26年5月16日~10月26日(164日間)
  • 入館者数:117,411人

5「尾瀬学校」の実施

 群馬の子どもたちが一度は尾瀬を訪れることができるよう、「尾瀬学校」を実施する小中学校に対して必要経費の補助を行いました。ガイドを伴った少人数のグループによる自然学習により、尾瀬の素晴らしい自然を体験するとともに、尾瀬の自然を守る取り組みを学びます。事業開始から7年目となる平成26年度は156校、11,449人が参加しました。

6 教員を対象にした尾瀬自然観察会や研究協議会の実施

 「尾瀬学校」のより安全で効果的な実施及び参加校の一層の拡大に資するため、教員を対象とした引率指導者の実地研修(自然観察会)と、参加予定校及び参加検討校を対象にした研究協議会を実施しています。平成25年度は各参加校の実施計画等を基にした研究協議会を実施しました。平成26年度は、山小屋宿泊を考慮した1泊2日の実地研修を実施しました。実地研修会には、今までに延べ200人の教員が参加しました。

7「尾瀬学習プログラム」の改善充実

 県教育委員会では、「尾瀬学校」が充実したものとなるよう、実施に当たっての心構えや学習案などを掲載した「尾瀬学習プログラム」を作成し、平成20年5月に各学校に配付しました。
 翌年、さらに説明が必要である項目について補足版を作成し、県総合教育センターのウェブページに掲載しました。
 平成22年3月には、「尾瀬学校」の環境学習を進めるための学習計画例などを掲載した「尾瀬学習プログラム-学習活動編-」を各学校に配付しました。
 平成25年9月には、山小屋へ宿泊する場合のメリットや留意点をまとめた「尾瀬学習プログラム-山小屋宿泊編-」を各学校に配布しました。

8「尾瀬子どもサミット」の開催

 尾瀬を通して、子どもたちの環境問題に対する認識を深めるとともに、群馬県、福島県、新潟県の子どもたちの交流や触れ合いを図るため、平成6年度から3県合同で「尾瀬子どもサミット」を実施しています。20回目となる平成26年度は、3県あわせて59名の児童生徒が、尾瀬沼を中心に尾瀬の動植物や自然保護への取り組みについて学びました。

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