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第2部第2章第4節【快適な生活環境の創造】

更新日:2011年10月5日 印刷ページ表示

1 景観の保全と形成

 景観は、地域の自然、歴史、文化や日常の様々な活動の結果として形成されるものです。
 そのため、良好な景観を形成するためには、自然や歴史的な景観の保全や利活用だけでなく、私たちが暮らす地域の景観を創造し、そのための活動を育成するとともに、阻害要因を除去する取り組みも重要になります。

(1) 景観条例に基づく施策

 県では、平成5年に制定した景観条例に基づき、大規模行為(一定規模以上の建築や土地の形質変更など)の届出などにより、良好な景観づくりを進めています。平成22年度には278件の届出がありました。

(2) 市町村を中心とする景観行政の取り組み

 景観形成の取り組みは地域に根ざした活動が重要であるため、市町村が、景観法に基づく景観行政団体になって、景観計画を策定して積極的に景観施策を展開することが望まれます。
 平成22年度には、新たに2町村が景観行政団体になり、右上の11市町村が景観法の下で景観行政に取り組んでいます。

(3) 補助金の交付

 市町村が景観計画の策定や世界遺産の緩衝地帯を設定するための経費の一部を補助しており、平成22年度には、甘楽町と嬬恋村に交付しました。

2 都市公園

 都市公園は多目的な機能を持つ、都市の重要な生活基盤です。
 平時は緑あふれる県民の交流拠点として、自然とのふれあいやレクリエーション施設を通じて児童や青少年をはじめとする県民の心身の健康の維持増進に寄与し、住み良い生活環境を整えています。
 また、災害時には避難所としての機能はもちろん、復旧・救援の拠点としても都市住民の安全を確保する重要な役割を果たしています。
 平成22年度の都市公園事業は、県立公園として「つつじが岡公園」のリニューアル整備を進めたほか、敷島公園や群馬の森等、既に開園している都市公園において、公園施設の改修や遊具の設置工事を行いました。
 また、市町村の都市公園事業として、前橋市の前橋公園や高崎市の観音山公園をはじめ、5市2町の17か所で公園整備を実施しました。
 本県の都市公園の整備状況は、平成22年3月末現在で1,376か所、1,953ヘクタールが供用開始しており(榛名・妙義公園を除く)、都市公園区域内の一人当たりの都市公園面積は10.65平方メートル/人で、平成21年3月末に比べると約0.5平方メートル/人の増加となっています。

3 緑化の推進

 森林や緑は、清らかな水やおいしい空気を育み、国土保全や地球温暖化の防止等さまざまな機能を持ち、私たちの豊かな生活を支え、多くの恵みを与えてくれます。
 緑化は従来から家庭や地域、市町村で取り組まれていますが、社会情勢の変化とともに、県民や行政、NPO法人等が一緒に、あるいは役割を分担して緑化・森林整備の展開を図る取り組みもなされてきています。県では、森林や緑の持つ公益的機能を十分に発揮させ、緑豊かで暮らしやすい生活環境づくりを推進するため、植樹祭等各種イベントを開催するとともに、巨樹・古木の樹勢回復や緑化センター運営等の諸事業を実施し、緑化技術等の普及啓発や緑化思想の高揚を図るとともに、身近な環境の緑づくりを推進しました。

4 有機リン系農薬の空中散布の自粛要請

(1)有機リン系農薬とは

 有機リン系農薬とは、炭素と水素から成る有機基にリンが結合した構造をもつ農薬で、主に殺虫剤として広く使われています。
 有機リン系殺虫剤は、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害することで、昆虫や哺乳動物に対し毒性を示し、残留性は一般的に低いとされています。

(2)有機リン系農薬の空中散布による人の健康への影響

 有機リン系農薬は、最近の研究などで慢性毒性の危険性や子供に及ぼす影響等が指摘されています。
 特に、無人ヘリコプターによる空中散布においては、地上散布と比較して、高濃度の農薬(通常1000倍程度に希釈して散布するところ、8倍程度で散布)を細かい粒子で散布します。そのため、農薬成分がガス化しやすく、呼吸により直接体内に取り込まれるため、農薬を経口摂取する場合に比べ、影響が強く出る可能性があると言われています。
 慢性中毒では免疫機能の低下や自律神経症状などが現れることがあります。

(3)県の対応

 現在は、有機リン系農薬の空中散布を規制する法的根拠はありませんが、有機リン系農薬に代わる薬剤の使用が可能であることや、速やかに対応すべきであるとの判断などから、平成18年6月に、関係団体に対し、無人ヘリコプターによる有機リン系農薬の空中散布の自粛を要請しました。
 その結果、関係者の理解を得ることができ、平成22年度も平成21年度に引き続き、無人ヘリコプターによる有機リン系農薬の空中散布は実施されませんでした。

(4)無人ヘリコプターによる空中散布の実施状況

 無人へリコプターによる最近の空中散布の実施状況は表2-2-4-1のとおりです。

5 公害防止組織

(1)公害防止管理者等制度

 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律により、製造業等で公害を発生するおそれのある施設が設置されている工場には、公害防止の仕事をまとめる公害防止統括者、公害防止の専門知識や技能を持った公害防止管理者及び公害防止主任管理者を選任することを義務付け、企業内での公害防止の自主管理体制の整備の強化を図っています。
 さらに、特定工場における公害防止組織の整備に関する法律の適用を受けない工場においても、大気汚染や水質汚濁等公害の発生源となるおそれのある工場には、群馬県の生活環境を保全する条例により、公害防止責任者の設置が義務付けられています。
 本県では、環境月間において公害防止管理者等選任工場を対象に公害防止総点検運動を実施し、公害防止意識の高揚を図りました。

(2)産業環境保全組織

 産業公害を防止するために、公害防止管理者等が設置された工場又は事業場が会員となり、県内10地区に産業環境の保全に関する連絡協議会が、自主的に組織され、550会員が加入しています。
 また、各地区の協議会及びその他の関係団体により、群馬県産業環境保全連絡協議会が組織されています。これらの協議会では、環境保全活動事例発表会や研修会、会員相互及び行政機関との情報交換・交流事業などを行い、より良い環境づくりに努めています。

6 公害紛争処理・公害苦情

 公害に係る紛争では、司法制度による解決以前に簡易迅速な行政的解決を図るため、昭和45年に公害紛争処理法が制定され、公害紛争処理制度が確立されました。
 この法律に基づき、公害等調整委員会及び都道府県公害審査会等においては、公害紛争についてのあっせん、調停、仲裁及び裁定の制度を設けています。
 また、公害苦情相談員制度を設けることによって、苦情の適切な処理を図っています。

(1)公害審査会

 昭和45年11月に設置された公害審査会における最近の調停事件の状況は表2-2-4-2のとおりです。

(2)公害苦情相談員

 公害に関する苦情は、地域に密着した問題であるとともに、公害紛争に発展する可能性もあるため、迅速な処理が必要となります。
 このため、昭和45年11月に群馬県公害苦情相談員設置要綱を制定し、関係する地域機関に公害苦情相談員が、住民からの苦情相談に応じ、苦情の解決のために必要な調査、指導及び助言等を行っています。
 公害苦情相談員は、以下の地域機関に合計32名が設置されています。

  • 環境事務所及び環境森林事務所
  • 農業事務所(農業振興課、家畜保健衛生課)
  • 土木事務所

(3)公害苦情の状況

 平成22年度において公害苦情相談員及び市町村の公害担当課で、新規に受理した公害苦情の件数は1,564件でした。
(平成22年度の数値は、公害苦情調査における平成23年4月1日現在の集計値を用いています。)
 典型7公害に関する苦情を種類別にみると、大気汚染(458件)、悪臭(179件)、水質汚濁(157件)の順となっています。
 苦情を受付機関別にみると、市町村での受付が87.4%、県での受付が12.6%となっています。
 なお、処理にあたっては、関係機関との連携により対応しています。

7 歴史的・文化的遺産と自然景観の保全

(1)豊かな自然環境に育まれたわが国の文化財

 わが国の文化財は、豊かな自然環境のもとで長きにわたる先人の営みによって形作られてきました。文化財保護行政の目指すところは、有形無形の様々な文化遺産とそれらが守り伝えられてきた事実を、その環境とともに後世に伝えていくことにあります。国・県・市町村は、それらのうち特に重要なものを法的に保護し、またその質と価値を高めるための保存整備をおこなっています。これによって、文化財の価値を正確に分かりやすく社会に還元することができ、人々の地域に対する理解と関心の深化へと繋がっていきます。
 文化財保護に関する近年の特徴としては、単体の文化財のみならず周辺の歴史景観や環境も保護し整備する方針が打ち出されたこと、そして文化財を生かした地域づくりの取り組みがしやすいように法制度も整備されたことが掲げられます。これによって、歴史・文化と環境を重視した、総合的な地域づくりの取り組みが各地で始まりつつあります。市町村にとっては、こうした取り組みが地域の振興や再生への有益な手段として、今後の施策の柱となっていくものでもあります。

(2)自然環境の保護に結びつく文化財の保護

ア 名勝・天然記念物

 文化財のうち、名勝・天然記念物は自然環境及び自然景観の保護に直結しています。
 現在、県で指定する名勝・天然記念物としては、動物繁殖地や植物など計100件にのぼっています。
 また、国の名勝・天然記念物には24件が指定され、名勝妙義山や楽山園(甘楽町)、特別天然記念物の尾瀬等々、内容は多岐にわたります。日本列島中央部に位置する本県は、山岳地帯と平野部からなり、変化に富んだ地形及び気候条件のもと、全国的に特筆すべき名勝・天然記念物の宝庫と言えます。

イ 史跡、重要文化財及び登録有形文化財建造物の保護

 現在県内には、史跡は国指定46件、県指定85件、重要文化財(建造物)は国指定21件、県指定53件、国登録有形文化財(建造物)が301件所在し、それぞれ歴史景観が保たれています。また一部で史跡公園等に整備され、学習及び憩いの場ともなっています。これら県内の国・県指定の史跡等には、広大な領域が指定され、自然景観が展開する例も少なくありません。広大な領域を有し、自然環境と歴史景観が共存している例として、岩宿遺跡や金山城跡などがあります。また山間地に重要文化財の仏堂や社殿が佇み、周囲の自然環境と調和した歴史的風致が守られている例として、妙義神社や榛名神社などがあります。近代の文化遺産も、国重要文化財の碓氷峠鉄道施設(安中市)や国登録文化財のわたらせ渓谷鐵道関連施設(桐生市・みどり市)は山間地の自然の景観の中に溶け込んでおり、国史跡・国重要文化財の富岡製糸場や国登録文化財の桐生市内の織物工場の建物などは、それぞれ今後のまちづくりの核となる歴史景観を形成しています。

ウ 文化的景観および伝統的建造物群の保護

 a 文化的景観

 人々の生活又は生業、地域の風土の中で形成された景観で、わが国の国民の生活・生業の理解のために不可欠のものです。日常の風景として見過ごされがちでしたが、棚田や水郷など自然と人との調和の中で長い年月をかけて形成されてきた価値ある景観です。県内では板倉町において利根川・渡良瀬川合流地域の水場景観に対する保護の取り組みを開始しており、23年1月には国の重要文化的景観への選定の申し出を行いました。県もこれを支援しています。

 b 重要伝統的建造物群保存地区

 町並みや農村集落など歴史的建造物が群として良好に保存された場所です。県内には1件所在します。中之条町(旧六合村)赤岩地区で、養蚕農家集落、墓地、宮、耕作地、山林などで構成されます。平成22年度、中之条町に対し保存修理事業に補助を行っています。

<平成22年度指定等文化財保存事業に対する補助>
 国及び県指定文化財を良好な状態で保存するための事業や、学習や憩いの場として活用するための整備事業に対し、平成22年度は文化財保存修理等事業に対し補助を行いました。

 a 県指定文化財

 11件の保存修理、保護養生及び案内板設置等整備活用事業に対し補助金を交付しました。

 b 国指定文化財

 14件の保存修理及び整備活用事業に対し補助を実施するとともに、7件の史跡等買上げ事業に対し、補助金を交付しました。

 c 防災設備保守点検等事業

 個人・法人が所有する8件の建造物の防災保守点検等に対し補助を行いました。

 d 埋蔵文化財調査

 15市町村が行う埋蔵文化財発掘調査に対して補助を実施するとともに、3件の埋蔵文化財保存活用整備事業に対し補助金を交付しました。

(3)指定等文化財に対する施策

 文化財保護課では、県内文化財の保護・管理のため、主に次の各種業務をおこなっています。

ア 史跡の保護・管理

 県内に所在する国の史跡のうち、史跡観音山古墳(高崎市)及び史跡上野国分寺跡(高崎市・前橋市)については県で管理運営を行っています。

イ 文化財パトロール

 国・県指定等文化財及び重要な埋蔵文化財包蔵地の維持管理に万全を期するため、県で委嘱した文化財保護指導委員(平成22年度:31名委嘱)が定期的に巡視し、保存状態を確認し県に報告します。報告は、県において保存修理事業計画立案の際の資料とします。

ウ 群馬県文化財保護審議会の運営

 県文化財保護審議会では、県内文化財の保存及び活用等に関する重要事項についての調査・審議をおこなうほか、県内文化財のうち特に重要なものについては県の指定文化財とするよう、県に対し答申をします。

エ 開発関連埋蔵文化財試掘調査

 国・県及び国県が設立した公社公団が実施する開発に対し調整をおこないます。埋蔵文化財の所在や範囲を確認するために工事前に試掘調査を実施します。平成22年度は県内各地で48件実施しました。

オ 文化財保護に係る諸手続

 国県指定文化財の移動、現状変更許可申請、き損届・復旧届などに係る諸手続き、未指定文化財の国または県指定への手続きや既指定文化財の追加指定手続き、埋蔵文化財包蔵地への開発及び発掘調査にかかる手続き、刀剣に係る審査及び手続き等を行います。

(4)歴史まちづくりへの支援

 近年、歴史・文化を生かした地域づくりを実現するための制度が整備されつつあります。
 平成20年、文化庁・国土交通省・農林水産省の三省庁共管により、歴史まちづくり法(正式名称:地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律)が施行されました。人々の伝統的な活動と、歴史的建造物(国指定文化財が条件)及びその周囲が一体となった良好な環境(歴史的風致)を維持向上させ、後世に継承できるまちづくりを国が支援するものです。この法律により、核となる文化財とその周辺もあわせて整備することが可能となり、景観の乱れを修景するなど周辺環境が維持がしやすくなりました。県内では甘楽町において、国指定文化財及び周辺の関連文化財を含めた広域の景観の整備を検討するなどの取組みが開始され、県もこれを支援しています。