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人間の経済活動の発展に伴い、自然環境には様々な影響が及ぶようになりました。世界中のあちこちで、野生生物種の絶滅が進み、住みかである森や川や海の良好な環境が失われつつあります。
1966年、国際自然保護連合が世界における絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況を取りまとめました。「レッドデータブック」と呼ばれているものです。
日本でも、1991年に環境省が国内の絶滅のおそれのある野生生物種の生息状況を取りまとめています。
本県では、2001年から2002年にかけて、群馬県内に生息・生育する絶滅のおそれのある野生動植物種の現状を「群馬県の絶滅のおそれのある野生生物動物編・植物編(群馬県レッドデータブック」として取りまとめ、公表しました。ここでは動物526種、植物382種が取り上げられています。
さらに、本県ではこの908種の中でも自然生態系保全の観点から緊急性・環境影響等を踏まえ、保護へ向けた取り組みの必要性がある種(動物53種、植物56種の計109種)を選定し、詳細な調査を行い、保護・保全対策を検討する際の基礎資料となる調査報告書を取りまとめました。
そして、具体的な保護対策の一つとして、県が行う工事において希少な野生動植物を保護するため、生息・生育情報を関係部局と共有して対策を講じる制度を設け、保護対策に取り組んでいます。
本県は自然に恵まれており、野生鳥獣(鳥類又は哺乳類に属する野生動物)の生息環境が良好なことから、『絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律』で国内希少野生動植物種に定められているイヌワシ、クマタカ、オオタカ等や、『文化財保護法』で天然記念物に指定されているカモシカ、ヤマネのような希少な鳥獣、ツキノワグマ、ニホンジカなどに代表される大型獣が生息しています。
一方、これら野生鳥獣の生息域と人間の生活圏が接近していることから、ニホンザルやイノシシ、ツキノワグマが農耕地や人家近くに出現するなどの軋轢も生じています。
また、繁殖力の旺盛なイノシシ、暖冬により死亡率の下がったニホンジカ、市街地のカラス類、湖沼や河川のカワウのように近年急激に生息域が拡大した種がある反面、ツバメなどの夏鳥やガン・カモ類などの冬鳥といった渡り鳥等、生息数の減少が懸念される種があります。
これら鳥獣の生息環境を良好に保ち保護対策を推進するために各種調査を実施しています。
県内の市町村を流域別に5ブロックに分け、繁殖期における生息密度調査と冬期における分布調査を、計画的に実施しています。
平成22年度は、奥利根川流域の5市町村43メッシュについて実施しました。
ガン・カモ・ハクチョウ類の冬期の生息状況を把握するため、毎年1月中旬に全国で一斉に調査が行われています。
平成22年度、本県では1月9日を中心に調査を実施しました。
狩猟者に捕獲した場所等をアンケート調査するとともに、有害鳥獣捕獲に係る各種データを収集し、それらを整理することにより、県内の生息分布などを把握することに努めました。
本県には平成23年4月現在、19科62種の魚類が生息しています。
このうち、昔から県内の河川湖沼に自然分布していた在来種が14科32種、県内では自然分布していなかった魚が移植などにより移り住んだ移入種が3科16種、国外から移植され県内で生息している外来種が6科14種となっています。
一方、過去には生息していたが、現在では確認できない魚種が6科11種認められます。そのなかで在来種は3科7種となっています。また、現在、県内で確認できる在来種は、県内に生息する総種類数の半分(52%)であり、生活の場所が限られ、生息数が極端に少なくなっている魚も認められます。
ブラックバス(オオクチバス、コクチバス)、ブルーギルについては、在来の魚類に食害を及ぼし、生態系に影響があることから、外来生物法で飼育、保管、運搬、放流が禁止となっています。
さらに、コクチバスについては、群馬県内水面漁場管理委員会が漁業法に基づき、リリース禁止の指示をしています。
無秩序な違法放流を防止するため、県では広報活動等の啓発活動を実施するとともに、県内での生息域拡大を阻止するために、駆除事業を実施しています。
平成14年2月に公表した「群馬県の絶滅のおそれのある野生動物(レッドデータブック)」では、288種の淡水魚類が、絶滅から地域個体群にまで指定されています。
このうち、ワカサギ、シナイモツゴ、ミヤコタナゴ、ゼニタナゴ、クルメサヨリについては、長い間県内で確認できないことから絶滅したと考えられます。
スナヤツメ、カワヤツメ、キンブナ、ヤリタナゴ、タナゴ、アカヒレタビラ、メダカ、ジュズカケハゼは、絶滅の危機に瀕している絶滅危惧1類に指定されています。
ホトケドジョウ、ギバチ、アカザは、絶滅の危機が増大している絶滅危惧2類に指定されています。
なお、絶滅魚種のワカサギは、在来種であり、現在、県内で生息している魚は卵放流による移入種です。また、絶滅危惧1類のアカヒレタビラ、タナゴはその後の調査で確認できず、現在は絶滅したと考えています。
水産試験場では、これらの絶滅危惧種を始め、県内で減少している魚類を選定し、系統保存を行っています。
ヤリタナゴ、ホトケドジョウについては、保護団体と協力して生息域での保全を図るとともに、ヤリタナゴの産卵母貝でもあるマツカサガイの繁殖方法の研究にも取り組んでいます。
また、メダカ、キンブナ、カマツカなどは繁殖技術の研究により、種苗生産技術が確立しました。
「ぐんまの魚いきいきプラン」では、魚がすみやすい豊かな水辺環境は、人々が暮らしやすい環境であるとの考えのもと、魚のすみやすさを指標に、水辺環境や生き物を大切にし、よりよい環境となるための基本的な方針を示しました。
昭和49年度から群馬県自然環境調査研究会に委託して実施しています。地形・地質、動物、植物の3部門において、本県の自然環境の状況を把握し、保全施策の策定に役立てることを目的としています。
平成22年度は袈裟丸山自然環境保全地域、榛名山東麓など6地域で実施しました。
野生鳥獣はその習性から、生息環境等によっては時期的、地域的に農林水産物そのものを食害するなどの行動をとるため、人間社会との間で被害問題が発生しています。
特にイノシシやニホンジカなど大型獣類による被害が多く、イノシシについては、昭和53年には群馬県の一部地域でしか生息していなかったとされたものが、山間地域から平坦地までその生息分布を広げています。また、ニホンザルも県西部や県北部で生息分布を広げています。
このような状況に伴い、イノシシやニホンジカによる農林作物被害は、平成4年ごろから急激に増加し、併せて有害捕獲頭数も増えています。
野生鳥獣の保護繁殖を図るため、県内に51箇所67,772ヘクタールの鳥獣保護区を指定(うち1箇所は国指定浅間鳥獣保護区11,924ヘクタール)し、そこには標識を設置しているほか、必要に応じて食餌植物の植栽、巣箱の架設等生息環境の改善を行っています。
また、県下に65名の鳥獣保護員を委嘱し、野生鳥獣の生息環境の保全に努めています。
市町村が実施する有害鳥獣の捕獲等の有害鳥獣対策に対し「群馬県有害鳥獣対策事業費補助金」を交付しました。
著しく増加または減少している鳥獣については、個別に個体数管理を行っています。
適正管理計画(第3期)を策定し、メスジカ捕獲禁止の解除や猟期の延長を行いました。また、赤城山におけるシカによる植物の食害対策として、捕獲や植物保護対策、調査等を行っています。
新たに適正管理計画(第1期)を策定し、農林業被害を減少させるために、著しく増加したイノシシの捕獲を推進しています。
保護管理計画(第2期)に基づき、ツキノワグマの個体群を維持するとともに、人身被害の防止や農林業被害防止のための対策を講じています。
保護管理計画(第2期)に基づき、農林業被害の減少及び人とサルとの地域的なすみ分けを目的に捕獲や追い払いを実施するとともに、生息状況を調査しています。
適正管理計画(第2期)を策定し、地域個体群の安定的維持と農林業被害を減少させるための個体数調整を実施しています。
外来生物であるアライグマ・ハクビシンは、県内における生息数の増加及び生息域の拡大が確認されており、農林業被害や生活環境被害が問題となっているため、捕獲を推進しています。
野生鳥獣に対する関心が高まるなか、正しい鳥獣保護思想の普及を図るため、次の事業等を実施しました。
平成22年度は、「県民探鳥会」を藤岡市竹沼で開催しました。22名の県民の皆様の参加がありました。
野鳥に関する知識を深め、愛鳥思想を育む目的のもと、愛鳥モデル校に指定した7の小学校に、巡回指導等を行いました。
また、愛鳥週間ポスターの原画募集に159の小・中・高・養護学校から3,556点もの応募がありました。
けがや病気により保護された野生鳥獣(傷病鳥獣)を傷病鳥獣救護施設(林業試験場内・野鳥病院)及び桐生が岡動物園(桐生市に委託)に収容し、野生復帰を行いました。
尾瀬は、わが国を代表する美しい自然の風景地であり、学術的にも貴重な生態系を有しています。早くから国立公園の特別保護地区及び国の特別天然記念物に指定されており、平成17年11月にラムサール条約湿地にも登録されました。また、平成19年8月には日光国立公園から分離・独立し、全国で29番目の国立公園として新たに尾瀬国立公園が誕生しました。
尾瀬の保護をめぐっては、戦前・戦後の水力発電計画や昭和40年代の観光道路計画の廃止を経て、その後は利用者の過剰利用による湿原の荒廃等様々な問題が発生してきました。
これまで、関係者により交通規制や排水対策、ごみ持ち帰り、植生復元等環境保全のための各種対策が行われ、また、入山者へのマナー啓発やごみ拾いといった地道な活動が、ボランティアを含め地元関係者などにより取り組まれてきました。
尾瀬への入山者は、平成8年度の647,500人をピークに減少し、平成17年度には317,500人とピーク時のほぼ半数となり、平成18年からやや増加傾向にありましたが、平成21年度に落ち込み、平成22年度は再び増加し、入山者数は327,000人(尾瀬国立公園全体では347,800人)でした。入山者が特定の時期や特定の入山口に集中する傾向は依然として続いており、ミズバショウ(6月上旬頃)、ニッコウキスゲ(7月中旬頃)の各開花時期及び紅葉時期(9月下旬~10月上旬頃)への集中や、鳩待峠入山口への一極集中が見られます。このため、利用の分散化及び適正利用に向けた取り組みを、関係者と連携し、協力しながら行っています。
群馬の子どもたちが一度は尾瀬を訪れることができるよう、「尾瀬学校」を実施する小中学校に対して必要経費の補助を行いました。ガイドを伴った少人数のグループによる自然学習により、尾瀬の素晴らしい自然を体験するとともに、尾瀬の自然を守る取り組みを学びます。事業開始から3年目となる平成22年度は143校10,820人が参加しました。
各分野の専門家で構成される「群馬県尾瀬保護専門委員会」に委託し、尾瀬の貴重な自然環境の保全対策に役立てるため、昭和41年から調査研究を行っています。毎年、研究成果は「尾瀬の自然保護」と題して公表されています。
尾瀬を通して、子どもたちの環境問題に対する認識を深め、新しい自然観を育成し、併せて群馬、福島、新潟三県の子どもたの交流や触れ合いを図るため、三県共同で平成6年度から実施しています。平成22年度は、尾瀬沼周辺で、各県20名、合計60名の子どもたちが3泊4日にわたり自然観察や意見交換を行いました。
郷土の自然に親しみ、子どもたちの環境に対する意識啓発を行うため、県内の小中学校に自然解説員等を派遣し、尾瀬の自然や環境保全への取り組みについて学ぶ自然教室を開催しました。平成22年度は16校で実施し、1,184人が参加しました。
尾瀬保護財団は、設立(平成7年8月3日)以来、利用者への自然解説、植生復元、尾瀬地域の公的施設の管理、自然環境の調査研究等を行っています。
また、尾瀬に関する関係者の話し合いの場として、毎年「尾瀬サミット」を開催しています。平成22年度は「みんなの尾瀬をみんなで守りみんなで楽しむ」をテーマに山ノ鼻地区にある尾瀬ロッジで開催されました。
山ノ鼻地区にビジターセンターを設置し、入山者に尾瀬の自然や保護活動に関する情報を提供しています。管理運営を尾瀬保護財団に委託し、自然解説業務、登山者の利用安全指導、木道の点検補修や公衆トイレの清掃管理等を実施しています。