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令和8年度答申第7号

更新日:2026年9月25日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

(1) 審査請求書における主張

 生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第1条的に、受給中の逮捕の実刑判決による廃止、その後の拘留生活は刑事行政であるが、その身分は未決拘禁者であり、廃止前と変わりなく、訴訟には費用がかかり、満足する生活や医療等(※審査請求人には持病があり、外部医師による治療やセカンドオピニオンが必要。その権利は、保護費によって保障されている。)も受けられていない。よって同条文に反する。これは、明らかに差別的判断である。そもそも保護受給は、逮捕前入院時必要だったのと、その後の自立生活のため。現在、医師による一方的判断で診療が必要であり、トラブルになっている。セカンドオピニオン権侵害になっていて、医療を受ける権利の侵害になっている。以上、憲法第11条(基本的人権尊重)、第12条(自由・権利・保持)、第13条(個人尊重の幸福追求権)、第14条(法の下の平等)に反する。

(2) 反論書における主張

 審査請求人は、確定判決を受けていない。第一審判決は、あくまで第一審判決であり、引き続き控訴審等が権利としてある。未決拘禁者であるから、社会でもそのように通るものと認容するのが社会通念上合理的であり、生活保護廃止決定処分は、重大な前時代的かつ人権侵害的なものであり、憲法及び法令違反である。

 処分庁の法第26条の解釈は誤りであり、憲法違反である。審査請求人は、刑事裁判中で勾留されているが、保釈等の可能性や訴訟活動等における弁護士費用や活動費から、保護の必要性は十分にある。

 処分庁が参考にしている「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」は、前時代的かつ現在の社会通念上と照らし合わせるには問題があり、審査請求人には該当しない。勾留生活は、日常生活の延長線上にあり、訴訟活動費は、法第12条の「衣食その他日常生活の需要を満たすために必要」に該当する。同法第31条によれば、現物給付や弁護士費用を給付すること等も可能であったはずである。

 刑事施設収容生活は、実社会の最低限度にのっとっているとは到底いえず、医療的にも病状は悪化し、令和〇年〇月〇日現在は、病棟入棟となっている。

 実社会にいて訴追され、自宅から裁判所等に出頭する場合、訴訟活動費がおりるはずであり、被保護者である審査請求人にとっては致命的な経済的ひっ迫となっており、訴訟活動に重大な不利益を与える結果となっている。

 刑事行政の一環であるからといって「最低生活費の計上の必要はない」とはいえず、審査請求人の生活を日常生活の延長線上にあるものとして扱うべきである。

 「生活保護問答集について」問7-15の信用性は、程度の低いものと考え、援用として認められない。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

​ 法令上、被収容者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間がおおむね6か月を超えると認められるときは、保護を廃止することが相当である。

 審査請求人の主張及び処分庁の説明並びに提出資料を総合考慮すると、令和〇年〇月〇日、〇〇地方裁判所〇号法廷にて第〇回公判が開廷され、審査請求人に対し懲役〇年(判決時点で未決勾留日数〇日)の判決が下されたものと認められる。未決勾留日数を加味したとしても、少なくとも6か月以上は刑に服すると認められる判決内容であって、処分庁が保護廃止を検討し、同月22日付け生活保護廃止決定処分(以下「本件処分」という。)を行ったことについて、前述の根拠及び前提となる事実の判断に欠けるものではなく、妥当性を有するものであって処分庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められない。

 なお、審査請求人は上述のほかにも種々主張するが、これらの主張は、いずれも本件処分の適法性判断に影響を及ぼすものとは認められず、採用することはできない。

 以上のとおり、本件処分に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

 令和8年8月14日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受

 令和8年8月21日 調査・審議

 令和8年9月25日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1) 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定している。

(2) 法第26条は、「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなつたときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。(後略)」と規定している。

(3) 「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)第10問12において、保護を廃止すべき場合は、「(1) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき。」、「(2) 当該世帯における収入の臨時的な増加、最低生活費の臨時的な減少等により、以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるとき。」と規定している。

(4) 「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)問7-15において、被保護者が被疑者等として警察署に留置、拘束された場合は、刑事行政の一環として措置されるべきものであることから、最低生活費の計上は必要ないとしている。

(5) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号。以下「刑事収容施設法」という。)第35条第1項において、「未決拘禁者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この章において同じ。)の処遇(運動、入浴又は面会の場合その他の法務省令で定める場合における処遇を除く。次条第1項及び第37条第1項において同じ。)は、居室外において行うことが適当と認める場合を除き、昼夜、居室において行う。」と規定している。また、刑事収容施設法第40条第1項では、「被収容者には、次に掲げる物品(書籍等を除く。以下この節において同じ。)であって、刑事施設における日常生活に必要なもの(第42条第1項各号に掲げる物品を除く。)を貸与し、又は支給する。 一 衣類及び寝具 二 食事及び湯茶 三 日用品、筆記具その他の物品」と規定している。さらに、刑事収容施設法第56条では、「刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」と規定している。

3 本件処分の妥当性について

(1) 生活保護制度は、法第1条に定めるとおり、「日本国憲法第25条の規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する」ことを目的とする制度である。国が全国一律に最低生活保障を行う制度であることから、地方自治の固有事務とは異なり、生活保護の実施事務は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第9項第1号に規定する法定受託事務として、福祉事務所設置主体が行う。このことから、生活保護事務については、同法第245条の9第1項及び第3項の規定による処理基準、同法第245条の4に規定される技術的な助言等を通じて、国の一定の関与が予定されているものである。

 したがって、生活保護の実施に当たっては、単に法及びこれに基づく政令・省令・告示のみならず、厚生労働大臣が定める処理基準、技術的助言も含めて体系的判断がなされるべきものであり、個別具体的事情に応じて行われる高度に専門的かつ技術的な判断を含むものであることから、福祉事務所に一定の裁量が認められる。当該裁量の行使については、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合や、重要な事実誤認がある場合等でない限り、違法となるものではなく、本件処分もこれらに基づいて、処分時点の事実を基に妥当性を検討する。

 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めており、他の公的制度により最低限度の生活が維持されている場合には、要保護性は否定される。その場合には法第26条が「保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。」と定めているとおり、保護の停止又は廃止を検討することとなる。

 この保護を廃止すべき場合の基準として、法に関する処理基準である課長通知第10問12は、「(1) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき。」、「(2) 当該世帯における収入の臨時的な増加、最低生活費の臨時的な減少等により、以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるとき。」と規定している。

 つまり、最低生活費の計上が不要な期間が、おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるときは保護廃止を検討することとなる。

 また、これに関連し、法に関する技術的助言である問答集問7-15は、被保護者が警察署に留置、拘束された場合は刑事行政の一環として措置されるべきものであるから最低生活費の計上は必要ない旨回答している。

 この措置の内容について、刑事施設における被収容者は、食事、被服及び居住等の生活維持に必要な措置が公的責任により包括的に講じられることとされている(刑事収容施設法第35条、第40条及び第59条)。また、医療についても、被収容者の健康の保持及び刑事施設内の衛生確保のため必要な措置を講ずべきことが定められ(刑事収容施設法第56条)、健康診断の実施の義務付け(刑事収容施設法第61条)、負傷又は疾病等の場合には医師による診療を行う(刑事収容施設法第62条)など、被収容者について必要な医療を受けることが制度上確保されている。

 このように、被収容者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間がおおむね6か月を超えると認められるときは、保護廃止を検討することとなる。

(2) 次に、処分庁の判断の基礎となった事実について検討する。審査請求人の主張及び処分庁の説明並びに提出資料を総合的に考慮すると、令和〇年〇月〇日、〇〇地方裁判所〇号法廷にて第〇回公判が開廷され、審査請求人に対し懲役〇年(判決時点で未決勾留日数〇日)の判決が言い渡されたものと認められる。これを受けて、処分庁は本件処分を行い、本件処分通知の理由欄に「実刑判決による廃止(懲役〇年)」と記載した。これに対し審査請求人は反論書において、判決は確定しておらず、控訴審等が権利としてあると主張する。本件処分時点で、審査請求人が控訴を提起したかは明確でないものの、審査請求人の主張のとおり、本件処分より前に控訴を提起している場合には、判決は未確定であり、本件処分より後に控訴を提起した場合であっても、本件処分時点では控訴期間が経過しておらず(刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第373条)、控訴権を放棄したという特別な事情(同法第359条)もないのであれば、判決は未確定である。しかし、審査請求人の留置に伴う生活保護停止決定処分を行った日(令和〇年〇月〇日)から本件処分を行った日(同年12月22日)までで〇か月以上が経過しており、その間、審査請求人は、留置施設又は刑事施設において留置又は収容をされ、継続して保護を要しない状態にあったと認められる。さらに、本件処分直前の同月〇日に懲役〇年の判決が言い渡されており、控訴により判決が未確定であったとしても、本件処分時点において、引き続き刑事施設に収容される等「以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続する」ことが客観的に見込まれる状況にあったといえる。したがって、課長通知による保護廃止の基準に該当するものといえる。

 たしかに、本件処分時点において判決が確定していなかったことからすれば、本件処分通知における理由附記は必ずしも適切であったとはいえない。しかしながら、実体上は課長通知の基準に適合している。仮に理由附記の不備を理由として本件処分を取り消したとしても、保護停止の状態に戻った上、理由欄の記載を修正して再度生活保護廃止決定処分が行われるに過ぎない。これらを総合的に考量すれば、本件処分は取り消されるべき違法又は不当の程度には至っておらず、本件処分は結論において妥当である。

 以上のとおり、本件処分に違法又は不当な点はなく、処分庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められない。

(3) なお、審査請求人は、ほかにも種々主張するが、本答申の結論を左右するものではない。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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