本文
令和8年度答申第6号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
(1) 令和8年1月31日付け審査請求書
改定年月を令和○年○月から同年○月に変更し、既に支給されている特別児童扶養手当2級手当額との差額の支給を求める。理由は次のとおりである。
最初から特別児童扶養手当認定診断書で申請していれば、令和○年○月から1級として判定されていたはずであるところ、必要書類に関する県の指示に誤りがあったため、本来受け取るべき額が受け取れなかったからである。
最初、○○担当職員(以下「甲」という。)から障がい者手帳(以下「手帳」という。)で申請できると聞いた。その後、甲から、「手帳だけだと2級のようです。1級になるかの判定には特別児童扶養手当認定診断書が必要です。」と連絡があり、特別児童扶養手当認定診断書を提出する意向を伝えた。しかし、すぐに甲から「手帳を作成するときに提出した診断書で問題ない」旨の訂正の連絡があった。
甲から、県の事務処理誤りで1級の認定書が○○に届いたので送付したが、正しくは2級なので、届いた1級の認定書を破棄するよう連絡があった。その後、甲から、提出書類が手帳支給時の診断書では特別児童扶養手当の判定基準には欠けてしまう所があったので、再度、特別児童扶養手当認定診断書を提出するかと打診があったため、特別児童扶養手当認定診断書を提出した。その結果、1級になったが、認定日が令和○年○月ではなく同年○月になっていた。
上記の甲と審査請求人とのやり取りについて、甲はその都度県に確認していた。
(2) 令和8年○月○日付け反論書
令和○年○月から○月の○か月間も1級に当たると思うので、改めて差額の支給を求める。理由は次のとおりである。
当初、特別児童扶養手当認定診断書は不要だと言われたのに、最終的に必要になった。甲が自己判断で誤った案内をしたわけではなく、県に確認しながら案内していた。
自分たちは行政に言われたとおりに書類を用意し、提出している。最初から特別児童扶養手当認定診断書を提出していればこのような問題は生じず、令和○年○月から1級の判定となっていたはずである。
子(以下「本件児童」という。)の障害の状態は途中で変わったのではなく、○○から転入してきた令和○年○月○日(○○の初診日)から変わらない状態である。
(3) 令和8年○月○日実施の口頭意見陳述
本件児童の障害の程度が悪くなったわけではなく症状の変化はないため、令和○年○月○日付け特別児童扶養手当認定請求(以下「当初認定請求」という。)時から特別児童扶養手当認定診断書の提出を求められていれば、その時点で1級に認定されたはずであり、当初の令和○年○月に遡って1級の手当が支給されるべきである。
甲から、既に有する手帳で判定するという時間も負担もかからない方法のみを案内され、特別児童扶養手当認定診断書を出した方がより正確に判定できるということは案内されなかった。甲は自分一人で判断せずに県に問い合わせながら書類の案内を行ってくれていた。
提出書類の相違によるメリット・デメリットを説明されたら、私たちは特別児童扶養手当認定診断書の提出を選択していた。必要書類の案内方法が不十分ではなかったか。
(4) 令和8年○月○日実施の口頭意見陳述
本件児童の障害の程度が増進した等の理由から額の改定を求めているのではなく、書類の案内方法に不備があったと考えているから、当初認定請求時(等級判定時)に遡って1級であったことを認めてほしい。
令和○年○月の額改定請求時に症状が悪化したわけではない。その際提出した特別児童扶養手当認定診断書の障害の状態欄に「令和○年○月○日現症」と医師が記載しているのがその証拠である。当初認定請求時に特別児童扶養手当認定診断書の提出とは異なる簡易な方法のみを教えられ、このような状況になっているのであるから、当初認定請求時から症状が変わっていなかったことを認めて、その時点に戻って判定し直すべきである。
提出書類の種類によるメリット・デメリットを伝えなかったことを反省して、今後、提出書類についての説明を丁寧にするなど、事務処理の改善を考えないのか。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
ただし、当初認定請求時の経緯を踏まえると、当初の2級認定処分を職権により取り消すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
1 額の改定時期及び事由について
額の改定は、特別児童扶養手当等の支給に関する法律(昭和39年法律第134号。以下「法」という。)第16条において準用する児童扶養手当法(昭和36年法律第238号)第8条第1項の規定に基づき、その者がその改定後の額につき認定の請求をした日の属する月の翌月から行うものであることから、額の改定を適用する時期を令和○年○月からとした処分庁の判断に違法又は不当な点はない。
また、法第16条において準用する児童扶養手当法第8条第1項によれば、額の改定は「監護し若しくは養育する障害児があるに至つた場合又はその監護し若しくは養育する障害児の障害の程度が増進した場合」に行われるものである。
この点、審査請求人が反論書や口頭意見陳述で度々指摘したように、本件は、児童の障害の程度が増進したわけではなく、新たに提出された特別児童扶養手当認定診断書の内容により、額の改定を行ったものであり、額改定処分として適当だったのかという疑問が生じる。
本件は、当初認定請求時に提出された手帳の写し等に基づき2級相当と判定され、その後、額の改定請求時に提出された特別児童扶養手当認定診断書に基づき1級相当と判定されている。この場合、提出時点の異なる両書類を比較し、「障害の程度が増進した」と処分庁が判断したことは違法とまでは言えず、令和8年1月13日付け特別児童扶養手当額改定処分(以下「本件処分」という。)は改定時期を含めて適法に処理されたものと認められる。
2 手帳の交付を受けている場合の取扱い
「特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令別表第3における障害の認定要領」(昭和50年児発第576号厚生省児童家庭局長通知。以下「認定要領」という。)別紙4(1)により、特別児童扶養手当認定請求書に添付する診断書は特別児童扶養手当認定診断書によるものであるところ、障害児が手帳の交付を受けている場合、認定要領別紙4(2)により、手帳に記載されている障害名及び等級表における級別によって障害の程度が特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令(昭和50年政令第207号。以下「令」という。)別表第3の各号のいずれかに該当することが明らかと判定できる場合は、診断書を添付することに代えて、手帳の内容によって認定して差しつかえないものとされている。また、障害の内容等について承知する必要がある場合には身体障害者診断書によることとされている。
したがって、当初、手帳と身体障害者診断書に基づき障害の程度を認定した処分庁に手続上の瑕疵は認められないが、証拠書類の種類によって障害等級の認定が変遷した状況を鑑みれば、当初認定請求時から特別児童扶養手当認定診断書を提出させて判断することも検討すべきだったと考えられる。
3 令和○年○月に遡って差額を支給することについて
受給資格の時効が完成するのは支払開始期日の2年後の支払開始期日の前日が経過した時点であることから、令和○年○月の当初認定請求時点の障害の程度が、同年○月の額改定請求時点の障害の程度と変わらないことを証明する書類があれば、同年○月から○月までの○か月間の1級と2級の手当額の差額支給は可能であると考えられる。
この点、令和8年○月○日に実施した口頭意見陳述における質問に対する同年○月○日付け回答書において、処分庁が、法第16条において準用する児童扶養手当法第8条第1項を根拠にして、遡って差額を支給することはできないとした回答は、議論を額の改定請求手続に限定している点で不当である。
処分庁は、弁明書において、1級認定後、令和○年○月○日に2級に認定を変更した時は、当初の特別児童扶養手当認定請求の訂正なので、支給開始月は当初認定請求に係る令和○年○月分に遡っていると述べている。
訂正回数の制限は認められないことから、時効の完成前であれば、当初の特別児童扶養手当認定請求の訂正という形で正当な支給額を求める権利が審査請求人にあると考えられる。
さらに、処分庁は、当初認定請求時点においても予後等を含めて現在の症状と同等の症状を示す特別児童扶養手当認定診断書が確認できたとするならば、遡って1級認定とする余地はあると述べているにも関わらず、実態を確認しようとしない姿勢は、1級認定後に身体障害者診断書を徴して遡って2級に変更した経緯と比べても整合性を欠く。額改定請求時に提出された特別児童扶養手当認定診断書には、障害の状態欄に「令和○年○月○日現症」と記されていることから、障害の程度は当初認定請求時点から1級に相当していたと読み取れ、本来その時点で、額改定請求の手続によるのではなく、当初の2級認定処分を職権で取り消して、遡って1級に訂正するのが適当であった。
4 結論
上記のとおり、額改定請求をした日の属する月の翌月の令和○年○月支給分から1級と認定して、額の改定を行った本件処分には違法な点はない。そのため、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。
5 付言
本件処分が、当初認定処分に係る支払開始月である令和○年○月に遡って適用できないのは、上記結論のとおりである。
しかし、処分庁は、額改定請求書に添付された特別児童扶養手当認定診断書により、1級相当の障害の程度が少なくとも令和○年○月○日から継続していたことが読み取れたはずである。
したがって、本来、その時点で、額改定請求手続に固執せず、職権で当初の2級認定処分を取り消し、遡って1級認定処分とし、令和○年○月から○月までの○か月間の手当の差額を支給すべきであったと考える。この点について、処分庁の速やかな検討と適切な対応を望む旨を申し添える。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和8年8月14日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和8年8月21日 調査・審議
令和8年9月25日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 法第3条第1項は、国は、障害児の父又は母がその障害児を監護するとき等は、その父又は母に対し、手当を支給する旨を規定する。
(2) 法第2条第1項は、「障害児」について、「20歳未満であつて、第5項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある者」と定義し、同条第5項において、「障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし、各級の障害の状態は、政令で定める」と規定する。
(3)令第1条第3項は、「法第2条第5項に規定する障害等級の各級の障害の状態は、別表第3に定めるとおりとする」と規定する。
(4) 令別表第3で示された障害の状態の認定は、認定要領及び認定要領別添1「特別児童扶養手当 障害程度認定基準」(以下「認定基準」という。)に基づいて行うこととされている。なお、認定基準の「第17節/重複障害」により、「施行令別表第3の2級に該当する程度の機能障害が2以上あるときは、施行令別表第3の1級に該当するものとする」とされている。
(5) 既に手当の支給を受けている者について手当の額を改定する場合、その改定時期は、法第16条において準用する児童扶養手当法第8条第1項の規定により、その者がその改定後の額につき認定の請求をした日の属する月の翌月から行うことと定められている。
3 本件処分の妥当性について
額の改定は、法第16条において準用する児童扶養手当法第8条第1項の規定に基づき、その者がその改定後の額につき認定の請求をした日の属する月の翌月から行うものであることから、額の改定を適用する時期を令和○年○月からとした処分庁の判断に違法又は不当な点はない。
また、当初認定請求時に提出された手帳の写し等に基づき2級相当と判定され、その後、額の改定請求時に提出された特別児童扶養手当認定診断書に基づき1級相当と判定されている。この場合、提出時点の異なる両書類を比較し、「障害の程度が増進した」と処分庁が判断したことは違法とまではいえず、本件額改定処分は改定時期を含めて適法に処理されたものと認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。
第7 付言
1 手帳の交付を受けている場合の取扱いについて
認定要領別紙4(1)によると、認定請求において添付が必要な診断書は、要考慮要素を網羅した特別児童扶養手当認定診断書とされている。ただし、認定要領別紙4(2)によると、「障害の程度が令別表第3の各号のいずれかに該当することが明らか」である場合には、特別児童扶養手当認定診断書の添付が不要とされている。これは、対象となる児童がいずれの号及び級に該当するのかが明白である場合をいうものと解される。
本件児童のように重複障害を有する場合、各障害についての判断をした上で、最終的な重複障害としての判定をする必要がある。本件において、体幹機能障害については特別児童扶養手当認定診断書以外の情報から2級に該当すると判断することができたが、上肢機能障害については同診断書以外の情報のみでは2級に該当すると判断できなかった。したがって同診断書の添付無しには、最終的に本件児童の重複障害がいずれの号及び級に該当するのかが明白であったとはいえない。現に、その後審査請求人が同診断書を提出した結果、判定が2級から1級に変更されていることからも、当初の判断材料が不十分であったことが明らかであるといえる。
したがって、処分庁において特別児童扶養手当認定診断書の添付を省略できるとした判断は、認定要領の趣旨を踏まえた運用であったとは言い難く、当初認定請求時において特別児童扶養手当認定診断書の提出を求めるべきであったと認められる。
2 当初の処分について
審査請求人は、当初認定請求時に○○に問合せを行い、1級と判定されるためには特別児童扶養手当認定診断書が必要であるとの回答を得て、同診断書を提出する意向を示していた。ところが、その後、処分庁が審査請求人に対して、同診断書の添付は必ずしも必要ではなく、手帳の添付で差し支えない旨案内した。審査請求人はこの案内を受けて、手帳の写し等を提出した結果、2級相当であると判定された。処分庁はこの事実関係については概ね認めている。
そして、後日提出した特別児童扶養手当認定診断書の記載内容から、本件児童について1級相当であると判定された。処分庁も認めているとおり、本件児童の症状は当初認定請求当時から変わっていないことから、仮に、当初認定請求の際に当該診断書を提出していれば、当初から1級相当と判定されたはずである。これは結果として、処分庁が当初案内した内容によって、審査請求人が得られるはずであった利益が得られなくなったことを意味している。
確かに手帳を有している場合には、手帳の記載のみによって判定できるケースは多く、特別児童扶養手当認定診断書の作成費用及びその取得に要する負担を考慮すれば、処分庁の案内は申請者の立場に立った対応であったともいえる。しかし、制度を主管している行政庁から案内されれば、県民はそれを信じて従うのが自然であり、その信頼は保護されて然るべきである。本件において処分庁は、処分庁の案内を信じたことによって審査請求人が得られなくなった利益の救済を図るべきであった。
これについて、審理員が付言しているとおり、処分庁は、特別児童扶養手当認定診断書の記載内容から、本件児童が当初認定請求時点から1級相当であったことを認識できたはずであるから、その時点で額改定請求手続に固執せず、職権で当初の2級認定処分を取り消し、遡って1級認定処分とし、令和○年○月から○月までの手当の差額を支給すべきであったといえる。
処分庁においては、これらの事情を踏まえて、国民の迅速な権利救済を図るという行政不服審査制度の趣旨の下、速やかに当初2級認定処分を職権で取り消し、遡って1級認定処分とし、審査請求人に対して手当の差額分を支給することを強く求める。







