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令和8年度答申第5号

更新日:2026年8月21日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

 処分庁が行った令和7年9月16日付け生活保護変更決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるものであり、その理由は次のとおりである。

(1) 本件処分の通知書には、自己負担額〇円の記載があるが、審査請求人には覚えがなく、処分庁の説明義務違反であるため。

(2) 保護費の支給額が〇円なのは、おかしいため。

(3) 処分庁は虚偽を述べている。審査請求人が本当に刑務所にいたのであれば、年金支給が止まっているはずである。

(4) 処分庁は、審査請求人に対して債権があると述べているが、債務と債権の相殺は当事者は民法の規定により拒否できる。これを処分庁職員に何度も伝えているが、処分庁は応じない。法令遵守義務違反、信用失墜行為である。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 行政処分は、法令に基づき適法に行われることが必要であり、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がある場合には、当該処分は当然に無効となる。本件処分は、先行する審査請求人が釈放されたことによる令和〇年〇月〇日からの生活保護停止解除処分及び審査請求人が収容されたことによる同月〇日からの生活保護停止処分(以下「本件停止処分」という。)の有効性が前提とされるものであることから、本件停止処分に重大かつ明白な瑕疵があり無効であると認められるときは、本件処分もまた、その法的基礎を欠き無効である。

 法令上、被留置者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間は、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第26条にいう「保護を必要としなくなったとき」に該当し、保護を停止することが相当である。

 弁明書記載の経緯によれば、令和〇年〇月〇日、処分庁は、法第29条に基づいて〇警察署に審査請求人が逮捕された事実確認及び逮捕された場合の勾留期間について照会を行っている旨を記載している。そして、同年〇月〇日、〇警察署から、同年〇月〇日から同月〇日まで審査請求人を勾留していた旨の回答を得ている。これらの記載内容は具体的であり、かつ法に基づく官公署への照会とそれに対する回答内容の記載であることからすると、審査請求人が逮捕及び勾留されていたことは事実であると認められる。以上より、処分庁の行った本件停止処分は、根拠及び前提となる事実の判断に欠けるものではない。

 収入認定については、法の趣旨から、被保護者に一時的な収入が発生した場合でも、保護の停止や廃止に至らない程度であれば、その収入を生活費に充てることは自然である。したがって、当該一時的収入については、収入発生月において一括して評価するにとどまらず、当該一時的収入が最低生活の維持に資する限度において、その後の期間にわたり収入充当額として按分して認定する取扱いが許容される。

 本件処分に係る収入認定は、本件停止処分により審査請求人の最低生活費が一時的に減額したことに端を発したものであり、本件停止処分以後も繰り越され、本件処分においても審査請求人の収入として認定されたものである。そして、その判断過程に不合理な点は認められず、処分庁の裁量の範囲内において適法に行われたものと認められる。

 説明義務については、法令上、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならない。また、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならない。

 処分庁は、令和7年9月16日付け生活保護変更通知書にて審査請求人に本件処分を通知した。本件処分通知書の記載は、欄の形式上一部空欄を含み、簡潔ではあるものの、処分の主要な理由を審査請求人において把握し得る内容となっている。したがって、処分庁が説明義務を怠ったとは認められない。

 なお、審査請求人は上述のほかにも種々主張するが、これらの主張は、いずれも本件処分の適法性判断に影響を及ぼすものとは認められず、採用することはできない。

 以上のとおり、本件処分に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により棄却されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

 令和8年6月4日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受

 令和8年7月17日 調査・審議

 令和8年8月21日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件に係る法令等の規定について

(1) 法第4条第1項は、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定されている。

(2) 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのでき ない不足分を補う程度において行うものとする。」と規定されている。

(3) 法第24条第3項は、「保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。」と、同条第4項は、「前項の書面には、決定の理由を付さなければならない。」と規定されている。

(4) 法第25条第2項は、「保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもつてその決定を行い、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。前条第4項の規定は、この場合に準用する。」と規定されている。

(5) 法第29条第1項本文は、「保護の実施機関及び福祉事務所長は、保護の決 定若しくは実施(中略)のために必要があると認めるときは、次の各号に掲げる者の当該各号に定める事項につき、官公署(中略)に対し、必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を(中略)求めることができる。」と、同項第1号は「要保護者又は被保護者であつた者 氏名及び住所又は居所、資産及び収入の状況、健康状態(後略)」と規定されている。

(6) 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「別冊問答集」という。)問7-15(答)において、「被保護者が被疑者として警察署に留置、拘束された場合は、刑事行政の一環として措置されるべきものであることから、最低生活費の計上は必要ない」とされている。

3 本件処分の妥当性について

 法に基づく処分を含め、行政処分は、法令に基づき適法に行われることを要し、その成立には権限、手続及び内容の各側面において適法性を備えることが必要である。そして、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がある場合には、当該処分は当然に無効となり、何らの法的効力を有しないものと解される。本件処分は、先行する本件停止処分の有効性が前提とされるものである。ある行政処分(以下「後行処分」という。)が、先行する別の行政処分(以下「前提処分」という。)の存在及び効力を前提としてされる場合においては、前提処分が適法かつ有効に成立していることが、後行処分の適法性の基礎をなすものであるといえる。したがって、前提処分に重大かつ明白な瑕疵があり無効であると認められるときは、当該前提処分は初めから法的効力を有しないから、これを基礎としてされた後行処分もまた、その法的基礎を欠くこととなり、無効である。

 本件の前提処分は、弁明書記載のとおり、審査請求人が勾留されたことを理由とする令和〇年〇月〇日を効力開始日とした本件停止処分である。この点、法第4条第1項により、他の公的制度により最低限度の生活が維持されている場合には、要保護性は否定されることとなる。その場合には法第26条が定めているとおり、保護の停止又は廃止を検討することとなる。これに関し、別冊問答集の問7-15は、被保護者が警察署に留置、拘束された場合は刑事行政の一環として措置されるべきものであるから最低生活費の計上は必要ない旨回答している。この措置の内容について、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)では、被収容者の生活について、刑事施設における被収容者の場合と同様、食事、被服、居住等の生活維持に必要な措置が公的責任により包括的に講じられるものとされており、さらにこれらの処遇に関する諸規定は、被勾留者等についても準用されることが定められている(同法第204条において準用する第57条から第59条まで及び第186条)。また、医療についても、被留置者の健康の保持及び留置施設内の衛生確保のため必要な措置を講ずべきことが定められ(同法第199条)、健康診断の実施の義務付け(同法第200条)、負傷又は疾病等の場合には医師による診療を受けさせなければならない旨が規定されている(同法第201条)など、被留置者について必要な医療を受けることが制度上確保されている。このように、被勾留者は、生活維持に必要な衣食住に加え、医療についても公的責任により保障されており、最低限度の生活が制度上確保されていることから、当該期間中は生活保護による扶助を要しない状態、すなわち要保護性を欠くものと評価されるものであって、当該期間は、法第26条にいう「保護を必要としなくなつたとき」に該当し、保護を停止することが相当である。

 次に、本件処分の前提処分である本件停止処分について、処分庁の判断の基礎となった事実について検討する。処分庁が審理員へ提出した物件内のケース記録の記載によれば、令和〇年〇月〇日、処分庁は、法第29条に基づいて〇警察署に審査請求人が逮捕された事実の有無の確認と、逮捕された場合の勾留期間について照会を行っている旨を記載している。その後、同年〇月〇日、〇警察署からの回答により、審査請求人が同年〇月〇日から同月〇日まで勾留されていたことを把握した旨も記載している。これらの記載は具体的であり、かつ法に基づく官公署への照会とそれに対する回答内容の記載であることからすると、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第32条が地方公務員に法令遵守義務を課していることとも合わせて、審査請求人が逮捕及び勾留されていたことは事実であると認められるものである。以上より、これら推認される事実を基に処分庁の行った本件停止処分は、根拠及び前提となる事実の判断に欠けるものではなく、重大かつ明白な瑕疵があるとは認められず、法的効力を有する。したがって、本件処分の前提としての本件停止処分は、妥当性を有するものである。

 法第8条第1項が規定しているように、収入認定額が最低生活費に満たない場合に保護要と判定され、その不足分が扶助されることとなる。これに関し、法第4条の規定により、被保護者に一時的な収入が発生した場合であっても、それが直ちに保護の停止又は廃止(法第26条)を要する程度に至らない限りにおいては、当該収入をもって最低生活の維持に充当すべきことは当然である。したがって、当該一時的収入については、単に収入発生月において一括して評価するにとどまらず、当該一時的収入が最低生活の維持に資する限度において、その後の期間にわたり収入充当額として按分して認定する取扱いが許容される。

 本件処分に係る収入認定は、本件停止処分により審査請求人の最低生活費が一時的に減額したことに端を発したものであり、その減額された最低生活費と収入認定額を比べたときの後者の超過分が、繰越金として本件停止処分以後も繰り越され、本件処分においても審査請求人の収入として認定されたものである。処分庁が審理員へ提出した物件内の保護決定調書の記載によれば、具体的には、〇月分最低生活費〇円(一般生活費〇円及び医療移送費〇円)と収入認定額〇円(障害厚生年金〇円、年金生活者支援給付金〇円及び繰越金〇円)とを比した際の差額〇円を翌月に繰り越す決定を行っている。本件処分は、法第4条の趣旨に沿うものであり、判断過程に不合理な点は認められない。したがって、本件処分に係る収入認定は、処分庁の裁量の範囲内において適法に行われたものと認められ、本件処分は妥当性を有するものである。

 法第25条第2項において準用する法第24条第4項では、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、前述のとおり、法第25条第2項は、保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、速やかに、職権をもってその決定を行い、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならないと定めている。これに関し、法律に基づく処分等の手続について定める行政手続法(平成5年法律第88号)の第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定され、同法第14条第1項は、行政庁が不利益処分をする場合についても同様に理由提示を要する旨規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決等において、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと解される。

 処分庁は、令和7年9月16日付け生活保護変更通知書にて審査請求人に本件処分を通知した。同通知書には、「保護の種類及び支給額」欄に、各扶助費が〇円、自己負担額が〇円、一時扶助費の内訳が医移送費である旨が記載され、「今回の決定に伴う差額と支給方法」欄は空欄で、同欄の最下部に「繰越内訳 〇円」の記載がされ、また、「保護変更理由」欄に「医移送費支給決定」と記載されている。まず、一時扶助費については、それを認定したことが分かる記載であり、本件処分の内容のうち医療移送費の支給決定がなされていることは、当該通知書の記載から明確に読み取ることができる。次に、「今回の決定に伴う差額と支給方法」欄自体は空欄であることと、同欄の最下部の「繰越内訳 〇円」との記載態様からすれば、当該欄の趣旨と相まって、当月分において生じた差額が現金給付として支給されるのではなく、翌月に繰り越される取扱いとなっていることを示すものと理解することができる。加えて、同通知書においては、各扶助費が〇円とされる一方で、自己負担額として〇円が記載されているところ、この自己負担額は、前述のとおり、本件停止処分に伴う過支給額を基礎として収入認定された繰越金に対応するものであり、当月の保護費が〇円とされたことと一体的に理解されるべきものである。すなわち、本件処分通知書における「各扶助費が〇円」との記載と、「自己負担額〇円」及び「繰越内訳〇円」との記載は、当月については収入認定額が最低生活費を上回っているため保護費の支給が行われず、その超過分が翌月に繰り越されるという処分の内容及び理由を相互に補完し合う形で示しているものといえる。そして、生活保護制度においては、収入認定額が最低生活費を上回る場合には扶助費が支給されないという基本的な仕組みが採られているものであるところ、審査請求人においても自己の収入状況やこれまでの経過を踏まえれば、当月分については収入認定額が需要を上回っているため保護費の支給が行われないこと及びその超過分が翌月に繰り越されることを理解することが可能である。

 以上を総合すると、本件処分通知書の記載は、欄の形式上一部空欄を含み、簡潔ではあるものの、本件処分が、1.医療移送費の支給決定を含む保護内容の変更であること、2.収入認定(繰越金の存在)により当月の保護費が支給されないこと、という処分の主要な理由を審査請求人において把握し得る内容となっていると認められる。また、本件処分通知書の記載は、処分の理由を名宛人に知らせ、不服申立てに便宜を与えるという理由提示制度の趣旨にも適合するものである。したがって、本件処分に係る理由提示は、いかなる事実関係に基づき当該処分がされたかを了知し得る程度のものとして、法第25条第2項及び同項において準用する法第24条第4項並びに行政手続法第8条及び第14条の趣旨を満たすものであり、処分庁が説明義務を怠ったとは認められない。

 なお、審査請求人は上述のほかにも種々主張するが、これらの主張は、いずれも本件処分の適法性判断に影響を及ぼすものとは認められず、採用することはできない。

第6 付言

 本件処分においては、最低生活費と収入認定額の差額を翌月の審査請求人の収入として繰り越しているが、当該取扱いは、本件停止処分に端を発したものであり、それ以降の処分内容も踏まえて繰越額が決定されていることから、処分の内容を理解することが容易でない。加えて、本件処分の直前に年金改定及び最低生活費の改定が実施されており、処分の内容がより複雑になっている。過去のケース記録によれば、処分庁は、処分の内容の説明に向け審査請求人宅を訪問するなどの努力が確認されているが、本件のように複雑な処分内容にあっては、これまで以上に処分通知の記載内容の充実及び説明機会の確保に取り組まれることを期待する。

第7 結論

 以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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