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令和5年度答申第15号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
審査請求人は、令和5年8月10日付け精神障害者保健福祉手帳に係る申請の不承認処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める理由として、次のとおり主張している。
- 私の状態は以前とは変わっておらず、処分に不服があるため。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
精神疾患(機能障害)の状態についてみると、主たる精神障害として「反復性うつ病性障害」であることから、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」(平成7年9月12日健医発第1133号厚生省保健医療局長通知。以下「判定基準」という。)別添1「精神障害者保健福祉手帳等級判定基準の説明」(1)(2)気分(感情)障害として判定することとなる。審査請求人が令和○○年○○月○○日に行った精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第45条第4項の規定による認定の申請において提出された診断書(以下「本件診断書」という。)の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(1) 抑うつ状態」として「思考・運動抑制」、「憂うつ気分」、「(7) 不安及び不穏」として「心的外傷に関連する症状」が認められるものの、これらの項目以外に該当する項目はなく、また、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」に、「抑うつ気分、意欲低下、不安焦燥感は薬物調整、疾病教育により軽減。現在自営業として定期的な社会参加を継続している。」と記載され、「上記の具体的程度、状態等」の欄には、「日常生活は○○との葛藤を生じることは時折認められる程度で問題なく送れている状況。」と記載されていることから、精神疾患の状態は薬物治療等により軽減していて、定期的な社会参加を継続できるまでに安定していると認められる。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、判定基準の3級に該当するとまでは認められない。
能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。」に該当するとされており、「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準の運用に当たって留意すべき事項について」(平成7年9月12日付け健医精発第46号厚生省保健医療局精神保健課長通知。以下「留意事項」という。)別紙3(6)の表ではおおむね3級程度の区分となる。また、「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち5項目が判定基準の表において3級相当とされる「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」とされており、他3項目が障害等級非該当とされる「自発的にできる」又は「適切にできる」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね3級程度の区分となる。一方で、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」の欄の「現在自営業として定期的な社会参加を継続している。」との記載や、「上記の具体的程度、状態等」の欄の「就労は家人の援助下にて自営業を継続している。日常生活は○○との葛藤を生じることは時折認められる程度で問題なく送れている状況。」との記載からは、就労による定期的な社会参加を継続しており、日常生活に問題がないことが認められ、日常生活又は社会生活に支障が生じ一定の制限を受けている状態にあるとは認められない。また、本件診断書のその他の記載からも、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。したがって、審査請求人の能力障害(活動状態)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において3級とされる「日常生活又は社会生活が制限を受ける程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当しないと判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断し、審査請求人は手帳非該当と認めることができる。
また、法令に基づき、医師により作成された本件診断書を、処分庁が審査及び判定した本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和6年2月21日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和6年2月29日 調査・審議
令和6年3月18日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)があった場合において、当該申請に基づいて審査し、申請者が精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号。以下「施行令」という。)第6条に規定する精神障害の状態にあると認めたときは、申請者に精神障害者保健福祉手帳を交付しなければならず(法第45条第1項及び第2項並びに精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則(昭和25年厚生省令第31号。以下「施行規則」という。)第23条第2項)、また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、2年ごとに、施行令第6条に規定する精神障害の状態にあることについて、都道府県知事の認定(申請に当たっては、医師の診断書等を添付)を受けなければならないとされている(法第45条第4項及び施行規則第28条第1項)。
(2) 施行令第6条に規定する精神障害の状態とは、障害の程度に応じて重度のものから1級、2級及び3級とし、障害等級1級の障害の状態として「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」、障害等級2級の障害の状態として「日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」、障害等級3級の障害の状態として「日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」とされている(同条第3項)。
(3) 障害等級の判定の具体的な基準については、国から「精神障害者保健福祉手帳制度実施要領について」(平成7年9月12日付け健医発第1132号厚生省保健医療局長通知。以下「実施要領」という。)が発出されており、「障害等級の判定に当たっては、精神疾患(機能障害)の状態とそれに伴う生活能力障害の状態の両面から総合的に判定を行うものとし、その基準については、別に通知するところによる。」とされている(実施要領第2の2(2))。
(4) この実施要領を受けて、判定基準が発出され、また、この判定基準の運用について留意事項が発出されている。
(5) 判定基準によれば、障害等級の判定は、精神疾患の存在の確認、精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認、精神障害の程度の総合判定という順を追って行われることとされ、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、対応することとされている。
また、留意事項によれば、精神疾患の種類によって、また、精神疾患(機能障害)の状態によって、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害(活動制限)の状態の関係は必ずしも同じではないため、一律に論じることはできないが、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認の上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされている。
気分(感情)障害の精神疾患(機能障害)の状態については、「高度の気分、意欲・行動及び思考の障害の病相期があり、かつ、これらが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするもの」は1級と、「気分、意欲・行動及び思考の障害の病相期があり、かつ、これらが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするもの」は2級と、「気分、意欲・行動及び思考の障害の病相期があり、その症状は著しくはないが、これを持続したり、ひんぱんに繰り返すもの」は3級とされている(判定基準別紙の表)。
能力障害(活動制限)の状態については、「適切な食事摂取」、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「社会的手続や公共施設の利用」及び「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の各項目について、「できない」等にいくつか該当するものは1級と、「援助なしにはできない」にいくつか該当するものは2級と、「行うことができるがなお援助を必要とする」等にいくつか該当するものは3級とされている(判定基準別紙の表)。
また、診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通にできる」である場合は障害等級非該当と、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける」である場合はおおむね3級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする」である場合はおおむね2級程度と、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を必要とする」又は「精神障害を認め、身の回りのことはほとんどできない」である場合はおおむね1級程度とされている(留意事項別紙3(6)の表)。
そして、障害等級の基本的なとらえ方として、「精神障害が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の援助を受けなければ、ほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの」である場合は1級と、「精神障害の状態が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものである。この日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は困難な程度のもの」である場合は2級と、「精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である場合は3級とされている(判定基準別添2)。
(6) なお、申請者が施行令第6条に規定する精神障害の状態にあるかどうかの判定は、都道府県に設置されている法第6条第1項に規定する精神保健福祉センターに行わせるものとされ、当該判定を行う者については、原則として、法第18条第1項の精神保健指定医(以下「指定医」という。)を含めるものとされ、群馬県においては、処分庁が精神保健福祉センターの事業を行っている(実施要領第2の3(2))。
3 本件処分の妥当性について
(1) 審査請求人の障害等級について、判定基準及び留意事項に従って、以下検討する。
ア 精神疾患の存在の確認
本件診断書の「(1) 病名」から、主たる精神障害として「反復性うつ病性障害」が確認できる。
イ 精神疾患(機能障害)の状態の確認
本件診断書の「(3) 発病から現在までの病歴並びに治療の経過及び内容」では、「元々集団行動は苦手で、人からは理解されないことが多かった。平成○○年頃より抑うつ気分、意欲低下、腰痛が出現。アルコールで気分を紛らわせる機会が多くなった。○○○○、○○○○を経て、平成○○年○○月○○日当院初診。以後定期的な通院を継続している。」と記載がある。
次に、「(4) 現在の病状および状態像等」では、「(1) 抑うつ状態」の「1.思考・運動抑制」、「3.憂うつ気分」及び「(7) 不安及び不穏」の「3.心的外傷に関連する症状」に該当している。
また、「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」では、「抑うつ気分、意欲低下、不安焦燥感は薬物調整、疾病教育により軽減。現在自営業として定期的な社会参加を継続している。」との記載がある。
ウ 能力障害(活動制限)の状態の確認
本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(1) 現在の生活環境」では、「在宅(家族等と同居)」に該当している。
次に、「(2) 日常生活能力の判定」では、「身辺の清潔保持、規則正しい生活」、「金銭管理と買物」、「社会的手続や公共施設の利用」の3項目について、「自発的にできる」又は「適切にできる」と判定されている。「適切な食事摂取」、「通院と服薬」、「他人との意思伝達・対人関係」、「身辺の安全保持・危機対応」、「趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加」の5項目については、「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」と判定されている。
また、「(3) 日常生活能力の程度」には、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。」と判定されており、「上記の具体的程度、状態等」の欄には「就労は家人の援助下にて自営業を継続している。日常生活は○○との葛藤生じることは時折認められる程度で問題なく送れている状況。」との記載がある。
エ 精神障害の程度の総合判定
3(1)ア及びイを基に、審査請求人の精神疾患(機能障害)の状態についてみると、主たる精神障害が「反復性うつ病性障害」であることから、判定基準別添1(1)(2)気分(感情)障害として判定することとなる。本件診断書の「(4) 現在の病状及び状態像等」において、「(1) 抑うつ状態」として「思考・運動抑制」、「憂うつ気分」、「(7) 不安及び不穏」として「心的外傷に関連する症状」が認められるものの、これらの項目以外に該当する項目はなく、また、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」に、「抑うつ気分、意欲低下、不安焦燥感は薬物調整、疾病教育により軽減。現在自営業として定期的な社会参加を継続している。」と記載され、「上記の具体的程度、状態等」の欄には、「日常生活は○○との葛藤生じることは時折認められる程度で問題なく送れている状況。」と記載されていることから、精神疾患の状態は薬物治療等により軽減していて、定期的な社会参加を継続できるまでに安定していると認められる。したがって、精神疾患(機能障害)の状態は、判定基準の3級に該当するとまでは認められない。
次に、3(1)ウを基に、能力障害(活動制限)の状態についてみると、本件診断書の「■精神障害者保健福祉手帳用記載欄」の「(3) 日常生活能力の程度」については、「精神障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。」に該当するとされており、留意事項別紙3(6)の表ではおおむね3級程度の区分となる。また、「(2) 日常生活能力の判定」では、8項目のうち5項目が判定基準の表において3級相当とされる「自発的にできるが援助が必要」又は「おおむねできるが援助が必要」とされており、他3項目が障害等級非該当とされる「自発的にできる」又は「適切にできる」とされており、これらの判定項目の記載からはおおむね3級程度の区分となる。一方で、本件診断書の「(5) (4)の病状及び状態像等の具体的程度、症状、検査所見等」の欄の「現在自営業として定期的な社会参加を継続している。」との記載や、「上記の具体的程度、状態等」の欄の「就労は家人の援助下にて自営業を継続している。日常生活は○○との葛藤生じることは時折認められる程度で問題なく送れている状況。」との記載からは、就労による定期的な社会参加を継続しており、日常生活に問題がないことが認められ、日常生活又は社会生活に支障が生じ一定の制限を受けている状態にあるとは認められない。また、本件診断書のその他の記載からも、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける状態にあることをうかがわせる記載は見受けられない。したがって、審査請求人の能力障害(活動状態)の状態は、判定基準別添2「障害等級の基本的なとらえ方」において3級とされる「日常生活又は社会生活が制限を受ける程度のもの」に至っているとまではいえず、障害等級3級に該当しないと判断できる。
以上から、精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態を総合的に判断すると、審査請求人は障害等級3級についての要件を満たしておらず、障害等級非該当であると認めることができる。
(2) 判定の手続について
ア 障害等級の判定の手続については、上記2(6)のとおり、実施要領の取扱いにのっとり指定医による判定が行われており、本件処分を違法又は不当とすべき事実は認められない。
イ 審査請求人は、当初、精神障害手帳3級を受けた時と状態が変わっていないと主張し、反論書において、手帳交付に該当する根拠として、令和○○年○○月○○日付けの診断書を提出している。
障害等級の判定は、法第45条第2項及び施行規則第23条第2項に、精神障害者保健福祉手帳の交付の申請(医師の診断書等を添付)に基づいて審査する旨規定されており、また、判定基準及び留意事項によれば、判定に際しては、診断書に記載された精神疾患(機能障害)の状態及び能力障害(活動制限)の状態について十分な審査を行い、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害(活動制限)の状態の確認を行った上で、精神障害の程度を総合的に判定することとされている。
このことから、提出された本件診断書に基づく書面審査を行った処分庁の本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
なお、令和○○年○○月○○日付けの診断書については、本件審査請求において考慮することはできないが、病状の変更がある場合には、新たな診断書を根拠として、精神障害者保健福祉手帳の新規申請を行うことを妨げるものではない。
(3) 結論
施行規則第23条第2項の規定に基づき提出された本件診断書を、法第45条第2項の規定に基づき処分庁が審査し、障害等級を判定した本件処分については、適法かつ適正に行われたものであり、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。