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文化財保護審議会 令和3年度 第1回 開催結果
1 日時
令和3年8月2日(月曜日)13時30分~15時30分
2 場所
県庁29階 第一特別会議室
3 出席者
会議室参加:戸所隆会長、村田敬一副会長、金澤好一委員、右島和夫委員、宮崎俊弥委員
Web参加:飯島康夫委員、染川香澄委員、野田香里委員、原田一敏委員
4 事務局出席者
新井薫地方創生部長、植松啓祐文化財保護課長、福田一也次長、櫻井美枝文化財専門官
文化財活用係:齋藤英敏補佐(係長)、笹澤泰史主幹、茂木誠主幹、小林正主幹、小原俊行主任、
小嶋圭主事、木村周大主事
埋蔵文化財係:飯森康広補佐(係長)
5 開会
13時30分
6 挨拶
群馬県地域創生部 主催者挨拶(新井薫地域創生部長)
群馬県文化財保護審議会 会長挨拶(戸所隆会長)
群馬県文化財保護審議会 副会長挨拶(村田敬一副会長)
7 議事録署名人選出
議長が今回の議事録署名人に野田委員・宮崎委員を指名。
8 傍聴人の報告
事務局が、1名であることを報告。
9 傍聴制限確認
事務局から、審議事項については非公開、その他については公開とする提案がなされ、委員に承認された。
10 内容
報告事項
- 令和2年度文化財保護課事業報告
- 令和3年度文化財保護課主要事業
- 文化財活用係・埋蔵文化財係の事業について
- 群馬県指定文化財の補助事業について
- 群馬県指定文化財の現状変更等について
- 国県指定等文化財数について
質疑
(議長)今までのところで質問・意見はあるか。
(審議委員)2点聞きたい。1点は文化財保護課の部局変更について、これまで教育委員会にあったが、今回、地域創生部に変わった。背景・理由を知りたい。トップの判断だと思うがたぶん理由がある。
もう1点は細かいことだが、11ページの現状変更で、重要なミヤマモンキチョウの富山大学からの変更申請があった、この背景を教えてほしい。
(事務局)文化財保護課が、教育委員会から知事部局に移管になったのは、今年度ではなく昨年度で、地域創生部ができた時であり、それと対応している。
文化振興課が先に知事部局に移管されており、教育委員会の当課と連携しながら事業を進めてきた。昨年度は、世界遺産の関係も文化振興課の所管となった。先ほど説明があった新規登録の境島村の蚕種農家についても、世界遺産の「田島弥平旧宅」と関連することから、文化振興課も深く関わっている。また、獅子舞・お囃子等の無形民俗文化財を保存するために、文化振興課では、篠笛・三味線・義太夫などのワークショップを実施しており、文化財保護課とも密接に連携して取り組むことが適切だという判断があり、知事部局に移管になったと理解している。
(審議委員)活用を重視した連携、そういう方向で、同じ知事部局になったと考えてよいか。
(事務局)文化財保護法が改正され、知事部局でも文化財保護を所管できるようになったことをきっかけに、より一層、保存・活用で連携できるようにということでの組織替えと考えている。
(審議委員)了解した。
(事務局)ミヤマモンキチョウの富山大学からの変更申請の件であるが、群馬県で天然記念物指定となっているミヤマモンキチョウの生息地は、全国に2ヶ所しかない。一つは、北アルプス。もう一つは、群馬県の浅間山から湯ノ丸、長野県の県境添いに山田峠から芳ヶ平で、草津の奥になる。富山大学では保全保護するために、どんなチョウがいるのかまだ解明されてないこともあり、遺伝子解析や生態なども含め、前年度と今年度に、北アルプスで調査している。その中で今年度、群馬でも調査をしたいということで申請が出たということである。遺伝子解析が進み、同じ種ということになれば、同じ種としての保護対策がとれる。外見上は同じであっても、遺伝子を調べることで、実は随分昔に分かれていたチョウであるとなった場合は、別な種として保護対策を考えないといけない。その調査における科学的なデータを集める入口として、今回、採集や羽根の一部を切り取るといった方法での現状変更申請が提出された。
(議長)他にあるか。
(審議委員)報告の中で、境島村の登録の話が出てきたが、もともと、地元の方々と、最終的には伝建群を目指そうということで動いている。世界遺産のバッファーゾーンということでも、当然位置づけていると思うが、県としてどのように考えているのか。わかる範囲で教えてほしい。
(事務局)島村の養蚕農家群については、世界遺産の田島弥平旧宅のバッファーゾーンになっており、その重要性は十分理解している。伊勢崎市及び地元の意見を重視しながら、その動きをバックアップしていきたいと考えている。
(審議委員)是非とも、強力に進めてほしいと考えている。現在、登録となっている中に、本庄市側となる田島亀夫家がある。これはまだ登録されていないので、現在は4件となる。資料にある町田清家は、新地地区ではなく、少し離れた立作地区にある。当然本庄サイドでもそういう動きがあり、伝建エリアとすると、1つの市エリアではなく他市にまたがり、今までにない流れになる。後にうちの地区はなぜならないのかというような状況にならないよう、埼玉県側も含めて、しっかり調整を進めてほしい。
(議長)他に無ければ、以上で報告事項を終了する。それでは審議事項に入りたいが、ここからは非公開となるので、傍聴人は退出をお願いする。
審議事項
- 防災マニュアルについて
- 地方登録制度について
- 専門部会の活動について
質疑
(議長)審議事項1の文化財防災マニュアルについて、最初に事務局から説明をして、その後、意見をお願いしたい。
(事務局)群馬県文化財保存活用大綱の中で、県の重点的な政策の一つとして災害に備えた体制の整備を挙げており、今年度は文化財防災マニュアルの作成に取り組むこととした。
前回の審議会でも報告したが、防災の専門部会を立ち上げ、今年になってから2回の専門部会を開催して、文化財防災マニュアルを検討してきた。
配布した資料1は、令和3年7月2日に開催した防災専門部会で検討し、修正を加えた素案である。今後、これをもとに専門部会で原案を作成し、完成版にまとめていく予定である。
まず資料1の目次を見ていただきたい。ここでは、本文の中で最初にマニュアル作成の目的を述べた後、災害前、災害発生時、災害発生後、そして復旧の段階というように、時系列に沿って章を分けてある。それぞれの段階で、所有者や管理団体、市町村、県、地域住民や関係団体、国等の関係者がどのような対応が必要かについて記載した。
今回は文章のみの提示となったが、今後、図表・写真等を加えていく予定である。本文では、関係者ごとに記載し、文化財の類型や災害の種別については、段落分けしていない。文章にすると非常に細かく冗長になるため、災害別・文化財類型別に一覧表やフローチャート、チェックリスト等からなる資料編を付ける形を考えている。
例として風水害部分を挙げた。風水害に関して、所有者、管理団体等、市町村、県、文化庁等、それぞれの関係者が取るべき対応について、その文化財類型ごとに時系列にまとめ、一覧表として掲載した。今回は風水害のみだが、火災、地震、火山災害等についても同様なものを作成していく。
さらに、文化財防災チェックリスト(建造物)を添付したが、これは防災対策の状況を定期点検する際などに使用することを想定して、作成したものである。今回、建造物と美術工芸品のみ添付したが、他の文化財類型についても作成していく。
また、フローチャートでは、災害の危険性が高まっている時に、取るべき行動を簡潔に確認できるようにとの意図で作成した。今回は単独の火災、風水害、火山災害について、関係者ごとに作成したものを添付した。これに加えて、地震と大規模火災についても、作成予定である。単独の火災以外については、災害の程度や危険の有無に応じて取るべき対応が分かれるような形で記述している。
できるだけ使いやすい、わかりやすいものにしたいと考えているので、素案の構成や内容について、意見をお願いしたい。先生方の意見を勘案して、今後の防災専門部会で原案を作成する。
なお、今回のマニュアルは、県や市町村等の行政組織、博物館等の展示収蔵施設、ヘリテージマネージャー協議会や群馬史料ネット等の文化財に関わる民間団体、及び多くの文化財を保管管理している寺社等の所有者・管理者等に向けたものと位置付けている。
個人の所有者や文化財を管理している自治会(保存会)等については、来年度、所有者・管理者の対応に絞って、わかりやすいパンフレットを作成する予定である。
(議長)何か意見・質問があるか。前の保存活用大綱の時にも、かなり防災については議論した。より良いものにするために、意見があればお願いする。
(審議委員)天然記念物の樹木が約84あり、巨樹古木が多いが、やはりその倒壊の可能性は十分考えられる。例えば倒壊したり大枝が落下したりすると、それが災害の発生原因になりうることから、関係者は大変苦慮しているところである。そういう時でも、天然記念物だから、なかなか対応ができないというのでは、人々の生活に支障をきたす。今回のマニュアルに、県の天然記念物についての応急的な対応策を入れられると、人々のためになるのではないか。例えば、木が倒れたときには、除去のための伐採とか、切り離しとか、そういう対応が必要だと考える。市町村の担当者が、それを事前に県と調整することは、緊急時にはできないので、応急的な対応を、明記してもらうとよいのではないか。
それと、木を切った時や枝が落ちたときに年輪がわかったりするので、調査・研究に役立てる意味で、資料として提供してもらいたい。そのことを、所有者・管理者に伝えてもらえると大変ありがたい。
また、古文書等に関しては、できるだけ安全なところに初めから移しておく。例えば博物館や文書館等にあらかじめ寄託収納するよう、町村や所有者に促すようなことを、マニュアルに入れられればよいと思う。最近、災害時に備え、あらかじめ移動しておくことが主流になってきている。
(事務局)防災専門部会でも、災害に遭わないために事前の対策をどうすればよいかということが、一番大事であるとされている。被害を受けないためにはどうすればよいかということについて、マニュアルに記載していきたい。
天然記念物が災害発生の原因になりかねないということについては、その対応方法等について、今後、指導いただきたい。
(議長)災害を受けないように保管するという件だが、これは役所や大学がハザードマップで事前に確認して、1階が浸水する可能性があるなら、重要書類等は2階以上に置くとか、1階を会議室やオープンスペースにするとか、日頃から対応しておくことが重要だと思う。
私の経験では、かなり口酸っぱく注意しても、なかなか理解してもらえないのが現状である。単に文化財のことだけではなくて、横の連携がとても大切だと感じている。他にいかがか。
(審議委員)文化財を取りまく自然環境の変化は非常に大きく、例えば、群馬県のいろいろなエリアの保水能力がすごく落ちている。水田や畑が、違う目的の工業団地、住宅団地等々になってきた。また山林が除去され、そこに大きな太陽光発電の設備ができており、目に見えて進行している。それが、地域全体の保水能力を、すごく下げている。
河川についても、台風や集中豪雨があった時の水の収支の問題が、今や大きく変化してきている。昨年の豪雨でも、たまたま八ッ場ダムが空の状態であり、そこに水が貯まることにより、救われた部分があった。同時に歴史博物館でも、井野川が決壊する可能性が高まり、非常に危険な状態であった。文化財を取り巻く自然環境の大きな変化は、現在進行中である。
それは関係する機関と情報共有したり連携したりすることと共に、環境条件の大きな変化の方向についても見据えていかないと、マニュアル作成の前提条件が、大きく崩れてしまうことになる。
それから、みどり市で山林火災があったが、その山林エリアの中に市の指定文化財があった。足利市の山林火災もそうだが、山林火災が発生すると、普通の火災と違って限界があるということが、非常に見えてきた部分があった。一方、林業自体、かなり従事者が少なくなっており、管理されているエリアも少なくなってきている。山林火災は、いつ起こってもおかしくない状況であり、起こると、かなりまずい状態になると考えている。
文化財を取り巻く環境や社会情勢の変化が、さらに進行していることを考えなくてはならないし、それを視野に入れながら、防災マニュアルを作っていくことが必要だと思う。
(議長)非常に重要だと思うが、今回のマニュアルをそこまで広げるのはきついと思う。ただ、現実に私も太陽光設置の審議会の会長をやっているが、太陽光設置を止めたいと思っても、なかなか止められないのが現状である。それは、農地法、都市計画法、河川法等の法律そのものは、縦割りで連携していない。ただ、文化財に関係するところで、これは問題ありとなると止められる。もっと横の連携をして、総合的に全体でやらないと、なかなか現実社会の中で、コントロールできない。先ほどの意見は重要だけれども、法律を総合的に見直すということになるので、書き込んでいくのは難しいと思う。
(事務局)かなり難しいと思う。災害対応として文化財の所在地が、浸水被害の想定とか、或いは火山災害の想定とかが、なされている地域なのかということに加え、近年想定されていなかったような災害も起きている。
例えば、斜面地があるか、近くに中小河川があるか、そういったチェックはこの中に入れた。しかし、地球規模の災害や自然環境の変化についての記述は、少なくなると思う。
(議長)いずれにしろ、現実に文化財が被害を受ける。皆の意識が変わり、物事を総合的に見ようということにならないと、何の問題も解決しない。それを踏まえて、文化財としてはどう守るかというところを、具体的に考えていかなくてはならない。他にあるか。
(審議委員)先ほどの提案は非常に重要で、やはり古文書は事前に安全な場所に保管しておくことが基本だと思う。個人の家の史料を、公的な文書館や資料館に移しておくのが一番よい。市町村では保管しておく場所が、全体的に不足しているという問題がある。県立文書館もよいが、それでも満杯になりつつあると聞いている。やはり個人の家で史料を持っている場合は、基本的には2階に保管するなど安全な場所に移しておくことが望ましい。
大切なのは、所蔵者や地域の人が、史料に対する防災意識を持つこと。しかし、なかなかできないことなので、今回のマニュアルでそこを強調して、文化財を保存している、或いは関係している人たちの意識を高めていただきたい。群馬県で危機意識が薄いのは、県民が今まで大きな災害を経験していないということが大きい。
もう一つは、やはり文化財のリストができていないこと。所有者が、自分の家にある古文書が重要なのかどうか、認識できない。市町村が文化財保存活用地域計画を早急に作って、文化財のリストを把握することが大切。
それともう一つやって欲しいことは、マニュアルができた段階でよいが、ぜひ市町村の文化財担当者の会議を開いてほしい。地域の人たちが市町村を通して、文化財防災が大事だということを認識するので、文化財担当者会議で、地域計画の作成や防災対策のことを取り上げてほしい。そこで、古文書は2階に置くとか、地域の中に資料館や学校の空き校舎等があったら、安全な保管施設として整備していくとか、市町村と情報共有することが必要だと思う。
(事務局)文化財リストの問題については専門部会でも、すぐに作れない市町村に対して、作成の仕方などを提示する必要があるのではないかという意見があった。この地域計画の作成が、リスト作成ための大きな手段になる。県内でもいくつかの市町村が、地域計画の作成を考えており、今年度から若干動き出している。県としても、そのような市町村を支援しながら、なるべく早く文化財のリストの整理をお願いしたいと思っている。
(審議委員)どうやってリストづくりするかというのが、一番の課題だと思う。指定・登録になっているものと、そうではないものを区分けしていった方がよい。指定・登録に関しては、管理者がわかるけれども、何もないところではわからない。その区分けをするために唯一挙げられているのが地域計画である。私もいくつかの市に関わっているが、果たしてできるのか心配している。
ちょうど3枚目の上から3行目だが、「多岐にわたる文化財の調査を小規模な町村のみで行うことは困難」と記述するのではなく、小さな町村でもきちんと予算化を図って、着実に進めなさいというのが本来だと思う。市・町の文化財調査委員をやっているが、現状では調査ができるとは思えない。問題は埋文と違って調査員もいないわけだから、調査をどうするのか、補助が出るのか出ないのかを含め、小さな一分野でもよいから予算化に努めて、調査をやってほしいというのが本来の形。それが、文化財保護課が出すマニュアルで「困難である」ということは、もう初めから白旗を揚げてしまうことになる。市町村が自ら予算化をして努力して欲しいということを、市町村に言っていかなくてはならないだろう。そうしないと未指定の文化財は残っていかなくなる。
地域計画の作り方の例を挙げるのみならず、もう少し資料編の中で補助内容とか、具体的にどうすれば調査をしっかり実施できるのかということを書いた方がいい。予算化することは、大変なことだと思う。
(審議委員)私も痛切に感じるが、市町村が調査を実施していくのは難しい部分がある。やはり、できるところからやっていくことが必要。文化財保護のための防災なので、具体化する上でどのような工夫が必要なのか考えていくべき。
(議長)案文を読んで感じたのが、指定文化財はリストができているが、未指定の文化財は埋もれていることがある。水害では面的に、地震では倒れた家屋など、被災したところはすぐ復旧にかかり、未指定文化財は捨てられてしまうことがある。滋賀県に長くいたが、旧家等に未指定でも非常に重要で国宝級とされる文化財が結構あると言われていた。そのような未指定文化財が災害を受けたときには、あっという間になくなる可能性がある。やはり未指定文化財がリスト化されていて、災害時にそのリストがすぐに情報として提供できるシステムができているかどうかが重要だと思う。今回の防災マニュアルは、指定文化財についてはよくできているが、未指定文化財についてどう作っていくのか、指定文化財と分けて考えていく必要があるのではないか。
また、保管する場所が無いとよく言われるが、人口減で閉校になった小・中学校があり、しかも防災上安定している場所に建っている鉄筋の建物がある。それらを活用していくことが、文化財の保存とともに、経済的にも有効だと思う。地域計画を立てて防災のシステムを、各市町村にも考えていただくことが必要だと感じた。他にあるか。
(審議委員)天然記念物は屋外にあり、災害があると枯れてしまう状況にある。防災対策が本当にできるのかというと、なかなか難しい。そのような状況の中、県の天然記念物が枯れてしまっても、記録として後世に残るように、取り組んでいただけるとありがたい。樹木は防災対応が進んでいない部分もあるが、実際に防災対策ができないものに関しては記録を残し、それで代替していくことをお願いしたい。
もう一つ、マニュアルは字数が多いと理解しにくいので、市町村職員や関係者等が見て、すぐにわかる内容の冊子にすると、より生きてくると思う。
(事務局)本文は、できるだけ記載内容を削り、あまり冗長にならないような形にし、代わりに資料編でわかりやすくまとめていきたいと思っている。今回も全部提示したかったが、サンプル的に提示した。来年度計画している所有者・管理団体向けの防災パンフは、A3の見開き、両面カラー印刷程度とし、いざという時の対応と事前準備についてまとめ、わかりやすい形にしていきたい。
(議長)打ち合わせの時に申し上げたが、災害が起こったとき、どうしたらよいかというときに、事典のように引けるようなものがよいと思う。「言うは易く行うは難し」だが、取り組んで努力してほしい。防災部会から何かあるか。
(審議委員)一つは使えるマニュアルにするということで、事務局で随分工夫して、災害前と災害に当たってのいくつかの段階、さらに災害のレベルに合わせ、それぞれの対応を、誰がどうやればいいのか、役割分担も含めて、使いやすいように工夫してもらっている。
議論で出てきた問題はいずれも重要だが、民俗文化財の立場から言うと、未指定文化財をどう把握するかは非常に大きな問題。未指定の民俗文化財は、把握できないのではないかという気がしており、そういう点も含め、市町村の資料館等の問題になる。市町村において、民俗文化財や調査報告書等々を、資料館や小・中学校に置いているが、自治体によっては廃棄という方法をとっていく。今後、十分考えていく必要がある。また、民間と自治体との連携について、ネットワークを作っておく必要があるとする意見も出ている。
(審議委員)今、行政のあり方が変わってきている。特に防災においては、官民共創、官と個人がつながるという形に変わることが、もう避けられない状況ではないか。
例えば、和光市には「#和光市災害」というものがあり、市民が災害時にハッシュタグをつけてツイートするということが、防災訓練として普段から行われている。その観点からすると、「防災マニュアルができました。これに沿ってやりましょう」というような呼びかけではなくて、マニュアル作成に多くの人が関わることが大事だと思う。
関わった関係者が多ければ多いほど、自分たちの現状や問題点がマニュアルに反映されていると思う人が多くなり、防災マニュアルの運営も、将来成功していくと思う。
今年は組織の方を対象に、来年は個人の方を対象にして作っていくと伺ったが、色々な関係者の話を聞いていくと、1年で作るのは難しくなる。どうしても1年で作っていくのであれば、一旦作った後で防災マニュアルをブラッシュアップしていくことが必要となる。作成過程に色々な方たちの意見を反映するという作成過程そのものが、防災ネットワークの構築にもなるという作り方が良いと思った。
(議長)二人の委員の意見は重要なことで、民間を巻き込んでマニュアルを作ること自体、関係者の意識を高めていくということにつながる。そういう意味で、皆さんに関心を持ってもらえる作り方、そしてできたものが関係者の心に届くように、事務局も努力してほしい。
それから、一定の災害規模で議論している感があるが、災害規模が非常に大きいか小さいか、それから範囲が広域か狭域か、市町村レベルか県レベルか、或いは近県も含めての対応か、全国で考えなくてはならないものか、ということもある。それらをすべて、書き込んでいくことは難しいが、普段から、連携できる形は整えておく必要がある。
大きな災害について、遠方とも常に顔が見える関係を構築しておくことが重要で、普段から似たような文化財を持っているところが協定を結び、いざというときには応援に入るという協力体制を作っていくことを、マニュアル作成と同時に進めておく必要があると思う。地道に一歩一歩進めていくことが重要であり、一気に百点は取れない。
時間的にも迫ってきたので、何かあれば意見を事務局に寄せてほしい。この件については、時間なので次に移らせていただく。
では、審議事項2の文化財保護法の一部改正について、事務局から説明をお願いする。
(事務局)文化財保護法が今年の6月14日に改正され、国の登録制度に無形文化財、無形民俗文化財がプラスされた。また、令和4年4月1日から、地方公共団体でも登録制度を作ることができるようになる。
今までの登録制度には建造物・美術工芸品または記念物等があったが、新たに無形文化財・無形民俗文化財が仲間入りした。7月16日には、新たな国登録の無形文化財が2件答申されている。一つは香川県讃岐の醤油醸造技術、もう一つは土佐の土佐節の製造技術である。
来年4月から施行される地方登録制度について、今年度の文化財保護審議会・各専門部会を通じて、本県でも登録制度が必要かどうか、必要な場合、補助制度等をどうするか等について、先生方に議論していただきたい。専門部会では、年内を目途に意見を出していただきたいと考えており、次回2月の本審議会で、地方登録制度について最終的な結論をいただきたいと考えている。
現在、都道府県では京都・大阪・兵庫の3府県が、市町村では全国で83市区町村が、すでに独自の登録制度を持っている。
(議長)これらについて、質問、意見はあるか。地方登録制度について、群馬県として設置するかどうかということと、設置する場合の補助制度等をどうするかであるが、今後書面で問い合わせになるのか。
(事務局)書面もしくは専門部会を開催して、意見をいただきたいと考えている。
(議長)今日、全てを議論する時間は無いが、何か質問や疑問があれば出してほしい。
(審議委員)地方登録については、資料を見ると、建造物と美術工芸品、有形民俗文化財という例があるが、古墳とか歴史資料は対象になっているのか、或いは他の都道府県でどのようになっているのか。
(事務局)歴史資料は、美術工芸品に含まれている。また古墳についても、史跡名勝天然記念物に含まれている。
既に登録制度のある京都、大阪、兵庫の3府県について、京都府では、すべての種類の文化財で登録制度があるようだ。さらに補助制度も建造物・美工品で、500万とか300万とか、結構大きな数字となっている。大阪は、制度はあるが運用していないというのが現状。兵庫は、すべての種類の文化財ではなくて、建造物と無形民俗だけとのことである。文化財の種類によって、制度を作るもの作らないものという議論もあると思う。
(審議委員)市町村では、国の有形・無形民俗の登録文化財について、建造物等に比べても、何か非常にわかりづらいところがあるのだと思う。伊勢崎市もそうだが、市町村は祭りやお囃子等の無形文化財を盛んに指定し、補助制度も整備している。そういう中で、文化財の指定制度全体の体系をどのように読み変えるのかということについて、結構、戸惑うのではないか。文化庁の調査に基づいて登録するという無形・無形民俗文化財の場合は、なおさらわかりづらいのではないか。
(事務局)最初の質問であるが、指定制度には、国・県・市町村の各エリアという意味でレベルが違ってくるが、それと同様の登録制度が望ましいということである。そして、国登録と県登録との、二重の登録はできないとのことである。また、市町村が文化財保存活用地域計画を作っている場合、地方登録の文化財を、国登録として申請できることになっている。
(審議委員)言うのは簡単だけれど、それを構造的に文化財の制度として、市町村がどのように理解・運用していけるのかは、結構問題があると思う。
(審議委員)一つは、35市町村のうち半分は、建造物に関して指定も登録も全くしていない。建造物の登録を見ると、例えば桐生市等、非常に限られたところしかしていない。国の登録さえ行き渡っていない中で、県・市町村の登録制度を議論するのか。現実として、そういう体制にはない。国の登録と簡単に言うが、簡単には登録できない。何が一番課題かと言えば、調査費が取れないこと。市町村によっては、調査費を市町村が持つところもあるが、多くの市町村で調査費の面倒を見ていない。個人が自腹を切って調査をして報告書を作って、初めて登録ができる状況である。また、市町村には調査をする人材や専門の担当者がいないのが現状である。建造物でもこのような状況である中、それをさらに今より拡大した形で県登録するというのは、現実的ではない気がする。
やることについては大賛成だし、文化財が増えるけれども、一般の方は指定と登録の区別もついていないことから、県・市町村指定より国登録のほうがよいと思っている。本当は県・市町村指定のほうが、国登録より上だということを我々は認識しているが、周知も含めて、まず国登録を徹底的に進めるべきで、そのための体制づくりを考えるべきだと思う。県登録と言ってみても、現実的には上がって来ないのではないか。
補助金についても、国登録の建造物改修費には、個人の場合はほとんど出ない。一部の市では、それでは大変だということで、景観法における景観建造物と国登録の建造物とを同等と見て、補助金を出しているところもある。指定であれば補助金が出るけれども、登録は、国でさえあまり補助金を出していない。こうした現状を考えると、県・市町村の登録では、補助金無しという可能性もあるのではないか。そうなった場合に、登録するならやはり国登録で、県・市町村登録とは何ですかということになる。まず、補助金を出す場合の課題点等を、群馬県で洗い出していくべきではないか。
(議長)何か他にあるか。
(事務局)文化財保護法が改正され、国においては無形文化財、無形民俗文化財の登録制度が作られ、地方においては独自の登録制度を作ることができるというものである。この制度改正を受けて、地方登録制度という、自分たちで作ることができる制度を活用して、これまでとは違う形で文化財の保護活用に取り組んでいくことができないものか。指定は難しいけれども、登録文化財として、保護を進めることができる文化財はないのか。また、継承の危機に瀕している無形の文化財を登録という形で保護し、或いは継承していくことができないものか。これまでと異なる形で保護する仕組みを活用することによって、地元の人々の認識を新たにし、安心を高め、地域全体の中で継承していく、或いは継承の機運を高めていくことの契機とすることはできないものか、というようなことを考えている。
長年、群馬県の文化財の保護に関して指導助言いただいている委員の先生方から、意見を是非とも賜りたいと思っているので、よろしくお願いしたい。
また国の登録の話が出ていたけれども、聞いている話では、国主導で候補を選定するとのことである。或いは先ほども話があったが、地方登録文化財の中から、提案に基づいて行われるという情報もある。
そのような形になるとすれば、国登録を目指すためには、地方登録が前提になるかもしれない。そのようなことが考えられるので、すべての種類の文化財に登録制度を設けるとか設けないとかということもあるが、例えばこの文化財については、指定ではなかなか保護できていないけれども、登録制度によってもう少し緩やかに保護していくこともできるのではないかとか、そういった議論もあるかもしれないので、よろしくお願いしたいと思う。
(議長)新しい制度なので、どうするかというのは各自治体に任されている点はある。国は国として動くという面もあるだろうし、国と地方は同格ということもあるだろう。そういう中で、補助金の問題等、具体的にどうするかということはあるが、どう前向きにこれを活用していくかということを、議論していく必要があるだろう。今後、各専門部会でも議論していただき、2月、第2回の審議会で、最終的に結論を出していくことになる。それまでの間に、いろいろ意見を伺いたい。
時間も限られているが、何か、他にあるか。
(審議委員)Web参加であったが、いろいろな意見を聞くことができた。確かに登録制度は、本当に大変だと思う。国の指定文化財、それから有形無形もあって、さらに県の指定があって、その下にさらにまた、こういう登録制度も混じると、本当に一般の方は混乱をする可能性が高いという感じがする。特に小さな市町村では、それに対応する職員もなかなかいなくて、それをサポートする県の職員の方々の、能力や仕事量も増えるのではないかと思う。私はそういう人的な方から、かなり懸念している。
また災害マニュアルであるが、やはり人命が第一なので、人命が確保された後に、文化財の被害が注目されていくわけだが、その時に、一番大事なものはやはり連携をとっていち早く救い出すということで、それを強調していくべきではないかと常々考えている。
(審議委員)2019年の川崎市民ミュージアムの台風被害で、収蔵庫が水没したことがある。大きな災害の時に、どんな連絡方法を取ったかを聞いてみたら、たまたま私が関わっている研修を受けていた学芸員が、その研修を担当している文化庁の担当者に携帯で電話を入れたとのことだった。
やはり防災マニュアルは、皆がワークショップ形式で、自分事として作っていくことがすごく大事だと思う。また、文化庁や県市町村の担当者が変わっていくこともあるので、どこに連絡をしたらよいのかということが具体的に記載されるような方向性で作っていけたらよいと思っている。
(議長)今回の議事はすべて終了とさせていただく。ありがとうございました。