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令和4年度答申第9号

更新日:2023年2月15日 印刷ページ表示

第1 審査会の結論

 本件審査請求のうち、処分庁によるテレビのブースター電源装置の購入費用に係る保護申請却下処分(以下「本件処分1」という。)に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により請求を棄却し、エコキュート(電気給湯器)の修理代に係る保護申請却下処分(以下「本件処分2」という。)に係る審査請求には理由があるから、行政不服審査法第46条第1項の規定により本件処分2は取り消されるべきである。

第2 審査関係人の主張の要旨

1 審査請求人

​ 1 審査請求人

処分庁が行った本件処分1及び本件処分2を取り消し、原処分によって生じた損害額を加えて支給することを求めるものであり、その理由は次のとおりである。

  1.  処分庁は、民法第703条違反・業務妨害である。
  2.  処分庁は、ブースターと電源部を取り違えている上、見積書にある○○円は通常予測される生活需要で賄えるものではない。
  3.  既に認定された住宅維持費も当該エコキュート(電気給湯器)の修理代もやむを得ない事情によるものであり、処分庁が示した文書にも、やむを得ない場合は年間基準額を1.5倍する旨記載がある。

2 審査庁

 審理員意見書のとおり、本件審査請求のうち本件処分1については請求を棄却し、本件処分2については請求を一部認容(処分の取消しに限る。)すべきである。

第3 審理員意見書の要旨

 ​本件審査請求のうち本件処分1については請求を棄却、本件処分2については請求を一部認容(処分の取消しに限る。)すべきである。

1 本件処分1の妥当性について

 生活保護法による実施要領について(昭和36年4月1日社発第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第7の1に基づけば、経常的最低生活費とは「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること」とされている。また、生活保護問答集について(平成21年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「課長事務連絡」という。)問3-22において、「テレビの購入費や受信に要する電気料、修理費等の維持費は一般生活費のやりくりのなかで賄うものであり、その費用を支給することはできない」とされている。

 処分庁は、次官通知第7の1及び課長事務連絡問3-22に基づき、本件処分1を行っている。したがって、本件処分1は法令等の定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。

 以上のことから、本件処分1に係る審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、請求を棄却すべきである。

​2 本件処分2の妥当性について

 生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日厚生省社会局長通知。以下「局長通知」という。)第7の4(2)イにおいて、「保護の基準別表第3の1によりがたい場合であってやむを得ない事情があると認められるときは、基準額に1.5を乗じて得た額の範囲内において、特別基準の認定があったものとして必要な額を認定して差しつかえないこと」とされている。

 処分庁は、本件処分2の処分通知書において、処分の理由として「すでに認定された住宅維持費の額と合算し、年間の基準額を超えているため」としている。また、局長通知第7の4(2)イにある特別基準の設定については、処分庁は弁明書の中で「現状はやむを得ない状況とは認めがたく、特別基準を適用するべきではないと判断した」と主張している。

 しかし、当該処分に当たってのケース診断会議録には、やむを得ない事情かどうかの記載はなく、また審査請求人に関するケース記録には、ケースワーカーが審査請求人宅に訪問時、給湯器にエラーが出ていることを確認した旨及び審査請求人の当時の主張が記載されているのみであり、やむを得ない事情が認められるかどうか、処分庁において適切に判断されたというには不十分であるといわざるを得ない。

 以上のとおり、本件処分2に係る審査請求には、理由があることから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、処分は取り消されるべきである。

第4 調査審議の経過

 当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。

 令和4年11月29日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受

 令和4年12月14日 調査・審議

 令和5年 1月27日 調査・審議

 令和5年 2月15日 調査・審議

第5 審査会の判断の理由

1 審理手続の適正について

 本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。

2 本件処分1に係る法令等の規定について

 次官通知第7において、「最低生活費は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別等による一般的な需要に基づくほか、健康状態等によるその個人又は世帯の特別の需要の相違並びにこれらの需要の継続性又は臨時性を考慮して認定すること。」とされ、「経常的最低生活費」と「臨時的最低生活費(一時扶助費)」が定められている。

 また、次官通知第7の1において経常的最低生活費とは、「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は、経常的最低生活費の範囲内において、通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること。」とされている。

3 本件処分1の妥当性について

​ 最低生活費は、要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要の全てを満たすための費用として認定するものとされている経常的最低生活費と、特別の需要のある者について、最低生活に必要不可欠な物資を欠いていると認められる場合であって、それらの物資を支給しなければならない場合に限り臨時的に認定するものとされている臨時的最低生活費とに区分される。

 課長事務連絡問3-22において、「テレビの購入費や受信に要する電気料、修理費等の維持費は一般生活費のやりくりのなかで賄うものであり、その費用を支給することはできない」とされており、経常的最低生活費のなかで賄うものとされていることから、テレビのブースターの購入費用を給付するよう求める保護変更申請を却下した処分庁の判断は、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、違法又は不当な点は認められない。

 以上のことから、本件処分1には、これを取り消すべき違法又は不当な点はないものと認められる。

4 本件処分2に係る法令等の規定について

 局長通知第7の4(2)イにおいて、「保護の基準別表第3の1によりがたい場合であってやむを得ない事情があると認められるときは、基準額に1.5を乗じて得た額の範囲内において、特別基準の認定があったものとして必要な額を認定して差し支えないこと」とされている。

5 本件処分2の妥当性について

 生活保護法(昭和25年法律第144号)第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、行政手続法(平成5年法律第88号)第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。

 処分庁は、弁明書において「ケース検討会議を行ったところ、十全でないとはいえ、社会通念上最低限の入浴が不可能であるとはいえないため、審査請求人の現状はやむを得ない状況とは認めがたく、特別基準を適用するべきではないと判断した」と主張するが、本件においては、ケース検討会議による検討の結果、特別基準に該当しないと判断した理由について、本件処分がなされた時点において、審査請求人に対し、具体的に提示すべきであった。

 しかしながら、処分庁は、審査請求人に対し、令和4年7月29日付け保護申請却下通知書において、却下理由には、「すでに認定された住宅維持費の額と合算し、年間の基準額を超えているため、当該エコキュート修理費用に係る扶助費の申請はこれを却下とする。」と記載があるのみで、審査請求人において当該文書の記載から特別基準の認定がされない理由を了知することは困難である。

 このことから、本件処分2は、生活保護法第24条第4項並びに行政手続法第8条第1項及び第2項の趣旨に照らし、処分の理由の提示が不十分であると認められることから、本件処分は取り消されるべきである。

6 その他

 審査請求人は、本件処分2の取消しとともに当該処分によって生じた損害額の支給を求めているが、行政不服審査法第46条第1項ただし書の規定により、本件処分2を変更することはできないため、当該請求を認容することはできない。

第6 結論

 以上のとおり、本件審査請求のうち本件処分1に係る部分については理由がなく、本件処分2に係る部分については理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。

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