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令和4年度答申第10号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
審査請求人は、令和4年4月11日付け生活保護申請却下処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める理由として、次のとおり主張している。
(1) 生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第1条に基づく本件処分は取り消すべきである。
(2) 生活保護行政は、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知)(以下「措置通知」という。)により、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うこととされており、審査請求人は、就労制限のない定住者であることから法の準用を受けられる立場にある。また、措置通知は、法の準用による保護等と国民に対する法の適用による保護等の関係について、「保護等の内容等については別段取り扱い上の差等をつけるべきではない」としており、審査請求人を日本人の保護申請者と差別的に扱うことはできない。
処分庁は、措置通知に係る却下理由に、(1)身元保証人が審査請求人の滞在費を保証していること、(2)近隣の同郷者の支援により生活できていること、(3)審査請求人が求職活動を行うと申し立てていることを挙げている。しかし、(1)の身元保証人は法的な責任を伴わない道義的責任を有する者に過ぎず、(2)の同郷者は審査請求人の扶養義務者にも該当しない支援者に過ぎない。また、(3)については、審査請求人が交通事故の後遺症により足が不自由であること、日本語能力が十分でないこと及び高齢(申請時点で○○歳)であることにより、就職の目処が立っていない状況を踏まえると、請求人が最低生活の維持が可能と認める処分庁の判断には事実誤認がある。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
法第1条は、法の対象を「すべての国民」とし、日本国民であることを規定している。措置通知は、法第1条により、外国人は法の適用対象とならないが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うとしており、外国人に対する保護等は、法律上の権利として保障されたものではなく、行政措置によって行っているもので、生活に困窮する外国人は、権利としてこれらの保護等の措置を請求することはできないとされている。
また、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)問13-35においては、生活保護に係る外国人からの不服申立てについて、外国人から生活保護法による保護の適用を求めて保護申請がされた場合、処分庁は、申請者が外国人であること、すなわち国民でないことを理由とした却下処分を行うこととなるが、当該処分は、同法に基づく処分となるため、当該処分を行う際には、不服申立てをすることができる旨等の教示をすべきであり、審査庁は、当該処分に対する不服申立てについては、外国人であることを理由とした棄却裁決をされたいとしている。
本件は、外国人である審査請求人が行った法に係る保護申請に関して、法は適用対象を「国民」と規定していることから、処分庁は法の要件を満たさないことを理由に保護申請却下処分を行ったものである。
処分庁は、保護申請却下通知書において、却下の理由を「本件申請は、生活保護法第1条に規定する『国民』による申請ではないため、生活保護上の要件を満たさない。」と記すとともに、不服申立てをすることができる旨等を教示した上で本件処分を行った。これは問答集問13-35に基づく事務処理であるといえる。
したがって、本件処分は、法令等の定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
なお、審査請求人が主張する措置通知に係る事項については、措置通知に係る決定に処分性がなく、不服申立てを行うことはできないことから意見は述べない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和5年1月16日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和5年1月27日 調査・審議
令和5年2月15日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件処分に係る法令等の規定について
(1) 法の規定
法第1条は、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定し、法第2条は、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。」と規定し、法の適用は日本国民に限定されている。
(2) 生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置
措置通知において、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うこととされている。
(3) 行政不服審査法の規定
行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条は、「行政庁の処分に不服がある者は、第4条及び第5条第2項の定めるところにより、審査請求をすることができる。」と規定し、同法第1条第2項は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」と規定しており、不服申立ての対象は「処分」に限定されている。
(4) 措置通知に基づく外国人からの不服申立ての取扱い
措置通知に基づく保護については、「生活保護に係る外国人からの不服申立ての取扱いについて」(平成13年10月15日社援保発第51号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)別紙1において、外国人に対する保護は、法第1条の規定により日本国民に限定されている保護の対象を、法を準用し、予算措置として永住者、定住者等に拡大しているものであるとされており、法律上の権利として保障されていない外国人に対する保護に関する決定は、行政不服審査法に規定する「処分」に該当しないので、審査請求があった場合は、処分性を欠くものとして却下すべきであるとされている。
(5) 法に基づく外国人からの不服申立ての取扱い
一方、外国人から法による保護の適用を求めて保護申請がされた場合は、問答集問13-35において、処分庁は、申請人が外国人であること、すなわち法第1条に規定する国民でないことを理由とした却下処分を行うことになるが、当該処分は、法に基づく処分となるため、当該処分を行う際には、不服申立てをすることができる旨等を教示すべきであり、また、審査庁は、当該処分に対する不服申立てについては、外国人であることを理由とした棄却裁決をされたいとしている。
3 本件処分の妥当性について
(1) 本件処分の根拠について
本件処分の根拠としては、措置通知に基づくものと、法に基づくものと二つ考えられる。
(2) 措置通知に基づく措置について
第2の1(2)に記載された審査請求人の主張は、措置通知に基づく措置(審査請求書別添資料1の「保護申請却下通知書」)に関するものであり、当該措置は、行政不服審査法に規定する「処分」に該当しないことから、この部分についての審査請求人の主張は、採用することはできない。
(3) 法に基づく処分の妥当性について
本件処分は、外国人である審査請求人が法による保護の適用を求めて保護申請をしたものに対する処分である。
処分庁は、保護申請却下通知書において、却下の理由を「本件申請は、生活保護法第1条に規定する『国民』による申請ではないため、生活保護上の要件を満たさない。」と記すとともに、不服申立てをすることができる旨等を教示した上で本件処分を行った。これは第5の2(5)に基づく事務処理であるといえる。
また、最高裁判所の判例によれば、措置通知は、「その文言上も、生活に困窮する外国人に対し、生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。」とされ、「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。」(最高裁判所平成26年7月18日第二小法廷判決)とされている。
したがって、本件処分は、法に基づく受給権を有しない外国人による申請を却下するものであって、違法又は不当な点は認められない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。