本文
個人情報保護審議会諮問事件第14号
1 件名
「平成17年度、平成18年度、平成19年度勤務評価結果(○○分)」の個人情報非開示決定に対する異議申立ての件
2 実施機関及び担当課室所
群馬県知事(人事課)
3 開示等決定年月日、内容及び理由
(1)平成20年5月21日 非開示決定
(2)条例第13条第7号該当
公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるため。
4 不服申立て
(1)申立年月日 平成20年7月14日
(2)趣旨
本件処分を取消し、勤務評価票を速やかに開示することを求める。
(3)理由
勤務評価結果は、知識・理解・判断力をはじめ多岐項目が評価対象となっていることから、申立人が改善すべき部分を認識できることになり、業務遂行に役立つものである。また、申立人の評価結果についてのみ開示請求したものであり、他の人との比較開示を求めていないので、非開示理由の「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」には当たらない。
申立人は現在の職位から昇任していないが、昇任昇格人事が勤務評価を踏まえ公正に行われていることを確認するために開示を求めている。公正かつ円滑な人事が行われているならば、勤務評価票を開示することは何ら支障がないはずである。
5 諮問年月日
平成20年8月12日
6 審議会の判断
(1)結論
知事が行った個人情報非開示決定について、平成17年度から平成19年度の勤務評価票における申立人の個人情報のうち、「評価項目ごとの評点」、「総合評点」、「総合評価」及び「備考」の記載を非開示としたことは妥当であるが、その余の部分については開示すべきである。
(2)判断理由
申立人の「所属名」、「職」及び「氏名」について
勤務評価票の様式は実施機関の職員に周知されていることから、これらの情報は、当然申立人本人が知っている情報であると認められるので、これを開示したとしても、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるとは認められず、開示すべきである。
1次評価者及び2次評価者の「氏名」及び「評価順」について
自分の評価者が誰であるのかは実施機関が発する通知により明らかになる上、その通知は庁内LANで掲示され、職員であれば誰でも閲覧することができる状態になっていることが確認できた。
したがって、これを開示したとしても、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるとは認められず、開示すべきである。
「評価項目ごとの評点」について
【評点の性質】
各評価項目の評価に当たっては、申立人の指摘にもあるように、実施機関は事実に基づいた客観的な評価を志向していることが認められ、実際に実施機関も1次・2次の2人の評価者による評価や意見聴取者の設置、評価尺度・評価基準の設定等、評価の客観化に向けた措置を講じていることを窺うことができる。
しかしながら、勤務評価の性質上、これらの措置によって評価者の主観的要素が完全に排除されるとは考えられず、また、最終的に勤務評価票に記入される評点も被評価者の具体的行動の一つ一つを踏まえ総合的に決定されると考えられるため、各評価項目の評点として記載される数字は、評価者の主観が相当程度含まれているものである。
【非開示情報該当性の検討】
勤務評価票の各評価項目には、評価者である申立人の当時の上司によって5段階評価の評点が記載されている。評点は数値で記載されるため見た目上では客観的な形を取っているが、既に述べたとおり、その数値の決定には評価者の主観が相当程度反映されていると解される。
したがって、仮にこのような性質を持つ評点が本人に開示されたことを想定した場合、開示された評点が自分の予想より低いと本人が考えたときは、不満や不平を漏らしたり、評価は間違いであるとして上司に不信感や個人的怨恨を抱いたりすることがあると考えることは何ら不自然ではない。
これに対し、申立人は、評点が開示されれば、自分の評価の内容について評価者と話し合いを持ち、そこで評価者がどのように評価したかがわかるので、意思の疎通が図られ、評価者との対立は生まれないと主張する。
確かにそのような望ましい結果になることも考えられるが、既に述べたような評点の性質を考えると、評価者の説明に対して被評価者が納得できず、評価をめぐって双方が一歩も譲らず、抜き差しならない対立が生ずることは十分に考えられることである。そして、そのような場合には、評価の訂正を要求して上司との間に対立関係を生じさせ、その上司による指導等を事実上困難にし、ひいては職場内の信頼関係・一体性を失わせ、その職場全体としての業務遂行能力を低下させるおそれがある。
したがって、「評価項目ごとの評点」は、開示することにより、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があると認められるため、非開示とすることが妥当である。
「総合評点」、「総合評価」について
「総合評点」及び「総合評価」は、「評価項目ごとの評点」の和から算出されるものであるが、算出の基礎となる評点の性質は既に述べたとおりであるから、「評価項目ごとの評点」と同様に、開示することにより、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があると認められるため、非開示とすることが妥当である。
「備考」について
「備考」欄には、評価に表せない能力・姿勢の特記事項が記入される。実際に当審議会で勤務評価票を見分したところ、年度又は評価者によっては、被評価者に対する認識として「備考」が記載されていたことが確認できた。そして、その記載内容は評価者のありのままの言葉による、評価者の主観が相当程度含まれた表現がなされていた。
したがって、「備考」の記載は、「評価項目ごとの評点」と同様の性質を持つ情報であり、開示することにより評価者との間に対立関係を生じさせるおそれがあることが認められ、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」がある情報として、非開示とすることが妥当である。
次に、「備考」の記載がない場合に、当該欄が空欄となっていること自体を開示すべきかどうかということも検討する。
実施機関の通知からは、「備考」の記載が被評価者の評価にどのような影響を与えるのか判然としないが、仮に「備考」欄に何らかの記載がある場合に、記載があること自体が直ちに被評価者の評価に有利に働くとは限らないし、逆に、「備考」に何も記載がない場合、そのこと自体が被評価者に不利に働くかどうかも然りである。
したがって、「備考」欄が空欄となっている場合には、これを開示することにより、条例第13条第7号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるとまでは言えず、開示すべきである。
(3)その他
申立人は、自分に昇任発令が出なかった理由を理解し納得するために、勤務評価票を開示すべきであるとも主張している。
確かに申立人の心情は理解できないわけではないが、開示請求の背景にこのような事情があるというだけで勤務評価票における評点等を開示すべきと判断することはできない。
また、申立人は、人事評価制度の目的は試行段階でも本格運用段階でも変わらないこと、試行中であっても作成された勤務評価票が任用に利用されていること、評点を本人に開示し、間違いを正す権利を与えることによって公正な評価を担保すべきであること等を理由に勤務評価票を非開示とすることは許されないとも主張している。
しかし、人事管理情報として勤務評価票の秘密性を保持するか、本人に開示してその反論権を保障すべきかは、人事評価制度の整備に関する問題、すなわち、あるべき評価制度とはいかなるものであるかという問題であって、申立人のこれらの主張は勤務評価票における評点等の非開示理由該当性の判断に影響を与えるものではない。
もっとも評価者から誤った評価をなされる可能性は全くないとは言えず、このような場合にはその訂正が問題となり得る。しかし、被評価者本人にその訂正を求める機会を与えるべきかどうか、また、機会を与える場合にはどのような手続きとするかは、やはり人事評価制度に関する政策問題と言えるのであって、このような問題があるというだけで勤務評価票における評点等を非開示とする理由がないとは言えない。
7 答申年月日
平成21年3月2日(個審第100号)