本文
個人情報保護審議会諮問事件第21号
1 件名
「『平成○年○月から平成○年○月○日まで群馬県警察学校に在籍した○○巡査(故人)に関する全ての個人情報』のうち、別紙『開示しない部分の概要及びその理由』の特定した文書に記載された個人情報」の個人情報部分開示決定に対する審査請求
2 諮問庁・処分庁
公安委員会、警察本部長
3 開示等決定内容及び理由
(1)決定内容
平成22年3月30日 部分開示決定
(2)非開示理由
- 「旅行命令簿(赴任)」等5件中の、職員の氏名及び印影
- 条例第13条第3号
開示することにより個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるとして実施機関が定める職にある職員の氏名であるため
- 条例第13条第3号
- 「辞職上申書」中の、平素の勤務状況、辞職の理由
- 条例第13条第7号
今後の個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため
- 条例第13条第7号
4 不服申立て
(1)申立年月日
平成22年4月27日
(2)趣旨
本件処分における非開示部分のうち、「辞職上申書」の非開示部分の取消しを求める
(3)理由
- 「群馬県公安委員会及び群馬県警察本部における群馬県個人情報保護条例に基づく処分に係る審査基準」第3 7(4)アによれば、開示することにより「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」として例示があり、これらの例示は「個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす可能性が客観的に認められる場合」には開示しないこととされているが、基本的には死者に対する開示請求は想定しておらず、生存者に対する開示請求を想定したものといえる。
- 本件請求は、死者の個人情報であり、開示請求者には条例第21条の2に規定する「適正な請求及び使用」を義務づけられていることを勘案すれば、当該死者の情報を取得したからといってその情報を他人に公開したり、当該死者に対する評価に対して異議を申し立てることは考えられない。よって、「個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす可能性が客観的に認められる場合」には該当しない。
- いわゆる「診断、評価等の情報」については、全国的にカルテ、内申書等が原則として開示されている現状等を踏まえれば、条例第13条第7号ハに規定する非開示理由は、既に形骸化していると思慮される。
5 諮問年月日
平成22年6月30日
6 審議会の判断
(1)結論
群馬県警察本部長が行った個人情報部分開示決定については、審査請求人が開示すべきとする部分のうち、「辞職上申書」中の「辞職の理由」欄4行目4文字目から6行目までについては開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。
(2)判断理由
ア 本件個人情報について
処分庁は、本件請求時において、故人が既に死去していること及び請求人が故人の父であることを確認した上で、本件請求は死者に関する個人情報を自己の個人情報として開示請求したものであるが、死者の遺族から行われたものであり、請求人には本件に関する開示請求権が認められると判断して処理を行っていることから、当審議会では、請求人に故人に関する個人情報の開示を請求する資格が認められるとの前提で、本件非開示情報の妥当性について検討する。
イ 本件個人情報の特定について
請求人は、意見書において、「故人が退職する際に、警察学校で使用した手持ちの資料、ノート類等をすべて没収されたが、今回開示された情報の中には、故人が授業の中で作成したと思われる文書等は含まれていなかった」旨主張する。そこで、当審議会が諮問庁及び処分庁に確認したところ、警察学校では没収という措置は取っておらず、学生に必要性等について確認を行った後に、学生の意思を確認して廃棄処分をしており、本件についても、故人の意思を確認した後に教科書等について廃棄処分したとのことであり、その説明に特段不合理な点は認められず、本件個人情報を特定したことは不当であるとは認められない。
ウ 非開示情報該当性について
本件非開示情報が記録された辞職上申書は、「群馬県警察の処務に関する訓令」に規定された様式で、所属長等が、辞職をしようとする職員が作成した辞職願に添えて群馬県警察本部長に送付するために作成するものであり、辞職職員の階級・氏名・年齢、採用年月日、現職名、現給料、現給料発令年月日、平素の勤務状況、辞職の理由及びその他(参考事項)が記載されている。
このうち、処分庁が条例第13条第7号ハ及びホに該当するとして非開示としているのは、「平素の勤務状況」欄及び「辞職の理由」欄に記載された部分であることから、以下、それぞれの情報について、非開示情報該当性を検討する。
なお、請求人は意見書において、諮問庁の作成した理由説明書における非開示理由の記述に具体性がない旨主張するが、処分庁が作成した個人情報部分開示決定通知書には、非開示部分ごとに、非開示とする根拠条文として条例第13条第3号又は第7号を示し、処分庁がその条文を適用する理由が続いて記載されており、非開示部分のそれぞれについて、非開示の根拠を了知し得るものであると認められる。したがって、理由付記の点に不備があるとはいえない。
「平素の勤務状況」欄
当審議会は、諮問庁に対して条例第33条第1項に基づく調査を実施し、本件非開示情報が記録された辞職上申書を見分したところ、「平素の勤務状況」欄には、個人の学力、勤務態度に関して、教育的、専門的見地から行う所見並びに、警察官としての個人的資質等について平素からの観察等の結果による判定内容が、評価者等のありのままの言葉による評価者等の主観が相当程度含まれた表現で記載されている。
このような情報は、評価等を適正に行うため、公表されないことを前提に記載されるのが通常であると考えられるところ、評価者等の客観的要素に加え、主観的要素も含まれる評価等が開示されるとなると、評価者等においては、自らの率直かつ詳細な記述を避け、当たり障りのない記載をするようになり、その結果、評価自体が抽象化、形骸化してしまい、個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を生じさせるおそれがあるものと考えられる。
これについて、請求人は、条例第13条第7号ハの規定について、基本的には死者に対する開示請求は想定しておらず、生存者に対する開示請求を想定したものであることや、全国的にカルテ、内申書等が原則として開示されている現状等を踏まえれば、条例第13条第7号ハに規定する非開示理由は、既に形骸化していると思慮されるなど主張している。
ところで、条例は、第1条に規定されているとおり、個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定めるとともに、県の実施機関が保有する個人情報の開示、訂正及び利用停止を求める権利を明らかにすることにより、県政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益の保護及び県民に信頼される公正で民主的な県政の推進を目的として制定されたものである。よって、自己情報の開示請求に対する決定を行うに当たっては、原則開示の理念のもとに制度の解釈及び運用がなされなければならない。
しかしながら、この自己情報の開示請求権も絶対無制限な権利ではなく、条例第13条各号に規定された非開示情報に該当する場合には非開示となるものであり、死者に関する個人情報であっても、上記のとおり開示することにより評価者等が自らの率直かつ詳細な記述を避け、当たり障りのない記載をするようになり、その結果、評価自体が抽象化、形骸化してしまい、条例第13条第7号ハに規定する「個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障」となるのであれば、それは非開示理由として認められるべきである。また、全国的にカルテ、内申書等が原則的に開示されている現状があるとしても、開示請求があった個人情報について非開示情報に該当するかどうかを判断するに当たっては、個々の開示請求ごとに、制度の趣旨や目的を考慮し、客観的かつ合理的に判断している結果であり、条例第13条第7号ハの規定が既に形骸化しているとの請求人の主張は認められない。
したがって、当該部分は、条例第13条第7号ハに該当し、同号ホについて判断するまでもなく、非開示が妥当である。
「辞職の理由」欄
当審議会が見分したところ、「辞職の理由」欄の1行目から4行目の3文字目までについては、評価者等のありのままの言葉による評価者等の主観が含まれた表現が記載されており、当該部分については、評価者等の主観的要素が含まれる評価等が開示されるとなると、評価者等においては、自らの率直かつ詳細な記述を避け、当たり障りのない記載をするようになり、その結果、評価自体が抽象化、形骸化してしまい、個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を生じさせるおそれがあると考えられる。
したがって、当該部分は、条例第13条第7号ハに該当し、同号ホについて判断するまでもなく、非開示が妥当である。
しかしながら、「辞職の理由」欄の4行目の4文字目から6行目までについては、故人の担当教官に対する言動について記載されている。諮問庁は、故人の発言部分は、故人の発言内容を要約したものである旨説明するが、仮に要約したものであったとしても故人が発言した内容であり、これらには評価者等の主観的な要素は含まれておらず、これらを開示したとしても、条例第13条第7号ハに規定する「個人の指導、選考、判定、診断その他の個人に対する評価又は判断を伴う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるとは認められず、また、同号ホに規定する「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるとも認められないため、開示すべきである。
7 答申年月日
平成23年1月13日(個審第147号)