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令和4年度答申第1号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由があるので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定により審査請求を認容すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
- 審査請求人は、就労継続支援B型事業所で月額○○円程度の作業工賃を得ている状況であり、ただちに審査請求人の稼働能力を活用すべき状況にあるとはいえない。
- 審査請求人が、高等学校へ就学し、卒業することは確実に世帯の自立に資すると見込まれる。
- 処分庁は、処分の理由として、「令和元年8月から現在においても作業所で就労を継続しており、高等学校へ就学することが確実に世帯の自立助長に資するとは見込めない」としているが、「現在において就労を継続していること」により、「高等学校へ就学することが確実に世帯の自立助長に資するとは見込めない」という判断に至った理由が示されておらず、理由付記が十分ではない。
2 処分庁
処分庁は、本件処分について、以下のとおり、手続きに違法又は不当な点は何ら存在しないことから、「実施機関の決定は妥当である」との裁決答申を求めると主張している。
- 審査請求人は、中学校卒業後○○年が経過した○○歳の○○であり、就労等により稼働能力を活用すべき状況にある。また、就労継続支援B型事業所で作業に従事していることから、「生活保護問答集について」(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)問7-154の「やむを得ない事情によって現に就労していない場合等」に該当しない。
- 審査請求人の令和2年度の年収は、中学校を卒業した○○歳○○の平均年収には遠く及ばず、この状況は請求人が高卒となっても同様と考えられることから、審査請求人が高卒の学歴を得ることが確実に自立につながる収入の増加になるとは認められない。
- 審査請求人が入所するグループホームの施設長は、令和2年度入所者実態調査票において、審査請求人について「現状は一般就労が難しい。自立するにはまだ時間がかかる様子」としており、その理由として「対人関係の課題や人に流される。ストレス耐性等の課題を乗り切れば可能性はある(原文どおり)」との見解を示している。審査請求人が高等学校へ進学することは生業扶助が目的とする経済的自立に資するものではなく、審査請求人が有する発達障害の特性を考慮し、障害者雇用枠等の様々な社会資源を活用し、就労時間や賃金の増加に努めることが自立助長に資するものである。
3 審査庁
審理員意見書のとおり、請求を認容すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
1 審査請求人は、就労継続支援B型事業により、1日当たり約2~3時間の作業に従事し、工賃を得ている。
就労継続支援B型事業は、自立に向けた訓練を給付するものであることから、審査請求人が同事業により工賃を得ている状況は、問答集問7-154(答)ただし書の「当該被保護者がやむを得ない事情によって現に就労していない場合等」に該当するものと解すべきである。
2 審査請求人が高等学校へ進学することが自立助長に資するか否かを判断するに当たっては、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「障害者総合支援法」という。)第5条第22項に規定するサービス等利用計画(以下「サービス等利用計画」という。)により審査請求人の将来の自立に向けた支援方針を踏まえ、高等学校へ進学することの必要性について検討すべきであった。
処分庁は、入居者実態調査票により審査請求人の自立の可能性について検討しているが、入居者実態調査票の内容のみから高等学校進学と将来の自立可能性との関係を検討することは困難であり、「ただちに稼働能力の活用を求めるよりも高等学校等へ就学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込まれる場合」に該当しないとの判断の根拠としては不十分であるといわざるを得ない。
3 以上のことから、審査請求人が現に就労しており高等学校等へ就学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込めないとする処分庁の判断は、必要な検討が十分になされておらず、本件処分に瑕疵があることが認められる。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和4年3月 7日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和4年3月15日 調査・審議
令和4年4月12日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件処分に係る法令等の規定
生活保護法(昭和25年法律第144号)第17条の生業扶助の一つとして、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)別表第7において、高等学校等就学費が定められている。
生活保護法による保護の実施要領について(昭和38年4月1日厚生省社会局長通知)第7の8(2)のイ(ア)において、高等学校等就学費は、「高等学校等に就学し卒業することが当該世帯の自立助長に効果的であると認められる場合について、原則として当該学校における正規の就学年限に限り認定すること」とされている。
問答集問7-154(答)において、「通常、中学校を卒業して数年以上経過しているような場合においては、就労等によって稼働能力を活用すべき状況にあるものと思われるため、高等学校等就学費の給付対象とはならないものと考えられる。ただし、当該被保護者がやむを得ない事情によって現に就労していない場合等において、ただちに稼働能力の活用を求めるよりも高等学校等へ就学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込まれる場合に限り、高等学校等就学費の給付を認めることとして差し支えないものとするが、その適用にあたっては慎重に判断するようにされたい」としている。
3 本件処分の違法性について
審査請求人が、問答集問7-154(答)ただし書の高等学校等就学費の給付を認めることとして差し支えないものに該当するかについて、検討する。
(1)被保護者がやむを得ない事情によって現に就労していない場合等の該当性について
審査請求人は、障害者総合支援法第5条第14項に規定する就労継続支援により、1日当たり約2~3時間の作業に従事し、工賃を得ている。
障害者総合支援法第5条第14項の就労継続支援事業のうち、審査請求人が給付を受ける就労継続支援B型事業は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則(平成18年厚生労働省令第19号。以下「障害者総合支援法施行規則」という。)第6条の10第2号において「通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援」とされており、自立に向けた訓練を給付するものであることから、審査請求人が同事業により工賃を得ている状況は、問答集問7-154(答)ただし書の「当該被保護者がやむを得ない事情によって現に就労していない場合等」に該当するものと解すべきである。
(2)ただちに稼働能力の活用を求めるよりも高等学校等へ就学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込まれる場合の該当性について
処分庁は、審査請求人の令和2年の年収が中学校を卒業した○○の○○歳における平均的な年収に遠く及ばないことから、審査請求人が高等学校を卒業しても確実に自立につながる収入の増加は見込めないと判断している。
また、審査請求人の現状について、グループホームから提出された入居者実態調査票を踏まえ、審査請求人が高等学校へ就学することは経済的自立に資するものではなく、様々な社会資源を活用して就労時間や賃金の増加に努めることが自立助長に資すると判断している。
この点につき、入居者実態調査票は、グループホームの施設担当者が作成したものであり、審査請求人の社会復帰の見込みについて、「現状は一般就労が難しい。自立するにはまだ時間がかかる様子」としており、その理由として「対人関係の課題や人に流される。ストレス耐性等の課題を乗り切れば可能性はある」との記載があるものの、高等学校進学が自立助長に資するかについては、言及されていない。
審査請求人は、上記(1)のとおり障害者総合支援法による障害福祉サービスの給付を受けていることから、その給付決定に当たり、障害者総合支援法第22条第4項又は第5項の規定により、サービス等利用計画案を提出しているものと考えられる。
サービス等利用計画案は、相談支援事業者等により作成されるものであり、障害者総合支援法施行規則第6条の15第1項において、サービス等利用計画案の記載事項として「障害者及びその家族の生活に対する意向、当該障害者等の総合的な援助の方針及び生活全般の解決すべき課題」が挙げられており、審査請求人の援助の方針において、高等学校へ就学することがどのように位置づけられているかが記載されているものと考えられる。
処分庁は、入居者実態調査票により審査請求人の自立の可能性について検討しているが、入居者実態調査票の内容のみから高等学校進学と将来の自立可能性との関係を検討することは困難であり、「ただちに稼働能力の活用を求めるよりも高等学校等へ就学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込まれる場合」に該当しないとの判断の根拠としては不十分であるといわざるを得ない。
(3)小括
以上のことから、審査請求人が現に就労しており高等学校へ進学することが確実に世帯の自立助長に資すると見込めないとする処分庁の判断は、処分に必要な事実の確認が十分になされておらず、本件処分は違法であることが認められる。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由があるから、「第1 審査会の結論」のとおり答申する。